盟友(とも)が消えた日
この話は、〈古代竜〉の人格の一人─セフィード=ラグーンの簡単な過去と〈全界十三騎士団〉の一つにして〈ウェンの大地〉の〈古来種〉達が所属する〈ウェンの守り手〉に〈大災害〉後に何が起こったのかを独自解釈の元、書き上げた話です。
作中には、読んでいるだけの人様の設定を若干使用させて戴きました。
後、“英雄”という存在に『超人で完璧な存在。決して過ちを犯さない正義の人』的な素晴らしいイメージをお持ちの方は、今すぐこれを読もうとする事をやめる様にお勧めします。
私の中では……『たとえ“英雄”と呼ばれる存在でも、一人格を持った一人の人間なのだ』という考えの元に書き上げていますので…場合によっては、読まれる方の“英雄”のイメージを崩しかねないからです。
それらを承服された方のみ、どうぞ読み進んで下さい。
後…読まれるのはあくまで自己責任なので、作品全体の批判・否定する評価及び感想は一切受け付けませんので……あしからず。
では、当作品をどうぞお楽しみ下さい。
──これは…〈冒険者〉達が“大災害”と呼び、〈大地人〉達が“五月革命”と呼んだ日から始まった“とある大地”の物語である…
◇00
ウェンの大地の大空を自由に飛び回る一つの存在があった。
“それ”は、太陽の光を浴びて白銀色に光り輝く鱗と白銀色の鬣を靡かせ…大きな白銀色の羽を力強く羽ばたかせながら、鮮やかな深紅色の目で油断なく大地の隅々を見渡していた。
“それ”は、この〈ウェンの大地〉に住まう〈大地人〉の誰もが知る…古より〈ウェンの大地〉に存在し続ける竜。
──『古代竜』である。
〈古代竜〉は、大きな羽を羽ばたかせながら…フームと思考を巡らせ始める。
(……今のところ、〈ウェンの大地〉には亜人間達の大規模な進行の兆候らしき動きは無さそうじゃし……とりあえず、危機的な変調は無い様じゃな)
そう思考を纏めると、〈古代竜〉は眼下に広がる〈大地人〉達の営みを…慈愛を宿した深紅の瞳で、愛しそうに眺めていた。
◇01
〈古代竜〉が、〈竜の渓谷〉の主として降臨してから幾世霜。
〈古代竜〉の身近には、常に〈大地人〉がいた。
最初、〈古代竜〉は自らの住処と竜達を守る為に周辺で好き勝手に暴れる化け物達を駆逐していただけに過ぎなかった。
だが、結果として〈大地人〉も助ける事になり、〈大地人〉は〈古代竜〉を“神”と称賛した。
最初は化け物と恐れられていた筈の〈古代竜〉は……いつの間にか〈大地人〉の中で神として崇め奉られ、〈幻竜神殿〉なる〈古代竜〉を奉る神殿すら造られた。
さらに、〈幻竜神殿〉を中心に〈大地人〉は街作りを始め、最初は点在する小さな村々の集まりだったその場所は……いつしか、〈竜の都〉と呼ばれる程の大きな〈大地人〉の都市となった。
そんな〈大地人〉の懸命に日々を生きる姿を見ている内に、〈古代竜〉は〈大地人〉を“隣人”と思う様になった。
神として奉られる事に悪い気もせず、〈大地人〉が供えるささやかな気持ちとあまり腹の足しにもならない少量の供物を貰うのも嫌ではない。
そう思う様になった〈古代竜〉は、“隣人”となった〈大地人〉を守る為……自らが討たれる危険性がありながらも、〈翡翠珠迷宮〉へ─〈古来種〉達の元へと向かった。
──ひとえに“隣人”である〈大地人〉を守る為に……
◇02
〈翡翠珠迷宮〉を訪れる際、〈古代竜〉は“本来の姿”ではなく“人型”を取る事を選んだ。
此度の来訪が、〈古来種〉に対する敵対行動ではなく“隣人”たる〈大地人〉を守る為に協力を願い出る為。
その為には、“本来の姿”ではいらぬ誤解を招きかねず、交渉が決裂しかねない。
だからこそ、“人型”を取る事を選んだのだ。
老魔法使い風の“人型”を取った〈古代竜〉は、〈翡翠珠迷宮〉へと向かって歩きながら思考する。
(しかし……ワシは、今まで〈大地人〉に神として崇められてきたから……友好的な話し方を全く知らんしのぅ。
フーム……よし、ならば“友好的な人格”を生み出せば良いだけじゃな)
そう考えを纏めた〈古代竜〉は、自らが知る膨大な知識の中の…唯一自らが使える秘術を用いて自らの魂を複数に分けた。
そうして生まれた存在の一つこそが、後に〈古来種〉の一人にして〈神聖竜騎士〉と呼ばれる『セフィード=ラグーン』という名の存在だった。
◇03
セフィードは、〈翡翠珠迷宮〉へと訪れた。
突然のセフィードの来訪に…〈古来種〉達は驚き、討つべき敵である〈古代竜〉を取り囲んだが……セフィードが告げた用件と抵抗する意思は一切無い旨を聞き、自らのリーダーの判断を仰ぐべく、警戒と包囲を一切解かないまま街の中にある会合本部へと連行した。
〈翡翠珠迷宮〉にある〈古来種〉達の会合本部内で〈古来種〉に刃や杖、敵意の視線を向けられながらも…セフィードは臆する事なく自らの想いを告げた。
「私は、確かに〈古来種〉が退治すべき化け物である事は明らかです。
しかし、私には…私に付き従う竜達と隣人たる〈大地人〉を守りたいという強い想いがあります。
どうか、共に〈ウェンの大地〉に生きる同胞として……力を貸して戴けないでしょうか!!」
「……つまり、君は〈ウェンの大地〉に生きる竜達と〈大地人〉を守る為に、同じ化け物と呼ばれる存在全てを裏切り、〈古来種〉に売る…という事かな?」
そう冷淡に言葉を返してきたのは、〈全界十三騎士団〉の一つ〈ウェンの守り手〉に所属する〈古来種〉の一人にして、リーダーである…クロケット帽子がトレードマークの『デイヴィッド=クロケット』だった。
「……その様に捉えても構いません」
セフィードの言葉に、取り囲んでいる〈古来種〉達の口からは「信用出来ない」「コイツも化け物だ」「そんな事出来る筈がない」「必ず〈古来種〉に牙を剥くに違いない」という否定的な言葉が飛び出した。
(……やはり、〈古代竜〉と〈大地人〉の共存は無理なのでしょうか……)
今にも攻撃を仕掛けそうな雰囲気を漂わせ始めた〈古来種〉の様子に……セフィードは、失望と悲しみの念を抱きかけていた。
「……フッ。面白い。気に入った。セフィードだったな。
いいぞ。我々は〈ウェンの大地〉を守る者同士として盟約を交わそう」
「なっ!?」
「リーダー!?」
「何を仰るんですか!?」
抗議する〈古来種〉達を片手で制し、デイヴィットはさらに言葉を続ける。
「盟約を交わす事は約束する……が、但し!お前が〈ウェンの大地〉と〈大地人〉の災いとなった時…我々は、お前との盟約を破棄し、お前を容赦なく討つ。
……その事をゆめゆめ忘れるな」
「……はい」
底冷えのする様な…鋭利な刃物の様な冷たい目線と言葉を向けられながら、セフィードは息を飲んでデイヴィットの言葉に承諾した。
──〈古代竜〉と〈古来種〉の間に交わされた盟約の決まり事は、以下の六つだった。
一つ、亜人間及びモンスターの動向や大規模進行の兆候が無いかを常に監視し、必ず〈古来種〉に報告する事。
一つ、〈大地人〉に対して…自らの生命と同じ住処に住まう竜達及び隣人たる〈大地人〉の生命を守る目的の場合を除き、その生命を奪う事を永久に禁ずる。
一つ、〈古来種〉が〈ウェンの大地〉を守る戦いに赴く際には、その力を貸す事。
一つ、如何なる理由があれども…〈古来種〉の生命を脅かし、害する事を永久に禁ずる。
一つ、〈古代竜〉が盟約を守り続ける限り、〈古来種〉は〈竜の渓谷〉へは一切の不可侵を約束する。
一つ、上記のいずれかの盟約を犯した場合、〈古来種〉と〈古代竜〉の間に交わされた不可侵の盟約は破棄され、〈古代竜〉を討伐対象と見なす。
それは、〈古代竜〉には決して生易しくない…厳しい内容の盟約だった。
◇04
盟約が交わされた後、盟約に従って〈翡翠珠迷宮〉へと幾度となく報告に訪れたセフィードを…初期の頃、〈古来種〉達は信用しなかった。
口でセフィードの事を直接罵り、悪意の言葉をぶつけてくる位ならまだ可愛いものである。
だが中には、セフィードに直接肉体的な暴力を振るってくる者達もいた。
路地裏や空き家へと連れて行かれ…殴る蹴るの暴行を受ける事もあった。
時には、ナイフ等の刃物や威力の弱い魔法で隠れながら攻撃され、肉体を傷付けられる事もあった。
酷い時には…死ぬ一歩手前まで腹をメッタ刺しにされたり、数人がかりに性的暴行を受けた事もある。
しかし、セフィードはどんな目に遭っても、盟約をきちんと守り……決して〈古来種〉に一切の報復や反撃をする事は無かった。
そんなセフィードの真摯な態度に…最初は否定的な考えだった者達はその考えを改め、セフィードを受け入れる姿勢を示す様になっていった。
──そして……いつしか、セフィードは〈古来種〉を盟友と呼び、〈古来種〉は〈古代竜〉を同胞と呼ぶ程に信頼し合う関係となった。
◇05
──そんな…〈古来種〉との過去の出来事を回想している一人格に、〈古代竜〉は苦笑する。
セフィードが〈古来種〉達からの理不尽な暴力を振るわれていた際、他の人格は『盟約なんて破棄してしまえ』と叫ぶ位にかなりの憤りを感じていた。
レティシアは見ていられず思わず泣き出していたし、クリアは自分がセフィードの感じる痛みの総て引き受けると言い出していた。
しかし、セフィードは頑としてそれら一切聞き入れなかった。
だが、セフィードの頑ななまでのその真摯な姿勢が…結果として〈古来種〉の信頼を勝ち取る事に繋がったのだから、本当に大したものだ。
フッと微かに笑みを浮かべていた〈古代竜〉は…〈冒険者〉の街〈西天使の都〉の上空に差し掛かった時、街の郊外に見覚えのある純白色の騎乗用の竜がいる事に気が付いた。
「ぬ?セフィードよ。ヌシの愛しの恋人の相棒があそこにおるぞ?」
『……嫌味ですか?
って、確かに。“彼女”の相棒─クリスティンですね』
〈古代竜〉の瞳を通して騎乗用の竜の姿を確認した人格は、〈古代竜〉に指示を出す。
『もしかすると、“彼女”は〈西天使の都〉にいるのかもしれません。そちらに向かって下さい。
後、出来れば私に“替わって”戴けませんか?』
「ふぇふぇふぇふぇ。愛しの恋人と直接話したい訳か!
やれやれ、若いのぅ〜」
『からかわないで下さい!
“彼女”は〈古来種〉として〈西天使の都〉を訪れている筈です。なら、私も〈古来種〉として行くべきでしょう』
人格の言葉に、〈古代竜〉は生真面目な彼に苦笑するしかなかった。
人格の言葉に従い、騎乗用の竜の近くへと舞い降りようとした〈古代竜〉は…“人型”を取ると同時に、肉体の主導権をセフィードへと譲った。
──白銀色の眩い閃光を放った巨大な〈古代竜〉は…その閃光が収まる頃には、一人の男性の姿へと変化していた。
光を受けてキラキラと輝くストレートな髪は白銀色で…腰までの長さがあり、閉じられた瞼が開かれ、その下から現れた力強い瞳は鮮やかな紅色。
その精悍な身に纏う服は…純白色のロングコートとズボンに、動きを阻害しない様に計算されて造られた白銀色の鎧とグローブとブーツ。
肩当ての辺りで〈ウェンの守り手の紋章〉を使って固定された深い空色のマント…という姿の知性的な男性─セフィードは、しばし身体の感覚を確認した後、〈西天使の都〉へと足を踏み入れた。
◇06
〈西天使の都〉へと足を踏み入れたセフィードは、思わず息を飲み…絶句した。
〈冒険者〉の街である筈の〈西天使の都〉には異様な空気が漂っていた。
道端に蹲る者、半狂乱に喚き叫ぶ者、膝を抱えて泣き出す者、〈大地人〉や周りの〈冒険者〉に怒鳴り散らす者、悲痛な声で助けを求める者……そこにあるのは、怒号と嘆きと恐怖が渦巻く混沌と化した街の姿だった。
絶句して立ち尽くしているセフィードに…一人の女性が近付いて来た。
「セイ。貴方も来たのですか?」
近付いて来た女性は…軽くウェーブ状で腰までの長さの緑色が混じった淡い金髪に、鮮やかな蒼色の優しげな瞳、淡い蒼色の服と黒色のズボンに膝下5cmの純白のブーツ、身に纏う純白色の鎧に…たまに見え隠れする舌には、ハーフ・アルヴの証である紋章がある。
彼女の名は、アンジェラ。
〈ウェンの守り手〉の一人にして、〈聖竜姫騎士〉と呼ばれる〈古来種〉であり…セフィードの恋人でもある。
彼女の呼んだ“セイ”はセフィードの愛称であり、恋人のアンジェラと特に親しい盟友達にしか呼ぶ事を許していない呼び方である。
「アンジェ、何があったのですか?」
セフィードの問い掛けに、アンジェラは首を横に振る。
「それが……わからないの。
私は、〈西天使の都〉の街の空気が急に変化したのに気が付いて、大切な作戦準備中だったんだけど……どうしても気になって、悪いとは思うけど…独断で調査に来たの。
……そうしたら、見ての通りで……」
そう言いながらも優しく笑いかけ、自らにすがりついて泣いている幼い〈冒険者〉の少女の頭を優しく撫でていた。
「……そうですか。アンジェにもわからないのですか……」
『困惑しているところ、悪いとは思うがのぅ……雰囲気の悪いこの場所に、長く留まり続ける事をワシはあまりお勧めせんぞ』
困り果てていたセフィードの頭の中に、主人格からの警告が響く。
「……そうですね。アンジェ。ひとまず、リーダーにこの事を報告しましょう」
「えっ?でも、この子を放っておけないし……」
「でしたら、その子を含め…助けられる範囲内で幼い〈冒険者〉達を保護すればいいんです」
セフィードに〈翡翠珠迷宮〉に戻る様に言われ、一瞬躊躇していたアンジェラだったが……彼の提示した妥協案を受け入れ、近くで蹲ったり泣いたりしていた幼い〈冒険者〉の少年少女を10人程を保護し、その子らを連れて〈西天使の都〉を後にする事にした。
街の郊外へとやって来るとセフィードは、自らの相棒にして騎乗用の竜─アルバートを呼ぶ笛を吹いた。
笛の音が周囲に鳴り響いてしばらくした後、アンジェラの相棒─クリスティンと同じ全身が純白色の鱗に覆われ、深い海色の瞳の1頭の竜が現れた。
竜─アルバートは、セフィード達の頭上数十mの高さの上空を数回旋回した後、セフィードの近くへと舞い降りた。
「さあ〈冒険者〉、この竜の背に乗ってごらん」
「安心して。この子達はとても良い子だから、貴方達を襲ったりしないわ」
セフィードとアンジェラに促され、おっかなビックリといった感じに各々五人ずつに分かれて竜の背に騎乗していた。 〈冒険者〉の少年少女全員が無事騎乗したのを見届けたセフィードとアンジェラは…各々の竜の背に騎乗し、手綱を持って〈翡翠珠迷宮〉に向けて竜を飛び立たせた。
◇07
〈西天使の都〉を飛び立って、しばしの飛行の後、〈翡翠珠迷宮〉が少しずつ見えてきた。
しかし、アンジェラとセフィードの表情は緊迫したものだった。
「……セイ」
「ええ、〈翡翠珠迷宮〉の所々から黒い煙が上がっています」
「何かあったのかしら?」
「……わかりません。とりあえず、このまま〈翡翠珠迷宮〉へ向かいましょう」
二人は緊迫した面持ちのまま…手にした手綱をしっかりと握り締め、竜の飛行速度を上げて〈翡翠珠迷宮〉へと急いだ。
──辿り着いた〈翡翠珠迷宮〉は、無惨な廃墟と化していた。
建物の所々は壊され、焼かれ……そこには、静寂と言う名の死が支配する廃墟だった。
「……セフィリア……
ランドルフ……エステリーナ……シャムロック……」
のろのろと歩き出したアンジェラは、〈古来種〉達の名を呟きながら街の中心部─会合本部へと足をゆっくりと進める。
「ラチェット!シルフィ!オルドラン!ロゼリーヌ!誰か居ないのですか!!」
アンジェラの後を追いながら、セフィードも〈古来種〉達の名前を次々に呼ぶ。
しかし、その声に応える声は一切聞こえてこない。
「くっ!何故、誰も応えないのですか!!」
セフィードの胸に焦燥感が込み上げてくる。
──いつも、必ず居る筈の盟友達の姿が一切見えない。
──何故か破壊された〈翡翠珠迷宮〉の無惨な姿。
セフィードの脳裏に、最悪の予感がよぎる。
「アルフレッド!フロレンス!エルクレイン!カトレア!……デイヴィットリーダーーー!!」
最早、悲痛な叫びに近い声で…尚も仲間の名を呼び続けたアンジェラは、会合本部へと駆け出した。
「待ちなさい!アンジェ!一人は危険です!!」
駆け出したアンジェラを追い掛け、セフィードも会合本部へと走り出す。
戸惑いながらも…それを追い掛ける様に〈冒険者〉の少年少女達も走り出した。
◇08
辿り着いた会合本部も所々破壊され、無惨な姿になっていた。
「……う、そ……」
茫然とするアンジェラの肩に、セフィードは優しく手を置く。
「アンジェ、貴女はここで待っていて下さい。私が、中の様子を見てきます」
セフィードからの彼女を思いやっての申し出を…しかし、アンジェラは首を振って断った。
「セイ、私も〈ウェンの守り手〉の一人です。
……一緒に行きます」
アンジェラの揺るがぬ強い決意を宿した眼差しに見つめられ、渋々折れたセフィードは苦笑した。
「……わかりました。但し、無理はしないで下さい」
「ありがとう、セイ」
肩に置かれたセフィードの手に、自らの手を重ね…アンジェラは微笑んだ。
──ゆっくりと慎重に進む会合本部内も…所々が崩れ、破壊され尽くしていた。
そんな破壊の跡の中を〈冒険者〉の少年少女達を後ろに従え、慎重に進みながら……二人は、自らの覚えている記憶と違わなければ…今回の大作戦─〈終末の大要塞〉突入作戦の為に待機場となっていた会議場へと辿り着いた。
「え?これは…何、ですか…?」
床に倒れ伏す〈古来種〉達……その誰もが、恐怖に凍り付いた歪んだ表情のまま…呼吸もなく、心肺機能も停止している。
傍の一人に触れてみると、身体は生きている証の温かさがある。しかし、誰一人として動かないのだ。
「う、そ……嘘、よ……
い、や……嫌、よ……
……嫌ぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」
〈古来種〉の変わり果てた姿に、アンジェラの中の何かが崩れ……絶望の余り、悲痛な叫びを上げた。
「アンジェ!?」
「お姉さん…?」
アンジェラが上げた唐突な絶叫に…セフィードは一瞬驚いた後に焦りをみせ、〈冒険者〉の少年少女達は戸惑い、困惑する。
「嫌!嫌!!嫌!!!嫌ぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
「アンジェ!落ち着いて下さい!!」
錯乱状態であるアンジェラを落ち着かせようとするが……彼女は半狂乱のまま叫び続けるだけだった。
「……致し方ありません」
セフィードは錯乱状態のアンジェラを抱き締め、その首の後ろに手刀を当てて意識を奪う。
アンジェラはそのまま意識を失い、セフィードの腕の中でその身を委ねる形となった。
「ねえ、お姉さんは大丈夫なの?」
「どうかしたの?」
「何があったの?」
「倒れている人達は、何で起きないの?」
心配そうに声を掛けてきてくれる幼い〈冒険者〉達の…その気遣いが、今のセフィードには有り難かった。
「アンジェは、少し体調がすぐれないだけです。
……それよりも、どうもここは危険な様です。すぐに離れましょう」
セフィードの言葉に、〈冒険者〉の少年少女達は硬い表情で頷いた。
アンジェラを背中に背負い、〈冒険者〉の少年少女達を促して会議場を後にしようとしてしたセフィードだったが……少し振り返り、倒れ伏したまま動かない〈古来種〉達に心の中で言葉を掛けていた。
(……すみません、盟友よ。
今の私には、貴方達を助ける術がありません。
しかし、その術を見つけたなら…必ず助けます!
……だから、それまで待っていて下さい!!)
後ろ髪引かれる思いを抱きながらも…セフィードは、〈冒険者〉の少年少女達を連れて……今度は振り返る事なく会議場を後にした。
◇09
〈翡翠珠迷宮〉を出て、〈古来種〉の街から少し離れた場所まで来たセフィードは…今後どうするべきかを考えていた。
傍に控える騎乗用の竜は不安げな瞳で主を見つめている。
意識の無いアンジェラは、近くの大木に背中を預けさせている。
そのアンジェラと考え込むセフィードを…〈冒険者〉の少年少女達が不安と心配と戸惑いをない交ぜにした様な表情で見つめている。
アンジェラの騎乗用の竜は心配そうな瞳で主を見つめ、時折心配そうな鳴き声を出している。
──〈翡翠珠迷宮〉のあの状況を見る限り、もしかすると盟友でありリーダーのデイヴィットが語っていた〈典災〉の襲撃を受けたのかもしれない。
そんな事が一瞬思考に浮かびかけたが、すぐさまそれを否定する。
(……そんな筈がありません!〈終末の大要塞〉の封印が解かれない限り、〈典災〉は解放されない筈。
それに、盟友達はそれを阻止し、打破する為に着々と準備を進めていたのですから……
ああ、そういえば、〈終末の大要塞〉へ突入する為の〈虚空転移装置〉が無事であるかを確認しておくべきでしたね……
今度、ここを訪れる機会があれば確認しておきましょう……)
そんな事を考えているセフィードも、実は〈古来種〉達の変わり果てた姿に今でも心中は激しく動揺し、まともに思考出来る状態ではなかった。
セフィードの…その心中の激しい動揺を感じ取っている主人格は深い溜め息を洩らし、他の人格達はどう言葉を掛けていいのか…戸惑っていた。
そんな中、一人格がセフィードに声を掛ける。
『……アンジェラ殿を何処か落ち着ける場所で休ませるべきだと思う。
それに、保護した〈冒険者〉達も何処か落ち着ける場所に移動させた方がいい気がするが』
クリアから…今何をすべきかを指摘され、セフィードは自分も〈古来種〉達の変わり果てた姿に激しく動揺していた事に気付かされた。
「そう…そうですね……。
ここは、〈翡翠珠迷宮〉に近いですし……〈典災〉が何処に潜んでいるのかがわからない危険な場所でした……。
場所を……移さないと……」
指摘され、気が付いたものの…動揺が簡単に抑えられる訳がなく、セフィードの行動は呟くだけにとどまる。
──今、肉体の主導権はセフィードにあり…彼が肉体の主導権を手放さない限り、主人格も他の人格達も心の中から声を掛ける事と五感の感覚操作位しか干渉が出来ないのだ。
どうしたものか……と人格が考えていた時、セフィード達の居る辺り一帯が突然暗くなる。
その光景をセフィードの瞳を通して見ていた人格は、一瞬『敵襲か!』と警戒した。
しかし、それは杞憂に終わる事となる。
『王、王よ!帰りが遅いので私が迎えに上がりました』
『……あやつめ、良きタイミングに現れおったのぅ』
『ああ!レグドラさん!!』
『グッドタイミ〜ング!!』
『……レグドラ殿、助かった』
──セフィード達の元に現れたのは…〈竜の渓谷〉の最奥、〈竜達の楽園〉で〈古代竜〉の側近を務める〈古代竜〉のレグドラだった。
──現れたレグドラに─未だに心中の動揺は抑えきれないままだが─セフィードは、簡単ながらも事情を説明していた。
『成程。おおよその事情はわかりました。
ならば、こちらの婦人と幼き〈冒険者〉達は一旦、〈竜の都〉で保護しては如何でしょうか?
あそこには、我々の仲間も住んでいますし…竜との混血児である〈大地人〉達は、そこらの〈大地人〉達よりはタフですしね』
側近から示された提案に…それ以上良い案が浮かばなかったセフィードは、レグドラの提案を受け入れる事にした。
「……そうですね。では、〈竜の都〉へ向かいましょう」
『では、皆さん私の背に乗って下さい。〈竜の都〉まで送りますよ。
あ、君達の主は私が責任持って安全な場所へ連れて行くから……元の住処へお帰り』
レグドラに声を掛けられた騎乗用の竜達は、『後は任せた!』と言わんばかりに鳴き声を上げると…羽を力強く羽ばたかせ、その場を飛び去っていった。
2頭の騎乗用の竜が飛び去ったのを見届けた後、〈古代竜〉もまた…白銀色の羽を力強く羽ばたかせて〈翡翠珠迷宮〉が見える丘を後にし、〈竜の都〉に向けて飛び立った。
◇11
──全てが一変した〈大災害〉から約半年近い時が経った。
〈竜の都〉の一角…都市全体を一望でき、尚且つ、時折風に乗って花の良い香りが香ってくる一軒の家のテラスに…純白のネグリジェに軽くショールを羽織った姿の女性がボーッとした表情で椅子に腰掛けていた。
部屋の入り口からパタパタと弾む様な複数の足音が聞こえ、しばらくして入り口から元気の良い声で三人の少女〈冒険者〉が女性に声を掛けた。
「アンジェお姉ちゃん!風鈴草の綺麗な花冠を持ってきたよ!」
「あのね!あのね!私、クッキー作ったんだよ!」
「あたしは、頑張ってアンジェお姉さんに似合う首飾りを作ったんだよ!」
三人の少女から掛けられた言葉に、女性─アンジェラは僅かに微笑むが…すぐに笑顔は消え、再びボーッとした表情へと変わる。
そんなアンジェラの様子に、三人の少女は表情を曇らせてしまうが……その三人の頭をポンポンと優しく叩きながら、一人の男性がアンジェラの元へと近付いて行く。
「アンジェ。そんなところで、そんな格好をしていたら…体調を崩してしまいますよ」
そう言うと男性は、身に着けている深い空色のマントをアンジェラに掛ける。
男性に気が付いたアンジェラは目を潤ませ、男性に抱き付いた。
「セイ……私!私!!
あの時、〈翡翠珠迷宮〉を離れなければよかった!!そうしたら、そうしたら……!!」
「……アンジェ、私も一緒です。
あの時、貴女の相棒に気が付かず……そのまま真っ直ぐに〈翡翠珠迷宮〉を目指していれば、盟友の誰か一人位は助けられたかもしれません」
自らの胸の中に、愛しい恋人アンジェラを抱きしめながら…男性─セフィードはそう囁く。
──〈翡翠珠迷宮〉での一件は、二人の心に大きな傷痕を残した。
〈古来種〉を失ったショックから…アンジェラはすっかり元気を無くし、かつての〈聖竜姫騎士〉と呼ばれていた時の面影は何処にも無く、時に街を離れた自分を責め、時に〈古来種〉の事を思って泣き、時に無力な自分を嘆いて過ごす日々を送っていた。
セフィードは、元通りの精神状態に戻った様に見えても…騎乗用の竜の背に乗って〈翡翠珠迷宮〉の近くを通りがかる度に、毎回…激しく胸を締め付けられ、激しい自責と後悔と悔恨の念に囚われる位に心の傷痕はとても深いのだ。
無論、セフィードとてアンジェラの様に無力な自分を責めない日は無い。
しかし、自分まで嘆きと悲しみの海に沈む訳にはいかない。
──確かに自分は、本物の〈古来種〉では無いが…心は─魂は、本物の〈古来種〉と何ら変わらぬ想いを抱く…正真正銘の〈古来種〉の心─魂そのものだと自負している。
その強く揺るがぬ想いで自らを奮い立たせる事で、セフィードは前へと歩き出す事が出来た。
「セフィード殿、こちらに居られたのですね」
アンジェラを優しく抱きしめていたセフィードに…いつの間にか部屋の入り口へとやって来ていた一人の〈冒険者〉が声を掛けてきた。
「……セドリック。すみません、定例会議ですね。今行きます。
……アンジェ。ほら、部屋の中で休んで」
声を掛けてきた〈冒険者〉─セドリックに…セフィードは一声掛け、アンジェラを室内へと連れていく。
室内の椅子に腰掛けさせると…アンジェラの周りに、三人の〈冒険者〉の少女達が笑顔で駆け寄った。
その様子を見届け、三人の少女に愛しい恋人の事を任せると、セフィードはセドリックと共にその場を後にした。
◇12
──〈大災害〉の後、この〈ウェンの大地〉は大きく一変した。
それは…良い方ではなく、悪い方である。
セドリックを含む〈ビッグアップル〉から流れてきた〈冒険者〉達のもたらされた情報を聞いた時、〈竜の都〉に住む〈大地人〉の総てが戦慄を覚えた。
──『6.01食料暴動』によって秩序が喪失し、〈冒険者〉による公開リンチが行われた事
──一部の暴力的ギルドと多数を占める利己的な〈冒険者〉によって荒廃し、殺伐とした街へと変貌してしまった事
──良心的な〈冒険者〉は少数の為、秩序回復には至っていない事
──そして…そんな風に変わってしまった街の雰囲気を嫌って、自分達は〈竜の都〉へと逃れてきた事
セドリックの話を聞いた〈竜の都〉の〈大地人〉達はすぐに動いた。
まず、〈竜の都〉と交易のある行商人達を使って…セドリック達の様な良心的な〈冒険者〉をこの都市に出来る限り集める様にした。
次に、〈竜の渓谷〉に棲む竜達に協力を仰ぎ、上空から常時〈ビッグアップル〉と〈サウスエンジェル〉の〈冒険者〉の動きの監視や〈ウェンの大地〉全体の変化等々の観察を行ってもらい、逐一報告してもらう様に手筈を整える。
後は、戦える〈冒険者〉達と腕に覚えのある〈大地人(※人型を取った竜達や大地人と竜の混血児の事)〉達で自警団を結成する事だった。
それらの手筈を…あっという間に整え、数日中には行動に移せる様にしてしまったのだから……〈竜の都〉の〈大地人〉は、意外と強かである。
そして…その際、この地に腰を落ち着けた〈ウェンの守り手〉唯一の生き残り─〈古来種〉であるセフィードとアンジェラにも、『〈竜の都〉に住む総ての人を守る為に協力してもらえないだろうか』と申し出が来た。
セフィードは当初、『アンジェラが…とてもじゃないが、昔の様に戦える様な精神状態では無い』と言って申し出を断った。
しかし、甲斐甲斐しくアンジェラの面倒を見に来てくれる〈大地人〉や混血児の〈大地人〉の女性から伝え聞く〈ウェンの大地〉の変貌を聞いて…セフィードは、その重い腰を上げた。
そして、今現在では自警団〈竜戦士団〉の活動を補佐したり、〈竜の渓谷〉の竜達と協力して〈ウェンの大地〉全体の観察と〈竜の都〉周囲の警邏・監視を行う様になった。
──〈竜の都〉の一角、自警団〈竜戦士団〉の活動本部として都市の〈大地人〉達が無償で提供してくれた建物の…その会議室には、〈竜戦士団〉に所属する〈冒険者〉と〈大地人〉、〈古来種〉セフィードが集まっていた。
「……状況は?」
硬い表情で、セフィードがそう尋ねる。
「〈ビッグアップル〉は相変わらずの様です。
ギルド〈ペニーハンター〉を含む複数の略奪ギルドが周囲の〈大地人〉の村や街へと略奪を行いに街を出る姿がたまに目撃されています」
「利己的な〈冒険者〉による…低レベルの〈冒険者〉や〈大地人〉を奴隷として売りさばく奴隷商なんてのもありますわ。
……本当、同じ〈冒険者〉だとは思いたくありませんわ!!」
「シルビア、気持ちは分からんでもないが……今は会議中だ。私語は極力慎んでくれ」
同じ〈冒険者〉の非道な行いに…元〈虹の十字騎士〉所属の女〈冒険者〉─シルビアが吐き捨てる様に呟く。
それを…議長であり、この〈竜戦士団〉のリーダーを務める元〈聖なる剣の騎士団〉のギルドマスターだった男性〈冒険者〉─ゼノンが苦笑混じりにたしなめる。
とはいえ、ゼノンの口調はシルビアを強く責める様なものでは無い。
──当然だ。
この場にいる〈冒険者〉誰もが、〈ビッグアップル〉の〈冒険者〉達の行っている非道の数々を許せる筈がない。
シルビアの吐き捨てる様に呟いた言葉は、この場にいる〈冒険者〉全員の心の声を如実に表した言葉なのだ。
「最近、〈サウスエンジェル〉から〈竜の渓谷〉に向けて討伐大隊が送り込まれていますね」
「……返り討ちにしてやったぞ!!」
「イグニス、暴れるのは程ほどにお願いしますよ?」
次の〈サウスエンジェル〉の動向を一人の青年〈冒険者〉が報告していると、荒い鼻息を出しながらオールバックの鮮やかな柘榴色の短い髪の厳つい体格をした〈大地人〉─本来の姿は〈紅竜〉─のイグニスが喋り、それを…白銀色の背中にかかる長い髪を肩の辺りで軽く束ね、白銀色の縁の眼鏡をかけた…パッと見は華奢に見えるが、実は無駄の無い様に筋肉が付いた白皙の美青年─本来の姿は〈古代竜〉─で…〈竜戦士団〉の副議長を務めるレグドラが苦笑いを浮かべながら言葉を掛ける。
イグニスやレグドラの様に〈竜の渓谷〉に生息する…人型を取れる竜達は、最近は頻繁に〈竜の都〉を訪れる様になっていた。
〈竜の渓谷〉は、そこの主たる〈古代竜〉を中心にコミュニティーを形成している為、そこらの騎士団よりも結束力は高い。
しかし最近は、その〈古代竜〉が頻繁に〈竜の渓谷〉を不在にする事が増えてきている。
〈竜の渓谷〉の主が頻繁に不在にする中で、各々が好き勝手に動いていては連携が取れず、不味いだろう…と不在の間の〈竜の渓谷〉の事後を託された側近のレグドラは考えた。
思考の末に考えたレグドラの結論は、各々の竜種別ごとに代表を出す事。
レグドラの出した案は、各々の竜種から好評価と絶大な支持をもらえ…現在ではその代表者全員が、定例会議の幹部議員の一員として参加する様になった。
「最近は、〈教団〉なる怪しい組織が台頭してきていますね」
「〈教団〉か……」
「最初は、小さなコミュニティーだったんだけどね〜」
「……今後は、〈竜の都〉と〈竜戦士団〉に新規の〈冒険者〉─特に装備が整っている様な者─は、受け入れない方がいいかもしれないな。
但し、逃げてきた元奴隷〈冒険者〉と〈大地人〉は、今後も受け入れる姿勢はやめないでくれ。
それと…可能なら〈竜戦士団〉全体で協力して、〈竜の都〉の脅威となり得る可能性のあるクエストやレイドは積極的に消化する様にしてくれ。
……今日の定例会議は、以上だ」
ゼノンのその言葉を最後に、本日の定例会議が終了する。
大半の者が会議室を後にする中…議長のゼノン、副議長のレグドラ、他幹部議員、そして…〈古来種〉のセフィードがそのまま残っていた。
フーッとゼノンが深いため息を洩らし、〈聖なる竜の騎士団〉のサブマスから提出された一束の報告書を手に取ると…ポツリと呟いた。
「日本は羨ましいな…」
「〈ウェンの大地〉と違って〈弧状列島ヤマト〉は秩序を再構成し、〈大地人〉と〈冒険者〉の関係も良好だそうですね」
「ウェンはある意味地獄も同然ですからね」
「しかも、ヤマトは〈ノウアスフィアの開墾〉が適用されているって話だしな」
「ヤマトで〈大災害〉に巻き込まれた〈聖なる竜の騎士団〉のギルマスが羨ましい限りだな」
ゼノンの呟きの後に次々と〈冒険者〉の幹部議員が口々に呟く。
「……もし、このまま〈ウェンの大地〉が取り返しのつかない程の状態にまでなってしまった場合……最悪、ヤマトに移住する事を検討した方がいいかもしれません……」
そう苦しげに呟いたのは…この都市の代表であり、唯一の貴族─クロード=オルステン伯爵だった。
「……そうならない様に努力する為、私と〈冒険者〉が今一生懸命に尽力しているのですよ」
クロード伯爵の言葉に、力強い言葉で〈古来種〉のセフィードがそう告げる。
セフィードの言葉に同意する様に、〈冒険者〉議員一同が力強く頷く。
「我々も、隣人である〈大地人〉を守る為に協力は惜しみません」
クロード伯爵を真っ直ぐ見つめ、中指で眼鏡を上げながら…レグドラがそう力強く告げる。
レグドラの言葉に同意して、〈竜の渓谷〉の代表者達も力強く頷く。
「……ありがとうございます。皆様……」
クロード伯爵は、嬉しさのあまりに溢れてきた涙を拭いながら…心からの感謝の気持ちを述べていた。
◇13
──彼らは知らない。
〈ウェンの守り手〉を含めた〈全界十三騎士団〉のその殆どを壊滅させた〈典災〉が、〈セルデシア〉全土で暗躍している事を…
そして…最近勢力を拡大し出した〈教団〉の背後にもまた、〈典災〉の影がある事を…
そんな事を一切気付かぬまま、彼らは〈竜の都〉とそこに住む〈大地人〉と〈冒険者〉……この地を最後の希望としてやって来る〈冒険者〉や〈大地人〉を守る為に、今日も彼らは戦い続けるのだった……
最後まで読んで下さって、ありがとうございます。
m(_ _)m
この作品は、ずっと少しずつ書き溜めていきながら…いつか投稿したいと思っていた作品です。
読んで下さった皆様のお目汚しにならなかった事を祈るばかりです。
尚、当作品内の設定を使用したい方は……どうぞご自由に。
最後にもう一度。
本当に、最後まで読んで下さって誠にありがとうございました!!
m(_ _)m