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アーテファ 8

「何・・・この生物・・・」


 ハスタの救援にかけつけたアーテファは対峙した生物のあまりの異様さに言葉を失った。化け物とは言っても通常より強力な魔物の類いだと思っていたのだ。


 しかし目の前にいる化け物は明らかに異常だった。


 生理的嫌悪感を催す異形。全身から放たれる臭気と明らかな実力を持っている事が肌で感じられるような迫力。


 何者かはわからない。だが、ソレがかつて見たことの無いほどの恐ろしい敵だという事はアーテファにも理解できた。


「行くぞフムルの戦士達! 我が部族の誇りにかけて敗北は許されない!」


 戦闘で化け物を睨み付けていた戦士が大声で仲間を鼓舞する。その言葉に呼応するかのように他のフムルの戦士達は高らかに雄叫びを上げながら武器を構えて化け物に向かって突っ込んでいった。


「私たちも行くよ!」


 アーテファの言葉に頷いた鬼族の男達が一斉にその姿を変化させる。人の形に押し込めていた筋肉は隆起し、額からは立派な角がにょきにょきと生えて姿を人から鬼へと変えたのだ。 変化を終えた鬼の男達もフムルの戦士達に続くように化け物に向かっていった。そしてアーテファを含む鬼の女達は後方支援の為に魔法の展開を始めるのだった。












「族長、お待たせ致しました」


「おお待ちわびたぞレゾ。して、占いの結果はどう出た?」


 族長の元に現れたシャーマンのレゾは凜とした表情で口を開いた。


「率直に申し上げます族長・・・あの化け物には我らの総力を持ってしても敵いません。すぐに荷物を整えてこの島から逃げるべきです」


「・・・それほどの・・・敵か」


 族長は無念そうな顔で俯いた。


 嘘だと思いたい。レゾの予言が今回は外れであると信じたい・・・しかしこれまで彼女が占ってきた事はすべて事実だった。ならばこそ、今回の破滅も避けられぬ運命なのだろう。


「・・・・・・レゾ、集落の皆を集めてくれるか? 私から話しをしよう」









「良く集まってくれた誇り高きフムルの民達よ。先ほどレゾの占いの結果が出た・・・どうやら今回襲撃してきた化け物は私たちの力ではどうにもならない強敵らしい。そこでお前達の意見が聞きたい」


 シンと静まりかえった皆をゆっくりと見回して族長を言葉を続けた。


「命が惜しいモノは今すぐ荷物をまとめて逃げると良い私は止めはしない、集落の物資も好きに持っていって構わん。だが私はこの島に残ろうと思う。ここは先祖から受け継いだ大切な島だ・・・たとえ勝ち目が無いからと言って身も知らぬ化け物に奪われるのは癪なのでな」


「・・・族長」


 誰が声を上げたのかは分からない。しかし族長は無言で手をあげてその言葉を制すると静かに目を閉じた。


「私はしばらくの間目を閉じておく・・・命が惜しいモノはゆっくり十を数える間に立ち去ってくれ」


 それは誰が立ち去ろうと自分は見ていないし責める事も無いという意志の現れだ。


 族長は心の中で静かにゆっくりと数を数える。十を数え終えた後そっと目を開けるとそこには誰一人欠ける事無く並び立つ皆の姿があった。


「・・・誇り高きフムルの民よ・・・私はお前達皆がここに居ることを心から誇りに思う」


 そう言った族長の前にシャーマンのレゾが一歩近寄ってきた。


「お覚悟お見事です族長・・・ならばこそ私も命をかけましょう」


 そしてレゾは首からかけていたアミュレットを取り外すと背後に立つ娘のフィエゥに受け渡す。


「これはお前が持っていなさいフィエゥ・・・きっと役に立つから」


「お母さん・・・一体占いで何を見たの?」


 これはフムル族のシャーマンに代々受け継がれてきた秘宝。そんな大切なモノを今このタイミングで娘に渡すという事はつまり・・・。


 しかしレゾはそっと娘の頭を撫でると微笑んだ。


「別に生存を諦めている訳じゃ無いわ。お前はもう私より強いから・・・だからこのアミュレットはお前が持っていた方が役に立つのよ」


 そう言った後、まだ何か言いたそうなフィエゥの口に人差し指を当てて黙らせるとレゾは顔を引き締めて皆に号令をかけた。


「皆さん! 決戦の準備を!」



 

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