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アーテファ 6

 アーテファ一同はレゾに正体を看破された後、皆で族長の家に集まって自分たちの種族とここに来るに至った経緯について正直に話した。


 追放を言い渡される事を覚悟での行動だったが、族長は「よく正直に話してくれた」と優しく笑うのだった。


「アナタ達はこの島に来てから今日までの日々を我々フムル族の良き隣人として過ごしてきた・・・そんなアナタ達の正体が人間でないからと言って追い出すような事はすまいよ」


「・・・しかし族長、アナタはそう言ってくれたとしても他のみんなは私たちの事を許してくれるでしょうか?」


 心配そうにそう言うアーテファに族長は静かに笑いながら立ち上がると、家の入り口まで歩く。


「それはみんなに聞くといい」


 入り口にかけられていたバナナの葉を族長がサッと上げると、何と家の外には集落中のフムル族の皆が集まっているでは無いか。


「・・・え? みんな・・・なんで・・・」


 戸惑うアーテファの元にトテトテとかけよる小さな影。彼女をギュッと抱きしめたその人物はこの島で初めて出会った少女、フィエゥであった。


「・・・アーテファ・・・ずっと友達」


「フィエゥ・・・・・・」


 ギュッとしがみついてくるフィエゥの姿にアーテファの目に薄らと涙が浮かんだ。


 そんな二人の前に一人の人物が歩み出てくる。褐色の肌に引き締まった肉体、フムル族一の戦士、勇者ハスタ。


「フィエゥの言うとおりだ。誇り高きフムルの民は人間じゃ無いなどという下らない理由の為に友を拒絶しはしない」


「勇者ハスタ・・・ありがとう・・・みんな」


 こうしてアーテファ一同はフムル族の集落に正式に迎え入れられる事となった。争いを避け、誰よりも平穏を望んだ鬼達はやっと安寧の地を得たのだ。














 それから十数年の月日が立った。


 鬼種の皆はフムル族に完全に受け入れられ、中にはフムルの人間と結婚をした鬼種もいるのだ。


 鬼種とフムルの血を引いた子ならきっと強い子供になるとみんなで笑っていた。


「アーテファ! 遊びに来たよ!」


 元気いっぱいなその声を背中で聞いて料理をつくっていたアーテファはそっと微笑んだ。振り返るとこの十数年の月日ですっかり綺麗な大人の女性になったフィエゥの姿が底にはある。


「フィエゥ、この時間はレゾと一緒に修行じゃなかった?」


 アーテファが指摘するとフィエゥはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「だってお母さんとの修行は退屈なんだもん・・・だからこっそり抜け出してきちゃった!」


 アーテファは小さくため息をついて微笑んだ。


 レゾは一流の術士だ。どうせフィエゥが逃げ出してここに来ている事もお見通しなのだろう。きっとこの後レゾに見つかってお説教をくらうであろうフィエゥの姿を思い浮かべてちょっとおかしくなった。

 おだやかな日々が過ぎていく。


 これはきっとアーテファが長年望んできた争いの無い平和な日常・・・種の本能に逆らってまで手に入れたかった宝だ。


 彼女は幸せだった。


 願わくば、死ぬまでこの平穏な日々が続いて欲しいと願っていた・・・・・・しかし、その願いは無残にも打ち壊される事となる。


「大変だ! 海岸に化け物が現れた!」


 狩りに出ていた戦士が血だらけでそう叫びながら集落に戻ってきた。アーテファはその姿を見て自分たちの平和な日常がガラガラと崩れ去っていく予感を感じたのだった。




 

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