血痕
朝が来た。
たき火の処理をした三人は洞窟を後にして昨夜戦闘があった場所に移動する。
「やっぱりかなり出血してるみてえだな」
そこに残っていたのはべっとりと地面に付着した襲撃者の血痕。そして身体を引きずるようにして移動していった後がくっきりと確認できた。
「これだけ跡が残っているんだったら素人でも追えそうだ」
マルクが呟くと隣でシャルロッテが口を開く。
「・・・でもこんなに出血しているって事はどこかで息絶えている可能性は無い? 二人の話を聞く限りでは大きさは人間の子供くらいだったのでしょう?」
シャルロッテの疑問に速見が首を横に振る。
「いや、それは無いだろうな」
「なぜそう言い切れるの?」
「大きさが人間の事もくらいだったという事実が問題なんだ。・・・あの時俺は早々に勝負をつける為に炸裂弾で狙撃した。北の遺跡の守護者・・・あのストーンドラゴンの足を一撃で吹き飛ばす威力の弾だぞ? それをまともに喰らって、その大きさの生物が原型を保っていられると思うか?」
その説明でシャルロッテは何かを理解したように息を呑んだ。
「そいつはバラバラになるどころか炸裂弾を受けてそのまま走り去っていきやがった・・・尋常な生物じゃねえよ。魔法的な強化がなされているか・・・もしくは全く未知な身体の造りを持った頑丈な生物なんだろう。そのままくたばるとは思えねえ」
「・・・わかったわ気を引き締めて行きましょう。とりあえずこの血の跡をたどればいいのかしら?」
「そうだな、それが一番手っ取り早い」
そして三人と太郎は血痕の追跡にかかる。
ギラリと輝く太陽が生い茂った木々の枝葉に辺り、一同に不吉な影を落としていた。
しばらく血痕を追跡しているが一向に目的にはたどり着かない。これほどまでの出血で動いていられるという事はやはり速見の言っていた通り尋常な生物では無いのだろう。
「ねえ、なんでこんなに血が出てるのかな?」
シャルロッテはこっそりとマルクに尋ねた。
「どういうこと?」
「だって大きさ的に体内にこんなに血があるとは思えないんだけど・・・今私たちって結構な時間移動してるよね? もしハヤミの言うように耐久力の高い未知の生物だとしても、それほど生命力が高いなら途中で血が止まってもおかしくないかなって」
「・・・わからないな。確かにこんな大量の出血はおかしいけど、今考えても答えはでない。今は追跡に集中しよう」
「そうだね、ごめんマルク」
二人がそんな会話をしていると先頭を歩いていた太郎が低くうなり声を上げた。それを見た速見が二人を手で制する。
「見ろ二人とも」
速見が指さす方向に視線を向けると、そこには一同が野営をしていた場所と同じような洞窟が存在し、その入り口に向かって追いかけていた血痕が続いているのが見えた。
「さて、アレが襲撃者の住処みたいだな」
背中に担いだ無銘を取り出し、いつでも発砲できるように両手にかかえる速見。それにならうようにマルクも腰のグラディウスに手をかけ、シャルロッテも木の杖をギュッと握り締めた。
「俺が先に行くよ。ハヤミもシャルも後衛だからね。こういう仕事は俺に任せて」
右手にグラディウス、左手に小盾を構えたマルクがそう言って先頭に立つ。頼もしく育ったそんな背中を見て、速見はわずかに微笑んだ。
「ああ、頼んだぞマルク。援護は俺たちに任せな」
そして一同は洞窟へと向かう。
先頭に立つマルクの隣には不意打ちにそなえて感覚の鋭い太郎が同行している。
薄暗い洞窟の中、慎重に歩を進める一同。しかし洞窟の中は思ったより浅く、少し歩くとすぐに行き止まりに行き当たった。
ぐるりと周囲を見回す。
奥行きは浅いが広さは中々のモノで、天井部分の高さなどは5~6メートルほどはあるだろうか。
どうやら何者かがこの洞窟を住居として使っていたのは明らかなようで、中には草を敷き詰めて作られた寝床や、食べかけの果物、種類の判別できない動物の骨などが散乱している。血痕はここで途絶えているのだが、肝心の襲撃者の姿は無かった。
「ん? 何か地面にかかれてるけど・・・」
シャルロッテが何かを発見したようでみんなを呼び寄せる。
地面には血で描かれた不思議な文様が残っていた。
突如太郎が大きな声でシャルロッテに向かって吠える。
次の瞬間地面の文様が激しく発光し、その光りが薄暗い洞窟の内部を照らし出した。
「離れろシャル!」
速見の警告で素早くその場所から離れるシャルロッテ。
文様は輝きを増していき、やがてその中から漆黒の巨人が姿を現す。
「グォオオォオオオ!!」
野太い咆哮が狭い洞窟内部をビリビリと振るわした。
何者かはわからない。
ただ敵だという事だけは明らかだ。
「上等だ」
速見は無銘を構えて巨人を睨み付ける。




