二人の過去
その二人の過去を話そうとする京の顔は強ばっていて、叶は今にも泣きそうな顔で京にしがみついていた。
そして、二人の過去が語られる。
私たちは捨て子で施設に居た。
18歳になって自立するか、里親が現れるのを待つのか、どっちらかしか施設を出る方法はなかった。
私たちはこう言う事を言える立場じゃない事は分かっているけど、離れ離れになるのだけは嫌だった。だから二人を両方引き取ってくれる人を探していた。
当然だが二人両方引き取ってくれる人は中々居なかった。だから私たちは1年前まではずっと施設でお世話になっていた。
そしてその一年前ついに私たち姉妹二人ともを引き取ってくれるという人が現れた。
もちろん私たちはこのチャンスを逃さなかった。
その人は町田塔子という女性で、夫が他界してから寂しく一人暮らしをしているらしく、その寂しさから私たちを養子に迎えることにしたそうだ。
そしてその人が私たちを引き取りに来てくれる日が来た。
第一印象はとても優しそうな人だと思った。
私たちは施設の人に今までのお礼を言って彼女の乗って来た車に一緒に乗った。
彼女の家は一軒家で、一人で住むには少し広いようだった。
そして私たちの住むに当たって必要な物は全て揃えてもらった。
素直にその時はいい人だと思った。
彼女は「私の事家族だと思っていいからね、自分の家だと思って自由にしていいからね」と言ってくれた。
私も叶もすぐに慣れることができなかった。
当然といえば当然だ。
昨日まで他人だった人を家族だと思って良いと言われても難しい。
他人の家を自分の家だとは簡単には思えない。
私たちは住まわせてもらっている身なのだから、せめて家の手伝いぐらいはしようと思った。
私はともかく叶は手伝いをするようなことは今まで無かったから最初は失敗ばかりだった。
食器を割ったり、洗濯機の使い方を間違えて洗濯物をめちゃくちゃにしたり。
だけど彼女は怒らずに「初めてだから仕方ないわ」と言ってくれた。
そうして、徐々に彼女の家で過ごすのにも慣れてきた。
施設から離れてもう10ヶ月ほど経ち、叶も私も彼女の事を名前で「塔子さん」と呼ぶようになり、私たちの仲は縮まり、私たちはここでの暮らしが楽しくなり始めた頃だった。
私たちが築いてきたものは全て崩れ落ちた。
その日は、彼女の夫であった町田徹の命日だった。
彼女の様子がいつもと明らかに違っていた。
いつもは明るい元気な女性なのだがこの日の彼女は無言だった。
私たちもこの日が命日だということは知っていて、彼女をそっとしておくつおりだった。
彼女はリビングのイスに食事取らず、一言も話すことなく、ただずっと座っていた。
夜ご飯が食べ終わり食器を洗っていた時だった。
今日は叶が食器を洗う当番だった。
半年も手伝いしているので、最近はお皿を割ったりすることはなかったのだが、たまたまこの日に限ってお皿割ってしまった。
叶は直ぐに「ごめんなさい!」と塔子に向かって言った。
いつもの彼女なら、「良いのよ、お皿の一つや二つ」と叶の頭を撫でるところだ。
だがその日は違った・・・・・・。
塔子は叶がお皿を割ったことに反応しなかった。
叶は不安になったのか
「あ、あの・・・・・・その・・・・・・ごめんなさい!」
ともう一度塔子に謝った。
すると「ピクッ」と彼女の手が少し動いた。
「・・・・・・るさい」
「え?」
「うるさい!だまれ!!!」
塔子は今まで見たことのないような形相で言い、叶の髪を引っ張った。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
叶は何度も謝ったのに、塔子はやめなかった。
「痛い!!お姉ちゃん助けてー!!!」
二階にいた私は叶の声を聞いて直ぐに駆けつけた。
私が下に行くと塔子さんが叶の髪を引っ張り、顔をぶっていた。
「塔子さん!止めて!叶が何をしたの!?」
「うるさい!お前もだまれ!」
と塔子は私を突き飛ばした。
そして塔子は叶に向かって「お前は何枚皿を割ったら気が済むんだよ!いつまでたっても成長しないガキだね!まったく!」
言い放ち、塔子は叶の腹を蹴った。
「もう!やめて塔子さん!叶が・・・・・・叶が死んじゃう!」
「うるさい!!!」
塔子は止めず、更に叶の髪を引っ張り床に叩きつけた。
叶は頭をうち気絶した。
そこでようやく塔子はおさまった。
私は叶のそばにいった。
「叶・・・・・・叶?大丈夫?」
「ったく・・・・・・そのガキ死んでないだろうね?」
塔子は言った。
私は二階まで叶を抱きかかえていった。
叶を抱きしめたまま、「きっと夢だ・・・・・・」そう信じて私はそのまま目を閉じた。
当然それは現実だった。
その日から地獄の始まり・・・・・・いや、既に始まっていた。
この家を出ても他に行くあてが無かった。
私たちはいつか救われると信じて耐え続けた。
あの日を境に塔子は豹変し、毎日ろくな食事も与えてもらえず、毎日傷を負わされた。
外に出ることも許されなかった。
2~3ヶ月の間私たちはずっと耐え続けた。
だけど・・・・・・もう体も心も限界だった。
ある日の夜、叶が私にこう言った。
「私もう・・・・・・耐えられない。逃げよ?行くあてがなくてもここにいるよりかはましだよ」
「そう、かもね、私ももう限界」
私たちは逃げ出すことにした。
玄関の扉には私たちが逃げられないように内側に鍵がついていた。
そのほかに出入口がなく、逃げ出すには窓を割って出るしかなかった。
しかし、窓を割れば確実に塔子に気づかれる。
それにもし脱出できなければ、殺されるかもしれないと思った。
チャンスは一度きり、その夜塔子が寝静まったのを確認すると、リビングからイスを持ってきて思いっきり窓に向かって椅子を叩きつけた。
「ガシャーン!!!」
よし割れた!急いで出ないと!
そう思ったその時。
「おい!あんたたち!なんのつもりだい!」と塔子がこちらへ向かってくるのが分かった。
「叶急いで!先に行って!」
窓は完璧に割れたわけではなく、小柄な叶でも割れたガラスに触れないと通れなかった。
「うっ・・・・・・痛い・・・・・・と、通れた!・・・・・・お姉ちゃん!もう後ろにきてる!はやく!」
叶が窓から脱出し、叫ぶ。
「仕方ない・・・・・・」
思い切って、私は窓に向かって飛び込んだ。
「っ・・・・・・!」体中にガラスが刺さる。
「叶走って!早く!」と私は痛みを抑え、叶の手を握ってできるだけ遠くまで走った。
「はぁはぁ・・・・・・も、もう大丈夫・・・・・・?」
「やった!抜け出せたよ!・・・・・・でもこれからどうしよう?」
「取り敢えず休みましょう」
それから一週間この町にたどり着いた。
盗みをして生きてきた。
悪い事だとは思っている。
でも私たちも生きるのに必死で・・・・・・仕方が無かった。
少し経つと流石に手口がバレてきて・・・・・・空腹で死にそうだった。
もう一層食べ物じゃなくて本当にお金を盗んだらって思った。
そして、この町で一番高いマンションの最上階ここならちょっと探しただけでも充分生きられるだけのお金があると思った。
でも・・・・・・ここには何もなかった。
そしてあなたに捕まった。




