2.
遠くから携帯のアラームが鳴っていることに気づき目を開ける。まだ僕の頭はぼんやりとしているが、それでも何とか手を伸ばしてアラームを止める。寝ぼけ眼を擦りながら上体を起こし時計を見るとすでに7時を過ぎていて、僕は急いで立ち上がり身支度を始めた。
僕が通うこの高校では先週から朝補習が始まっている。いわゆる進学校というものに付きものであるこの補習、先生たちは熱心だけれど朝が苦手な僕にはただの苦痛でしかなかった。それでも息を切らしながら自転車を漕ぎ、遅刻寸前で教室に辿り着いて中に入ると、やはり既に多くの生徒がいた。急いで自分の席に座ると、すぐに教師が入ってきて煩く騒いでいたクラスメイト達も静かになり始めた。
補習が終わり僕は机に伏せ眠りにつく、そのつもりだったのだけれど、クラスメイトの一人が話しかけてきた。身長の高さに少しばかりの威圧感を感じるそのクラスメイトは僕の唯一の友人、遼だ。
「ゆい、おはよう」
仕方なく顔を上げ答える。
「ああ、おはよう」
「ゆい、お前さ今日もギリギリだったな」
「朝は苦手なんだよ」
昨日も一昨日も同じ会話をしたような気がすると思っていると、遼がまた喋りだす。
「なあ、知ってるか? このクラスに転入生が来るらしいぜ」
初めて聞いた。二年のこの時期に転入というのも変わっていると感じる。あと一月早ければ新学期の始まりと合わせてちょうど良かったような。何がちょうどいいのかは分からないけれど、と自分に突っ込む。
ホームルームが始まる時間になった。教室に担任が入ってくる。毎日変わらない光景だ。
「みなさん、おはようございます」
先生の話を右耳から左耳に聞き流しながら、窓の外を眺める。上には青空が広がっている。5月のこの天気が僕は好きだ。五月晴れとか言うのだったかなと考えていると、先生の口から転入生の話が出てくる。女の子でどうやら明日来るらしい。