9.
テストも終わりすっかり穏やかな心持ちになった僕と遼は放課後の教室でだべっていた。他にも数人の生徒が残っていたが皆勉強しているようで、静かな空間が出来上がっている。
「そろそろ帰ろうか」
僕が言いだして二人して立ち上がったその時、教室の後ろのドアから一人の女子生徒が現れた。
白鳥佳澄だと気づき遼の方を見る。どうやら話しかけるか、かけまいか悩んでいるようだ。
「水谷ゆい……」
彼女とすれ違い、そのまま帰ろうとしたとき唐突に名前を呼ばれた。まともに会話もしたこともない人間に呼び捨てされて少し驚き、彼女の顔を見るといつも通りの美少女がそこにいて見とれてしまう。
「白鳥さん、こんにちは。俺の名前分かる?」
遼がここぞとばかりに話しかける。
「久住遼君?」
「覚えてくれてたんだ」
遼は嬉しそうだ。
「ゆいに話があるのだけど」
何故僕だけ呼び捨てにされているのだろうか。失礼な奴だと思いつい口に出してしまう。
「なんで呼び捨てなの?」
美少女の顔が少し歪みそして口が開く。
「ごめんなさい。やっぱりいい」
彼女は俯き僕たちから離れていった。
また夢を見る。漆黒の中に佇むその少女は白鳥佳澄だった。学校で一言二言話しただけで夢にまで出てくるなんて、僕は彼女に惹かれているのだろうか。僕も他の男子共と同類だなと思っていると彼女は言葉を発する。
「私は何の為に生きているの?」
何を言っているのだろうか彼女は。
「私たちは何の為に生きているの?」
いい加減にして欲しい。可愛い顔して頭もよくてクラスでも注目の的の彼女に苦悶する権利なんて無い。
「あなたは何の為に生きているの?」