アーテファ 7
「今戦士ハスタが一人で化け物を食い止めています・・・早く救援を・・・」
そう言うと戦士は役目を終えたとばかりにその場にパタリと倒れた。アーテファが慌てて駆け寄って戦士の様子を見ると、傷を負ってはいるものの命に別状は無さそうで取りあえず胸をなで下ろす。
「・・・化け物か。誇り高きフムルの戦士がこれほどまでに取り乱すとは・・・」
族長は倒れた戦士の姿を見て苦々しげに呟くと、すぐに気を取り直して集落の皆に響き渡る大声で指示を出す。
「今ここにいる戦士は何人だ?」
「全員で12人です」
「よし、9人は戦士ハスタの救援に向かい残りは集落の守りを固めよ! 急げ!」
指示に従い素早く行動に移す戦士達。
アーテファは族長の元に駆け寄った。
「族長、私たちも戦います」
「む? アーテファ・・・しかし・・・」
「族長、もう私たちは自分たちの事をフムル族の一員だと思っているのです・・・どうか戦わせて下さい」
アーテファの懇願に族長は苦い顔をしながら重々しく頷いた。
「わかった・・・正直鬼種の皆が力を貸してくれるのならありがたい。戦士達と一緒にハスタの救援に行ってくれるか?」
「もちろんです!」
胸騒ぎがした。
何か、良くない事が起こっている。そんな確信にも似た予感がしているのだ。
「ハァアアア!!」
気合一閃。
戦士ハスタの突き出した槍の一撃。
フムル族で一番の槍の使い手と言われるハスタの一撃は鋭く、狩りの最中に熊の魔獣を一撃で仕留めて伝説を作ったほどだ。
槍の切っ先が怪物の外皮に突きささる。皮を引き裂き肉を抉り鮮血が吹き出したがハスタは苦々しく顔をしかめた。
傷が浅い。
槍を持つ手に伝わる感触はその一撃が致命傷に達していない事をハスタに伝えていた。
「グルォァアアアア!!」
化け物が苦悶の叫びを上げてその腕を振るう。
何気なく振るわれたその一撃はしかし常識外れの力が込められており、突き立てられた槍を粉砕しながらハスタの巨体を軽々と吹き飛ばした。
最も信頼する武器を奪われたハスタはゴロゴロと地面を転がって木の幹にぶつかり止まる。先ほどの一撃を食らって右腕の感覚が無い。
「・・・クソッ化け物め・・・」
悪態をついてよろよろと視線を上げる。その先には自らを軽々と吹き飛ばした人外の化け物が立っていた。
全身からユラユラと立ち上る闇色の瘴気。そのシルエットは人型のソレだが、大きさは通常の人の数倍もある。
ググッと飛び出した白濁した両目はジッと虚空を見つめ視力があるのか判断できない。全身から無数に飛び出した突起物から時々悪臭を放つ膿がビュッビュッと飛び出す。
化け物はくねくねと気持ちの悪い動きをしながらゆっくりと倒れたハスタの元へ歩み寄ってきた。
(・・・俺もここまでか)
ハスタが自らの死期を悟ってそっと目を閉じるとどこからか彼を呼ぶ声が聞こえたのだ。
「勇者ハスタ! 救援に来ました!」
目を開けると倒れた彼を庇うようにしてフムルの戦士達と、なんとアーテファを初めとする鬼種の面々もそこに立っていた。
「・・・そうか、間に合ったのだな」
そう呟くと緊張の糸が切れたハスタはそのまま意識を失った。




