友達
あざかの一件の翌日。
「・・・・・・」
(何か暑い・・・・・・それに、重い)
伸二はその日、妙な暑苦しさに目を覚まし、布団をどけてみると。
「うわっ!!!」
あざかが伸二に寄り添うように眠っていた。
「・・・・・・」
寝巻きがはだけて・・・・・・小さいながらに二つの山が見えそうだった。
「・・・・・・ん・・・・・んだよ、うるさいな・・・・・・」
伸二が声を上げたせいで、あざかが目を覚まし、二人の目が合う。
「「・・・・・・」」
そして沈黙。
「ぎゃあああああああああ!な、なにしてんだよ!?」
「ちょっと待て・・・・・・朝だから、静かに」
あざかが朝っぱらから騒ぎ立てつので、伸二があざかの腕を抑えて静止させる。
「うっ、は、離せバカ!」
「だから取り敢えず落ち着いて!」
「ちょ!わっ・・・・・・」
「おっと・・・・・」
騒ぐあざかを必死に抑えようとしていると、二人の位置が逆転して伸二が上に、あざかが下になった。
伸二があざかに覆い被さる様な体勢になり、二人は唇が触れてしまいそうな距離まで顔が接近する。
「っ・・・・・・あたし、い、良いよ・・・・・・?」
あざかは何を勘違いしたのか、そんな事を言い出し。
「えーっと・・・・・・はい?」
あざかの言葉の意味が分からない伸二は首をかしげた。
妙な雰囲気に包まれるその場に。
「もう!なに?お兄ちゃん朝っぱらから・・・・・・」
「伸二うるさいぞ」
京と叶が何やら朝から騒がしい伸二の部屋に入ってきた。
再びその場は沈黙する。
「いや、これは違うよ?」
傍から見れば、伸二があざかを押し倒しているように見える。それを察した伸二は即座に言い訳をしようとするのだが・・・・・・。
「うぅ・・・・・・お兄ちゃんのえっち!」
「最悪だ・・・・・・」
京達は伸二に非難の目を浴びせる。
「ちょ、ちょっと待った!ここ僕の部屋だって!それに僕そんな事しないって!」
「あ、ほんとだ・・・・・・私の部屋じゃない、あれ?」
伸二の言葉に、あざかは周りを見渡して、ここが自分の部屋ではないと気づく。
(誤解は解けたのだろうか・・・・・?)
後に伸二が聞いた所によると、昨夜あざかはトイレに起き、寝ぼけたまま適当に入った部屋にベッドがあったから、そのままそこで寝た。
ということらしい。
その後、京達は何も言わず、あざかは自分の部屋へと逃げ帰った。
そして学校。
伸二が教室に入るなり、大輔が伸二の元へと走ってきた。
「昨日のやつ、結局なんだったんだよ!?」
「あ、ごめん!連絡するの忘れてた」
そういえば、大輔に報告するのを忘れていた。
流石に話すわけにもいかないので、いや、実は引越しの手伝いで、と伸二は適当に誤魔化した。
「ん?そうなのか?まあいいけどよ」
その日の授業中、あざかは永遠に大輔に向かって消しゴムのカスを投げまくっていた。
元に戻ったようで良かった。
いや、消しゴムのカスを投げるのは良くはないが・・・・・・。
昼休み。
伸二と京とあざかが3人机を並べてお弁当を食べようとすると、あざかが言った。
「叶ちゃんもこっちで弁当食えばいいのに」
「呼んでみる?あ、そうだ・・・・・・せっかくだし皆呼ぼうか」
せっかくなので、皆で昼食を食べることにしようと考えたのだが、教室だと大所帯になるので、食堂に行くことにした。
「それじゃあ、あざかは先に食堂行ってて」
伸二は叶と香奈女を誘いに、京は彩乃を誘いに行った。
食堂にて、伸二、弐栞姉妹、あざか、彩乃、香奈女の計6人が集まった。
「えーっとm取り敢えず・・・・・・顔を合わせる人も初めてだと思うし自己紹介でもしましょうか?」
伸二は全員と顔を合わせたことがあるが、中には今日初めて会う人も居ると考え、初めに自己紹介をすることにした。
「氏神伸二。二年です」
「弍栞京。二年だ、よろしく」
「弍栞叶。一年です・・・・・・よ、よろしくお願いします」
叶が自己紹介を終えると。
彩乃が「ハァハァ」と息を荒立てて叶に近づく。
「京。この子あなたの妹よね?」
「そうだが、何だ?」
突然、彩乃が叶を抱きしめる。
「この子いいわぁ・・・・・!どうしてこんなに可愛いのかしら・・・・・・」
「お、お兄ちゃん・・・・・・!」
彩乃に抱きしめられた叶が泣きそうな目で伸二に助けを求める。
「お兄ちゃん?・・・・・・へえ、伸二くんってそういう趣味なの?」
「違いますよ!!!!それより、叶ちゃんが怯えてるんで」
そういえば、いつの間にか叶にを呼ばれる時、「お兄ちゃん」と定着してしまっていることに伸二は気づくが、決して伸二の趣味ではない。
「あ、ごめんなさい!私としたことがつい・・・・・・」
彩乃は可愛いものが好きらしい。
「鏡彩乃。3年よ。一様ここの生徒会長やってるわ」
彩乃は「こほんっ」と一度咳払いをし、自己紹介が再開される。
「伊達香奈女、一年」
香奈女を見て、彩乃が「ハァハァ」と、また息が荒くなってきた。
「この子眼帯つけてる~!可愛い!!!」
「っ・・・・・・切ってもいいですか?」
香奈女が腰の刀に手をかける。
「きゃはは!切って!切って~!」
彩乃が荒ぶっている。その様子に一同ドン引き。
「せ、先輩!」
彩乃の奇行を伸二が静止させる。
「はっ!・・・・・・ごめんなさい。可愛い子を見るとつい興奮しちゃうのよ・・・・・・・」
我に帰った彩乃。
「花里あざか。2年な」
(ん・・・・・・?京、何か機嫌悪そうだな・・・・・)
あざかの自己紹介が終わった後、伸二が京の少し変わった様子に気づく。
「京?どうかしたの?」
「なんでもない・・・・・・」
何故か拗ねているような表情に伸二は首を傾げる。
「きゃは・・・・・・なに?すねちゃったの?かーわーいーいー!」
そんな京の様子を見ていた彩乃が京にじゃれる。
「や、やめろ・・・・・・」
京も満更でもなさそうだった。
京は、彩乃が叶や香奈女にじゃれつき、自分以外の人と仲良さそうにしているのが少しだけ不満だったようだ。
「それじゃあ、皆仲良くしようね」
伸二達は6人楽しく昼食を食べた。
翌日の土曜日、昼過ぎ。
今日は彩乃と香奈女が伸二の家に来るみたいだった。
インターホンが鳴り、伸二が玄関の扉を開ける。
「遊びに来たわよー!」
「・・・・・・」
扉の前には彩乃と香奈女が居た。
「どうぞ、上がってください」
「「おじゃまします」」と二人。
「へえ!ひろーい!」
彩乃は伸二の家の広さに、一人はしゃいでいた。
(あ、あれ・・・・・こんな人だったかな?)
伸二が初めに彩乃に抱いた印象は「大人っぽい人」だったので、何か違和感を感じた。
「それにしても珍しい組み合わせですね?」
「好きでこの人と来たわけじゃないです」
伸二の問いに香奈女は不機嫌そうに古樽。
「きゃはは、つれないな~もぅ」
と、彩乃が香奈女の頬をツンツンしている。
二人はたまたま、ここに来る途中で出くわしたらしい。それにしても、香奈女は彩乃が苦手なのだろうなと、二人の様子を見て伸二は思った。
伸二は彩乃と香奈女をリビングに案内した。
「すぐ来ると思うんで」
伸二がそう言ってからすぐ、二人の元に京達が来た。
彩乃が叶を見るなり、すぐさま駆け寄る。
「きゃぁ!普段着の叶ちゃんも可愛い!!!」
また彩乃が荒ぶった。
「せっかく今日は皆いることだし・・・・・・出かけるのは明日にしましょうか?」
しばらくして正常に戻った彩乃が、京に言った。
彩乃京は、二人で買い物に行く予定だったらしいが、皆が居ると言うことでそんな提案をした。
それに京も同意し、今日は家で遊ぶようだった。
「あれ?あざかちゃんも遊びに来てたの?」
ふと、彩乃がその場に居るあざかを見て言った。
「えっ!?・・・・・・えーっと、ま、まぁそんな所です」
あざかは一瞬「ビクッ」とし、適当に誤魔化す。
「ふーん、そう」
あざかがここに住んでいるということを知らない彩乃は意味深に呟く。
「それじゃあ、僕は部屋に居るから何かあったら言いに来てね?」
伸二は自分が居ては邪魔になるのではないかと、自分の部屋に戻ろうとした。
「え?お兄ちゃんも一緒に遊ばないの?」
しかし、叶が伸二を止める。
「僕以外女の子だし、お邪魔じゃないかな?」
「私は構わないぞ?」と京。
「伸二くんも一緒に遊ぼうよー?」と彩乃。
「伸二も一緒に遊ぼうぜ!」とあざか。
「私はでも構いません」と香奈女。
(みんな優しいな・・・・・・)
「そっか、皆がそう言ってくれるなら」
と言う事で伸二を含めて、6人で遊ぶことになった。
伸二達はボードゲームや、TVゲームをしたり、たわい無い日常の話したり、気がつけば、日が暮れていた。
「そろそろ晩御飯の時間だけど、二人共食べていきます?」
自分が作るわけでもないが、そろそろ晩御飯を食べる頃合だったので、伸二は彩乃と香奈女に聞いた。
「じゃあお言葉に甘えようかしら」
「ご迷惑でなければ」
彩乃と香奈女ちゃんは頷き、二人は伸二の家で晩御飯を食べることになったのだが・・・・・・。
彩乃が伸二の何気ない言葉の中にある疑問を抱いた。
「二人・・・・・・・ねえ?」
そのつい口走ってしまった二人共という言葉には、勿論あざかは含まれていない。それは伸二の家にあざかが遊びに来ているわけでは無い、という風にも聞こえる。
しかし、彩乃は確信に迫らず、伸二には痛い言葉を投げかけた。
「あ、あれ?そ、そっか、あざかも含めて三人か!」
伸二は必死に言い訳しようとするが、彩乃はその様子を見てニヤニヤとイタズラする子供のように笑っていた。
「いいよ、伸二。話せばわかってくれる」
必死に言い訳をしている伸二を見て、あざかが諦めてそう言った。
「・・・・・・?」
香奈女は何の事か分かっていなかったので、一人首を傾げていた。
「ちょっと事情があって、伸二の家に世話になってる」
「へえ、そうなんだ」
いかにも知っていました。という顔で彩乃は言った。
「事情とは?」
香奈女が言う。
「僕は二人なら話しても大丈夫だと思うよ?勿論あざかが言いたくないって言うなら別だけど」
「うん・・・・・・そうだな、話すよ」
あざかは伸二の家に住むことになった経緯を詳しく彩乃と香奈女に話した。
「そう、そんなことがねぇ」
「・・・・・・複雑ですね」
二人があざかの話を聞いて、神妙な顔で言う。
話が終わったその時。
「あ、あの・・・・・・私達の事もちゃんと話しておきたい」
京も叶も、まだ二人にちゃんと自分たちが伸二の家に居る訳を話していなかったので、この際二人に今までの経緯を話しておくことにした。
「香奈女ちゃんにはちゃんと話したかったから、だから、聞いてくれる?」
「はい」
叶の問いに、香奈女は頷く。
「私も、お前が、友達だから・・・・・・聞いて欲しい」
「ええ、あなたのことちゃんと教えて」
京の問いに、彩乃が優しく微笑む。
そして二人は自分たちの過去を話す。
しばらく経ち、話が終わると彩乃は何も言わず、ただ京と叶を抱きしめた。
その姿は、子供を抱きしめる母の様で母性に満ち溢れていて、彩乃の目は涙で潤んでいた。
(優しい人だ・・・・・・)
伸二はその様子を見て、自分も少し優しい気持ちになれた。
京は「ありがとう」と言って、叶は少し目に涙を浮かべていた。
彩乃と同じく真剣な様子で二人の話を聞いてた香奈女は、どう声をかけていいのか分からなかったのか、「叶」と名前を読んで、叶の肩に手を置いた。
「そろそろ遅いんで今日はこの辺で」
少し重い空気が続いたので、伸二はそろそろお開きにしようと切り出した。
「そうね、そろそろお暇させてもらおうかしら」
「はい」
彩乃と香奈女が頷く。
「それじゃあ、僕二人を送っていくから」
もう夜も遅いので、伸二は彩乃と香奈女を送っていくことにした。
そして、家を出てしばらくした時。
「二人共、今日はありがとう。あざかと二人の話聞いてもらって」
伸二は彩乃と香奈女に頭を下げ、礼を言った。
「まあ、当然よ」
「お礼をされるような事は別に」
「それでも・・・・・・ありがとう」
伸二は再び頭を下げ、礼を言った。
しばらく歩いていると。
「ここまでで大丈夫です」と香奈女は一人、自宅に向かって歩いて行った。
香奈女に手を振り、彩乃と伸二は二人、またしばらく歩き続ける。
「私もここで良いって言いたいところだけど・・・・・・ちょっと私の家によっていかない?」
彩乃は、家に着くまでにはまだ距離があったが、そう言って伸二を自宅へと招いた。
「え?でももう遅いんで、家族とか・・・・・・・」
夜遅くにお邪魔してはいけないと、伸二は断ろうとする。
「私一人暮らしだから心配ないわ。少しだけよ、少しだけ・・・・・・ね?」
「えーっと、じゃあ少しだけ」
彩乃が必要にお願いするので、伸二は折れた。
しばらくして彩乃の家に着いた。
彩乃の家はどこにでもあるような普通のアパートの一室。
1Kのユニットバス付き。
「ここよ?」
「ここですか・・・・・・少し想像と違いました」
伸二のイメージでは、彩乃は気品があるお姉さんなので、一人暮らしとは言え、案外良い所に住んでいるのではないだろうか?と、勝手に想像していた。
「ふふ・・・・・・人を見た目で判断してはダメってことよ、あなたがどういう風に私を見てたかは知らないけどね」
彩乃が不敵に笑みを浮かべ、伸二を家の中へと招き入れる。
「おじゃまします」
伸二は、一人暮らしの女性の家にお邪魔するのは初めてで、少し緊張していた。
「狭いけど、どうぞ」
部屋の中は綺麗に整頓されていて、こういう所は伸二の想像通りだった。
部屋の真ん中には小さな机があり、彩乃が伸二に座布団を用意した。
「何か飲む?」
「お構いなく」
部屋の中には必要以外の物は無い。
彩乃が何やら飲み物を入れている間、伸二はジロジロと彩乃の部屋を観察していた。
(何か、良い匂いがする・・・・・・)
「・・・・・・下着ならそこのタンスの一番下よ」
彩乃がコーヒーカップを持ってきて、伸二に冗談交じりに言う。
「探してませんよ!」
「あら、そうなの?」
(何なんだ、この人は・・・・・・)
掴み所のない彩乃の言動に伸二は困惑する。
「それじゃあ始めましょうか・・・・・・」
と、彩乃は上着を脱いで、伸二に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」
彩乃がいきなり上着を脱ぎ出すもので、伸二は慌てふためく。
「冗談よ、可愛いんだから~」
「はあ・・・・・・」
伸二はドッと急に疲れが溜まった気がした。
「そういえば、伸二君って私のこと先輩って呼ぶわよね?」
「はい?・・・・・・それがどうかしました?」
「あ・や・のって呼んで?」
「え?まあ、別に構わないですけど?」
急に何かと思えば、彩乃が自分の事を名前で呼ぶように言うので、伸二は至って普通に返答する。
「もうあなたって・・・・・・」
彩乃は伸二の鈍感さに呆れる。
「それより・・・・・・彩乃さん、何か話があるんじゃないんですか?」
「まあ、話って程でもないんだけど、京達とあざかちゃんのことね」
急に彩乃は真剣な表情になる。
本当に掴み所がない人だなあ、と伸二は心の中で思った。
「京達があんなに複雑な事情を抱えているとは思わなかったわ、あざかちゃんもだけど・・・・・・辛かったでしょうね」
「はい、3人とも凄く辛かったと思います。だから、もうあんな思いをさせたくないです」
「そうね・・・・・・ねえ、伸二君?」
「はい?」
「あなたは・・・・・・私が困っていてもあなたは助けてくれるのかしら?」
「え?まあ、僕にできることがあるなら・・・・・・何か困ってることでもあるんですか?」
「ううん?聞いてみただけよ、それにしても伸二君あの家に一人暮らしなんでしょ?生活費とかどうしてるの?」
「えーっと・・・・・・別に悪いことはしてませんよ?」
伸二は彩乃の問いを笑って誤魔化しておいた。
「京達も心配するんで、そろそろ帰ります」
「あ、そうね」
既に11時を回っていて、次に何を聞かれるか分からないので、伸二はさっさとお暇することにした。
彩乃は家のすぐ近くの分かれ道まで伸二を見送ることにした。
「それじゃあまた」
「ええ、またね」
彩乃に手を振り、伸二は自宅に帰った。
帰宅し、玄関を開けると、伸二の元に叶が走ってきた。
「もう!遅いよ!」
「なにかあったのか?」
京も叶の後に続いて、伸二を心配してリビングから玄関までやってきた。
「ごめん、ごめん。ちょっと彩乃さんと話してて」
「そうか、それならいいが、連絡ぐらいはしてくれ・・・・・・心配になる」
「次からは気をつけるよ」
伸二は二人に笑みを送りリビングに向かった。
リビングの扉を開けると、風呂上りで逆上せているのか、あざかがソファに倒れていた。
「おぉー・・・・・・しんじー、遅かったなぁ」
あざかは体は動かさず、顔だけ伸二の方に向けて気だるそうに言った。
「そんな所で寝てると風邪ひくよ?」
「うるさいなー、なんとかは風邪ひかないんだよ」
(この子はバカだと自覚しているのだろうか・・・・・・?)
本当に風邪を引いてしまうといけないので、伸二はあざかを無理やり部屋に連れて行き、その後、自分もお風呂に入って寝ることにした。




