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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 13 * MISERY BUSINESS
83/198

* Unknown

 顔がわらかない程度の距離や角度からではあるものの、携帯電話のカメラ機能を使い、ベラはそこらじゅうに倒れた族たちの写真を撮っていった。同時にイリヤを捜す。暴走族というからには特攻服を着ているものだと思っていたのに、それは絶対ではないらしい。

 そんな彼女の傍らで、ギャングたちは気絶した族たちを引きずって、できるだけ一箇所に集めようとしていた。

 サングラスをかけたベラが言う。「あーあ、派手にやっちゃって」

 「疲れた」しゃがんで両膝に顔を伏せるマルコがつぶやいた。「さすがにしんどい」

 「だから言ったのに」と、チェーソン。「二年のブランクがあるうえ、一年はほとんど喧嘩なんかしてねーだろ。疲れてあたりまえ」

 ベラが気づく。「ねえチェーソン、頬に血が」

 「あ?」彼は手の甲で頬を拭った。「うわ、誰の血だこれ。汚ね」

 ギャングたちが引きずってきた族連中の中に、ベラがイリヤの姿を見つけた。目に見えて酷い怪我だった。顔は血だらけで数箇所に擦り傷があり、早くも青痣になろうとしているのか、腕には傷だけでなくうっすら変色している部分もある。服もぼろぼろだ。

 「あとこれ、族の新しいアタマ発見」

 アルフレッドが言うと、二人のギャングに腕を引きずられた男は、まるでゴミのようにイリヤの隣に捨てられた。後頭部を打ったらしく低いうめき声が漏れる。顔は少々擦りむけて血が出ているといった印象なものの、ほとんど意識を失っているその様子から、身体のほうは相当ダメージを受けているのだろうと予測できた。

 「やっぱつい最近アタマ変わったって噂あったの、マジっぽい」と、アルフレッドはつけたした。

 アゼルがイリヤの傍らにしゃがむ。

 「やっぱそうだ。こいつ、知ってる」

 その声で、彼はうっすらと目を開けた。アゼルの顔を確認したのか、思い出したように一気に青ざめた。

 「お前──」

 「あなたが悪いのよ」サングラスをかけたまま、ベラもアゼルの隣にしゃがんだ。「別れるつもりの自分のクソ女が他の男にキスしたからって、なんでその男を呼び出して、しかもその連れまで殴らなきゃいけないの? っていうかリンチ。約二十対四。卑怯にも程がある」

 思うように身体が動かないのか、頭部を少しだけ動かして彼女の姿を確認したイリヤの顔は、信じられないといったような表情に変わった。

 「──お前、ベラか」

 彼はサングラスをかけた自分の姿を見たことはない。数時間前に店で会った時とは服装も髪型も違うし、外灯はあるものの深夜で、彼も相当混乱しているだろうから、嘘と真実の境界線など曖昧になってしまうはずだ。そう思い、彼女はすっとぼけた。

 「え、誰それ。私はベリーよ。あの四人のうちのひとりのイトコなの。驚いたわ。家で寝てたのに、四人がひどい怪我で押しかけてきたんだもの。事情は聞いた。相当くだらないプライドね。あ、ベラってもしかして、あなたを電話で呼び出してくれた娘? あれは私が、人づてに頼んだだけなの。セリフもぜんぶ私が考えて。あの娘、あなたがあんなことしたって知って、相当ショック受けてたわよ。ホントに好きだったんですって、あなたのこと。あなたのカノジョに嫌われる覚悟で、カレシと別れるつもりだったのに。でも伝言を預かってる」

 淡々と嘘を並べたベラは一度言葉を切り、サングラスをはずして素顔のまま彼に微笑んだ。

 「“あなたは私を幸せにしてくれるヒトじゃないみたい。電話番号もメールアドレスも消去してください。さようなら”、ってね」またサングラスをかける。「あの店にまた行ったり、あの娘と、あとあなたの元カノジョ。ついでにあの四人。っていうか、あの店。に、また近づいたりするようなら。今度はこの程度じゃすまないわよ。ここにいるギャングたち全員に、今後あなたをどこかで見かけただけで殴りにかかるよう言ったわ」とんでもない大嘘だ。「あとあなたのくだらないプライドにつきあってくれる親友も、同じ扱いを受けることになるから」

 これ以上ないくらいに唖然としている彼をよそに、ベラは立ち上がった。

 「さて、面倒が起きないうちに気絶してる奴ら起こして、シメに入ろうか。人数多いから投げ放題。携帯電話のデータ消去もお忘れなく。暗証番号言わない奴の携帯電話は、電源落として投げてやる」

 笑うアルフレッドがギャングたちに言う。

 「よっしゃ。お前ら、寝てる奴ら起こせ。んで財布と鍵と電話、ぜんぶ出せ。さっさと終わらせて引き上げるぞ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「やっと繋がった!」電話越し、ヒラリーは泣きそうな声をあげた。「どこ行ってたの? 心配したんだから!」

 ベラは今、アゼルが運転する車の助手席にいる。数時間前まで彼の家にいたマルコはタクシーを使ってアゼルの家に行っていたので、車を取りに行かなければならないという煩わしい心配もなく、チェーソンたちと一緒に行ってしまった。

 「遅くなってごめん。ちょっと野暮用」と、ベラが答える。「もう済んだ」

 「ええ──危ないこと、してない?」

 ベラは、彼女になにを言うつもりもない。「だいじょうぶだって。だから電話してるの。あ、明日ね、店に行くの、昼すぎになると思う。だからあなたが来るとしても、そのくらいでいい。サヴァランは明日のライブ、休むのよね」

 「ああ、ええ。ディックたちが休めって。私は行くわ」

 「あの怪我じゃ無理だろうしね。でもベンジーだけでも、一度店に来るように言ってもらえる? 開店前でいいから」

 「わかった。明日はベンジーとルースが送ってくれるって言ってるから、その時に」

 「うん。ジョエルが平気なら、ゆっくり寝ておいたほうがいいわよ。明日サヴァランが抜けるぶん、ステージに立つ回数が増えるだろうから」

 「ええ、わかってる。ごめんね──あ、ちょっと待って。ベンジーが話したいって」

 ベラは即答した。「やだ」

 「ええ? と──すぐ済むって」

 早く電話を切りたい。「わかった。ちょっとだけね」

 「ええ。待ってね」

 少し待たされた。なぜかドアを閉める音がして、やっと声が聞こえた。

 「もしもし?」ベンジーだ。

 「なによ。細かい説明は明日する」

 「わかってるって、そうじゃねえ。ロッタのヤツ、ジョエルにメール入れてた。あのあと喧嘩になって、好きな奴ができたから別れるっつったら、キレた男に携帯電話奪われたって。さっきオレがフリでメール返したら電話かかってきた。泣きながらあやまって、もういいっつったら告白してきやがった」

 前半はともかく、後半については予想できたことだった。決まりきったパターンだ。「断ったんでしょ?」

 「当然。呼び出されたことは知ってて、けど行ってないっつった。こんなこと言いたくねーしムカつくし。けどヒラリーも怒ってないし、こっちも気にしてないから、そっちも気にしなくていいっつった。したら、また今度店に行っていいかって」

 どうやらロッタは、並の神経ではなさそうだ。「どこまでも天然装う気なのね」

 「だな。ルースやタバサが行動読んでた。歌で喧嘩買うっていうお前の話があったから、オレはもちろんだって答えてる。ジョエルがそう言ったことになってる」

 「よくできました。さすがに明日──日曜はこないだろうから、来週までにヒラリーのと自分のほう、どうにかする。ってことで、もう切る。あとの話は明日ね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 コンドミニアム。

 アゼルと一緒にシャワーを浴びたベラは、リビングのソファ、彼の脚の上に、彼と向き合うよう座った。彼の首に手をまわす。

 「けっきょく、イリヤのことは殴ったの? なんかあいつひとりだけ、すごい怪我してた気がするけど」

 「族の誰かがあいつの名前、呼んでたからな。そいつだってわかって、それなりに殴ってやった」

 「それなり」

 「それなり」

 「それなり?」

 「覚えてんのは、側頭部に回し蹴り一発と、腕に蹴り一発、顔も五発くらい殴って、あと腹に蹴り入れたし殴りもしてる」

 「それは、“それなり”なの?」

 「その程度じゃ死なねーし」

 「手加減したってこと?」

 「弱いうえに他の奴が金属バット持って襲いかかってきたからな。アホ男ぶっ飛ばすの中断してそいつの相手してるうちに、どこに行ったかわかんなくなった。ただ殴りながら、なんか見たことあるなーとかは思ったけど」

 「まえにも喧嘩したことがあると?」

 「中学一年の時、センター街で喧嘩した。ブルとマスティもいて、確か三対三。ボコボコにしてやった。つーかお前、俺が殴ってたの見てたんじゃねーのか」

 ところどころで彼が誰かを殴っているのには気づいたが。「距離あったし。暗いし。動画撮ってたし。あんだけいたら、なにがなんだか」

 「あっそ」

 「楽しかった?」

 「誰のことも徹底的にやったわけじゃねーから、微妙」

 「なにしに行ったのよ」

 「体力残しとけっつったのはお前」

 「言っといてなんだけど、もう眠い」

 「誰か寝かせるか」

 笑った彼女はアゼルに抱きつき、目を閉じた。

 「もうしないって約束したはずなのにね。約束やぶってあれだけ私を苦しませたくせに、またやった」

 彼が彼女の髪を撫でる。「行っていいっつった」

 「止めても聞かないんだもん」

 「けど行っても平気だとは思ってたんだろ、捕まらねー自信があったから」

 「そうだけど。あんたは特別運が悪いのね、きっと。おじいちゃんたちのせいかな。警察を引き寄せてる」

 「──かもな」

 「なにげにね、残念だなって思うことがある」

 「なに」

 「マブにいた時、壁にもたれるあんたに私がもたれて、よく話、してたでしょ。それが今、できなくなってる。ソファでこうしてるのも、ベッドでクッションにもたれて話すのも好きだけど、あれも好きだったんだよね」

 「お前、うしろから突っ込まれんのも好きだもんな」

 「話がちょっと違うと思います」

 「最初は顔が見えねーとかって言ってたのに」

 「それでもキスができるって気づいたから。だからしょっちゅうあんたのほう向こうとするじゃない」

 「うしろからだと、お前のイク顔が見れねー時がある」

 「それは見なくていいかと」

 「それ見るためだけにヤッてんのに」

 「だけってことはないでしょ」

 「ないな」

 彼があまりにもあっさりと認めたので、ベラはまた笑った。

 「なんかズルい。あんたばっかり約束やぶってる」

 「やぶりたきゃやぶりゃいいんじゃね」

 そう言われると、少し悩んでしまう。だがやめた。「遠慮しとく」

 「あっそ」

 「アゼル」

 ずっと彼女の髪を撫でていたアゼルの手が止まる。「──またはじまった」

 「超アゼル」

 「なに言ってんだお前」

 「私はけっきょくめちゃくちゃアゼル」

 「なに言ってるかわかんねーよ」

 「また嘘ついた」

 彼を促し、ベラはアゼルにキスをした。一度や二度で足らず、彼女が身体を起こす。キスを繰り返すうち、お互いの手はお互いの頬に触れた。身体がリズムを刻んで動き、高まる欲望に比例して息遣いも荒くなっていく。

 「──満足、した?」彼女が訊いた。「落としたよ、ちゃんと。あんた に言われたとおり、ちゃんとその気にさせた」

 「俺と別れるつもりなんだろ。さっさと別れ話しろよ」

 「やだよ」

 「マジであいつに惚れてたんだってな」

 「妬いてるの?」

 「んなわけあるか」

 「嘘でもいいから嫉妬して」

 「アホらしーんじゃなかったっけ」

 「怒ってもらえるのは嬉しい」

 彼は答えなかった。またキスをする。何度かキスをしてから再び唇を離すと、アゼルはベラの目をまっすぐに見た。

 「──ムカつく。他の男に惚れてるとか言ってんじゃねえよ。なんで自分からキスしろとか言ってんだ。しかも三回もキスしていいなんて言った覚えはねえ」

 女として彼を求める欲望が、彼女の中で一気に高まった。

 「──まずい。濡れた。欲しい」

 「嘘でもか」

 「嘘かどうかなんてどうでもいい」

 キスをすると、バスローブをよけたアゼルは避妊具をつけずに自分をベラの中に入れた。

 だがキスを止めることもできず、彼女の身体がゆっくりと動くだけだった。

 「あとで、つける」彼が言った。「もーちょい」

 「うん、もうちょっと」

 自分の身体を撫でまわす彼の手に、彼女の身体が敏感に反応する。

 「──ベッド横に壁があって、けどベッドが狭いのと。ベッドは広いけど壁がねえの、どっちがいい?」

 アゼルの質問に対し、ベラは質問を返した。「それは──今と昔ってこと?」

 「大雑把に言ったら」

 「どっちかなんて、選べない──でも今は、昔のほうかな。ないものねだり」

 「見せてやる」

 そう言うとひとつにつながったまま、アゼルはベラを抱えて立ち上がった。キッチンカウンターの近くにあるチェストからなにかを取り出して、彼女がまだ入ったことのない左側の部屋へと向かう。

 彼は鍵を使ってその白い扉を開けた。

 オレンジの間接照明がふたつだけつけられて部屋にある家具がわかるようになり、ベラは自分の目を疑った。マブのリビングにあった黒いコーナーソファと赤いソファ、テーブル、そしてアゼルの使っていたシングルベッドが置かれている。まるでひとり暮らし用のワンルームだ。

 「すごい。懐かしい」

 「お前、一回もこの部屋見せろって言わなかったな」

 「入るなって言ったじゃない」

 「なにがあんのか気にしたこともない」

 「おじいちゃんの部屋だと思ってた」

 「家具ぜんぶ捨てたっつったろ。いいからどこでヤんのか選べ。さっきから締めつけすぎなんだよお前」

 「ベッド」彼女は彼にキスをした。「お願い。早く」

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