* Insane In Vain
キーズ・ビル地下二階。
ヒラリーは、ベンジーとルース、マーヴィンによって店に送り届けられた。少しだけ待つよう彼女に言い、ベラはベンジーたち三人だけを赤白会議室に入れた。
「はいこれ」携帯電話をベンジーに渡す。「左にやってったら、いろいろ見える。慰謝料請求してやろうかと思ったけど、こっちの人数が多すぎるうえに現金少なすぎだったから諦めた。これで我慢して」
そのフォルダの中には写真だけでなく動画もあった。暗がりの中での乱闘中の映像だったり、暗証番号を訊きだして族たちの携帯電話データを消去する映像、カード類や鍵をあちこちに投げてギャングたちが爆笑するといった映像だ。最後には、ギャングが族たちを土下座させている写真もあった。イリヤと暴走族のボスはイトコ同士だったらしい。
昨夜ベラが出ていったあと、幹部たちが予想をたてていたし、説明がなくても、映像の中でやられているのが昨夜自分たちをリンチした連中だというのはわかったものの、想像以上のそれらに、彼ら三人は唖然とした。
マーヴィンがつぶやく。「なんかまえに、とんでもなく恐ろしいもん連れてくるとか言ってたけど──こういうこと?」
「まあそうね」とベラは答える。「友達もちょうどそいつらを捜してる最中だった。タイミングがよかったの。私がイリヤと族連中を呼び出す代わりに、力仕事はその子たちに頼んで。私はただ離れたところで観戦してただけ。なにが楽しいんだろーとか思いながら」
「思いながらって、お前がやらせてるようにしか見えねーんだけど」と、ルース。
「人聞きの悪いこと言わないでくれます? 私はただ、ちょっとムカつく奴らがいるんだけどって友達に相談して、ちょっとした流れを作って、そしたらあとは友達が仕切ったのよ。私は全員を知ってるわけじゃないし、そんだけの人数を動かす力なんかない」
「あんま変わんねー気が」
すべて見終わり、ベンジーは携帯電話を彼女に返した。
「かなりくだらねー理由なのに、よく動いてくれたな」
「そこまで細かく話してない。みんな喧嘩が好きだから、ほとんどは理由なんかなくても動くんだと思う。友達は筋通すみたいだけど、そのヒトを納得させるには、“約二十人が四人を”ってところだけでじゅうぶん。私の性格を知ってれば、そんな理由すら必要ないだろうけど」
ちなみにブラック・ギャングがクイーン・オブ・ザ・ナイトという暴走族とモメていたのは、ギャングのひとりが族のオンナと知りながらそれを寝取り、あげく捨てたというのがそもそものはじまりらしい。
「散々脅しかけておいたから、さすがのイリヤももう店に来ないはず。ひとつ聴かせてやりたい歌があったんだけど」と、ベラはつけくわえた。
「なに」
「“Insane In Vain”」イリヤとはじめて話した頃、エルバとキュカ、ケイトとヒラリーも一緒になって書いた曲だ。「ネタ元はあいつだったのにな」
またマーヴィンがつぶやく。「ああ、あの性格激悪の曲な」
「それよりオレ、お前がロッタにどんな曲書くのかが気になってしょうがない」ベンジーが言った。
彼女は笑う。「よっぽどタフじゃなきゃ、精神的にクると思うけどね。それよりもまずヒラリーのほうなのよ。時間がない。彼女呼んで、あんたたちは出てって。わかってると思うけど、このことは他言無用です。幹部たちにも言わなくてけっこう」
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オープン後のブラック・スター。ベラはキュカとエルバの待つステージへとあがった。
「ごめんね、つきあってもらって」
「いーのいーの」エルバが答える。「歌ってすごいよね。普段は酷すぎて言えない言葉も、歌だと言えちゃうんだから」
キュカはけらけらと笑った。
「しかもこれうたう時のうちら、超楽しそうらしいよ。ほんとに極一部の人間にしか思わないからって、言い訳に必至」
フロアにどっと笑いが起きる。
「じゃあ、いこーか」
ベラが続く。「もう会えないだろう男への餞に」
声を揃え、キュカとエルバは曲紹介をした。「“Insane In Vain”」
自前のスポットライトを用意したあなた
私のステージにあがって
すべてをめちゃくちゃにしてしまった
新しいゲームの登場人物に私を選んだのね
傷ついて苦しんで消えていく役
最後まで演じきれなくてごめんなさい
だって私、あなたの人形なんかじゃない
ほんとイカれてる
自分がイケてると思ってるの
私の心は私のものだし
私の人生は私のもの
あなたの脚本には従わない
ほんとイカれてる
ひどいうぬぼれ屋ね
何様だと思ってるの
女優を褒めたあとに自分を賞賛する
誰かに賛同してほしいのよね
新しい鏡を用意したほうがいいかも
あなたのものになったらどうなるの?
いいことがあるって言いたいの?
あなたのためにスポットライトになれって?
冗談じゃない!
ほんとイカれてる
自分がイケてると思ってるの
私の心は私のものだし
私の人生は私のもの
あなたの脚本には従わない
ほんとイカれてる
ひどいうぬぼれ屋ね
何様だと思ってるの
あなたは私の人生のただの脇役でしかない
大物になることを夢みてるだけ
だけどそれは夢で終わる
壊れた鏡と売れない脚本を抱いて眠りなさい
これは私のステージよ あなたの居場所なんてない
ほんとイカれてる
自分がイケてると思ってるの
私の心は私のものだし
私の人生は私のもの
あなたの脚本には従わない
ほんとイカれてる
ひどいうぬぼれ屋ね
何様だと思ってるの
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月曜の昼、キーズ・ビルの赤白会議室。ベラはケイに電話した。
「なんかムカつく」と彼が言う。
「なんで」
「どんだけ放置だよ!」ケイは怒っている。「夏休み入ってすぐ連絡来ると思ったのに! 番号変わったっつーメールだけだし!」
「ごめん。今日、うちに夕飯食べに来る? 作るから」
「マジ? 行く!」あっさりだ。
「ウェスト・キャッスルには行きたくないから、自分で来てもらわなきゃいけないけど。タクシー使っていい」
「わかった。何時くらい?」
「七時くらい?」
「よし。泊まるのアリ? 朝帰るから」
「昼前でいいよ、起きたらまたなにか作る。もしくはセンター街で買い物ついでになにか食べに行くのでもいいし」
「いや、お前の飯でいい。テクラの写真ある?」
「あるよ、見せてあげる」
電話を終えると、今度はアゼルに電話した。仕事中なのはわかっているが今は昼で、もしかすると休憩中かもしれない。
「仕事中だっつってんのに」と、彼が言う。
「ごめん。だってアドレス知らないんだもん。今日の夜、ケイが来る。七時頃から夕食を食べに。しかも泊まりで。っていう報告をしようかなと」
「へー」
「来る?」
「ヤれねえじゃねえか」
「昨日したからいいじゃん。三人でソファで寝るの」
悩んでいるのか、少し間があった。「買い物は?」
「夕方、店出た帰りに行く」
「んじゃ六時前、シャワー浴びたら行く。飯だけ食いに」
「だけ?」
「だけじゃねーな。けど朝めんどくさいことになるから、飯食ったら帰る」
「とうとう来るのね」
「あんま行きたくねーけど。マルコがそのうちケイに会ってやれってうるせーし」
なぜそんなに来たがらないのか、ベラには本当に理由がわからない。無関心とは少し違う気がする。
「じゃあ下に着いたら電話して。迎えに行く」




