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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 13 * MISERY BUSINESS
86/198

* Who's That Girl

 八月になった。相変わらず日差しの照りつける暑い日が続いている。ブラック・スターは地下にあるので、ひとたびキーズ・ビルの地下におりてしまえば、外の天気も気温も、まったく関係ないけれど。

 すっかり慣れた金曜の営業を終えた翌日、二日。ベラはエイブ、パッシと一緒に赤白会議室にいた。

 「これでやっと、誰がカメラ持ってんだーなんて探しまわらなくて済むな」パッシが言った。彼は新品の黒いデジタルカメラを持っている。

 「わかんないよ」とエイブ。「三台だけだし。ドリンクカウンターにひとつ、あとはヒルデとスタッフの誰かが持つ感じだろ。カメラが増えたってわかったら、客たちはとにかく撮ってって言うかも」

 彼ははっとした。「カメラ係が必要か!」

 エイブが笑う。「必要かも。おもしろいな、それ。ただ撮りまくる。そんでやたら撮られたベラは半端なく怒る」

 「撮った枚数が多くても怒るもんな」

 彼女がつぶやく。「機嫌の悪いときだったら、データぜんぶ消去するかもしれない」

 「ダメだろそれ」パッシがつっこんだ。「けどそのカメラ」ベラの持つデジタルカメラを顎で示す。「なにげに使い勝手よかったよな。いや、使い心地? 一台なのわかってて、かなり仕事させた気がする」

 エイブも同意した。「だな。無線で頻繁に、“ベラカメラどこだ!”ってやりとりしてたし。あのセリフをもう言えなくなると思うと」

 彼女は笑った。「大げさだな。でもこのカメラに写るのはそれほどキライじゃなかったかも。っていうか写真の味が好きだった。今もう古い型扱いだけど、引き伸ばしたところで写真の荒なんて気にならないし」

 これは去年、中学最後の文化祭のために祖母と一緒に買ったものだった。文化祭が終わり、中学を卒業、祖母が亡くなって、もう持つ意味がないと思った。

 ブラック・スターで客やスタッフたちの写真を撮って飾るという提案がディックにとおり、彼は新しいのを買うと言ったが、それを拒否してこの店に置いた。

 オープン以来四ヶ月、ずっと店で歴史の記録係として使っていた。電池の寿命が短くなってしまったことや、常連と呼べる客たちがどんどん増え、写真を撮る機会がぐっと多くなったこともあり、そろそろ新しいのを買おうかという話になった。そしてディックの命を受けて今日、彼女は彼らと三人で新しいデジタルカメラを買いに行った。

 祖母と一緒に買ったカメラは約四ヶ月ぶりに、ベラの手元に戻った。

 「新しいのって、なんか微妙なのもあるよな」パッシが言う。「家電量販店でさ、最新のデカいテレビ置いてたじゃん。薄型大画面高画質。コメディアンがアップで写ってて、その毛穴まで見えてんの。さすがにうげーってなった」

 「微妙だよな、あれ。鮮明に見えるのはいいけど、鮮明に見たくないものだってあるのに」と、エイブ。

 「だろ。けどゲームとかは楽しいと思う。昔のに比べたら──」

 突然、彼の言葉を遮るようドアがすごい勢いでノックされ、開いた。アックスのブライアンだ。

 「今いい?」相当不機嫌な様子だ。

 彼のうしろからニックも入ってきた。「ごめん」

 「なんだ。どした」パッシが訊いた。

 ニックが閉めたドアに鍵をかける。ブライアンは怒りまかせにテーブルに両手をつき、身を乗り出してベラに切りだした。

 「まえにニックに言ったこと、まだ有効?」

 彼女はぽかんとした。「は?」

 ニックが説明する。「ほら、パッシやエイブも入れて、コーラスきかせながら曲作るって言ってたの」

 「ああ。作る?」

 「今すぐ」低い声で答えた。ブライアンは相当怒っているらしい。

 今度はエイブが訊ねる。「なに。どうしたの」

 「浮気しやがった!」と、彼は天を仰ぎながら答えた。「相手は店で知り合った男。トモダチ目的で連絡先交換してた奴。何度か会ってるうちに流されて浮気だと。泣きながらあやまられたけど。無理だし!」怒っているというより“キレ”ている。

 ニックが苦笑う。「昨日発覚して、ずっと連絡無視してるんだ。今日俺たちが休みだってのは知ってるから、明日店に来るとか言ってる。でもブライアンがいくら無理だって言っても聞かないから、ベラ風に歌でって話になって。けどバンドとして作るんだと、一ヶ月はかかるじゃん。だから曲だけ作って、歌だけで、できれば明日にって思って」

 パッシは少々躊躇した。「一日で覚えるのか」

 「どうにか」

 「ベラじゃないからな」つぶやいたものの、エイブはひらめいた。「よし、僕は曲作るほうにまわる。同期同士、三人でうたえばいいよ」ようするに逃げた。「あとの二人は?」

 「今こっちに向かってる。曲作りはしてほしいから」

 「よし。ベラ、できる? テイストはあんまり変えたくないけど、コーラス重視で。詞とメロディができてイメージさえはっきりすれば、あとは僕が曲作りを手伝うから」

 「いいけど」と、ベラ。「じゃあやりますか。切なく静かな怒りをテーマにして」特になにも考えていない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 オープンしたブラック・スター。メルヴィナからロッタを連れてきたとメールが入り、ベラはヒラリー、ジョエルと一緒にメインフロアへとおりた。メルヴィナたちはベンジー、マーヴィンと一緒に壁際カウンターにいる。挨拶はしなかった。気づいていないことにしたのだ。

 ジョエルに送られステージにあがると、ヒラリーは“Dangerous To Know”をうたいはじめた。

 その一方、ベラは唖然としていた。ドリンクカウンターにサングラスをかけたアゼル、そしてマルコとチェーソンが並んで座っている。

 あまりの衝撃に、彼女は声を荒げた。「なんであんたたちがいるのよ!」

 チェーソンが何食わぬ顔で答える。「なんでって、誘われたから」

 「お前が悪いんだろ」チェーソンとアゼルのあいだでマルコが言った。「お前のせいで、俺がどんだけケイに文句言われたと思ってんだ。なんで俺がキレられなきゃいけねえのか、本気で謎」

 ケイが彼を責めることはわかっていたが、そんなことは自分には関係がない。「そんなの知らないわよ。一ヶ月もこいつのこと黙ってたあんたが悪いんじゃない!」

 「あらあら。このハンサムな三人、ベラの友達?」ドリンクカウンターからヤンカが口をはさんだ。「めずらしいわね」

 ベラが即答する。「違う!」

 「ひどいなお前」チェーソンが言った。「いや、アゼルとマルコが悪いんだって。アゼルが、お前が今日ここでおもろいことするって言って。そしたらマルコが行くって聞かないから。アゼルはやめとけっつったんだぞ、どうせキレるからって。俺とアゼルは無理やり連れてこられたようなもん」

 「ちょっとは俺のことも庇えアホ」と、マルコ。

 ヤンカが苦笑う。「ベラの友達なら、サービスしましょうか。アイスクリーム、食べる?」

 三人が「食う」と声を揃えたので、味のオーダーを確認したヤンカは厨房へと入った。

 「心配すんな」アゼルが言う。「目的果たしたらすぐ帰る」

 「飲むんだろ」チェーソンが訂正した。「お前の家」

 すぐだろうとなんだろうと、ベラの不機嫌さはおさまらなかった。完成した詞をアゼルに見せたのは失敗だったらしい。曲が完成した時点でメルヴィナに知らせ、彼女たちが今日ロッタを連れてくることも、それどころかおおよその時間もアゼルに言ってしまった。またケイに責められたことで不機嫌になっていたマルコに、思わずか計算か知らないが、言ってしまったのだろう。そしてマルコは、自分が嫌がることをわかっていて嫌がらせに来たのだ。

 「で、なにやんだお前」チェーソンが訊いた。

 マルコが続く。「まさかうたうんか」

 彼女は答えなかった。「すぐわかるわよ。おとなしくしてて。終わったらすぐ帰って。帰らなかったらマジでキレる」

 アゼルに訊かれ、ベラはロッタがどこにいるかだけを教えてステージ脇へと向かった。

 拍手の中、続いてヒラリーの新曲、“Who's That Girl”が流れる。

 「凝縮しただけよ」ステージ脇、不安げになっているジョエルの隣に立ったベラが彼に言った。「あの光景を見た瞬間のことだけに絞って書いたの。あなたとのことがどうとか、そういうんじゃない」

 ジョエルは苦笑った。「けど、やっぱきつい」



  いつもと変わらない日だった さっきまでは

  私は望むすべてを持ってた さっきまでは

  だけど一瞬で変わってしまったの

  たった一瞬で

  たった一瞬で

  あなたを包んでいるのは誰の香り?


  その子は誰

  どうしてここにいるの

  あなたの唇は私のもの

  どこへ行くの?

  私じゃない女の子と一緒に

  言葉もなく

  音もなく

  夢のように

  現実として

  あなたの心を奪ってしまった

  その子は誰なの

  私のすべてを壊した

  簡単に 私のすべてを壊してしまった


  それはいつのまにか忍び寄る 私に

  誰もがその可能性を持ってる いつだって

  そしてどんな理由も無意味になる

  無意味に

  無意味に

  ただ真実が残るだけ


  あなたは彼女に触れた

  あなたは彼女を呼んだ

  あなたは彼女とキスをした

  近づかないで

  あやまったりしないでよ

  なにが現実なの

  なにが真実なの

  私はなにを見たの

  あなたはなにをしたの


  その子は誰

  どうしてここにいるの

  あなたの唇は私のもの

  どこへ行くの?

  私じゃない女の子と一緒に

  言葉もなく

  音もなく

  夢のように

  現実として

  あなたの心を奪ってしまった

  その子は誰なの

  私のすべてを壊した

  簡単に 私のすべてを壊してしまった

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