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氏神物語  作者: 斧竹石
5/12

学校

次の朝、京達は昨日と同じく7時に起きていた。


二人は顔を洗い、朝ごはんを作っていると、伸二が制服姿でリビングに現れ、朝食が出来るのを待っていた。


7時半には朝食を食べ始め、食べ終わる頃には丁度学校に行く時間になっていた


「いってきます」


伸二は二人に言って、学校に行こうとすると。


「ちょっと待って」


と、京が伸二を引き止めた。


「これ、お弁当作ったから」


京は朝食のついでに作っておいた弁当箱を伸二に渡した。


「・・・・・・ありがとう。それじゃ行ってきます」


「「いってらっしゃい」」


二人が伸二を玄関まで見送ってくれた。


伸二はエレベーターに乗り、二人の事を考えながら少し微笑んでいた。


「しばらく一人だったから・・・・・・なんだか新鮮だな」


一階の受付にいる管理人さんに笑顔で挨拶して伸二は学校に向かった。


学校まで歩いていると、ついに始まった新学期に喜ぶ人も居れば面倒くさそうにして愚痴をこぼす生徒もいた。


伸二はこういう高校生らしい姿を見るのが好きだった。


学校に着き、教室に入ると、伸二に向かって大輔がいきなり飛びかかってきた。


「おい、伸二!!!よくも始業式の日は俺を放置してくれたな!」


ああ、そういえばそうだったっけ。と、伸二は大輔の事を忘れていたことさえ忘れていた。


「えーっと・・・・・・どちら様でしょうか?」


「大輔だよ!大輔!」


「ああ、袴くんですか・・・・・・2日ぶりですね」


伸二は大輔に他人行儀に振舞った。


「なんだよ?なんでそんな余所余所しいんだよ!」


「いや、そう言われましても、僕と袴くんはそういう関係だからとしか・・・・・・」


「え?お、俺達友達だろ!?親友だろ!?なあそうだろ!?」


本気で拗ねて始めたので、伸二は大輔をいじめるのをやめた。


「冗談だって、それはそうと始業式の時はごめんね。家についてから大輔を忘れてる事を思い出したんだ」


伸二は急に笑顔になって言った。


「んだよ!んな事はもういいんだよ!」


大輔はヘラヘラと笑う。


(何だよさっきまで馬鹿みたいに突っかかってきたくせに!)


伸二ため息をついて自分の机の方に向かった。


(・・・・・・・?)


教室がやけに静かに感じた。


(あ、そうか・・・・・・あざかが居ないのか)


伸二は物静かな教室を見て、あざかが居ないことに気づく。


「大輔、あざかは?今日休みなのかな?」


「おっ、そういえば見てねぇな」


たまにはうるさいのが居ない方が良いだろう、と大輔はこの場にあざかが居ないので言いたい放題だった。


少しは伸二もそういう思いがないではなかった。


その日は新学期最初の授業でということで、授業内容の説明という楽な時間割で、すぐに時間が過ぎていった。


昼休み。


「うーい!伸二、購買でパン買いにいこうぜ!」


大輔が伸二を誘った。


「今日は弁当があるし、教室で待ってるから大輔行ってきなよ」


伸二は朝、京に持たされたお弁当を取り出して大輔に向けて言った。


「おう、分かった・・・・・ん?弁当?いや、今はそれどころじゃねえ!」


俺の焼きそばパン!と大輔は叫んで購買へと走り出した。


大抵の学校でもそうだと思うが、この学校でも購買のパンは取り合いになっている。


その中でも数少ない焼きそばパンはすぐ売れてしまい、急いで買いにいかないと間に合わないのだ。


数分後、大輔はボロボロになって帰ってきた。


「や、やった・・・・・・今日は買えたぜ、焼きそばパン!」


はあはあ、と息を荒げながら大輔が伸二に自慢する。


「すごいね。大輔が焼きそばパン取ってくるなんて珍しい」


伸二は少し皮肉気味に言ってみた。


「正義は勝つ!」


焼きそばパンを片手に声高らかに大輔は言い放った。


「馬鹿だね」


あ、それはそうと、と大輔が何かを思い出した。


「なんで弁当があるんだ?料理なんかできたっけ?」


大輔が伸二のお弁当に興味を示した。


「うん、まあちょっとね」


「さては、彼女できたんだろ?そうなんだろう!?」


大輔はわざわざ立ち上がって、教室全体に響き渡るような声で言った。


「違うって!」と伸二は大輔の言葉を否定し、ついでに頭を叩いた。


(・・・・・・氏神君彼女いるのかな?)


(違うって言ってたじゃん)


(えー!本当かなぁ・・・・・・?)


(くそっ!氏神の野郎!愛妻弁当なんぞ持ってきやがって!)


(俺何かかーちゃんの手作りだぞ!)


大輔の発言に教室が騒ぎ始めるが、伸二には聞こえていなかった。


「ご飯ぐらい静かに食べさせてよ」


「すまん、すまん。つい興奮しちまって」


伸二は弁当を開けてみた。


(美味しそうだな・・・・・・)


「うおおおおおおおおお!めちゃくちゃうまそうじゃん!俺にも少し分けてくれ!」


(だからうるさいって・・・・・・)


「じゃあ焼きそばパン一口ね」


仕方がないので、伸二は大輔の焼きそばパン一口と自分のお弁当のおかずを交換することにした。


伸二は先に大輔の焼きそばパンを貰う。


(何か懐かしい味だなあ・・・・・・)


「お、おい!俺その卵焼きが食いたい!」


大輔はそう言って卵焼きを欲するが、伸二は卵焼きに箸を向けず・・・・・・。


「はい、どうぞ」


白ご飯を一口箸に取って大輔に向けた。


「おい、コラッ・・・・・・」


「冗談だって」


伸二は仕方なくお情けで卵焼きを一つ大輔にあげた。


「う、うめぇえええええええええ!」


(本当にうるさいな・・・・・・)


「はいはい、うるさいから黙って食べようね?」


伸二は子供を諭すように大輔に言った。


「もう一つ!なんかくれ!」


「また明日ね」


伸二は大輔に取られないようにお弁当を一気にかき込んだ。


うああ・・・・・・お、俺の弁当が!と大輔は唸った。


(いや、僕のだけどね)


昼食が終わり、午後の授業も終わった。


大輔は放課後はサッカー部で練習、たまにある休みの日以外はほぼ毎日部活があるので一緒に帰る事は少ない。


実はこの永山学校のサッカー部は有名で全国大会で何度か優勝経験がある。


大輔は1年の頃からレギュラー。この学校で1年でレギュラーになれる人は中々いない、それほどの実力があるということだ。


サッカーをやっている時の大輔は真剣で、いつだったかプロの道も考えていると言っていた。実際そういう話も来ているらしい。


普段は馬鹿でどうしようもないが、そういう所も含めて伸二は大輔のことを気にいっている。


「それじゃあ部活頑張ってー」


伸二は大輔に手を振って帰宅することにした。


帰宅するとマンションの前にはトラックが何台か止まっていた。


家の中に入ってみると、運送業者の従業員が壁に傷がいかないように貼るため

の布をはがしているところだった。


京達はリビングに居て、伸二が帰ってくると二人して「おかえり」と出迎えた。


どうやら昨日買った家具が丁度運び終わったところらしい。


部屋を覗いて見ると、机やらベッドやらが中にセットされていた。


「全部やってくれたんだ」


「そうか、それは助かるね」


「ご利用いただきありがとうございました」


業者の人が丁寧に言って出て行った。


「あ、そうだ。弁当美味しかったよ」


伸二は京に弁当箱を渡した。


「お粗末さま」


キッチンに行って弁当箱を洗いに行く京。


弁当箱を開けると中は空っぽだった。


「良かった、全部食べてる」


京は自然に口元が綻んだ。


昼までには家事を終わらせていた京達は暇になった。


京は昨日何冊か買っていた本を読むことに、叶は伸二と買ってきたゲームをすることにした。


5時頃、インターホンが鳴った。


二人の制服が届いた。


「二人とも着てみなよ、多分ピッタリだと思うから」


伸二は宅配業者から受け取った二つの箱を、二人にそれぞれ渡した。


京達は部屋に向い、着替えに行った。


数分後。


制服を着た二人が、伸二に見せようとリビングにやってきた。


叶「ど、どうかな?」


京「・・・・・・」


二人は少し恥ずかしそうに制服姿を伸二に見せた。


「うん・・・・・・二人とも良く似合ってる、可愛いよ」


「えへへ」


「・・・・・・そうか」


これで二人の学校へ行く準備が整った。


そして次の日。


登校初日と言うことで、理事長や教員に挨拶しなくては行けないので早めに学校を出た。


まだ登校してきている生徒は少ない時間。


学校の前の前まで来ると伸二が二人に向けて言う。


「家でも言ったけど、取り敢えず先生達に挨拶しに行くよ?」


「はぁ・・・・・・な、なんか緊張してきたよ」


「ああ、私もだ」


理事長室に向かい、目の前まで来ると二人は深呼吸をする。


そんな緊張している二人に優しく微笑んで、伸二は理事長室にノックをして、扉を開ける。


部屋の中には、見た目60代の優しそうな老人が居た。


永山高校の理事長だ。


「やあ、氏神君・・・・・・その子達かい?」


「はい・・・・・・あーその、一様偉い人だから、挨拶しておいて?」


「一様って君ね~・・・・・・」


二人は伸二の言葉に頷く。


「弍栞京です。よろしくお願いします」


「弍栞叶・・・・・・です。よ、よろしくお願いします!」


緊張した様子で二人は理事長に挨拶をした。


「はい、よろしくね。まあ、色々あると思うけれど、規則正しくそれでいて楽しみを忘れぬ学園生活を送りなさい」


理事長が二人に優しく微笑む。


失礼します。と3人して言って部屋を後にした。


「き、緊張したぁ・・・・・・」


「はは、じゃあ次は職員室だね」


職員室に向かう。


「それじゃあ僕は自分の教室に行っているから、またね」


伸二は二人にひと時の別れを告げ自分の教室に向かった。


「おはよーっす伸二、珍しく遅いじゃん!」


教室に入ると大輔が伸二に話しかけた。


既に予鈴がなる寸前。


「おはよう、ちょっとね・・・・・・」


伸二が席に座ると同時にチャイムが鳴った。


ちなみに昨日席替えをしていて、伸二は一番後ろの席、左は空席で前は大輔、右はあざかという席順になった。


この学校は一年に一度しか席替えをしない、つまり一年間この席から変わることがないということだ。


(前に大輔、横にあざかがいるなんて随分騒がしい席になりそうだな・・・・・・でも楽しそうだ)


大輔が後ろを向いて伸二に話しかけてきた。


「そういえばあれ聞いたか?」


「聞いたって何を?」


「転校生だよ!転校生!めちゃくちゃ美人なんだって!」


(どこから流出したんだろう?)


クラスが転校生の噂に浮き足立っている。


「うん、知ってる」


「んだ、知ってんのかよ?・・・・・・そういえば、1年にも転校生が来てるらしいぜ?」


「へぇ」


面白そうだったので、伸二は一様知らないフリをしておいた。


「ガラーッ」と教室のドアが開き、太郎先生が入ってくる。


「ういーっす・・・・・・何かしらんが転校生が来たらしいわ、俺もさっき知ったんだどな・・・・・・まったくあの理事長は適当だ」


あんたが言うなとクラス中の生徒が心の中で思っていた。


「男かな?女かな?女だったらいいのになー!」


「本当に転校生来てたんだー?」


噂が本当になり、生徒はさらに騒がしくなる。


「じゃあ入ってこーい」


太郎先生が言い、扉が開いた瞬間。


・・・・・・・・・。


しばしの沈黙の末。


男連中「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」


女子生徒「ヤバ・・・・・・同じ人間とは思えないわぁ・・・・・・」


などと、様々な声が飛び交った。


「お前らはしゃぐな!黙らねえと単位落とすぞ!」


太郎先生がそう言うと、一気に教室が静かになる。


京はクラスの雰囲気に圧倒されているようだった。


黒板に「弍栞京」とチョークで書いて自己紹介を始める。


教壇に立つ京はクラスを見渡し、伸二の姿を見つけた。


伸二は京が見ているのに気がついたのか、一人微笑んでいた。


「弍栞っつーの?まあ、適当に自己紹介よろしく頼むわ」


「あ、はい・・・・・・弍栞京です。よろしくお願いします」


簡単な自己紹介が終わった直後、大輔が突然手を挙げた。


「はーい!はい!はい!彼氏とかいるんですか!?」


京に向けて大輔が大声で聞いた。


「彼氏・・・・・?」


京は大輔の質問にあたふたしていた。


「あのアホの言うことは間に受ける必要はないぞ」


太郎先生は一様止めているようだった。


「そ、そう言うのは居ない」


京は顔を真っ赤にして言った。


「「「うおぉおおおおおおおおお!」」」と男連中(大輔も含まれている)


「おい、静かにしろって・・・・・席は一番後ろ、氏神の隣な」


太郎先生がそういい、京は伸二の隣の席に座る。


「よかったね、一緒のクラスで」


伸二は小声で京に話しかけた。


「もしかして、伸二が?」


同じクラスになったのが偶然か、京は伸二に聞いた。


「たまたまだよたまたま・・・・・・」


「おい!伸二ずるいぞ!いきなり転校生に話しかけやがって!」


お、俺だって・・・・・・と大輔が伸二に対抗して京に話しかける。


「俺、袴大輔!よろしく!」


「馬鹿だよ」


伸二は大輔の自己紹介の後に付け足す。


「う、うっせ!」


伸二は大輔に肩を叩かれる。


「ど、どうも」


京は少し戸惑いながらも笑顔で答える。


「えへへ・・・・・・」


大輔は京の笑顔にデレデレしていた。


1時間目が終わり休み時間。


(叶ちゃんが心配だ・・・・・・)


叶を心配し、伸二は1年棟に様子を見に行くことにした。


「京?叶ちゃんの様子見にいかない?」


「ああそうだな、少し心配だ」


京を連れて伸二が教室を出ようとすると、大輔がその様子に気づいた。


「お、おいお前らどこ行くんだよ!・・・・・ていうかなんでお前らいきなり仲良くなってんの!?」


伸二たちは大輔を無視して1年棟に向かう。


「いいのか?あの人無視したけど」


「いいの、いいの・・・・・・それにしても叶ちゃんのクラス知らないんだよね」


あ、ちょっと。と伸二は適当に捕まえた1年の女子生徒に聞いてみることにした。


「あの?今日転校して来た弍栞叶って子のクラス分からないかな?」


「え?あ、は、はい・・・・・・それなら確かCクラスだと思います!」


下級生の女の子は親切に教えてくれたので、Cクラスに向かった。


伸二と京は教室を覗いた。


教室にはある一点に女子生徒が集まっていた。


「ねえ?前はどこにいたの?」


「部活はいるの?」


「あ、えーっと・・・・・・その・・・・・・」


どうやら叶は質問攻めされているみたいだった。


ん?


ふと教室の端を見ると一人静かに本を読んでいる女の子が目に入った。


(え?アレ・・・・・・腰に刺してるの、刀?)


伸二は教室に居る変わった女子生徒が気になったが、取り敢えず叶は心配がなさそうで安心した。


「どうやら心配なさそうだね?」


「ああ」


「京もちゃんと友達作らないとね」


「努力はする・・・・・・つもりだ」


叶の様子を確認したので自分たちの教室に戻ることにした。


二人が教室に入ると。


「おい!どこ行ってたんだよ!いろいろ聞きたかったのに!」と大輔が怒っていた。


「まあいろいろねー」


伸二は適当に大輔をあしらった。


午前の授業が終わり昼食。


「京、ご飯食べようか」


「うん」


伸二は京の机に椅子を持っていき、弁当を広げる。


すると、あ、俺も!と大輔も二人の元へとやってくる。


大輔はコンビニのパンを買ってきているみたいだった。


昼食を食べていると「んー?・・・・・・うーん?」


なにやら大輔が唸っていた。


「なに?大輔」


「いや、何か引っかかる」


「なにが?」


「何か二人の弁当って似てね?・・・・・・ていうか同じ・・・・・・」


(あー、バレたか・・・・・・)


「二つとも京が作ってるからね」


「あぁ、だからか!・・・・・・・いやいや!は?なんでお前の弁当を弍栞さんが作ってるんだよ!?お前ら京今日あったばっかりだろ?意味わかんねぇよ!」


大輔が物凄い剣幕で伸二に詰め寄る。


「実は僕ら親戚みたいなもので転校の事も知っていたし、今日初めて会ったわけじゃないんだよ」


「ハァッ?んだよそれ!何でお前だけ良い思いしてんだよ!?」


くそおおおおおおおおお!と、大輔は叫びながら教室から走って出て行ってしまう。


「あいつはどうしたんだ?」


京は大輔の奇行を不思議そうに見ていた。


「ああ・・・・・・いつもあんな感じだから」


「そうか、変わった奴がいるんだな」


大輔は昼休みが終わっても帰ってこなかった。


放課後。


「ごめん、ちょっと用事があるから、一人で大丈夫?」


「私は高校生だぞ」


伸二の問いに、京は少し拗ねた風に言った。


京と別れると、伸二は大輔を探した。


昼休みが終わっても大輔は戻ってこず、ついには放課後になっても戻ってこなかった。しかし、部活には必ず顔を出すだろうと、伸二はサッカー部専用のグラウンドへと向かった。


サッカー部専用グラウンド、サッカー部たち数十名が懸命に練習をこなしている。その中に大輔が居た。


「お、いたいた・・・・・・おーい!大輔!!!」


「おーなんだ伸二?」


大輔の機嫌は直っているようだった。


「あざかが2日も休むなんて心配で、家に様子を見に行こうと思ったんだけど・・・・・・あざかの住所しらなくてさ、大輔知ってる?」


それなりの付き合いだけど考えればお互いの家に行ったことが無いので、当然住所も知らない。


連絡先は知っているけど、直接行った方がいいかと思った。


「あ?知ってるぞ、近所だからな」


伸二は大輔にあざかの住所を教えてもらった。


「ありがと、大輔からも何かある?」


「教室が静かすぎて怖いとでも言っておけ!」


「あはは・・・・・・」


早速伸二は教えてもらった住所に行った。そこは小さなアパート。


伸二はその中の一部屋に花里と書かれた表札を見つけインターホンを押してみたが、少し待っても反応はなかった。


仕方ないので今日はメールだけ送る事にしてそのまま帰ることにした。


家に帰ると京が居なかった。


(・・・・・・僕より先に帰ったはずなのに、心配だ。電話しみてようかな?)


伸二が携帯の電話帳を開いたその時。


「ただいま」


京が帰ってきた。


事情を聞いてみると学校で迷っていたらしい。


(校門まで送っていけば良かったか・・・・・・)


「心配したよ」


「すまない、連絡しておけばよかった」


「いや、良いんだよ。ちゃんと帰ってきたんならそれで」


夕食の時。


「さっき迷ったっていっただろ?実はその時学校を案内してくれた人と少し話していたんだ。それでその・・・・・・友達になった」


「良かったじゃない?」


「うん、それで・・・・・・明日紹介する」


「紹介?うん?・・・・・・うん、分かった」


余程友達が出来たのが嬉しかったのか、京はその友達を伸二に紹介することにした。


「わ、私も!友達ができたから・・・・・・紹介してもいい?」


叶も友達が出来たらしく、京に負けまいと自分も伸二に友達を紹介することにした。


「じゃあ二人とも楽しみにしてるよ」


(友達ができて嬉しいのかな?と言うか紹介って・・・・・・紹介されたら何を話せばいいんだろう?)


次の日の朝、携帯を確認してみるとあざかから返事が届いていた。


心配ないらしいが2~3日休むとのこと。


昼休み、京の友達を紹介するとのことで、京は伸二を生徒会室まで連れて行った。


「もしかして生徒会役員に友達がいるの?」


「ああ、そうなんだ」


部屋に入ると、生徒会長の腕章を付けた一人の女性が気だるそうにパイプ椅子に座っていた。


彼女は部屋に入ってきた二人の姿を見た。


「あら、京じゃないの・・・・・・その彼は?」


彼女が伸二を見ていった。


伸二は慌てて自己紹介しないと、と思った。


「どうも、2年の氏神伸二です」


「生徒会長の鏡彩乃よ、氏神くん・・・・・ああ、君が噂の」


彩乃はこの学校の生徒会長で伸二の一つ上の先輩だ。


(噂・・・・・・?なんの?)


彩乃が小さく呟いた噂とやらは伸二には良く分からなかったが、妙にグラマラスでなんか雰囲気がエロいお姉さん。それが伸二が持った彩乃の印象だった。


「生徒会長が・・・・・・友達?」


「うん、そうだ」


「鏡、伸二は私の恩人で・・・・・・」


京が伸二のことを説明しようとしたが、伸二が遮った。


「実は事情があって僕の家に住んでいるんですよ」


「・・・・・・え?言って大丈夫なのか?」


彩乃を一目見て、話が分かりそうな人だと思い、伸二は打ち明けることにした。


「あら?そうなの?ふ~ん」


彩乃はふたりを見て不敵に笑う。


「まあ事情は聞かないでおくわ」


「助かります、先輩。・・・・・・京をお願いします」


そう言って伸二と京は生徒会室を出た。



二人が出て行った後、生徒会室。


「京も可愛いけど、あの彼も噂通りね・・・・・・」



放課後、今度は叶の所へ行くことになった。


校門で待っていて欲しいと言われ、待っていると叶と一人の女の子が来た。


(あれ・・・・・・?)


伸二には見覚えがある顔だった。


そういえば、叶のクラスを覗いていた時に本を呼んでいた変わった子だ。


やっぱり今日も刀を差していた。。


「あ、伸二くん。この子だよ」


「どうも・・・・・・氏神伸二です?」


伊達香奈女(だてかなめ)です」


どうやら挨拶は普通なようだった。


伸二は「ござる」とか「拙者」とか言われたらどういう反応をしたらいいのだろうかと思っていた。


「私、この人にお世話になってるの。だから紹介したいなあって」


「えーっと・・・・・・その、香奈女ちゃん?叶ちゃんと仲良くしてあげてね?」


「はい、そのつもりです・・・・・・あと、ちゃんはやめてください」


(あはは・・・・・・)


ご対面が終わると「ではまた」と香奈女はさっさと帰って行った。


香奈女が帰った後、伸二は叶に気になっていたことを一つ聞いてみた。


「友達ってあの子だけ?」


昨日あれだけクラスの女子に囲まれていたのに、友達はあの子だけなのだろうかと、伸二は疑問に思っていた。


「うん、それがね・・・・・・」


最初は何人か友達がいたらしいのだが、叶はクラスで孤立している香奈女を放っておけなくて、やや強引に友達になったのだという。


香奈女と友達にはなれたものの、香奈女と一緒にいる叶を見て段々友達が減って言ったそうだ。


香奈女は変わり者なので、伸二はそうなるのが分からないでもなかった。


普通は刀を持っている子にわざわざ近づこうとなんてしない。


しかし、叶は香奈女が友達になってくれただけで嬉しいそうだ。


別に友達が多ければ良いって訳でも無いし、まあそりゃ多ければそれはそれでいいのだろうが、一人の友達を大事にするのも大切だ。と伸二は思った。


その日の夜は香奈女の話になった。


「それにしても香奈女ちゃんって、ちょっと変わってるよね・・・・・・」


例の刀について伸二は何か知っているか叶に聞いてみた。


「ああ、あれはね・・・・・・小さい頃家で見つけた刀を気に入って、昔から肌身離さず持ってるんだって」


(家に刀・・・・・・先祖が武士なのかな?というか、そもそもアレって銃刀法違反じゃないの?まあ、あんまり触れないでおこう)


「へえ、そっか・・・・・・でも、まあ良かったよ、二人共友達ができて」


早速二人に友達ができて、伸二は安心した。

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