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氏神物語  作者: 斧竹石
3/12

弐栞姉妹

二人の過去が語り終わると、自分が涙を流している事に気づいた。


二人は何も悪くなかった。


こんなことをしていたのも生きるためだ。


だからと言って盗んでいいとは言わないけど、同じ状況なら自分だってそうする。


可哀想だと、心底同情した。


「ご、ごめん」


僕がいきなり泣いてしまったので、二人は少し困惑しているようだ。


「その顔の怪我は・・・・・・」


京の化粧などでは隠しきれないほどの顔の傷を見て伸二は言った。


「あぁ、逃げるときに窓ガラスの破片で」


(そうか、僕なんかがこの子達の痛みも苦しみも分かっては上げられないけど、何かしてあげられないかな)


と、僕は考えた。


「もう話すことはない。警察に突き出すならさっさとそうすれば良い・・・・・・どうせこれは賭けだったんだ」


「賭け?」


「もしここで大金を盗めればしばらくは生きていける。失敗したとしても刑務所に入れば・・・・・・死ぬ事は無い」


二人は最悪の選択を強いられていた。


「僕の家にこない?」


僕は二人に提案した。


「「え?」」二人が同時に声を揃えて言う。


「だから僕の家にこないか?って」


「何を・・・・・・」


「もし警察に連れて行ったとする。捕まって、そして刑期を終えたとしよう。その後どうする?君達には、前科と言うものが一生ついて回ることになる。今の世の中ハンデを背負って生きていくのは難しい。それに前科がなくとも行く場所なんて無いんでしょ?」


「それはそうだが・・・・・・」


いきなり言われても急に「はい」とは言えないだろう。今日初めて会った相手を信用するのは難しい。


すると妹の方が口を開いた。


「お姉ちゃん、ダメなの?」


「でも・・・・・・」


「あの人とは違うかも」


「簡単には信用できない」


(困ったな・・・・・)


二人が擬人暗記になるのも仕方ない。信じていた人に裏切られたのだから。


「さっき鍵がかかっている部屋に入ろうとした時、僕は怒ったよね?自分で言うのもなんだけど、僕は人生で数えるぐらいしか怒ったことはないんだ」


「あの部屋には僕の家族が昔住んでいてね、彼女は今外国にいるんだけど・・・・・・さっきも言ったように、僕は約束している。彼女が帰ってくるまではあの部屋を開けないって」


「僕はなによりも家族を大切にする。僕の命よりも、お金よりもなによりも。

そんな家族との約束を破るような真似はしないよ。そこでだ、もし僕が君たちを傷つけるようなことをした場合はこの部屋を開けて中の物を全部捨てるよ。何ならこの命だってかける」


僕の真剣さが伝わったのか、少し考えているようだ。


彼女達には「はい」と言う選択以外無いはずだ。


「あぁ分かった・・・・・・でもまだ信用した訳じゃない」


「やった!」


妹の方は少し喜んでいた。


「まあ心配しなくても大丈夫だよ、君たちに何かしようなん考えないから」


とりあえず自己紹介でもしようか。本日2度目。一日に二回も自己紹介をするとは思わなかった。


「僕は氏神伸二。丁度今日から高校2年で、お姉さんと同じで16歳。よろしくね?・・・あ、さっき肘打ちしてごめんね?君に殺意が無いのはちゃんと分かってたんだけど」


「い、いや・・・・・・大丈夫、よろしくお願いします」


「よ、よろしくです」


「うん、じゃあとりあえず買い物に行こうか」


何かと入り用のものがあるだろうし取り敢えず出かけるか。


まずは着替えないと、いろいろあって忘れていた。


「ちょっとリビングで待っていてね、着替えてくるから」


「「はい」」


~リビング~


「大丈夫なのか?成り行きとは言え此処に住むことになってしまったけど」


「大丈夫だよ、あの人は家族を一番に大切にする。きっと良い人なんだよ」


叶はそういえばと先ほどの光景を思い出す。


「私男の人が泣いてるの初めてみたよ」


「そうだな」


京は思った。見ず知らずの人間を家に住まわす何て、何を考えているのだろか?


「着替え終わったよー行こうか?」


と、彼の声が聞こえてきた。


~伸二の部屋~


「・・・・・・ふぅ。成り行きでこうなってしまったものの、大丈夫・・・・・・だよね?あんまり同年代女の子と接したことないし、まあ二人が心を開いてくれるように頑張るしかないか」


あざかは女の子らしくないので、同年代の女の子には含まれていなかった。


よし、着替え終わった。


「着替え終わったよー行こうか?」


取り敢えずデパートにでも言って必要なものを買おう。


デパートまでは電車で行く。


電車の中、僕は京達に話しかけた。


「その、なんていうか」


うーん、「敬語じゃなくてもいいよ?」なんて言っても素直にタメ口になりそうもない。


「僕の家に住むに当たってルールがあります。まず、僕に対して敬語は使わない。歳はそう変わらないからね。名前も氏神さんとかじゃなくて呼び捨てでいいから」


「それだけか?」


もっと厳しいルールなのかと思ったようで、京は腑に落ちないという顔をした。


「うん、わかったよ。伸二君」


妹の方が可愛らしく答えた。


とりあえず言ってみたものの今の所ルール何てこれしか考えてないからな。


「まあ、また適当に増やしていくから」


そういえば二人の名前・・・・・・書き方は違うけど読みは一緒だった。


どうしようかな?


「えーっと、二人は名前の読み方一緒なんだよね?んー・・・・・・じゃあお姉さんの方は京で妹ちゃんの方は叶ちゃんって呼ぶことにするよ」


二人は納得いったようで頷いた。


電車が目的の駅に着いたみたいだ。


「降りるよ、二人共」


「あぁ」


「う、うん」


駅から歩いて1分程度にある大型のショッピングモールを目指す。


電車ですぐなので、学校帰りの高校生なんかが結構いたりする。


取り敢えず衣類かな。


「服を買いに行こうか」


うーん、女性物の服はどこかな?


4階か、エレベーターで行こう。


「二人共はぐれちゃダメだからね」


4階の女性物の洋服売り場についた。


「じゃあ取り敢えず普段着と下着、適当に一週間分ぐらい選んでね。あ、後パジャマとか他にもいる物は適当に・・・・・・僕を他を回っているから」


二人を置いて僕は他のところをウロウロしていた。


そして30分後、二人の元へと戻ってきた。


「選んだ?」


「ま、まだ・・・・・・もう少し待って」


「私もまだだ」


聞くとまだ二人は選び終わっていないようだ。


んー女の子は服を選ぶのに時間がかかるって言うからなあ。


仕方がない。


「また30分後にくるから」


そしてまた30分後。


流石にもう選び終わっているよね?


「終わった?」


「あ、後ちょっと・・・・・・」

「も、もう少しだけ見させてくれ・・・・・・」


まだだったか。


「また30分後にくるからね~」


更に30分後。


もう・・・・・・いいよね・・・・・・?


女の子の買い物はこんなに長いものなのか?


「もう・・・・・・終わったよね?」


「それがまだなの・・・・・・」


「すまない・・・・・・」


・・・・・・・・・。


「もう僕が選ぶ!長すぎるよ!」


長いのでこうなったら適当に僕が選ぶことにしようと、二人に着いていった。


「これとこれで迷ってるんだよね・・・・・・」


「私はこれとこれだ」


あーそうか迷っていたのか。


「両方買えばいいよ、二人ともそれなら迷わなくて済む」


「良いの?」「良いのか?」


二人が声を揃えて言った。


「いいよ」


「じゃあまた30分後にくるからそれまでには絶対選んでね!!!」


30分後。


「よし!終わったよね?」


「うん、選んだよ!」


「私も終わった」


はあ・・・・・・ついに終わったか・・・・・・。


長い戦いだった。


二人が選んだ衣類買い終えた。


「次は、そうだね、僕の家テレビ以外は暇つぶしするものないからなんか適当に買ってきていいよ」


「適当にって、例えば?」


叶ちゃんが何を買えばいいのか分からないようで僕に聞いてきた。


「え?あー・・・・・・ゲームとか本とか?まあ、適当に」


そういえば、昔あざかと大輔とやったトランプがあったような気がするが・・・・・・。そんなものでは現代っ子は満足しないだろう。


「それじゃ僕はフードコートにいるから」


はあ・・・・・・疲れた・・・・・・。


アイスティーでも飲もう。


それから、20分後ぐらいに二人は戻ってきた。


「じゃ、帰りますか」


大量の荷物を持ち帰り、家に到着。


「あ、そうだ・・・・・・夕飯の買い物してなかった。京、悪いけど近くのスーパーまで行って何か買ってきてくれないかな?・・・・・・場所わかる?」


「分かった。この辺は少し前から居たから場所は分かる」


「そっか、じゃあお願いするよ。何かあったら電話して」


取りあえず一つ使用頻度の少ない携帯を京に渡しておいた。


「それじゃあ行ってくる」


「気をつけてね」


「お姉ちゃんいってらっしゃい」


京が買い物に行ってからしばらく。


んー・・・・・・もう9時か。暗いな。ああ、今更心配になってきた。


まあ携帯あるから大丈夫かな?


いつでも出られるようにしておこう、うん。


「・・・・・・」


15分後。


京に持たせておいた携帯から着信が届いた。


ん?何かあったのか?


「もしもし京?どうしたの?」


「たすけて・・・・・・」


ツー、ツー、ツー。


・・・・・・え。


電話を切ってすぐに僕は玄関へと向かった。


「ちょっと出かけてくる!待っててね!」


「うん?」


僕はスーパーの方へ向った。


~少し前スーパーにて~


スーパーで買い物を済ませ、京は伸二の家へと帰ろうとしていた。


「よし、帰るとするか」


既に日は落ちている。それに加えて街灯が壊れているらしく辺は一層真っ暗。


「暗いな・・・」


気がつくと後ろから何人か人が着いてくる気配がして。


振り返ってみると数人の男が京の後をついて来ていた。


「よっ!お姉さんお一人?」


「うおおぉ!チョー美人じゃん!」


運悪く不良達が京を見つけて絡んできた。


(やばい、この数じゃ逃げられない)


そうだ、と携帯を渡されていたことを思い出し、慌てて伸二に電話をかける。


数コールの後電話は繋がる。


『もしもし京?どうしたの?』


「たすけて・・・」


伸二に助けを求めようとしたその時、不良の一人に携帯を奪い取られた。


「おい!」


「サツに電話したんじゃねーの?」


「履歴見てみろよ」


不良たちは京から奪った携帯を確認する。


「あん?・・・・・・サツにはかけてねーみたいだけど、今誰かにかけてた」


「・・・・・・まあ、喋る前に取り上げたし大丈夫だろ」


(聞こえただろうか?)


「おい!おめぇらぎゃーぎゃーうるせーぞ!どけや!」


「う、上宮さん!さ、さーせん!」


不良たちの中心人物であろう上宮と呼ばれた男が京に近寄ってくる。


「へえ、中々の美人じゃねーの」


上宮は京の胸に手を伸ばす。


・・・・・・手が触れようとした瞬間。


「やあ、僕も混ぜてよ?」


伸二の声がした。


~少し前~


京からの電話で僕はすぐに家を飛び出しスーパーへと向かっている途中。


やけに暗い路地裏に数人の男が見えた。


もしかして・・・・・・嫌な予感がした。


駆け寄ってみると、そこには京と京を取り囲む不良たちがいて、その中の一人が京に手を伸ばしていた。


「やあ、僕も混ぜてよ?」


不良グループの背後から声をかける。


「あん?てめぇだれだコラァ!!!」


映画で良く一番初めに死にそうな奴が吠えてきた。


「助けて!」


京が怯えた表情で僕に助けを求めた。


「騒ぐな・・・・・・なんだ?こいつのツレか?」


「おめぇなめてんのか?この人数相手に一人で勝てると思ってんのかコラァ?」


7人か。


「どうかな?」


ニコニコ。


言うと不良たちが僕に向かって襲いかかってくる。


数秒後。


7人は地面に這いつくばっている。


僕は少し離れたところでしゃがみこんでいた京の元にかけよる。


「京、大丈夫?怪我はない?」


「あ、ああ・・・・・・」


「立てる?」


僕が差し出された手を取って京は起き上がる。


「京はスーパーの中に行ってて」


「あ、ああ」


ここって治安悪かったっけ?


これからもここのスーパーは使うだろうし。どうしようか?


やっぱりあの人らにはここ一体から出て行ってもらうしかない。


「リーダーとかいる?」


「・・・・・・オレだ」


倒れる連中に声をかけると、一人の男がお腹を抑えながら立ち上がった。


「じゃあ、君と話がしたい」


場所を変えよう。


少し路地の裏に入ると、僕はすぐにそいつを壁に叩きつけた。


「今回の事は許す。次にもしこんな事があったら・・・・・・」


比較的相手に恐怖を植え付けるように言った。


「ひいいいっ!」


「近いうちにここら辺から立ち去ることだ。・・・・・・じゃあね」


はあ・・・・・・これ以上馬鹿な事を考えないと良いけど。


「あ、そうだ。早くスーパーに戻らないと!」


路地裏から出ると僕はすぐにスーパーまで走る。


京は言っておいた通りスーパーの入口付近で待っていた。


京は僕の姿が見えると少しだけ笑みを浮かべた。


「帰ろうか?」


「ああ」


帰り道の途中京がおもむろに僕に聞いた。


「なあ、聞いてもいいか?」


「なに?」


「考えてみたんだが・・・・・・おかしくはないか?私が電話してから1分も経ってない」


「うん?それが?」


「いや、マンションからスーパーまで早くても5分以上はかかるはずだ・・・・・・おかしい」


「んーあれじゃない?緊張か何かで感覚が変になってたんだよきっと、それにスーパーまでじゃなくて、スーパーの途中までだから」


「そうなのか・・・・・・?」


京は不満そうだった。


「まあ取り敢えず無事でよかったよ」


僕はごまかす為と、京の気持ちを落ち着かせるために頭を撫でた。


「すまない」


京は恥ずかしそうに顔を俯けていった。


京を連れて自宅に戻る。


玄関を開けると、叶ちゃんがリビングから走ってきて、京に飛びついた。


「もう!いつまでも帰ってこないから心配したよ!」


あ、そういえば叶ちゃんに連絡するのを忘れていた。


「すぐ帰ってくるって言ったのに全然帰ってこないし・・・・・・」


「ごめん、ちょっとスーパーで並んでてさ。中々帰れなかったんだよ、そうだよね?」


「あ、ああ、そうだったんだ。ご飯作らないと・・・・・・」


叶ちゃんを心配させるといけないからっと帰る途中で話を合わせておいたのだ。


・・・・・・。


あれ?今なんて?


「作る?ごはんを?」


「そのつもりだが、何か問題でもあったか?」


「いや、てっきりお弁当でも買ってくるのかと思ってて」


料理が出来るのだろうか?


「施設でも、あの人の家でも・・・・・・色々やってきたから。こう見えても料理はできるんだ」


少し誇らしげに京が言った。


「そっか、じゃあ出来たら呼んでよ、僕は部屋にいるから」


僕は少し疲れたので、部屋に行って少し横になった。


~キッチン~


その頃料理中の京と手伝っている叶はこんな会話をしていた。


「それにしても・・・・・・買い物が楽しくて、あいつに買ってもらっているということを全然考えていなかった」


「あっ、そ、そういえば・・・・・・そうだね」


会話しつつ料理を続ける二人。


「やっぱり良い人だよね?」


「ああ、そうかもしれないな。もう少し信用してみることにしよう」


少し京は伸二に対する認識を改めた。


そして1時間程経ち、料理が完成した。


「叶、呼んで来て」


「うん、わかった」


叶は伸二を呼びに向かった。


叶は伸二の部屋の前に立ち、一度深呼吸をしてからノックをした。


しかし返事は無かった。


(あれ?)


「伸二君はいるよ?」


スースーと寝息が聞こえる。


どうやら伸二は寝ているみたいだった。


叶は眠る伸二に近寄り、寝顔をマジマジと見つめる。


「可愛い・・・・・・かも」


「ん、ん・・・・・・?」


「わっ・・・・・・!」


伸二が目を覚ましそうになり、叶は慌てて仰け反る。


「え?ああ、ごめん・・・・・・寝てた?」


伸二は気だるそうに体を起こす。


「うん、あの・・・・・・ご飯できたよ?」


「あ、うん、行くよ」


伸二は叶とリビングへと向かった。


~リビング~


うおおお!


リビングの行くと、机にはたくさん料理が並んでいた。


こういうのは久しぶりだなあ。僕料理できないし。


「美味しそうだね、これ全部作ったの?」


「うん?」


「私も手伝ったんだよ」


リビングに置かれた机に向かった。


「いただいてもいいのかな?」


「ああ、もちろん」


「いただきます」


僕が手を合わせて言うと二人が続いた。


「「いただきます」」


唐揚げがあったので、それを一口頂いた。


「・・・・・・」


うん、美味いなあ・・・・・・懐かしさを思わせるような味だ。


「すごい美味しいよ!」


二人はちゃんとご飯を食べるのが久しぶりだったのか、すぐに食べ終わった。


「本当に美味しかったよ、ごちそうさま」


3人して手を合わせた。


その後、僕はソファに座りTVを見ていて、二人は食器を片付け、洗い物をしていた。


そんな最中「ガシャーン!」と、お皿が割れる音が部屋に響いた。


二人の方を見ると、叶ちゃんが今にも泣きそうな声でお皿を落としたまま固まっている。


僕は叶ちゃんの方に向かった。


何故か叶ちゃんは体が震えていて、顔は恐怖の色に染まっている。


「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


ポロポロと涙を流して叶ちゃんが僕に謝ってきた。


「きょ、叶は悪くないんだ!私が!」


何故か京が叶ちゃんを庇った。


「叶ちゃん」


「ごめんなさい!」


「叶ちゃん?」


「ごめんなさい・・・・・・もう、落としませんから」


そうか・・・・・町田塔子の事が重なっているのか。


僕は彼女の様子を見てひどく胸が痛くなった。


僕は叶ちゃんに近づいてそのまま何も言うことなく頭を撫でた。


「もう謝らなくて良いんだよ。もう叶ちゃんをいじめる人はいないから」


溜まっていたものが溢れ出したようで、叶ちゃんはしばらく泣き続け、僕はずっと叶ちゃんを頭を撫でて慰めていた。


しばらくして叶ちゃんが泣き止んだ。


「もう大丈夫?」


「大丈夫」


「怪我してない?」


「う、うん」


「良かった・・・・・・割れたお皿は僕が拾うから、他のお皿運んでよ」


僕は手を切らないように破片を拾ってゴミ箱に捨てた。


その後、少し空気が重くなって、二人は黙々と食器を片付けていた。


重苦しい空気を壊すべく、二人に問いかける。


「二人とも学校行きたいよね?」


「学校・・・・・・う、うん」


「私も」


施設では小中と通っていたそうだが、町田塔子の家に行ってからは二人共学校には行っていなかったそうだ。


「そっかじゃあ手続きしておくよ。あ、そうそう、お風呂だけどできれば二人ではいってくれないかな?一人ずつ入っていたら時間かかっちゃうから」


僕は後で入るから先に入っていいよ、と言って僕は自分の部屋に戻った。


「学校か、何だか夢見たい」


「あぁ、でも、本当にいいのか?私ちょっと話をしてくる。叶、悪いけどちょっと部屋で待ってて」


「うん、わかった」


京は一人伸二の部屋に向かった。


二人がお風呂を入り終わる前まで僕はまたベッドに横なっていた。


すると、部屋の扉がノックされ、その後に京の声が聞こえる。


「私だ」


「どうぞ」


京が一人で部屋に入ってきた。


「ん?どうしたの?」


「さっきは叶の事・・・・・・ありがとう」


「ううん、良いよ」


それだけではないようで、京は何か言いたそうにしている。


「ん?」


「その、私たちをここに住まわせてもらって、その上学校まで行かせてもらえるな

んて・・・・・・本当にいいのか?」


「いいって?なにが?」


「お金結構かかるだろう?それに私たちがいて迷惑になったりしないか?」


「お金の事は心配いらないし、迷惑になんてならないよ?そもそもそんなこと思ってるなら、ここに住まないか?なんて言わないよ」


お金なら掃いて捨てるほどある。


「そ、そうか・・・・・・でも恩を返しきれるか分からない」


恩返しか・・・・・・。


「京、君もだけど。叶ちゃんもきっと幸せであることに慣れていないんだよ、何も負い目に感じることはない。これからがスタートだと思えばいいんじゃないかな?今の君はそこら辺にいることなんら変わりはない普通の女の子だよ?」


「これからがスタート・・・・・・」


「うん、それに二人には恩なんて返さなくてもちゃんと仕事を用意してる」


「仕事?」


京は少し不安な顔をした。


「まあその話はともかく早くお風呂はいっておいで」


「あっ、そういえば叶を待たせたままだった」


「ゆっくり入ってくるといいよ」


京がドアを開けて出ていこうとした時。


「あ、そうだ。京はいつになったら僕の事を名前で呼んでくれるのかな?」


ニヤニヤ。


「ああ・・・・・その、いろいろありがとう・・・・・・伸二」


良きかな、良きかな。


~お風呂に入る二人~


伸二の部屋を出た後京はすぐに叶の下へと向かった。


顔が熱くなった京は、早くお風呂に入ろうと、小走りで叶の待つ部屋に向かった。


部屋に入る叶が怒っていた。


「おそいよ!」


「ごめん、じゃあ、行こう」


二人は着替えを持ってお風呂場に向かった。


(こんな大きい家だとお風呂はどんな感じなんだろう?)


実は少し気になっていた京。


二人はさっさと服を脱いでお風呂場のドアを開けたその瞬間。


二人は驚愕した。


そこにあったのはお風呂・・・・・・というよりほぼ温泉や銭湯に近かった。

「わー!ひろーい!」


叶が騒ぎ、その声がお風呂場に響いた。


「ああ、まるで温泉だな」


温泉みたいに大きい浴槽に、サウナまである。


それにシャワーが何箇所もある。


「すごいな・・・・・・本当にここマンションなのか?」


驚きつつ、二人は伸二を待たせてしまうかと考えて早めにお風呂を上がった。


~少し後~


「お風呂上がったよ~」と叶ちゃんが教えてくれたので、僕も早速お風呂に入ることにした。


今日は疲れていたのでお湯には浸からなかった。


お風呂を上がり、話があると二人をリビングに呼んだ。


あ、そうだ。


「もっとゆっくり入ってくれても良かったんだよ?僕あんまり長風呂じゃないし」


「そうか、じゃあ次からはそうさせてもらう」


気を使うのは仕方がないが・・・・・・そのうち慣れるだろう。


「じゃあ本題。えーっと、二人には明日からこの家の家事をしてもらいます。京、コレがさっき言った仕事だ。まあなんだ・・・・・・住み込みの家政婦見たいなものかな?」


まあこれは建前。恩だとか言われても困る。


「掃除、洗濯、食事の用意、ようするに家事全般ね?ということでよろしく!じゃあ僕は部屋にいるから」


最初は何の利害も考えていなかったが、今思えばこれでハウスクリーニング代が浮く。


部屋に戻り、部屋に置かれた椅子に腰掛ける。


「本当に今日はいろいろあったな・・・・・・あ、そうだ。手続き済ませとかなきゃ」


電話をかける。


「あ、理事長・・・・・・うん、またお願いがあるんだけど・・・・・・」


電話をかけ終わってすぐに部屋の扉がノックされた。


「伸二君?」


どうやら叶ちゃんのようだ。


「は~い、どうぞ」


というと叶ちゃんが部屋に入ってくる。


「どうしたの?」


「その一様勉強はしてたんだけど、施設から出たあとは学校に行けなかったから、施設の時は学校に行くことだけが楽しみで・・・・・・だから・・・・・・その、私たちにとっては・・・・・・学校に行けるってことはすごく、すごく幸せなの。

だからね・・・・・・ありがとう、伸二君」


叶は涙を流しながらも最後には笑って言った。


「そっか・・・・・・良かった」


頭を撫でてあげた。


「そ、それから、さっきはごめんなさい。取り乱して・・・・・・」


「良いんだ、簡単に忘れられるようなことじゃない。叶ちゃんは悪くないんだ」


「・・・・・・うん」


「もう遅いし、また明日も買い物だからもう寝なよ」


すでに12時を回っていた。


「うん、ありがとう・・・・・・おやすみなさい」


「おやすみ」


そうか。


「学校」


軽い気持ちで言ったつもりだったけど、二人にすれば得難い幸福なことだったのか。


~その後二人の部屋~


「叶、なんだったの?」


「うん、その私も・・・・・・お礼を言おうと思って」


「そう」


京には、叶の顔がどことなく緊張というのだろうか?良い意味で気が抜けているような気がした。


「じゃあ寝よっか、お姉ちゃん」


「おやすみ」


久々に感じる布団の暖かさを感じながら二人は眠りに落ちた。


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