白い悪魔の復讐
2035年を過ぎると、ドローン社会となっていた。
宅配の荷物はドローンで運ばれ、
その割合は70%に達する勢いだ。
これはドローンの自己診断システムと自動補修機能の実現により、
大幅なコストダウンしたからだった。
とは言うものの、重量がある荷物はまだ車で配達していた。
しかし、郵便などバイクでの配達はほとんどなくなり、
サンタの衣装でクリスマスプレゼントやピザを運ぶ程に追いやられた。
当然、ドローンは軍事用にも活躍している。
紛争地での偵察、物資の補給など用途はさまざまだ。
噂では、人も運べる新型機もあるという。
また、災害発生時には無くてはならないモノになっている。
被害の状況を把握したり、被害者に救援物資を届けていた。
しかし、その年の9月だった。
後に、白い悪魔と呼ばれる彼が現れた。
彼と彼の仲間はドローンを落としたのだ。
それは夜の事だった。
当局は落とされたドローンを回収し、搭載カメラを調べたが、何も映っていなかった。
当初はドローンの整備不良と思われたが、
ドローンのフライトレコーダーを解析したところ、
高度計に異常な数値が現れていた。
それは急激な高度の変化だった。
「外部から力が加わらなければ、このような数値にはならない」
と事故調査委員は結論付けた。
当初は強力な電磁波による攻撃との推測されたが、
周辺地域でのテレビやラジオなどの電波の乱れはなかった。
結局、原因の追及は不発に終わった。
その翌日は3機落とされた。
その次の日は6機、さらに12機と日を追うごとに増え続けた。
あたかも何か確かめながら犯行に及んでいるようだった。
警察はついに重い腰を上げ、捜査員を大量導入した。
徹夜の張り込みの命令が下った。
だがその日、30機のドローンが落とされた。
警視庁は見事に裏をかかれた。
犯行現場は50KM以上離れた千葉県だった。
それ以降、広範囲で100機以上のドローンが落とされた。
さらに関東、中部、近畿とさらに範囲を広がっていった。
しかしその日は突然やって来た。
とうとう犯人が明らかになったのだ。
だが、警察が特定したのではなく、
もう姿を隠す必要がなくなったかのように、
白昼に行われた。
その姿を見みた人は恐怖し、言葉を漏らした。
「復讐だ」と。
人々の脳裏をよぎったのはあのことだった。
大量虐殺である。
ドローンの航行をし易いように虐殺、いや駆除したのだ。
カラスを。
ドローンを落としたのは、なんと統率されたカラスの一群だった。
その先頭に彼がいたのだ。
頭抜けて大きいカラスが、それも白かった。
白い体は突然変異によるものと動物学者は説明した。
その彼は、「白い悪魔」と瞬間的にネットで命名された。
彼はその後も犯行を拡大、成功させ続けた。
そしていつの間にか、日本以外の各国で同様の被害が出始めた。
政府はカラス対策に手を焼いた。
警察だけでなく、自衛隊を動員したが、
いかんせん、相手は機動力があり、制空権を奪われていた。
ある日、空を見ていた総理が呟いた。
「目には目を、歯には歯を」
いいアイデアが思いついたような笑みを浮かべた。
しかし、彼は言うだろう、「それは俺のセリフだ」と。
カラスの駆除を指揮したのはこの総理だった。
「至急、宮内庁の担当者に連絡しろ」
総理は秘書官を指差した。
総理の指示は大当りした。
カラス対策の効果があるか実験が行われ、有効だと判明したのだ。
「早急に鷹匠を増やせ」
総理は命令した。
カラスに対し、鷹で追い払ったのだ。
統率されたカラスの群れも、鷹に対する動物的恐怖は勝てないようで、
ちりじりにカラスは逃げたのだった。
「いい手土産になる。
来週のサミットの」
総理はカラス対策を各国の首脳にプレゼンする予定だった。
「これも良い日本文化の宣伝になる。
鷹匠もジャパンクールのコンテンツの一つだ」
一週間が経った。
総理は羽田空港で政府専用機に乗り込んだ。
総理は機内の窓から見送る空港関係者や政府関係者に手を振った。
専用機はゆっくりと滑走路に入る。
唸り声が大きくなると、一気に走り出し、舞い上がった。
その時だった。
専用機主翼の左エンジンが爆発した。
バランスを崩した機体は地上に激突し、大炎上したのだった。
直ちに消化作業が行われたが、乗員乗客73名、生存者はいなかった。
このニュースはすぐにテレビで放送された。
あるテレビ局が、航空マニアが政府専用機の撮影した映像が放送されると、
世間は騒然となった。
犯人が映っていたのだ。
それは、彼だった。
そう白い悪魔と呼ばれた、大きな白いカラスだった。
彼は自らの体を使い、エンジンにバードストライクを起こし、
機体を落としたのだった。
彼はリーダーにもかかわらず、自ら飛行機に突っ込んだ。
人間の指導者なら、安全な所から部下に指示してやらせるのに。
彼の勇敢な行為を目の当たりにして、一部の人は白い悪魔を称賛した。
その日を境にカラスの攻撃は鈍って行った。
鷹匠の効果もあったが、やはりリーダーを失ったからだった。
新総理はある式典に出席し、最後に今後の決意を述べた。
「今後もカラスの駆除に全力を注ぎます」
会場に集まった人々は拍手を送った。
式典進行係が総理を誘導し、上からつり下がった紐を持たせた。
合図で、総理は紐を力強く引いた。
箱が開く。
ハトが飛び出す。数十羽。
ハトは一斉に南方に向かう。
キラリと光った。
一羽が引き返して来る。
総理の首元をすり抜けて行った。
真っ赤な血が総理の首から噴き出した。
刃物をくわえ、血に染まった、白いカラスが飛び立っていった。




