アーテファ 3
「・・・アーテファ・・・この植物・・・食べられる」
自慢げに教えてくれるフィエゥの柔らかな髪を優しく撫でてアーテファは微笑んだ。
「そうなんだ。教えてくれてありがとうフィエゥ」
「・・・根っこが・・・おいしい・・・みんなはすり潰して・・・粉を水と混ぜて・・・だんごにして蒸して食べる」
どうやらフィエゥはアーテファに懐いたようで、こうして毎日アーテファ達の居住区に遊びに来てはこの地の食べられる植物や遊び場などについて教えてくれる。
「フィエゥは物知りだね。この植物の名前は何て言うの?」
「・・・コマル草・・・この草は縁起物だから・・・めでたい日に友達や家族と一緒に食べる・・・」
「へえ、友達や家族とね」
「・・・アーテファ、今晩コマル草料理して・・・フィエゥと一緒に食べる」
「え?」
フィエゥの言葉に驚いたような声を上げると彼女はそのつぶらな瞳でじっと見上げるようにアーテファの顔を覗き込んだ。
「・・・一緒に食べる」
「でもコレめでたい時に友達や家族と食べるんでしょ?」
フィエゥは小さく頷いた。
「アーテファはフィエゥの友達・・・違う?」
その言葉を聞いてアーテファの心は温かな気持ちで満たされていくのがわかった。胸がいっぱいになったアーテファは優しく微笑んでフィエゥの髪をそっと撫でる。
「・・・そうだね私とフィエゥは友達だよ。じゃあ今夜は一緒にコマル草を食べようか」
鬼種たちとフムル族の関係は良好だった。
フムルの戦士達が鬼種の男達を連れて狩りに出る事もあったが、鬼種の男達は高い身体能力と野性の本能によってフムル族の熟練の狩人にも負けない成果を出してずいぶんと驚かれた。
「もしかして外の世界の人間は皆体が強いのかい?」
シンと夜の帳が下りた夜の集落。串刺しにした今日の獲物を大きなたき火で炙るのを囲みながら筋骨隆々のフムル族の戦士がアーテファに笑いながら問うてきた。
彼はハスタ。
誇りあるフムル族最強の戦士であり、部族一番の槍投げの名手。皆から勇者とあがめられている人物だ。
「いいえ、そうではありません。・・・なんというか、私たちの一族は生まれつき高い身体能力を持っているのです」
「ほう・・・それは凄い。詳しく聞いても良いのだろうか?」
勇者ハスタの言葉にアーテファは申し訳なさそうな顔をして首を横に振る。
「すいません・・・いずれ話す事もあるかもしれませんが・・・今はまだ・・・」
「そうか・・・まあそういう事もあるだろう。我々は外の世界を知らん、故に外の世界ではどうかわからないが・・・フムル族は気が長い部族だ、ゆっくりでいい。いずれ教えてくれ」
そうしている内に肉が焼けたようだ。
丸焼きにした野性の猪を地面に敷き詰めたバナナの葉の上にのせる。良く切れるナイフを持った族長が猪の前に跪くと、周囲を取り囲んでいるフムル族の者達が皆そっと目を閉じて無言で獲物の命に祈りを捧げた。
族長は猪の目玉をくり抜くとその片方をたき火にくべる。
フムル族は狩った獲物の肉の一部を火にくべる事で先祖に捧げるのだそうだ。
「命に感謝を!」
そう高らかに言った族長は残った片方の目をパクリと口に含んだ。
それが宴の合図だ。
ワッと集まった集落の皆に族長が均等に切り分けた肉を配っていく。
宴の夜は、ゆっくりと更けていった。




