秘儀
「やあ化け物・・・私と遊んで行きなよ」
鬼と化したアーテファはその鋭い眼で目の前の化け物を睨み付けた。
化け物が最初に発見された地点から真っ直ぐ集落へ向かう道。この場所にコイツが居るという事はやはり足止めをしていた戦士ハスタはやられてしまったのだろう。
アーテファは歯をギリリと食いしばると勢いよく右の掌を地面に押し当てた。
「やるよお前達!」
その声に呼応するかのように地面に二つの幾何学的な模様が浮かび上がり、それぞれの模様からドロドロとした闇のオーラで覆われた巨人が姿を現す。
これは鬼種の間に代々受け継がれてきた召還術。近接戦闘を苦手とする鬼種の女は闇の巨人と契約を結んで戦闘のサポートをさせるのだ。
「「グルォオオオオ!!」」
召還された巨人二体は叫び声を上げながら化け物に向かって突っ込んでいく。アーテファは油断無くその様子を見据えながら次の魔法の準備にかかった。先ほど相手の実力は見ている、この程度の戦力で相手になるとは最初から思ってはいない。
化け物はひどく緩慢な様子で迫り来る二体の巨人を一瞥すると、面倒くさそうにその腕を振るった。
軽く振られたように見えたその一撃はあまりにも呆気なく巨人の一体を吹き飛ばした。残ったもう一体が化け物に掴みかかるも、ソイツは自分より一回りは大きな体をした巨人を持ち上げるとそのまま遙か彼方へ投げ飛ばす。
化け物の常識外れな膂力に、しかしアーテファは冷静に次の魔法を展開した。
振り上げた右手、彼女の周囲には宙に浮かんだ赤黒いオーラを纏った矢が複数展開されている。
「行くよ!」
右手が振り下ろされると同時に展開された矢が一斉に発射される。猛スピードで飛んでくる矢を化け物は避ける動作すら見せずにその身に受け止めた。
肉を抉り、めり込む鏃。しかしダメージを負った様子は身請けられない。
そう、この化け物の厄介なところは力なんかじゃない。その圧倒的な防御力。いくら攻撃を加えようがケロリとしてすぐさま反撃に転ずる常識外れのタフネスだ。
化け物はその身に矢を受けながらもカクカクと奇妙な動作をしながらアーテファ目がけて駆けてくる。
その白濁した目から意志は感じられないが、しかし先ほどの攻撃で彼女を敵と認識したのだろう。その動きに迷いは無かった。
「・・・よし、食いついたね。追ってきな化け物、追いかけっこだ」
アーテファはニヤリと笑って森の奥へと走り出した。化け物の膂力は目を見張るモノがあるが、その動きはどこかぎこちなく普通に走っていたらアーテファに追いつく事は無いだろう。
しかしアーテファは化け物が自分を見失わないようにその速度を制限しながらとある場所へ敵を誘導していた。
即ち、フムル族の神殿へ・・・。
この歪な追いかけっこがしばらく続き、やがてアーテファは目的地へとたどり着く。フムル族の集落から離れた場所に存在する、普段はシャーマンしか出入りを許されない神域。フムルの神殿。
「お疲れ様ですアーテファ。後は私にお任せ下さい」




