あるオッサンの呟き
初投稿です。
課題を頂いたので、まぁ何でもやってみるかと書いてみましたが、人さまに読んで頂くなどおそれ多いです。キーワードは、こっそりひっそり。
ネットこわい…
「ヤバイっす…」
呟くような声が聞こえた気がして箸をとめる。
21時をまわった事務所には俺ともう一人、今年ようやくつけてもらえた″直属″の部下…織谷の姿しかない。
コイツは…いい加減にヨレッてる俺とは裏腹にピシリとしている。
しっかりアイロンのかかった細身のスーツ、ややカジュアルっぽい綿の白シャツに、濃いめの赤いネクタイ…上着もネクタイも放り出し、あまつさえボタン2つも開けて腕捲りまでした俺とは対照的だ。
「まじヤバい…」
まるでスーツ屋のDMから飛び出したような爽やか野郎は、もう一度呟くとスーパーで買ってきた寿司をパクつきながら片手で器用にスケジュール帳を覗き込んでいる。
「ヤバイんっすよ…」
どうも独り言ではなかったらしいが、然りとて返事を求めているわけでもない様子に生返事を返しながら俺もサーモンを口に放り込む。
くどい脂を濃いめのお茶で流して思わず顔をしかめた。備品の安いお茶っぱは苦味しか出てなくて…細身の癖に食い物に意外と食いつくコイツに、ウチでお取り寄せしているのを飲ませたらどんな顔するかな…なんて想像して思わず笑ってしまった。俺みたいな摩耗しきった感性の中年と違い、いちいち反応が新鮮で面白いのだ。
語彙が少ないのか、何を喰わせてもヤバイとかすげぇしか言わないが、表情とか雰囲気で充分伝わってくる。とりとめなく思考を散らしながら中とろを口に放り込む。
白身や光り物全般のが好みなんだがな…織谷をパシらせると全般的に脂っこい物が多い。だからといって彼に仕事させといて俺が買い出しに行くのもお互い座りが悪いような気がしてしまうので仕方ないのだ。
「ぶちょー、俺ヤバイっすよ」
本日何度目かのヤバイを発しながら、ようやく顔をあげた織谷が俺と目を併せて微笑む。
ややタレ目気味の爽やか小僧の笑顔は破壊力抜群で、世のお姉さま方をどれだけ射殺して来たのかと俺は疑っているんだが、本人曰く「大してモテたことはない」らしい。まぁ基準は人それぞれ、あくまで個人の感想…だ。
「どした?」
「いや、年末の予定確認してたんスけど俺、絶賛ソロ中なんでイヴもクリスマスも! 大晦日まで年内全部残業OKとかマジやばくないっすか」
いやいや。いくら俺らがサービス業だからって
「さすがに大晦日は残業しないんじゃないかな」とか
「それを上司に申告するってことはマジ残業でも文句ないってこったなw」
なんて言いながら内心で
「やべぇ、コイツかわいいぞ」
とか思ってしまったわけで。
「男も40越えると清潔感ある二十歳そこそこ男子とか抱…」
とか
「ツルッとしてて味薄そう…」
なんて不穏なことを考えながら、最後のつぶ貝を口に放り込み…さて、もう一仕事。
ちなみに俺は断固女性が好きでそういった趣味はない…たぶん。
お読み頂き、ありがとうございました。