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氏神物語  作者: 斧竹石
6/12

花里あざか

弐栞姉妹が学校に通い始めてから一週間後のある日、朝のホームルーム前。


「大輔・・・・・・あざかにメールしてからもう一週間も経つけど、大丈夫かな?」


メールでは2~3日休むと言っていたのに一週間も姿を見せないあざかを伸二は心配していた。


「ああ・・・・・・そういや最近ずっと来てねぇな」


伸二と大輔がそんな話をしていると「ガラーッ」と教室のドアが開いた。


そこには一週間ぶりに見る友人の姿があった。


教室に入ってきたあざかは特に何も言わず自分の席に座り、伸二は早速あざかの元へと駆け寄る。


「あざか・・・・・・心配したよ、どうしたの?」


「ちょっとな・・・・・・心配かけてごめん」


あざかは少し苦笑いで言った。


「うん・・・・・・あ、そうだ。あざかは初めて会うでしょ?」


伸二はあざかが休んでいる間に転校してきた京を紹介した。


「弍栞京。えーっと、伸二の親戚見たいなものだ」


面倒だったので、自分のことは親戚だと言うように伸二は京と叶に言っておいた。


「丁度あざかが休みだしてから転校してきたんだよ」


「そっか」


あざかは京の方を向いて言った。


「花里あざか。あざかで良いよ」


「よろしく、私の事も京と呼んでくれ」


二人が挨拶を終えた頃に太郎先生がやってきてホームルームが始まった。


授業が始まり、授業中に伸二は考え事をしていた。


こんなことを本人に言ってしまったら怒られてしまうが、あざかが「心配かけてごめん」なんて、普段は絶対に言わない。


(おかしい・・・・・・少し様子を見てみようか)


伸二はあざかの様子を横目で伺ってみた。


あざかは普段、授業中は寝るか、伸二や大輔にちょっかいを出す。


しかし、今日のあざかは何だか「ぼーっと」していた。


こういう姿をあまり見たことがない伸二は益々疑問に思った。


(それに・・・・・・)


化粧で隠していが、頬に痣のような物が見えた。


次の休み時間にでも聞いてみようと思っていたのだが、一限目の授業が終わるとあざかはすぐに教室から出て行った。


どうやらあざかは屋上に向かったようで、伸二は屋上まで追いかけてあざかを呼んだ。


「あざか」


「ん?なんだ伸二か・・・・・・どうしたんだよ、こんな所に来て」


「何かあったって・・・・・・どうして一週間も学校休んだの?」


「何でもない」


「一週間も休んで、何でも無いわけないよ。それに隠しているみたいだけどその頬の痣どうしたの?」


伸二はあざかの頬にある痣を指摘した。


「少しぶつけただけ」


あざかは伸二に隠すように顔を背けて言った。


「今日のあざか、らしくないよ?」


「らしくない?・・・・・・何が?伸二が私の何を知ってるっていうの!?何にも知らないくせにさ!」


あざかは突然怒り出し、伸二の胸ぐらを掴んだ。


その時、身長差があるあざかが伸二の胸元をに手をやったせいで、あざかの制服の袖が下がり、包帯が巻かれた腕が顕になった。


「その腕」


「・・・・・・ごめん」


あざかは伸二から手を離し、すぐに腕を隠した。


「お前には・・・・・・伸二だけには迷惑をかけたくない」


あざかはそう言うと屋上のドアに向かった。


「ちょ、ちょっと!あざか、待って・・・・・・」


伸二があざかを止めようとするが、あざかは足を止めることなく屋上を後にした。


「バタンッ!」と屋上のドアが締まり、伸二は一人、屋上に取り残される。


「はぁ・・・・・・」


伸二がため息をついたその時、給水塔の方から声がした。


「やっ、悩める青年」


そう言って、彩乃が現れた。


「聞いてました?」


「あはは・・・・・・何か出るに出られなくてね、全部聞いちゃった」


テへッ・・・・・・と、彩乃ちょっと可愛い子ぶって言った。


「はあ・・・・・・友達だと思ってたんですけどね」


せっかくなので、伸二は彩乃に話を聞いてもらうことにした。


「友達だからこそじゃないの?」


「どういう意味ですか?」


「友達だからこそ言えることもあるし、友達だからこそ言えないこともあるって事よ」


・・・・・・伸二くんだって言えないことの一つや二つあるでしょ?と彩乃。


「でも・・・・・・」


「きっと伸二くんの事大事に思ってるのよ、迷惑をかけたくないって言ってたじゃん。頑張れ青年!」


「はい」


伸二は彩乃に励まされ、教室に戻り、また授業を受けた。


しかし、授業は頭に入らず、ずっと伸二はあざかの事を考えていた。


そして、放課後。


伸二はあざかを屋上に呼び出すことにした。


「来るかな・・・・・・」


「バタンッ」とドアが開いてあざかが屋上にやってきた。


取り敢えず座ろうと、屋上にいくつか設置されているベンチに伸二はあざかと二人で座った。


「なんだよ?」


「あざかの隠している事を聞こうと思って」


「それなら・・・・・・」


「僕の話だけでも聞いて、お願い」


伸二はどうにかあざかから話を聞こうと、頭を下げる。


「分かった」


「取り敢えず謝らせて・・・・・・朝の事はごめん。あざかの事しった風に言って」


伸二は再び頭を下げる。


「こっちこそ・・・・・・ごめん。つい、ちょっと熱くなって」


「ねえ、あざか・・・・・・あざかの悩んでいることを僕は知らないけど、今のあざかを見ているのは嫌なんだ。勝手な事を言っているのはわかってるけど、いつも大輔や僕と馬鹿なことやって笑ってる・・・・・・そんなあざかが僕は好きなんだ」


「僕にだって言えない事はあるけど、心配をかけるかもしれないとか、迷惑になるとか、そんな風に思わないで言えることなら言ってほしい。僕もその方が嬉しいし、何よりあざかが心配なんだ」


「ごめん、余計に心配さたな。分かった・・・・・・話すよ」


あざかが今の現状について語りだす。


鮮花の話によると、あざかの父が数ヶ月前事業に失敗し借金をしたそうで、その事業の失敗のショックからあざかの父はほぼ毎日家で酒を飲み続け。


ついには変な薬にまで手を出すようになり、それを止めようとしたあざかは父に暴力を受け、頬や腕に怪我をしたらしい。


話を聞いた伸二は帰り道にあざかを引き止めた。


「ねぇ、あざか」


「ん?なに?」


「良かったら今日、僕ん家に泊まっていかない?」


伸二がそう言うと、「え?」とあざかは顔を赤くして言った。


勿論伸二にやましい気持ちはない。ただあざかが少しでも笑顔で居られるならと思って提案した。


「そ、それは・・・・・・えーっとなんて言うか、良いの?親とかは大丈夫なの?」


「僕、両親はいないよ?」


(そういえば、それなりの付き合いなのに話してなかったっけ)と伸二。


「あ、その・・・・・・ごめん」


(知らなかった・・・・・・もう中学からの付き合いなのに)とあざか。


あざかがは言葉を詰まらせた。


「いや、気にしなくていいよ、僕生まれつき独り身だから」


「そうなんだ、じゃあ今日だけ・・・・・・」


「そんなにかしこまらないでよ、なんか変な感じだから」


そうして話しているうちに伸二のマンションの前まで来た。


「ここが伸二の家?で、でか・・・・・・」


「うん、そうだよ」


マンションの中に入り、エレベーターに乗り30階まで上がる。


玄関の扉を開けると。


「「おかえり」」


と弐栞姉妹が伸二の帰りを迎える。


弐栞姉妹・あざか「「「・・・・・・」」」


伸二「・・・・・・ん?」


一瞬空気が凍った。


「確か同じクラスのあざか・・・・・・?だったよな」


「あっ、転校生じゃん!」


「二人とも知り合いなの?」と叶。


「おい・・・・・・伸二、説明しろ」


てっきり両親がいないので一人暮らしだと思っていたあざかが伸二に聞く。


「え?あー言ってなかったけ?二人ともここに住んでるんだよ」


取り敢えず親戚なので・・・・・・とういうことで、何とか伸二はあざかを納得させた。


「へーそっか・・・・・・親戚同士でせっかくだから伸二の家に住むことに・・・・・・ふざけんな!!!!!!!!!!」


玄関であざかが叫んだ。


「な、なんで怒ってるの?」


伸二にはあざかが怒っている理由が分からなかった。


「お前ともあろう物が二人も女の子を連れ込んでるなんて、最悪!」


「連れ込むって・・・・・・」


「二人はいいのかよ!?これってつまり・・・・・ど、同棲だろ!?」


「住まわせてもらっているだけでありがたい」


「わ、私は伸二くんと暮らせて楽しいよ?」


「っ・・・・・・」


場が収まりそうもない。


「ま、まあ、取り敢えずご飯にしようよ」


夜ご飯を四人で食べた後、あざかはお風呂に入った。


あざかの着替えはさっき程取りに行ったが、家にあざかの父は居なかったそうだ。


「いろいろありがと」


「いいよ、いいよ。困ったことがあればいつでも言って」


「なあ、伸二・・・・・・」


伸二はあざかが妙に思いつめた表情をしていたことに不安を感じた。


「・・・・・・?」


「いや、何でもない、おやすみ」


本人が何でもないというので、伸二は無理やり納得した。


翌日、学校へは四人で登校した。


昼休み、伸二は昼食を食べ終わった後、屋上に行ってみることにした。


屋上に行ってみると予想通り彩乃が居た。


「あら、伸二くんじゃない?」


「えーっと、あざかから話を聞くことができたんで・・・・・・ありがとうございます」


一様お礼を言っておかないと、と思っていた。


「そう、よかったじゃない」


「でも、まだ終わってなくて・・・・・・」


まだあざかの問題を解決したわけではない。


「なら頑張ってきなさいよ」


再び彩乃は伸二にエールを送った。


「そういえば・・・・・・先輩って生徒会長ですよね?」


「そうよ、それがどうかしたの?」


「いや、生徒会の仕事とかしなくていいのかな?・・・・・・なんて」


「んふふ・・・・・・全部副会長に任せてあるの」


「それって良いんですか?」


本来生徒会長という立場であれば何かと忙しいはずなのに、見るたびに暇そうな彩乃に向けて、伸二は聞いてみることにした。


「未来の生徒会長のために仕事をなるべく任せてあげてるのよ」


「それってただ自分がサボりたいだけじゃ・・・・・・」


「そうとも言うわね?」


(そうとしか言わないんじゃないかな・・・・・・)


「それじゃそろそろ教室に戻りますね」


「またねー伸二くん」


と彩乃は伸二に手を振った。


午後の授業が終わり、帰り道。


京は買い物して帰るらしく、叶の方は普段香奈女一緒に帰っているので、伸二はあざかと二人だった。


分かれ道まで何気ない会話をした。


「それじゃあまた」とお互い手を振って別れを告げた。


伸二は何となく、あざかが何か言いたげな顔をしていたように見えた。


その後、伸二は家の前まで帰ってくると、今日中に終わらせなければいけない課題を忘れてきた事を思い出し、学校に取りに行くことになった。


「あぁ、せっかく家の前まで帰ってきたのに・・・・・・」


学校に着き、自分の教室に行くと、机から課題を取り出した。


さっさと帰ってしまおうと、課題を手に学校を出る時だった。


「おっ、まだ学校にいたのかよ?」


大輔が伸二を見つけて近寄ってきた。


「教室に課題忘れちゃってさ」


「あーそうだ、さっき変な話を聞いたんだけどさ、サッカー部の奴が家にスパイク忘れて取りに帰ってたらしいんだけど、花里が何かいかつい男と一緒に花里に家に入っていったとか言ってんだよ。でもそんなのありえないよ・・・・・・な?っておい、どこいくんだよ?おい伸二!!!」


「ごめん、また後で話す!」


伸二は大輔の話を聞き終わる前に既に走り出し、後ろで間抜けなツラをしている大輔に向かって振り向くことなく言った。



少し前、帰宅中のあざか。


「はあ・・・・・・言えなかった。ていうか、言えるわけないよな・・・・・・」


あざかは一人呟き、アパートの玄関についたその時。


「花里の娘だな」


あざかは突然後ろから声をかけられた。


「とりあえず入れてもらえる?」


あざかに声をかけてきた柄の悪い二人組は、止める暇もなくあざかの家の中に無理やり入ってきた。


あざかは十中八九借金取りだと分かった。


「俺達はあんたの親父に金を貸してるもんだ」


男の一人がチラチラと部屋の中を見渡しながら言った。


「あいつはどこにいる?」


「・・・・・し、知らない」


「あん?知らねぇだと?ざけんな!」


男の一人がちゃぶ台を蹴飛ばす。


「そんなこと言われたって・・・・・・」


あざかの父親はフラフラと家を出ていくので、居場所を知らなかった。


「兄貴、このガキ結構・・・・・・」


男があざかの体を不快な目つきで見た。


「そうだな、親がいねぇんじゃ・・・・・・娘に払ってもうしかねぇよな!」


もう一人の男も同じようにあざかを見て、二人は取り囲むようにあざかに近づいた。


「おい!そいつ抑えろ!」


「へい!」


男の一人、弟分の方があざかを抑えようとする。


「や、やめろ!触んなよ!!!」


あざかは体育会系で女子の間では結構腕力がある方だが。


「へへっ・・・・・・捕まえた!」


しかし、大の男には及ばなかい。


兄貴分の男があざかの上に乗り服を脱がせようとする。


「くそ!じゃまくせえ!」


初めは脱がせようとしたが、あざか抵抗して脱がすのが面倒になり、制服を無理やり破ろうとする。


「やめろ・・・・・・やめろって!!!」


あざかは必死に抵抗する。


「うるせぇ!黙ってろ!」


兄貴分の男があざかの口を手で塞ぐ。


(・・・・・・た、助けて・・・・・・伸二・・・・・・!)


制服を無理やり破り、そして次に下着を脱がせようとした瞬間。


「ガンッ!」


先ほど男によって鍵がかけられていた玄関の扉が吹っ飛ぶ。


「お取り込み中申し訳ありません」


伸二が紳士的に笑みを浮かべて二人の男に言った。


「誰だてめぇ?」


弟分の男があざかを離し、伸二に詰め寄る。


「おい!やめろ!」と今にも殴りかかりそうな弟分の男を兄貴分の男が抑えた。


「いい度胸だな兄ちゃん、誰だ?」


「その子の友達ですけど」


「友達?アハハッ!その友達が何の用だ?」


「あんた元締めじゃないだろ?・・・・・・あんたらの上司に会いたいんだけど」


「ハハッ!・・・・・・いいぜ。車に乗りな」


「良いんすか兄貴!?」


「おもしれえだろ?それに、もう金の目処はついてる」


男が鮮花を見て言った。


伸二は部屋に倒れこむあざかに駆け寄った。


「あざか、大丈夫?」


「伸二・・・・・・」


あざかが震えて、涙を流していたので伸二は手を握った。


「大丈夫、大丈夫だから。僕が何とかする」


伸二はあざかに自分の着ていた制服の上着を羽織らせて家の鍵を渡した。


「あざか、しっかりして。これ僕の家の鍵だから、僕の家に行ってて。大丈夫だね?」


「う、うん・・・・・・大丈夫・・・・・・大丈夫」


あざかは自分に言い聞かせるように大丈夫と言った。


伸二はあざかを家に向かわせ、あざかの自宅の近くに止められている男たちの車に乗った。


しばらく車は街の中を走る。


「電話かえてもいいかな?」


伸二は携帯を取り出し、男に聞いた。


「ダメだ。サツに電話でもしてみろ、殺してやるからな」


「警察じゃないから・・・・・・良いだろ?」


「チッ・・・・・・好きにしろや、今更どこに電話しようと遅い」


男は伸二が電話をかけることに渋々頷き、伸二は京に電話をかけた。


「あ、もしもし?ちょっと事情が合って遅くなるから・・・・・・それで、今そっちにあざかが僕の家に向かってるんだけど、ちょっといろいろあってね、見ていてくれる?」


「あぁ分かった」


「それじゃあね」


伸二は電話を切り、そしてもう一本電話をかけた。


数秒後すぐに伸二は電話を切ると、助手席に座っている兄貴分の男が伸二を見た。


「それにしてもお前、どういうつもりだ?」


「どうもこうもちょっと話をしに行くだけだよ」


「ガキがどうこうできる話じゃねぇよ・・・・・・へへっ、今からだって引き返してやってもいいんだぜ?その代わり、花里の娘に来てもらうことになるけどな」


「いいからいいから」


数分後、車はある雑居ビルの前で止まった。


「こっちだ、入れ」


男は伸二を雑居ビルの2階にある部屋の前まで連れてきた。


「戻りました」


男がそう言ってからドアを開けると、一人の男が、社長が座っていそうな立派な椅子に座っていた。


部屋の入口とは反対側に向いていたので顔が見えなかった。


「おい、おめぇらちゃんと金は取ってきたんだろう・・・・・・」


男が座ったまま椅子を反転させ、部屋の入り口の方向を向いた瞬間。


「えっ、なんで、あんたが・・・・・・」


伸二の顔を見る男の表情は強ばっていた。そして、伸二はその顔を見てその男の事を思い出した。


「う、氏神・・・・・・さん」


男は恐る恐る口を開いた。


「なんだ、あなたが元締めか」


伸二と元締めと思われる男の会話を聞いていた二人の男たちは戸惑っていた。


その金貸しの名前は牧野。


40代半ばの太ったおっさん。


伸二が過去に牧野と会ったことがあるが、その頃はまだ金貸しではなかった。


「どうも、ご無沙汰しています」


「え、ええ・・・・・・ど、どうも、実はあれから金貸しになりまして」


「へぇ」


「ははは・・・・・・」


牧野は終始緊張を隠せず、苦笑いしていた。


「あの、それで・・・・・・今日はどういったご用件で?」


「花里って人にお金貸してますよね?」


「ええ、丁度そこの二人がさっき取立てに行ってきたところで」


牧野がさっきから部屋の入り口でボーッと立っている二人の男達を指さして言った。


「それがどうかしましたか?」


「それ、僕が肩代わりします」


「は、はい?」


「あなたがお金を貸してるその花里さんの娘さんが僕の同級生でして、友達なんですよ」


牧野は伸二の登場と思わぬ展開にあたふたしている。


「それで、どれぐらい貸してるんですか?」


「え、あぁ・・・・・・一千万程ですけど」


「本当に一千万?」


「え、ええ・・・・・無理な利息を押し付けてるわけじゃありませんし」


「本当はいくら取るつもりだった?」


伸二は声色を変えて、牧野を脅すように言った。


「ひいっ!・・・・・・さ、三千万程」


「ふーん、じゃあ小切手でいいかな?」


伸二は財布から小切手を取り出し、金額を書いて牧野に手渡した。


「え!?い、いいんですか!?・・・・・・本当は一千万しか」


「三千万じゃなかったの?・・・・・・まあ、ちょっとした迷惑料だと思って」


「・・・・・は、はあ?」


伸二の言う迷惑料という意味が牧野には分からなかった。


「た、助かります。一様これで飯食ってるんで」


「それと・・・・・・そこの二人が僕の友達に悪さしようとしていたんだけど・・・・・・」


伸二が言い終わる前に牧野が二人の男を睨んだ。


「おい、おめぇら仕事中になにやってんだ!」


「す、すいやせん!」


「いえ、良いんですよ、二人には死んで貰いますから」


死んでもらうと伸二は言ったが、勿論社会的にと言う意味である。


伸二がそう言ったその後すぐ部屋ののドアが開かれた。


「すみません、遅くなりました」


花木宗と宗の側近の銀次郎が部屋の中に入ってきた。


「いいえ、ピッタリですよ」


伸二は宗向けて笑って言い、「その二人です」と部屋の入り口に立っている二人の男を指指さした。


突然の出来事に入口に立っていた二人の男は現状を把握できなかった。


「おい、銀、運ぶぞ」


宗が銀次郎に言うと、銀次郎は二人の男を持っていたスタンガンで気絶させ、男を一人担いで連れて行った。


「すみません、何度も」


「いえ、それでは私はこれで」


宗はもう一人の男を担ぎ上げ、その場から去っていった。


「あ、ありゃ花木の・・・・・・」


牧野は宗を見て一人呟いた。


「それじゃあ僕も要件は済んだので」


教育はしっかりしてください。


最後にそう言って伸二は家に帰った。


ちなみに車が無いので伸二はタクシーで帰りました。


「ただいま」


伸二が玄関の扉を開けて言うと、姉妹が伸二の元へ走ってきた。


「あざかから話は聞いた。心配したぞ!」


「私もすっごく心配したんだから!!!」


二人が伸二出迎えた。


「ごめん、ごめん・・・・・それよりあざかは?大丈夫?」


二人の後ろからあざかが顔を出した。


「良かった、帰ってこないんじゃないかって・・・・・・」


「ちょっと話があるんだけどいいかな?」


伸二はあざかを連れて外に出た。そしてそのままあざかの家に向かう。


伸二はあざかに事の顛末を順に説明することにした。


「まず、借金は何とかなったから」


「えっ?確か凄いお金借りてたはずだけど・・・・・・」


「何とかしたから」


「そんな、簡単に払えるような額じゃ・・・・・・それにいつ返せるか」


「それについてはまた後でね」


借金のことはまたこれから決めることにして、伸二は借金以外の他の問題について話すことにした。


「あざかのお父さんの事・・・・・・はっきり言うけど大丈夫?」


「う、うん」


「あざかのお父さんはちょっと変な取引に関わっていて・・・・・・薬もしていた。薬が抜けるまでは病院にいる。薬が抜けても何年か刑務所から出てこれないと思う。詳しいことはまだわからないけどね」


「・・・・・・そっか」


「大丈夫?」


伸二は父親の事を聞いて顔を俯けたあざかに声をかけた。


「・・・・・・・うん」


あざかは頷いた。


それと家の事だけど・・・・・・伸二が言ったところであざかの住んでいたアパートについた。


「あざかはここには住めない」


高校生のあざかでは家賃も払えない上に、先ほどの騒動で多分苦情が来ることになる。そうなれば別の場所に住まなくてはいけない事になる。


「じゃあ、私は・・・・・・」


あざかの顔が絶望に歪んでいた。


「あざかさえ良ければ家にきなよ。二人も喜ぶから」


「・・・・・・いいの?」


あざかは目に涙を浮かべて伸二の顔を見た。


「もちろんだよ」


「その、よろしくお願いします」


「そんなにかしこまらないでよ、友達でしょ」


「ありがとう・・・・・・・本当にありがとう」


「うん」


数分後。


主に衣服等をまとめて持ってきた来たあざかと共に伸二は帰宅する。


伸二は家に帰ると、京達にあざかがこれからここに住むということを説明した。


「あざか、実は京達もちょっと訳ありでここに住んでるんだよ?」


伸二の言葉に二人が頷く。


「これから一緒に生活するんだし、あざかも京達もお互いの事を話し合うといいよ。まあ言いたくなかったら構わないんだけどね?」


その後、あざかと京と叶は3人でお互いここに住むことになった経緯、理由を話し合った。


そしてその日の夜。


「はいるぞー!」


寝巻き姿のあざかが伸二の部屋に入ってきた。


「どうしたの?」


「うん、その・・・・・・礼でもしにきてやろうかと・・・・・・」


(態度でかっ!)


「そんなの別に良いって。二人から聞いてる?京達も恩返しとかって言うから家事をやってもらってるんだけど?あざかも一緒にやりなよ」


「ああ、それなら任せろ。父子家庭だったから家事は普段からやってたんだ」


「そっか、それは良かったよ」


伸二が微笑み。


少しその場が沈黙する。


そして、急にあざかが伸二に体当たり・・・・・・というより、抱きついた。


「あ、あざか・・・・・・?」


「怖かった、あの時伸二が来てくれなかったらって・・・・・・」


あざかは伸二の胸に顔をうずめた。恐怖を思い出し、体が震えていた。


伸二はあざかのこんなに弱い一面を見るのは初めてで少し驚いた。


「うん・・・・・・良かったよ、間に合って」


「いっそのことお前に・・・・・・」


あざかがボソッと呟いた。


「ん?」


「な、何でもない!」


そしてあざかは「おやすみ!!!」と言って、逃げるように伸二の部屋を出て行った。



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