12.
僕の体はベッドに押し付けられている。目を開けるとそこには佳澄の顔があった。
夏休みに僕は佳澄の家に遊びに行った。彼女の家に訪れるのはもう何度目になるか分からなかったけれど、この洋風の大きな建物は僕の胸を昂らせる。
彼女の部屋で二人きりでいると緊張してしまう。彼女に恋愛話を振られたとき、つい正直に佳澄のことが好きだと告白してしまった。でもこれはあくまで友達としてだと僕は認識していた。
彼女に押し倒されてキスをする。その時僕は佳澄に恋愛感情を持っていることを気づかされた。彼女もまた僕に対して同じ感情を持っていたのかもしれない。
「ゆい、大丈夫?」
「ゆいちゃん、本当に覚えてないの?」
教室の窓から入ってくる秋のそよ風が心地よい。僕と佳澄以外には他に誰もいない教室で僕は彼女の話を聞く。
「私死のうと思うの」
彼女からこういった話を聞かされるのは別に珍しいことでも無かった。
「今が一番幸せな時期だと思うの」
「来年には高校生になって、そして大学に行って、就職して」
「上手くいってもこんな進路を歩むだけでしょ」
「何十年も毎日同じ生活を繰り返していくの」
「想像しただけでもぞっとする」
僕は少し反論する。
「でも、これからも新しい出会いがあるし、まだまだ僕らには知らないことがあるし」
佳澄が僕の顔をじっと見つめてくる。
「私には新しい出会いなんて必要ないの」
「ゆいだけがいればいい」
「ゆいと過ごすこの瞬間の幸せを味わうだけでいい」
長い間眠っていた気がする。白い天井、白い壁、そして左手に窓がある。殺風景な部屋だ。
僕は病室にいた。
母親と看護師らしき人が来る。どうやら一週間近く眠っていたらしい。色々聞かれるけれど何も覚えていなくて。一つも思い出すことができなくて。
「ゆいちゃん、本当に覚えてないの?」
医師に聞かれても曖昧に首を傾げるしかない。