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デス・ギア  作者: ケン
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第五ギア

 そこにはやはり大量の魂が夜空を浮遊しており、白く淡く輝きながら人魂があっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。

 チラッとリリスさんの方を見ると彼女の目も左右に動いていたのでどうやら彼女にも見えているらしい。


「大漁ね。やっぱり解放された魂が多いわね」

「あ、あのこれやっぱり魂なんですか?」

「ええ。今から数百年前、冥府が管理していた膨大な数の魂が何者かによって人間界へと解放されたの。死神大王はすぐさまその解放された魂を送還する任務を全死神に与えたけどあまりの数の多さに送還が捗らず、解放から百年後に死神を育成する学園の生徒まで実地研修として狩りだしているの。それでもまだ全体の数パーセントしか送還できていないわ」


 百年以上たっても数パーセントしか送り返せていないっていったいどれだけの数の魂がこの人間界に解放されたんだよ。

 通りで空を埋め尽くす勢いで人魂が浮かんでいるわけだ。

 そんなことを思っているとリリスさんが背中に背負っていた大きな鎌を持つと人魂たちがまるで逃げるように散らばっていく。


「行くわよ。えいやぁ!」


 そんなかけ声と同時に鎌を大きく横薙ぎに振るうと黒い衝撃波のようなものが斬撃として放たれ、魂を貫通すると黒い箱が一瞬にして幾つも生成され、魂がそれに封入され、夜の空へと消えていった。

 次々、鎌を大きく振るって逃げ惑っている魂たちを黒い箱に入れ、送っていく。


「死神の仕事は魂を冥界へ送り返すこと。魂には二種類あって一つは善魂、もう一つは悪魂。前者は生前善行を積んだ人間の魂でもう一つは悪行を積んだ人間の魂。悪魂は早く送還しないと化け物になって人間界で暴れるからね」


 俺にそんな説明をしながらもリリスさんは鎌を振るう手を止めない。

 まだ五分も経ってないだろうに空を埋め尽くす勢いで浮遊していた魂がもうあと二、三体にまで減ってる……それだけの数送り返していてもまだ数パーセントなのか。


「今日はこんなところかな。君にもこれから働いてもらうから」

「……えっと要するに俺も死神として生きるってことですか?」

「そうよ。だってあなたは転生死神であたしの下僕だし」

「……げ、下僕?」

「純血の死神はその血を飲ませることで死神へ転生させることが出来るの。そして転生した死神も魂を送還する力がある。でもその送還を行うには鎌が必要なんだけど死の器を宿した人間の場合は死の器で生み出した物でもできることが確認されているの」


 要するに俺が死神としての職務を全うするにはその死の器とかいう俺に宿っている力の塊を覚醒させなきゃ始まらないってわけか。

 そんな力の塊が臨死体験中に俺に宿っていたなんて……これが運命ってやつなのかな。

 その時、ふと空を見上げた時に黒く濁ったような色をしている魂が見えた。

 どうやら彼女も発見したらしく跳躍して逃げようとしていたその魂を鷲掴みして降りてくるとそれを俺に見せてくる。


「これが悪魂。さっき説明したように生前、悪行を行った人間の魂。こいつはまだ魂の状態だったけど悪魂は人間の負の欲望を吸収して育つ。一定量吸収した悪魂は魔力で体を生成し、直接人間を襲うようになるわ。性質の悪いことにそいつらの姿は一切普通の人間に見えることは無いわ」

 言い終わるとリリスさんは鎌で悪魂を切り裂き、箱に収納し、冥府へと送還した。

「死の器が覚醒するまでの間、貴方には新人死神の仕事をしてもらうわ」

「え、そんなのあるんですか?」

「当たり前よ。冥府だって金を稼がないとやっていけないんだから」


 そう言うと彼女はポケットから四角形のデバイスを取り出し、その画面に触れると画面から黒い煙のようなものがモクモクと出てくる。

 かと思いきや一瞬にして黒い煙が消滅し、目の前に玩具の拳銃だけが残る。


「な、なんすかこれ」

「新人死神の仕事は悪魂を発見次第、この玩具の拳銃でマーカーを着けること。このマーカーは死神が所有しているデバイスに表示されるからあたしが送還していくってわけ。というわけで早速行く」

「えぇ~? 今からですか?」

「魂は夜行性で活発に動くの。だから朝の四時まで頼むわよ」

「よ、四時!? 流石にそれは…………わ、分かりましたよ」


 ニコニコと笑みを浮かべている彼女の頼みを断ることなどできず、自転車に乗り、適当にそこら辺を走り始めた。

 はぁ。あんな可愛い笑顔を浮かべて言われたら断れねえじゃねえかよ……それにしても朝の四時までやらなきゃいけないのか。

 死神の世界もブラックなんだな。


「とは言ってもどこにも悪魂見当たらないぞ……って早速見つけたし」


 俺に気付いていないのか塀の上でフワフワと滞空し続けている黒い輝きの魂に向かって銃口を向け、引き金を引くと無音で銃口からマーカーが放たれ、魂にピタッとくっつき一瞬だけ赤く光った。


「サイレンサー付きとか凶悪だな……これで良いなら案外死神の仕事もブラックじゃないのかも。よし、彼女のためにやるか」


 この町で生まれ、この町から出た記憶が数回ほどしかない俺にとっては夜だろうが昼だろうが完璧に道が頭に叩き込まれているので迷う心配などほとんどない。

 それにこの町は結構、狭い路地なんかもあるから昔はよくそこで路地探検隊なんかやって近所の人に怒られてたな。

「お、悪魂発見。こっちも。なんだ結構楽じゃん。この調子で行くぞー!」

 俺は夜の街を颯爽と自転車で駆け抜けていくのだった。








 二時間ほどしか寝ていない今日、朝起きてもあまり疲れは無く、むしろまだ走り回れるくらいの体力はあった。

「悪魂マーカー付けが全部で三十二。新人成績にしては上々ね」

「……どこまでついてくるんですか?」

 現在俺がいるのは普段、通学路を通っている道なんだがリリスさんは空中を浮遊しながら俺の後ろをついてくる。

 もちろん人魂同様に彼女の姿は俺にしか見えておらず、触れることが出来るのも俺だけで電柱や看板などは全てすり抜けている。

 死神は死を司る神だからやっぱりリリスさんも一回は死んでその後、死神に……あ、でも純粋な死神って言っていたから死神の両親の間に生まれたんだよな。

 という事は死神も人間と同じような存在ってことか。

「あの~なんで俺以外には見えていないんですか?」

「面倒くさいから魔力で隠してるの。というか早く死の器を覚醒させなさいよ」

「俺に言われましても困ります」

 結局、俺は殺された時の記憶は思い出したけど死の器は覚醒せず、今もその前兆みたいな現象は起きていない。

 本当に俺みたいな奴に死の器とか言う力の塊が宿っているのかね。

「死の器は一度死ねば覚醒する物なんだけど貴方の場合は少し時間がかかるみたいね。もしかしたら何かの生物の魂が封印されていたりしてね」

「でも俺臨死体験中に生物なんか見てませんよ?」

「そう、そこなの。つまりあなたの死の器はそこら辺のと同じように武器生成の死の器だと思うんだけどそう言った物はすぐに覚醒するのよ。一度死ねばね」

 俺は一度死んだ。

 これは間違いない事実なんだけど死の器はその死を受け入れていないっていう事なのかな?

「まあ、あの天使の攻撃で死の器に傷が入ったのかもね」

 それが一番もっともらしい答えなんだろう。

 俺を殺した天使の攻撃が俺に宿っている死の器にダメージを与えてしまい、そのダメージの回復に時間を要しているせいで覚醒が遅い。

 そう考えれば納得も良く。

「そう言えば灰色の天使って何なんですか? 結局」

「あ、言ってなかったわね。灰色の天使は主たる神に背く背信行為を行った天使の証。背信行為を行ったものは皆、一様に髪色が灰色になり、純白の聖なる翼を灰色の翼へと変色してしまい、天界への帰還能力も失われ、主たる神から与えられていた力さえも失ってしまったっていう天使がなってはいけないなれの姿と言われているわ。まだ彼女は背信行為を行って追放されてから期間が浅いから主たる神の力の残留魔力で攻撃が出来ているんでしょうね」

「つまりあいつは天界の命令でも何でもなく」

「ええ。彼女はただ単に死の器の力を欲しがっただけであって天界の命令なんか受けていないわ。そもそも現在、天界は死の器の破壊活動は停止しているし」

 死神と天使の関係は微妙なものだっていう事は分かったけど何で灰色の天使は俺の死の器なんかを狙ったんだろうか。

 さっきリリスさんが言ったみたいに力だけを求めていたってのも分かるんだけどどうも俺はその理由だけでは納得がいかない。

「ま、死神になったとはいえ貴方はまだ狙われる立場だから十分、気を付けて行動するようにね」

「あ、はい。分かってます」

「それと教会とか神様関連のことには参加したらダメよ?」

「なんでですか?」

「死神は死を司る存在、逆に天使は生を司る存在だからよ。ほら、人間でいうところの天国っていう場所は天界に存在するの。天使の役目は魂が輪廻転生する様を見届け、その枠から外れようとする魂を元の場所へと返すこと」

「要するに死神が輪廻転生まで魂を管理して輪廻転生後は天使が魂を見届けるっていう事ですか?」

「それ正解」

 どこの消えちゃった都市だよ。

 でもまあ、大体死神という存在の目的、そして天使という存在の目的は分かった。

「じゃあ、なんで教会とかはダメなんですか?」

「だって死と生は真逆な物でしょ? 天使は生を愛し、死を憎む。死神は死を愛し、生を憎む存在なのよ」

「じゃあ死神は全員自殺志願者ですか?」

「おバカ」

「イッタ!? デバイスで叩くなよ!」

 その時、コソコソと周囲から「何あれ?」、「みない方がいいよ。頭おかしいんだって」という俺の尊厳がゴリゴリ削られているような会話が聞こえた。

 そう言えばここ生徒が大勢集まる道のど真ん中でした。

「死神が愛する死は自然死なのよ。眠るように死ぬ、これが最も洗練された完成形の死。逆に最も憎まれるのは天使に殺されること。要するに死神は死をゴールとは思わず、自分が完成するときに通過するただの通過点としか思っていないのよ」

 どこのグリードだよ。死をもって完成に至るとかまんま博士の考え方じゃん。

 となると天使はその反対、つまり生きている間が素晴らしいことであり、逆に死んでいる期間は地獄の所業だっていう考え方か。

「おっす優斗!」

「出たな、アダルト・キラーめ。今日はどこに連れ込まれかけたんだ? ホテルか? 美女の自宅か?」

「残念だが今日は何もなかったぜ……残念だけどな」

「残念がんな!」

「イッタ!? 蹴るなよ」

「けっ」

 まったく、こいつは毎日のように美女に遭遇しているせいでそういうイベントはもう飽きるほど体験しているからこんなことが言えるんだ。

 俺だってな! 俺だって貧乳で茶髪でツインテールの美少女に声をかけられて家に連れ込まれたい……ってそう言えばもう好みドストライクの女性が後ろに浮かんでいました。

「ところで幸太郎は?」

「あいつか? あいつならまた幼女に声かけられて遊んでたら誘拐と勘違いされて今交番行ってるわ」

「ガハハハッハ! ザマァザマァ! ザマァみやがれ! 養女に手を出すからそんなことになるんだ! 一生、牢屋の中に入ってろバァァァァァカ!」

「男の嫉妬は醜い物ね」

「うるせえ! イケメンがまた一人消えたんだ!」

「……お前、そんなに女の子と会いたいのか? どこ向かってしゃべってんだよ」

 そんな声で我に返り、次郎の方を見るとマジで心配そうな表情を浮かべ、必死にスマホを弄っている。

「待ってろよ。お前に会いたいっていう奴探すからな」

「い、いや良いって」

「ごめん。全員無理だって」

「デストロォォォォォォォイ! イケメンは全員デストロォォォォォォォイ!」

 なんでだよ! なんでそんな早くに全員からフラれるんだ! 確か次郎の連絡帳には何百人という美人な女性の連絡先が入っているというのに何で何百人の美人な女性から同時にフラれなきゃいけないんだ!

「神よ! どうして私目にこのような仕打ちをっっ!」

「どうかしたのか? 頭なんか抑えて」

「あ、いやなんでもない。学校行こうぜ」

 今一瞬、軽い頭痛がしたような気がした。

 でもその痛みは本当に一瞬だけでまるで落ちた針が皮膚に一瞬だけ刺さったみたいな痛みだった。

「言い忘れていたけど死神が神様にお願いとかしたら生の魔力が流れ込んでくるから頭痛がするわよ。だからお正月とかは参拝はしないことね。あんな生の魔力で溢れかえっているところで参拝なんかしたらあんた頭の線が切れるどころか吹き飛んで死ぬわよ」

 マジかよ。毎年、母さんと一緒に電車で三十分のところにある大きな神社に行ってお参りするのが慣習になってんのに。

 でもそうだよな。死を司る死神が生を司っている天使の主の神様管轄の施設に入ろうものなら殺されかねないだろうし。

「じゃ、あたしは昨日あなたがマーカーを付けた悪魂を送還しに行くわ」

 そう言ってリリスさんは俺の近くから飛び去り、上空へと消えていった。

「一時間目なんだっけ」

「一時間目……あのクソ婆だ。お前に超甘いクソ婆だよ」

「あ~。あの人優しいだろ」

「お前にだけな」

 美男美女以外はヒステリック起こすくらいに暴れ回るくらいのキチガイ婆にしか見えないけどな。

 小学校の先生じゃあるまいし。

「ハァ。出会いが欲しい」

 そう呟いた瞬間、俺の目の前を善魂がスーッと通っていく。

 魂にも性別あるのかな……いやいやいや! 流石に魂にまで興奮を覚えたら……いや、待てよ。生前、女性だったら魂も女性か……ごくり。

 直後、何か嫌な感覚を察知したのか善魂は凄い速度で俺の目の前から去っていった。

「お前まで逃げるか」

「なんか言った?」

「別に! なんでもねえよ!」

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