11.
放課後の教室に生徒が二人。僕はこの気まずい雰囲気をどうしようかと必死に頭を働かせていた。
数分前、僕と遼と白鳥の三人がこの教室にいた。夏休みの予定を打ち合わせていたのだが遼が先生に呼ばれて何処かへ行ってしまった。どうやら力仕事を手伝って欲しいらしい。
ふと目の前に座る彼女の顔見る。彼女も同時に此方を見たようで目が合う。綺麗な目だと思う。すっかり忘れていた夢の内容が浮かんでくる。夢に出てきたのと同じ顔。でもそうじゃない。夢の中ではなくて、それ以外のどこかで、どこかで見たことがあるような……
「ねえ私のこと覚えてないの?」
彼女に唐突に言われて混乱する。
「白鳥佳澄。思い出せない?」
白鳥佳澄、白鳥佳澄。頭の中でその名前を反復する。ずっと前に聞いたことがあるような気がしてくる。
「中学校一緒だったでしょ。ゆい」
また呼び捨てか。
「ゆいちゃん、本当に覚えてないの?」
僕の前に女の子がいる。彼女のショートヘアの髪はふわふわとしていてつい触ってしまう。
「もうやめてよ」
少女が笑いながら僕の手を取り、そして僕の手は少女の胸元に移動する。
「ごめん、佳澄の髪とても綺麗だったからつい」
ここは何処だろうか。見覚えがあるような……
周りの風景がはっきりとしてきた。ここは教室だ。でもいつもの見慣れたものとは何処か違う。ここは、そうだここは中学生の頃の教室。
中学1年の頃僕は一人の少女に出会った。同じクラスの白鳥佳澄。彼女は今までに見たことも無いような可愛さで僕に微笑んだ。
「隣の席だね。ゆいちゃんよろしく」
彼女はとても大人びているように感じられて、僕は憧れを抱いた。
「ゆいちゃんってさ、なんで自分のこと僕って言うの?」
「なんでだろう。昔からの癖というか」
「可愛いんだからもっと女の子らしくしなよ。モテるよ」
でも僕は別に異性に好かれる必要なんて無かった。僕は彼女のことを好きだったから。それが友達としてではなく恋愛感情だということを理解したのは2年の夏だっただろうか。