第四ギア
「疲れた……クソ、あの女教師。次郎の時だけニコニコしやがって俺らに当てた時はめちゃくちゃ不機嫌になりやがる」
全ての授業が終了し、いつもの友人二人との放課後駄弁りの会も終了し、薄暗くなっている帰り道を早足で家に向かって歩いていた。
いつものようにアダルト・キラーこと次郎は女教師から優遇され、問題を間違えても何も言われないが俺達が間違えればブチギレる。
マジであいつ頭おかしいんじゃねえの?
「……まだ見えるか」
俺の周囲には大量の人魂がフワフワと浮遊しており、さっきから俺に何か訴えるかのように肩や顔などに体当たりをかましてくる。
授業中も気づいたら視界にいっぱい入っているから思わず叫びかけたわ。もしもあの時授業中に叫んでたらキチガイ女教師に廊下に立たされて見世物にされるところだった。
本当に俺以外見えていないかつ触れないらしく、人魂が他の奴らの体をすり抜けても俺の体はすり抜けず、ボールが当たったような衝撃が走る。
「俺どうしたんだ?」
臨死体験を経験した上にさらに人魂まで見えるようになってしまった以上、やはりどこか俺には後遺症らしきものが残っているんだろうか。
でも今まで普通に暮らしてきた以上、今日一日だけで後遺症が発症するなんてことはあまり考えられないしな。
「はぁ……ただいま~」
「お帰り。またあの二人と喋ってたの?」
「まあな。今日の晩飯何?」
「今日は焼きそば」
「おっけ~。じゃ、先風呂入ってくる」
制服などを脱ぐために二階へと上がる。
今日はもうさっさと寝よう。
人魂とかいうあり得ないものを見続けたからなんか今日は頭が重い。
「はぁ。疲れ……」
「ん~美味しい! やっぱり人間界のお菓子は美味いわね」
バタン! という部屋の扉を閉める音がやけに廊下に響きわたり、俺の頭の中を揺らす。
あっれ~? おかしいな~? 今俺の部屋の中に茶髪のツインテール、黒一色の服を着て大きな鎌らしきものを背負ってポテ丸チッポスを食べているストライクドンピシャの女の子がいた気がするぞ?
やっぱり俺、今日あり得ないものを見続けたから幻覚見るくらいにまで頭が疲れちゃってんのかな。
「疲れてんのかな……とりあえず風呂入って飯食おう」
―――――☆――――――
「ふぅ~。食べた~」
「今日は珍しくご飯お変わりしたわね」
「なんか腹減ってさ」
晩飯をいつもの二倍以上は喰い、腹が膨れ、動けないので少し休憩するためにテレビのリモコンを取り、ソファに座る。
「こうやってテレビ見ながら満腹を少しずつ落としていくのが疲れた体を癒すいい休憩時間なん……」
「どうしたの? 途中で止まって」
母さんも俺と同じテレビを見ているから俺と同じ方向を向いているはずなのに全く気付いている様子はなく、テレビに夢中だ。
気のせいかな……俺の隣にさっき部屋にいた茶髪でツインテールの女の子が座って一緒にテレビを見ているんだけど……ひ、貧乳だ。本物の貧乳だ! 素晴らしいこのぺったんこ! なんという直線を描いているんだ……これはまさに天然の断崖絶壁! シルベスタ・ゼッペキローンじゃないか! うほぉぉぉ! 写真に収めたいけど映るのかな?
「へぇ、人間界のテレビ番組は面白いっていうけど確かに面白いわね。流石は人間界。冥界のテレビ局がこぞって人間界のドラマやらバラエティーやらを持ってくるわけだ」
「さてと、洗い物しなくちゃ。あんたも早く寝るのよ~。ただでさえあんたは夜型なんだからせめて朝方に戻して規則正しい生活しなさいよ」
「あ、う、うん」
隣にいる女の子は小さく笑みを浮かべながら人差し指を口の近くで立て、静かにするようにとジェスチャーで訴えてくる。
か、可愛い……可愛いぃぃぃぃぃぃぃ! あぁぁん! もうナデナデしたい! 愛でたい! 良い子良い子したい!
「あ、あの出来ればこの状況をお教え願いたいのですが」
「しっ! 今良い所なの」
よりによってこの人が見てるのは怪獣王という通称がつくくらいに人気特撮怪獣の最後の映画だからあと一時間半以上はあるんですけど……ふえぇぇ。生殺しだよぉ。
それにしても彼女はいったい何なんだ。母さんにも見えてないし、ここに座っていることを認知できるのは俺一人だけ。
もしかして幽霊の類なのか? 仮に幽霊の類であるのならば霊感も無い俺なんかが見えるはずもないし、第一喋れたしな、さっき。
「あんたはいったい誰なんだ」
「あたしは死神。さて、良い所も終わったし貴方の部屋に行きましょうか」
彼女が俺の部屋へ繋がる階段を上っていくが足音などは一切聞こえるどころか床に足を触れずに宙を浮いて階段を上がっている。
存在の概念は幽霊の類なんだろう。
でも背中に鎌を背負ってるから幽霊と決めつけるのも無理があるんだよな。
彼女は俺の部屋に入ると一目散にベッドの近くに行き、そのままダイブしてふかふかの布団を堪能する。
それ本当は俺がすることだったんだけどな。
「ふぅ、面白かった」
「で、貴方は誰なんですか?」
「あたし? あたしはリリス・モート。死神よ」
……死神とかはとにかく可愛い……写真撮らせてくれってお願いしたら聞いてくれるかな? というかベッドに腰掛けて足組んでるから綺麗な太ももがよく見える。
ぐふっ! な、なんという綺麗な足だ。
死神という事は幽霊の類とは全く違うという事だし、あの人魂が見えるようになったから死神が存在しているという事も一応、疑問は無い。
ただ疑問が残るのは何で死神の彼女が俺の部屋にいるのかだ。
「で、その死神さんがなんで俺の部屋に」
「そろそろ思い出すころかなって……でもその様子じゃ覚えてないみたいだし、ちょっと無理やりだけど君の記憶を思い出させることにしたの」
そう言うとベッドから立ち上がり、俺の目の前に来ると掌を俺の凸にあてる。
「っっ!?」
直後、まるで電流が走ったかのように全身に衝撃が走るとともに脳裏に経験した記憶のない映像が高速で流れ始める。
白い翼を生やした女性が灰色の翼になる様子、そしてその女性に槍を突き刺された様子が高速で俺の頭の中を通っていく。
そうだ、俺あの日、殺されたんだ……でもなんで今まで記憶がなかったんだ。
「思い出した? 貴方が死んだこと」
「一応は……思い出したくなかったですけど」
「思い出さなきゃいけないの。貴方に宿っている死の器は貴方が死んでこそ、覚醒する」
また死の器とやらか……あの灰色の天使の奴も俺に死の器が宿っているとかって言ってたよな……俺が臨死体験中に見たあの黒い箱のことか。
「その死の器ってなんなんですか」
「臨死体験を経験したことがある人間の中で極僅かながらの確率で宿ることがある力の塊。冥府の神である
死神大王がおのれの命と財産を守るために作ったもの。歴史には名前が決して残らないけど偉業などを達成した人間を補佐していた人間が宿していたと言われているわ。死の器の中には龍の魂や他の強力な生物の魂が封じられていることもあってその力は神に達することすらある。貴方が狙われたのはその死の器が宿っていたから」
「……じゃああの灰色の天使も」
「灰色……なるほど。そういうこと。通りで最近、天使が静かなわけね……ま、細かい事情はおいおい話すとして貴方は死神になったわ」
「死神って骸骨で鎌を携えてて人の寿命を頂くっていうあの?」
そう尋ねると何故かリリスさんはクスクスと本当に心底笑っているかのように笑みを浮かべる。
笑っている顔も可愛い……あぁ、写真に撮って3Dプリンターで印刷して毎日、二拍一礼して拝み倒したい気分。
「それは人間のイメージよ。ま、そこら辺も含めて仕事をしながら話しましょう。さ、行くわよ」
「え? どこに?」
「どこにって仕事よ」
そう言うとリリスさんは俺の手を優しく取り、窓を開けて外へと飛び出した。




