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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 14 * STAND AND SCREAM
94/198

○ Stand And Scream

 メインフロアで仕事をしていたケイトは立ち止まり、きょとんとした。

 「ジョエル? どうしたの?」

 彼は壁のほうを向いて床に座りこみ、壁に額をあずけてうつむいている。

 「オレらの誰も大当たりのアルバム引かなかったから、ヘコんでんだ」ピートが答えた。「アルバムは買うからいいんだけど、特典映像が見たかったのにって」

 「あ、そっか。あなたたち、観せてもらってないんだったわね」

 ケイトは観たのかとマーヴィンが訊いた。

 「ええ、観せてもらったわ。オリジナルの映像も、特典としてついてる編集後のも。ヒラリー、すごく可愛いわよ。ベラの撮影でね、キュカとエルバと、あと私も一緒に、ベラの服を借りてファッションショーをしたの。服を替えてポーズとって、みたいな。まるでパラパラ漫画みたいに」

 ベンジーも質問した。「まさかあの特典映像のコピー、持ってたりは?」

 彼女が苦笑う。「ごめんなさい、しないわ。聞いてない? ベラの意向でね、ほとんどのスタッフは映像に映ったとしても、自分たちが映った部分しか観せてもらってないの。それに了承した子たちだけが映ってる。私がもらったのは、そのファッションショーを含めた一部の映像だけ。でもそれも、極力観せないようにって言われてるわ。じゃないとレア価値が下がっちゃうからって」

 彼は天を仰いだ。

 「やっぱりか。あのやろう、徹底しすぎだろ」

 「あら、それが彼女のいいところよ。大当たりを引いた二人、そのルールをスタッフから聞いて、大喜びしてたもの」

 「その反面」ピートがジョエルを見やる。「こっちがコレなんだけど」

 「ヒラリーは持ってるはずよ? 観せてもらえるんじゃないの?」

 ベンジーが応じる。「いや、観せないって言ってんだ。ベラの考えを尊重? してるらしくて。スタッフもクジ引けるんだから、チャンスは平等。これで観せたら他の奴らに悪い、とかって」

 ルースがつぶやく。「すっかりベラ色に染まってやがる」

 少し悩み、ケイトは肩をすくませた。

 「じゃあ、ベラに頼んでみてあげる。ディスクをもらうのは無理でも、もしかしたら映像、ちょっとくらいは観せてもらえるかもしれないから」

 次の瞬間、ジョエルは期待に勢いよく振り返った。

 「マジで?」

 「あんまり期待しないでね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


 赤白会議室、ベラはドアを開けた。

 「ジョエル以外はお断り」と、ベンジーたちに言う。

 ベンジーが反論する。「なんでだよ!」

 戸口に肩をあずけ、彼女は腕組みをした。

 「言ってるじゃない。レア価値を下げたくないの。あんたたちを撮る時、私はちゃんと言ったわよね、あんたたちが映ってるところ以外は観せないって。それに了承して映ったんでしょ? ジョエルに観せるのだって、こっちは渋々なのよ」

 彼女の隣でヒラリーが苦笑う。「ごめんね。でも、これはベラと一緒に決めたことだから。映像は、そういう決まりごとを作ったうえでみんなに協力してもらったの。私のわがままで、それをいくつも曲げたりはできないわ」

 「そういうこと」ベラはヒラリーに鍵を渡した。「私は下に行って、なんか食ってなんか飲んでなんかうたってくる。お菓子とジュースは好きなのをどーぞ。あなたも下に来るとして、こいつひとり放置しててもいいけど、鍵は閉めさせてね。部屋が無駄に散らかってたらあとからキレるわよ」

 「ええ、わかってる」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 メインフロア。ドリンクカウンターに座り、ベラは不機嫌顔で言葉を吐き捨てた。

 「あのアホ共、マジうるさい」

 彼女の右後方からケイトがあやまる。「ごめんね、私が変なこと言っちゃったから」

 「気にするな」ディックが言った。彼はベラの右隣に、ケイトのほうをむいて座っている。「ジョエルが観たいって言うことは、ベラも予想してた。こいつがほんとにムカついてるのはそこじゃない」

 「ええ?」

 ベラはしかめっつらを彼女に向けた。

 「あいつらのファンなのは知ってるし、やさしーのもわかるけど。あんま甘やかさないで。いいように使われちゃダメよ」

 自分のために怒ってくれているのだとわかり、ケイトは笑った。「はい。気をつけます」

 「お前は甘いのか厳しーのか、ほんとよくわかんねえな」ベラの左隣でデトレフが言った。「基準がさっぱり」

 「なんでも気まぐれの適当だろ」ディックは仕事中のケイトの腰に手をまわして彼女を引き寄せ、顔を近づけて彼女に微笑んだ。「仕事、疲れたらかまわず休憩とれよ」

 ケイトの顔が真っ赤になる。「ねえ、ちょっと、ベラ! これはどうすればいいの!?」

 「知らない」と、彼女は視線を合わせないままそっけなく答えた。

 彼が笑う。「知らないって言ってるから気にするな」

 そう言うと、ディックはケイトにキスをした。

 営業中、彼がメインフロアにおりてくるのは、ベラの──ほとんどは初期の──曲を演奏する時だけになっているし、おりてきたとしても、こんなことは絶対にしない。ここでスタッフとしてセカンド・ワークをすることを決めた際、ボスとスタッフという線引きをしっかりすると約束したからだ。この店で働きはじめてから四ヶ月、こんなキスははじめてのことだったので、ケイトの心臓は爆発するのではないかという勢いでドキドキした。

 「ああ、もうだめ」ディックの腕に抱き寄せられた彼女は、ベラたちから顔を隠すようにして彼の髪に顔をうずめた。「せっかく線引き、がんばってたのに──」

 ディックはまたも笑う。「ほんとよくがんばってくれたよ」

 「これは予測済みか?」デトレフがベラに訊いた。

 「っていうか私からすれば、ディックがよく耐えたなって感じなんですけど。私が言うのもなんだけどこのヒト、自分が言いだしたことをさらりと変えるところ、あるでしょ。たぶん一度決めたことでも、そのうちそれがどうでもよくなるのよね」

 彼女の言葉に彼が笑って同意する。「確かに。そりゃ言えてる」

 「お前ら、給料減らされたいのか」と、ディック。

 デトレフは無視した。「で、なに演んだ」

 ベラが答える。「“Stand And Scream”とかどうよ?」

 「お、いいな」

 ディックはまだケイトの腰に手をまわしたままだ。「デト、お前あれのギターパート、覚えてるか?」

 「まー、それなりに?」

 「んじゃお前、ギターやれ。たまにはドラム叩かせろ」

 「素敵」ケイトが言う。「あなたがちゃんとドラムをするところ、見たことないもの」

 ディックはまた彼女に微笑む。「かなりレアだ。デトのギターってのもレアだけど、仕事放棄してていいから、俺だけ見とけよ」

 彼女は嬉しそうに笑った。「ええ、そうする。釘づけにしてね」

 女が異性相手に態度を変えるのは嫌がられるのに、男はどうしてそうならないのだろう──ベラにはそれが不思議でしかたなかった。それどころか、ディックが女を相手にする時の変貌ぶりは、それ以上のミステリーだ。

 そんなこんなで、マトヴェイとパッシも呼び、ベラはステージに立った。マイクを使って彼女が言う。

 「どいつもこいつも、なんでヒトのストレス溜めようとしてくれるのか、ほんと不思議。──と、キレたいところではあるんだけど。今日はヒラリーのアルバム発売の前祝いなんで、怒りはぜんぶ歌にして流します。ちなみに忘れないで、来週の十五日、金曜は営業しませんからね。ミッド・オーガストが明けた十六日から営業再開。ヒラリーのアルバム買ったよっていう報告、待ってます。で、見てのとおり、ちょっとめずらしいバージョン。デトがギターでボスがドラム。ちょっとのあいだ、気まぐれライブにおつきあいくださいな」

 大きな拍手と歓声の中、演奏がはじまった。



  男の子たちが見てる

  ステージに立とうとする私を

  彼らは考えてる

  彼女は今夜なにをうたうんだろう

  悪魔になるのか それとも天使になるのか

  だって宣言したからね

  私は怒りそのものだって


  女の子たちが見てる

  マイクの前に立った私を

  彼女たちは考えてる

  さっさとバンドメンバーを解放するべきだって

  彼女たちはメンバーの心を掴むために来てるんだし

  私が本気になったら

  みんなの心を奪っちゃうからね


  だけど私は

  そんなものが欲しいわけじゃない

  それに私は

  あなたたちがなにを考えてるかなんて気にしない

  なぜ私たちがここに立ってるか

  幼稚な考えを捨てればわかるはず


  聴く側だからって

  座ってる必要はない

  あなたたちだって

  立って叫ぶことができるんだから

  大声を聞かせてよ

  もしもあなたが

  悩みや痛みを曝けだせなくても

  あなたはここにいる

  立ち上がって叫んで

  私たちと一緒にうたってよ


  今この場で

  本音を吐き出すわ

  私の人生って

  刺激的で破壊的

  ときどきあなたたちの代弁者になるけど

  けっきょくそのストレスを減らして

  本音を引き出してあげるだけ


  出て行けばいい

  気に入らないならね

  無理しなくていい

  陰で罵るくらいなら

  楽しい歌を作るわ

  あなたの唾とくだらないプライドを材料に


  私はここにいる

  叫んでる

  あなたに

  だって私は黙っては生きていけない

  私たちはここにいる

  求めてる

  あなたに

  だって私たち、黙っては生きていけないから


  聴く側だからって

  座ってる必要はない

  あなたたちだって

  立って叫ぶことができるんだから

  大声を聞かせてよ

  もしもあなたが

  悩みや痛みを曝けだせなくても

  あなたはここにいる

  立ち上がって叫んで  私たちと一緒にうたってよ

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