アーテファ 2
アーテファ一同は小川の近くで出会った先住民の少女フィエゥの案内で他の先住民たちが暮らしているという集落までやってきた。
この島はかなりの辺境にあるようで外の人間がやってくるのはかなり珍しいのだろう。フィエゥにつれられたアーテファ達を先住民達は好奇の視線で見ていた。
よくしなる竹の骨組みにバナナの葉をかけて屋根とした簡易的な住居の並ぶ集落のなかを少女に連れられて歩く。
先住民達は皆植物の葉を寄せ集めて弦で繋げた衣服を身につけていた。どうやら文明のレベルは前にいた島国の方が進んでいるようだ。
どちらにせよ、アーテファ達鬼種の一族はよそ者なのだが・・・。
「アーテファ・・・ついた、族長の家・・・」
フィエゥがぼうっと考え込んでいたアーテファの服の裾をクイッと引っ張る。視線を下ろすとフィエゥはその小さな指で目の前の家を指さしている。
族長の家と言うだけあって他の住居よりは少し大きめにつくられているようだ。
「族長・・・お客様・・・来た」
フィエゥが入り口に向かって声をかけると、何やら中からごそごそと人が動くような音がしてやがて入り口にかけられていたバナナの葉をかき分けて中から一人の男が出てきた。
恐らくこの集落の長であろうその初老の人物は、日に焼けた浅黒い肌と顔に刻まれた深い傷跡が特徴的な強面の男であった。
「・・・長く族長をやっているが、この島で我が部族以外の人間を見るのは初めてだ。初めまして海の向こう側の人達。私はフムル族の族長、ガナル・フムルという」
ガサガサにひび割れた低い声。
アーテファはとりあえずこの地の人間が好意的に話を聞いてくれるという事実に安心をした。
「初めましてガナル・フムル殿。私達は遠い島国からやってきました。私が代表のアーテファと申します」
「ふむ、アーテファさんというのだね。それで、アーテファさんはこの地に何のようかな?」
族長の言葉にアーテファは自分たちがこの地に来た理由を話す。
「訳あって前に暮らしていた土地に住めなくなりました。新たな地を求めて船旅をしていたらたまたまこの地にたどり着いたのです・・・この集落に受け入れてくれとは言いませんが、この島で我々が暮らす事を了承して頂けないでしょうか?」
鬼種は強い。
例え少数とはいえ、自分の力で生きていくことに何の不安も無いのだが・・・それでもアーテファはこの地で暮らす人間達の許可を得るべきだと考えたのだ。敵対する意志は無いと示すためにも。
「・・・私とあなた方は今日出会ったばかりだ・・・アーテファさんの言うとおりすぐにこの集落に迎え入れる事はできない・・・見たところ悪人では無いようだが私も集落を預かる身だからすぐに信頼する訳にいかないという事は分かって欲しい」
「もちろんです。この島で暮らすことを認めてさえ下されば私たちは自分たちで細々と暮らしていくつもりです」
しかし族長はアーテファの言葉に苦い顔をした。
「うーむ・・・それなんだが、この地には恐ろしい魔物がたくさんいてな。いかに出会ったばかりの人達とてそんな少数で放り出すのは誇り高きフムル族の男としてできない・・・そこで提案があるのだが、集落の中に迎え入れる事は出来ないが集落のすぐ側で暮らしてはいかがかな? 少しずつ集落の者達と交流を持っていけば自ずとあなた方の人柄もわかるだろう・・・そして信頼できる人達だと私が皆が判断できたのなら集落の中に迎え入れる事もできるかもしれない」
族長の言葉は優しさに溢れていた。
アーテファは感謝の気持ちを持ってその提案を受け入れる。
こうして鬼の一族とフムル族の共同生活が始まったのだ。




