いじめで息子を失った父親が復讐殺人を起こす
※この物語はフィクションです。
現実世界で復讐殺人って滅多に起きませんよね。 こんな事件が実際起これば、世間はどんな反応するんだろうと思いました。
――――いじめで自殺した息子のために復讐。中学生殺害で父親逮捕。
SNSのサイトを開いたとたん、このニュースの見出しがまず目に入った。僕はその見出しを見るや否や、ニュース全文を見るためにその見出しをチェックした。
N県S市の住宅街の公園で24日、この地区の中学校に通う少年(14歳)が刃物に刺されて死亡した事件で、N県警は25日、同市に住む会社員の男性(35歳)を殺人容疑で逮捕した。事件の後、男性は県警に自ら通報し、駆けつけた警察官に任意同行され、その後署内で犯行を自供した。
殺害の動機について容疑者は、「息子が先月、学校でのいじめを苦に自殺した。息子の遺書に、学校でいじめを受けていること、学校でどのような仕打ちを受けているかが綴られていた。またいじめを主導したとされる生徒の名前が書かれており、息子を死に追いやった生徒を殺してやりたいと思った。」と供述。
県警は、息子の復讐殺人が動機とみて、男性が通っていた学校に対し、聞き取りを進めていく方針である。
すでにこの事件に対するコメントは1万件を超えていた。利用者が減少ぎみであるこのSNSサイトでは、コメントが1000件あれば皆が注目しているニュースだといえる。コメントが1万件を超えるニュースなどめったにありえない。
僕はコメントを表示する箇所をタッチした。
・俺が裁判官なら無罪にする。 イイネ!5463人 コメント157件
・私も自分の子供がいじめで殺されたなら、どんな手をつかってでも加害者を見つけ出して殺すだろな・・・
イイネ!3748人 コメント247件
・被害者に全く同情できない。むしろ加害者のほうに同情する
イイネ!2896人 コメント23件
・加害者の息子さんのご冥福をお祈りします。被害者?死んで当然のクズだろ
イイネ!2543件 コメント48件
・息子さんのことを思うと胸が痛いけど、殺したら駄目だよ(;_;)息子さんも親が犯罪者になることを望まないよ・・・
イイネ!1963件 コメント243件
中略
・でも、親はいじめに気付かんのか?もし気づいてなかったら自分が殺したも同然だろ。
イイネ!358件 コメント379件
・いじめられたそいつの自己責任だろ。いじめられるやつにも問題あんだよ
イイネ!137件 コメント748件
案の定、いじめをしていたとされる被害者に対して厳しいコメントが並ぶ。
一般論でいえば、世間はいじめに対して憎悪の目を向ける。
僕もこの事件に関しては、情状酌量を認めてもいいと思った。よくサスペンスドラマや探偵漫画にある、被害者のほうがクズなパターンだが、現実の世界で起こったのは聞いたことがない。
しばらくはテレビやネットでこの事件が話題になるはずだ。
予想通り、この復讐殺人事件の話題は世間をにぎわせている。事件から一週間以上たった今でも、ワイドショーなどで特集が組まれている。
――――実は世間の関心をここまで集めたのはさらに理由がある。
事件の加害者、もとい息子を殺された父親は、事件直前に動画をネットにアップロードしていた。
その内容は、衝撃的で、息子をどれだけ大事に思っていたか、息子がどんないじめを受けていたか、そしていじめを行った者に対しての思いを、カメラに向かって父親が語り続けるものだった。
当然動画はすぐに削除されたものの、コピーされた映像は拡散され続けている。ネット上を探せば比較的簡単に見つけられた。
以下、動画の内容から抜粋↓
画面にうつっているのは、事件を起こした父親だろう。見た目は30代くらいのサラリーマンといったところか。しかし、顔はやつれており、その目には光がないようであった。
5秒間ほどの沈黙があり、父親は静かにしゃべりだした。
「私の息子は、先日命を絶ちました。息子の遺書をみると、2年生に上がった時から、同級生にからかわれ始め、次第にエスカレートしていったと書いておりました。」
「最初はキモい、不潔など悪口を言われはじめ、筆箱や教科書の持ち物がごみ箱につっこまれ、……」
「廊下ですれ違いざまに蹴られたり髪をひっぱられたり……」
「金銭を脅し取られたりといった搾取を受け……」
――その後も、椅子に縛りつけられて殴る蹴るの暴行を受ける、女子の体操着を盗んだという罪をでっちあげられる、全裸にされ、カメラに撮影される等、およそ 人間とは思えない所業が述べられていく。
聞いているだけで胸がえぐられる気持ちになる。このような仕打ちを受け続ければ、心が壊れるに決まっている。
父親はもう目線はカメラに向いてない。そして、息を小さく吐き出し、続ける。
「……私は息子を死に追いやった同級生が許せません。 同時に、息子の自殺を止められなかった自分自身のことも許せません。」
「自分への制裁もこめて、いじめを主導した同級生の殺害を決めました。」
「子供を持つ親としていいます。自分の子がいじめられたら、……親はいじめた相手を殺してやりたいくらい憎みます。いじめをするのであれば……殺されても構わないくらいの気持ちでいろ。」
父親の顔は憎しみで染まっていた。――そして目線を一度下に向け、しばらく何か考えるような状態になった。
徐々に怒りの表情は和らぎ、先ほどとは変わり、穏やかな表情の父親がいた。そして、最後に語り掛けた。
「……ひとつだけ救いがあるとすれば、私の息子が人をいじめる側でなかったことです。息子が悪魔にならなくて、良かったっ―――」
言葉を絞り出す父親の頬に涙が伝うのがみえた