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「火星の呪い」

「アステロイドベルトの戦い」

「死神に好かれた火星艦隊」


様々な呼び名がつくこの悲劇は火星のマリネリスポートを出港したロシア、ヨーロッパ、アメリカの各国の深宇宙探査機が相次いで故障、遭難した宇宙関係者にとって悲惨な事件だった、


「へオース計画は惨敗か?」

「国際的予算の無駄使い」

「火星沖の事故率ワーストへ」

「マーズライン事件」


新聞各社はこぞってこれを取り上げ各国の宇宙研究所に鉛のようなプレッシャーをかけていた、そんな中にこの国際計画最後の一手が月で粛々と重いプレッシャーを抱える中で進んでいた、同年に月面のダイダロスポートよりまずはパラボラアンテナの怪物のような衛星「SELENE-D」が月軌道へ、この衛星は元々この国際計画のために用意された衛星で、かつて電波天文観測衛星「はるか」の技術が使われていた、翌日には次の衛星の航路を導く意味を込めて「やたがらす」と命名された、その後月周回軌道に入った事が確認されアンテナの展開へと作業は順調に進んでいく、支援のための小型リレー衛星も月の軌道へ展開、着々と出発の準備は整えられていた、やがてリレー衛星も月の神話から「せんじょ」と命名、ここに日本ご自慢の深宇宙探査支援艦隊が月軌道上にてその艨艟をずらりと並べた形となった、ここまで四機もの衛星がダイダロスポートより出発した、あとは本命の探査機を残すのみとなった日本はここまでに火星沖の惨劇のプレッシャーを受ける形で1年もの歳月をかけて準備した、この先は一切の失敗が許されない空気が漂う中で、「MUSES-J」、別名「はやぶさ-VI計画」がついにメディアのカメラにその姿を現した、計画名はかの不死鳥的探査機から受け継がれた工学試験衛星や小惑星探査機に付けられる幸運の名前、VIはその計画の6番目の意味を示す、その計画の名前に国際的な重圧がかかっている事は誰もがわかっていた、この日、太陽の重力から逃れるためにマリネリスポートを選んだ各国研究所はみんな地球近辺の月、月面のダイダロスポートにその視線を集めていた、元々日本は火星での出発の計画もあったがマリネリスポートの渋滞と火星での日本研究所の建造遅延が致命的であり、使い慣れた月面のダイダロス基地から出発する事となった経緯がある、もし火星に日本研究所があった場合には「やたがらす」も「せんじょ」達も火星の周回軌道に投入されていた事だろうか、しかし日本の関係者はむしろ「アステロイドから離れたわけですし、万が一衝突によるアンテナの破損のリスクが下がったと思えば、ここは安定した電波基地になりますよ」と前向きな意見が多かった、そして地球時間11月18日、加速を得るために軌道エレベータ先端への運搬が始まった、まるでカプセル薬の様な真っ白なケースに包まれ研究所を出発、三日ほどかけて先端部へ運ばれた


「ガードカプセル点火準備」

「タスク、3行目より8行目まで送信、2、1、0、」

「太陽パドル展開を確認」

「次、タスク12行目から19行目まで送信、2、1、0、」

「イオンエンジン点火を確認」

「宇宙機ロック解除」

「解除を確認」


軌道エレベータの定点カメラが捉えたのはゆっくりと離れながら一生懸命に六つのイオンエンジンを吹かして進んでいく本命の探査機が積み込まれた真っ白なカプセルの姿だった、宇宙ロケットの先端のような歪な形のそのカプセルは自分が乗る軌道を目指してゆっくり、本当にゆっくりと加速をしていく、月面の管制室はまずは第一段階といった具合にみんながお互いに緊張をほぐし合う、


カプセルはやがてイザナミと命名された、なぜカプセルが命名されたかと言えば、このカプセルは太陽スイングバイや惑星スイングバイを行うにあたって本命の探査機の保護を目的に作られたからである、とにかく中に入っている探査機に傷一つ付かないような、そんなカプセルが求められた、カプセル機関部はこうのとりの技術を利用、カプセル外観察カメラと平面アンテナ、そして太陽パドルを機関部にまとめて装備してある、イオンエンジンのある後ろ側から見るとさながらトンボの様な姿だった、太陽に近づくにつれ機体の温度も上がっていく、機体は一時的に水星軌道に迫る勢いでどんどん進んでいく、実際一定期間だけ水星軌道よりも内側を通る場所が存在する、ここまで来れば十分な加速を得たイザナミはいよいよ外惑星列へと進路を変えトップスピードのまま外惑星列をスイングバイ、本命の探査機を深宇宙へと送り出すのだ、これを行うのにおよそ数年、これを月面の管制室は時にはやたがらすや月の観測衛星「かぐや」一家を修理したりしながらじっと待っていた、運命の火星軌道、各国自慢の深宇宙探査機が散っていったアステロイドベルト、そして大型惑星たちの重力と磁気地獄、それらを全てクリアして運命の2152年3月16日、冥王星沖にてついに本命の探査機に命が吹き込まれます、イザナミ自慢の装甲によって様々な物から守られてきた探査機、ゆっくりと宇宙ロケットのようにカプセルが二つに開いていく、中にはまだ真新しい金色の機体が鎮座していた、まるでアポロ司令・機械船のような外見になってしまったイザナミとはまだ接続は切れていません、そして月からの信号で固定ケーブルが焼き切られ、世界初の深宇宙探査機はここでようやく冥王星よりも外側に飛び出ました、残されたイザナミは防護カプセルの役目を果たし「オノコロ」へ改名、残された時間はカイパーベルトや長年の謎である太陽系の第九惑星の有無を観測していきます、実は機関部には様々な観測機器が詰まっておりド貧乏の日本特有の詰め込みすぎな一品に仕上がっていた、太陽や惑星スイングバイの際もただでは通らなく、ちゃんと観測しながら通ったのである、もちろんこの詰め込みすぎた機関部のおかげで火星研究所の予算がネコババされたのは言うまでもなく、火星研究所の建造遅延の伝説として語り継がれている、


深宇宙へついに飛び出した探査機はまずしばらく期間をかけて搭載機器の確認作業をしていきます、そしてその年の暮れ、ひっそりとイオンエンジンを点火し点のようなの太陽光を必死に捉えてイザナミに貰った秒速100kmをその体に、宇宙ステーション補給機のこうのとりにも劣らぬ巨体に積み込まれた大きなイオンエンジンと大量の燃料でまた少しずつ加速を続け、人類初の外惑星系の領域へとその歩みを始めた、散っていった各国の期待を乗せて、「ひかり」と名付けられ、やたがらすも毎日送られてるく航海日誌を月面へ送信、これから4光年先のアルファ・ケンタウリ惑星系(へオース系)へのワープの準備としての日々が続いていきます、最初からワープはしないのか?と問われれば膨大なエネルギーの消費による衝撃波などで太陽系内部に影響が出ないようにまずはカイパーベルト沖からオールトの雲へ小さくワープ、そしてオールトの雲の外側へ到着するといよいよ一人ぼっちとなります、ひかりへ課せられた使命は外惑星系の調査と、太陽系以外での生命の可能性、そして最大のイベントがワープによる航法の確立など、外惑星系への滞在予定は15年程、まずはイザナミが託した速度で恒星を観測、そこからスイングバイで徐々に外側の惑星へ目標を変更していきます、そしてひかりには同乗者が居ます、小型衛星「こだまMk.5」達です、これらの小型衛星は投下する順番が決まっており投下したらその惑星の周回軌道へ自力で小さなイオンエンジンを吹かしながら乗り込みます、観測情報は全てひかりに送られ保存されます、そしてひかりは小型衛星の最後の一つが力尽きるまでその惑星系に残り、耐久年数ギリギリのその体を引きずって太陽系へワープアウトする予定です、いよいよ運命の2152年の年末が近付いて来ました、ひかりは2153年を迎える前に月からの信号でワープします、そしてやたがらすやせんじょたちは十数年待ち続けるという過酷な任務がこの先待っています、もちろん十数年ただ待ち続ける訳ではありません、電波天文観測衛星として、あるいはかぐや一家を支援するリレー衛星として、はたまた月面の通信のための通信衛星として、それぞれの任務を全うしながら待ち続けます、


さぁ、ここからはひかり達だけの過酷で壮絶な戦いと、途方もなく広がる宇宙に夢と人生を載せた人達の物語が始まります、


遥かな宇宙にロマンを添えて

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