初夏
伸二が高校に入ってからというもの、色々な出来事があった。
弐栞姉妹の件。あざかの件。彩乃の件。
今上げたのは悪いものが多かったが、良いことも色々あった。伸二の家に住む住人が増えたり、約束通り大輔のサッカーの試合も見に行った。当初伸二とあざかの二人で行くはずだったが、面白そうということで、弐栞姉妹、彩乃、叶に誘われて無理やり香奈女も来て、結局皆で大輔の試合を見に行くことになった。
大輔の試合は悲惨だった。普段は大活躍と自負しているが、今回は普段来ない女の子の応援がいて、格好つけようとした大輔は調子が出ずに空回り、終始グダグダ。
しかし、最後の最後で大輔は点を決め、それまでの失敗がチャラになることはなくとも、失望まではされなかった。
大輔の試合が終わり、数日後のこと。
伸二はスーツを着込んで、花木家へと向かっていた。
ここ最近何かと仕事を頼んでいたので、お礼を兼ねて挨拶をしにいく事にした。
伸二は出かける前にどうしてスーツ何か着ているのかと、皆に不思議がられたが、
説明するのが面倒くさかったので、適当に誤魔化しておいた。
(暑いな・・・・・・)
6月とは言え、温暖化の原因か何なのか、伸二はスーツ何て着ていたら暑くて死にそうだと、一人汗をかきながら歩いていた。
伸二の家の最寄り駅から電車で数本、そこから歩くこと15分。
無駄に大きい寺のような家の前まで伸二は足を止める。
その家の前には、伸二と同様スーツを来たガラの悪い男が二人立っている。
「「お待ちしていました!!!」」
伸二が来ることを知っていた二人の男は伸二に向かって盛大に挨拶をする。
「あ、どうも・・・・・・暑くないんですか?」
自分が来るまでずっとここで待っていたのだろう、と伸二は二人の男を少し心配して言った。
男達の顔からは汗がダラダラと滝のように流れている。
「コレも仕事ですので!どうぞお入りください!!!」
満面の笑みで男が伸二に向けて言った。
(元気の良いなあ・・・・・・)
伸二は男に家の中まで通された。
家の中は全て和風。その家の一つの和室に伸二は案内された。
その部屋の中には、70代程の着物を着た男が座布団の横に立っていた。
年齢的にはおじいさんと呼ばれても良いぐらいに年老いたその男の名前は花木宗二。現花木組の組長である。
宗二の隣には、若頭である花木宗が笑顔一つ見せず、怒っているような顔で立っている。しかし、怒っているわけではなく、これが彼の素の顔なのだ。
「ご無沙汰してます」
伸二が宗二に言うと、宗二と宗が静かに頭を下げる。
「わざわざご足労頂いて申し訳ありませんねぇ」
「いえ、たまには顔を出しておかないと」
伸二は持ってきていた小さな包を二人の前に持ち出し「つまらないものですが」と手土産を渡す。
ここまで伸二を案内してきた男が、伸二の前に座布団を用意したので、伸二はその上に座る。
「あの時は本当にありがとうございました」
伸二が座り、ひと呼吸おくと、宗二が待っていたかのように伸二にそう言った。
「会うたびにそれ言うのやめてくださいよ」
「いえ、そういうわけには・・・・・・」
宗二の言うあの時とは。
数年前、まだ伸二が色んな所に首を突っ込んでいた時代のことで、伸二があざかや大輔と会う前の話。
この花木組と言うのは伝統的な文化を重んじる。要するに古臭い。
悪いことではないが、融通が利かなくて、その時花木組はお店で言うなら経営危機のような状況に陥っていた。
全ての組がそんな事をしているとは言わないが、その道の人は薬物を売ったり、人の密輸など、様々な非合法な取引で利益を得て、そのお金で組を支えたり、大きくしたりしている。
しかし、この花木組はそう言った事はしない。薬物や基本的に非合法な物を売買することはないが・・・・・・法律に触れるようなことをしていないかというとそうではない。
伸二はその花木の存亡に関わるような状況に陥る前から宗二とは面識があった。そこまで深い関係では無かったが、事情を知った伸二は宗二を、花木組を助けることにした。
花木は横のつながりが広いので、役に立つかもしれないと思って、伸二は手を貸すことにした。
実際宗は何でも屋のように伸二に度々使われている。伸二の頼みなら、宗は多少無理なこともやってのける。
そんなわけで、伸二は花木親子共にそれなりの親交がある。
「宗さんにはいつも助けてもって・・・・・・」
「いえいえ、倅で良ければいつでも使ってやってください」
「ええ、すぐに駆けつけますので」
伸二に大きな恩があると思っている宗は、伸二に絶対的な忠誠心を持っている。
「ホント助かります」
ほとんど昔話をする宗二に、伸二は嫌気が差してさっさと帰ることにした。
「もう行かれるんですか?」
「ええ、僕もこれで色々忙しいんで」
「・・・・・・そうですか」
伸二が帰ろうとするので、宗は引き止めるが、しつこくは言えない。
「お気をつけて」
伸二は花木の家を後にして、帰りにケーキ屋に寄った。
何か変なことをしていたのではないかと、皆に疑われないように、誤魔化すためにケーキを購入して帰った。
少し時が経ち、7月中旬夏休み前の頃。
学校の休み時間であった。
「うあー・・・・・・後一週間も学校あるじゃん・・・・・・」
あざかが机に突っ伏して、唸っていた。夏休み前ということもあり、学校中が浮き立っていた。それは伸二も変わりなかった。
「大輔は夏休みもずっとサッカー?」
「おう、唯一出かけるとしたら合宿の時だけだな・・・・・だあああ!!!俺の青春があああ!」
「そっか大変だね・・・・・・京は何か出かける予定とかあるの?」
「特には無いが、強いて言えば彩乃と出かけるぐらいか」
「あざかは・・・・・・って大丈夫?」
皆に夏休みの予定を聞いて回っていた伸二は、あざかにも何をするのかと聞こうと思っていたのだが。
「ぅ・・・・・・」と唸りながらあざかはずっと机に突っ伏していた。
温暖化だの、エコだので、今年の夏はクーラーは付ける頻度が異常に少ない。
しばらくしてもあざかの反応は無い。
本当に大丈夫なのだろうかと、伸二はあざかを心配した。
「無理なら保健室いきなよ?あそこならクーラーついてると思うし」
伸二はあざかに声をかけてみるが、応答なし。
(これはちょっとヤバイかな・・・・・・)
「ちょっとあざかを保健室まで連れて行ってくるから、先生に言っておいてくれない?」
伸二があざかを保健室まで連れて行っている間に授業が始まってしまいそうだったので、大輔に言伝頼んだ。
「あ、あぁ・・・・・・分かった」
あざかがぐったりしている様子に大輔も少し不安なようだった。
「持ち上げるよ?」
伸二はあざかの腕を持って引っ張り起こし、力任せにあざかを背負った。
いつもなら恥ずかしがるはずなのに、今は唸るだけで特に何も言ってこない。
これは重症だと思い、周りが騒めくのも気にせず、伸二はあざかを背負いながら校内を駆け、保健室まで走る。
校舎が広く、中々保健室にたどり着かない。
「あら、伸二くんじゃないの?」
伸二の姿を見つけた彩乃が声をかけてきた。
「あ、どうも。というか何でこんな所に?もう休み時間終わってますよ?」
「移動教室なんだけど、忘れ物しちゃって、それで教室に取りに行ってたの・・・・・・それより、あざかちゃんどうかしたの?」
彩乃は伸二が背負っているあざかを見て心配そうに言った。
「熱中症みたいで、今から保健室に行くところなんですよ」
「そうなの?大変ね」
「教室クーラーついてないんですよね」
「そうよね~暑いわよね~・・・・・・あ、そろそろ私戻らないと。それじゃあまたね~」
彩乃は手を振って走り去って行った。
その後伸二は保険室に向かった。
保健室まで着き、扉を開けると中に保険医が居たのですぐにあざかを見てもらった。
やはり軽度の熱中症らしい。
すぐに病院に行くほどではない、しばらく寝たら治ると言われたので、伸二はあざかをベッドに寝かせた。
あざかが心配なので、伸二は次の休み時間まで付いていることにしたのだが。
本音は、クーラーが付いている保健室に居たいだけだ。
しばらく、伸二がクーラーで涼みながらあざかの様子を見ていると、保険医は用事があるからと保健室を出て行った。
保健室には他に生徒が居ないので、今は伸二とあざかの二人だけ、と言ってもあざかはベッドに寝かせるとすぐに眠ってしまったので、実質伸二一人だけのようなものだった。
伸二は何もすることがなく、部屋は涼しくて居心地が良く、眠気が襲ってきた。
「起きろ・・・・・・おい、起きろって」
いつの間にか眠ってしまった伸二は、あざかによって起こされる。
「・・・・・・?」
「何寝てんだよ?」
「ああ・・・・・・あざか起きたの」
目元を擦りながら気だるそうに伸二は言った。
伸二は時計を見て少し驚く。一瞬目を閉じただけかと思えば20分ほど眠っていたようだった。
あざかは未だに顔色が悪く。声にも覇気がない。
「大丈夫・・・・・・じゃないよね?早退する?」
しばらくは治りそうにないと思い、伸二はあざかに提案した。
「・・・・・・うん」
あざかが申し訳なさそうに小さく頷いた。
「じゃあ、先生に言ってくるから少し待ってて」
伸二は保健室を出て、職員室に向った。丁度担任の先生職員室に居たので、あざかの容態を説明し、早退させて欲しいと頼み、了承を得た。ついでにあざかを一人で帰らせるわけには行かないと理由を付けて、伸二も一緒に早退することに。実際あざかを一人で帰らせることには不安だったし、家に居ても一人で、誰も看病をする人がいない。当然と言えば当然だ。
伸二は職員室を出た後、教室に行き、京と大輔にあざかと自分が早退すること告げ、保健室に戻った。
「よしっ、じゃあ、帰ろうか。歩ける?」
「う、うん・・・・・・」
あざかはそう言ったが、伸二には大丈夫そうには見えなかった。
「おぶろうか?」と伸二が言っても、あざかは断るので歩いて帰ることにした。
校舎を出ると直射日光が肌に当たり、体が溶けそうなほど暑かった。
「うっ・・・・・あつ・・・・・・」
あざかは太陽の光をを浴びて唸っている。
校門を出てしばらく歩いた所であざかが急に足を止めた。
「あ・・・・・・む、むり・・・・・」
どうやらあざかに限界が来たようだった。伸二からすれば初めから限界だったような気もするが、急遽あざかをおんぶすることに。
「ごめん・・・・・・」
伸二に背負われたあざかはそっと伸二の耳元で呟く。
「最初からこうなるとは思ってたけどね」
伸二は少し笑って、急いで家に向かった。
家に着くと、伸二はあざかをベッドに寝かし、クーラーをつけて、こんな時のために冷やしておいた氷枕と冷えピタを持ってくる。
伸二は早速氷枕をあざかの頭の下に敷いて、おでこに冷えピタを貼る。
「あー・・・・・・きもちぃ」
これでしばらく寝かせていれば治るだろうと、伸二は安心してあざかの部屋から出ようとする。
「僕は部屋に戻ってるから、大人しく寝てなよ?」
そう言って、伸二がベッドを離れようとしたその時。
ギュッっと伸二の制服の袖をあざかが引っ張った。
「そばにいて・・・・・・」
あざかが頬を赤くして恥ずかしそうに呟く。
妙にしおらしいというか、弱々しいというか、普段のあざかからはそんな言葉は絶対に聞けない。そんなあざかの様子を見て、伸二は少し胸が高鳴った。
「分かった・・・・・・取り敢えず着替えてくるから」
伸二は汗まみれになった制服を着替え、冷蔵庫からスポーツドリンクを持ってくると、あざかの部屋に戻った。
「はい、コレ持ってきたから」
スポーツドリンクを飲ませようと、伸二は一度あざかの体を起こす。
「ゆっくりね」
こういう時あんまり冷たいものを急に飲ませたり大量に飲ませたりすると胃痙攣が起こるって聞いたことがあるので、喉が渇いているとは思うが、気をつけて飲むように伸二はあざかに言った。
あざかがスポーツドリンクを飲み終わると、伸二はあざかをゆっくり寝かせて布団をかける。
「ごめん・・・・・・いろいろ」
「気にしないでよ、僕とあざかは家族見たいなものだろ?」
伸二は少し臭い事を言ってみた。
「そか・・・・・・ありがと」
「お昼食べられる?お粥ぐらいなら作れるけど?」
伸二は料理を全くしないが、簡単な物は作れた。
こう言う時は塩分を取らないとダメなはず。だとすればお粥は丁度良いと思って伸二は言った。
「うん、じゃあ、頼む」
「分かった、ちょっと待ってて」
伸二は早速お粥を作ることにした。
鍋にご飯とご飯の二倍ぐらいの水を入れ、塩を少し多めに入れて煮込む。煮立ってきたら最後に溶き卵を入れ少し蓋をして待ち、しばらくして蓋を開け器に入れ、最後に切ったネギを散らすと完成。
「我ながら結構うまそうだ」
伸二は早速作ったお粥をあざかの元へと持っていく。
「できたよ?」
「ん・・・・・・」
「自分で食べられる?食べさせようか?」
あざかは少し悩んだ末、伸二に食べさせてもらうことに決めた。
伸二はレンゲで掬った少量のお粥を息をかけて冷まし「あーん」と言って、あざかに口を開けてもらい、食べさせる。
あざかは恥ずかしいのか顔が赤いが、「あーん」とやっている伸二も恥ずかしくなって顔が赤くなっていた。
お粥を半分程食べると、あざかはもういいと言った。普段とは違い今は食欲が極端に無くなっているようだ。
勿体ないので、残りは伸二が食べることにしたのだが・・・・・・。
「あっ、それ・・・・・・」
伸二があざかに食べさせるために使っていたレンゲでそのまま残りのお粥を食べようとするので、あざかが声を出す。
「え?なに?」
伸二はあざかが何を言いたいのか気づかない。
「な、なんでもない・・・・・・」
結局伸二はそのままお粥を食べた。あざかの顔が余計に赤く、熱くなり、そんな様子を見た伸二は、お粥も食べて、おでこも冷やして、氷枕までしているのに、あざかの顔が赤くなっているのが不思議で仕方が無かった。
伸二はお粥を食べ終わると、食器を片付けてまたあざかの部屋に戻ってくる。
「伸二、何か話してよ」
特に何かすることもないので、あざかは唐突にそう言った。
「何かってまた無茶な・・・・・・」
あざかにそんな無茶なことを言われ、伸二は悩む。
(ん~どうしよう・・・・・・あ、昔の話でもしようかな)
「そういえば昔はあざかって、尖ってたよね」
「そうかな?」とあざか。
昔のあざかは今ほど明るくない、笑う所すら見たことないような、どっちかというとインドア派な女の子だった。
伸二が中学校2年生の4月まで遡る。
この時期は丁度クラス替えから何週間かして、知らない人同士ある程度打ち解け、いくつかの集団が出来始める時期であり、一人でいる生徒が目立ち始める時期でもあった。
伸二は集団に属するのが苦手で、部活等も当然入っていなかった。
伸二は大輔と同じクラスで、日頃から大輔と二人で過ごす事があり、伸二が一人でいることはあまりなかったが。
伸二のクラスで唯一孤独で浮いている存在がいた。
それがあざかだった。
伸二は一人、毎日のようにムスっとした仏頂面のあざかが気になっていた。
伸二が後であざかに聞いた所によると、その頃あざかの両親が離婚をして、学校生活を満喫しようなんて気にはなれずに毎日仏頂面で過ごしていたらしい。
ある日席替えが行われ伸二の後ろの席があざかになった時があった。
これは話しかけるチャンスなのではと思い、伸二は意を決してあざかに話しかけてみることにした。
「花里さんだよね?僕の事分かるかな?」
「花里さんだよね?」とは聞いたが、一人浮いた存在だと思って気になっていた伸二は当然あざかの事を知っていたが、初めて話しかけるので、一様そう言った。
「・・・・・・」
伸二のあざかへのファーストコンタクトは軽く無視された。
「あはは・・・・・・僕、氏神伸二。よろしくね」
気まずかったが、下手な愛想笑いをしながらも、伸二は折れずに自己紹介をした。
伸二が話し終えると、丁度次の休み時間のチャイムが鳴った。
あざかは伸二を無視して、席を立つ。
伸二はそれに付いて行った。
「あ、花里さん。どこいくの?」
相変わらず無視と続けるあざかに、伸二はずっと付いて行くと、学校の屋上まで来た。あざかは屋上という空間が好きらしい。
「おーい、花里さーん」
伸二があざかを呼ぶと、あざかは振り返った。
「さっきからなんなんだよお前?私に何か用?」
あざかは明らかに不機嫌そうに言った。
「いや、友達になろうと思って」
「はぁ・・・・・・友達何ていらないから」
「なんで?」
「一人で居たほうが楽だから」
「なんで?」
「関係ないだろ!!!」
「なんで?」
「ああ!!!!!!さっきから、なんで?なんで?ってうるさいんだよ!私に関わるな!」
しつこい伸二にあざかがキレた。
「嫌だ」
「・・・・・・意味分かんない。私と友達になって、何か得すると思う?」
「えーっと・・・・・・多分」
「ふーん・・・・・・じゃあ言ってみろ」
「君と居ると楽しそうだし、というか友達になるのに理由もメリットも必要ないで
しょ」
「分かった・・・・・・そこまで言うなら友達になってやる」
「やった!」
「そのうち自分から友達なんて嫌だって言わせてやるから・・・・・・・」
あざかは取り敢えずその場で友達になると言うだけで、ずっと今のような態度を取っていればそのうち諦めるだろうと思っていた。
それから伸二はあざかに付きまとった。
あざかの思惑が分かっていた伸二は、そうはさせず、毎日無理やり一緒に下校したり、無理やり遊びに誘ったり、とことん付きまとった。
しばらくして伸二はざかに大輔を紹介し、そこからというもの、あざかは始めのように伸二を突き放したりせず、段々打ち解けて中学校時代は毎日のように3人で遊んでいた。
伸二と大輔の影響であざかは段々丸くなっていき、高校に入る頃には伸二達のほかにも何人か友達も出来ていた。
そうして今に至る。
と話終わる頃にはあざかは寝息を立てて眠っていた。
伸二はあざかの髪を優しく撫で、あざかの顔色が良くなったのを確認すると部屋に戻る事にした。
日が暮れてくる頃には京達が帰ってきて、着替えなど、伸二には出来ないことをしてもらった。
伸二は、少し家の中が静かな気がした。それはやっぱり普段騒がしいあざかがこういう状況だからだろう。
弐栞姉妹と彩乃もあざかを看病し、翌日にはあざかは元気になった。
あざかが熱中症になったこともあり、伸二は理事長に夏休みまでの一週間だけでもクーラーをつけさせるように電話で文句を言った。
その結果、学校ではきちんとクーラーが機能しており、いつもより断然に涼しく学校生活は過ごしやすくなっていた。これは伸二が文句を言ったからという訳ではないらしい。
それもあるが、何よりPTAからの苦情が殺到したようだ。暑くて勉強に集中できないなどというものが多かった。あざかのように何人かの生徒が体調を崩すことがあって、来年からはクーラーによる節電は廃止された。




