表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 13 * MISERY BUSINESS
81/198

* Crush

 半泣き状態のヒラリーは、ケイトの手当てを受けていた彼の元へと駆け寄った。

 「ジョエル! やだ、なんでこんな──」

 ブラック・スターのメインフロア。スタッフやバンドたちはすでに帰ったあとで、ケイトと幹部メンバーから手当てを受けるウェル・サヴァランのジョエル、ベンジー、ピート、ルースがいるだけだった。

 四人は上着を脱いでいて、擦り傷や打撲痕がいくつか見てとれた。今はそれほど目立っていないが、時間が経てば、打撲痕はもっと酷くなるだろう。そしてパッシの言うとおり、そういった傷はジョエルとピートが特に酷く受けていた。二人は頭部からの流血もあったらしく、傷口と思われる部分を黒いタオルで押さえている。けれど拭ききれていない血の乾いた痕が、顔にまだ残っていた。

 「ねえ、やっぱり病院に行ったほうが──」

 心配するヤンカの言葉を、ベンジーは即拒否した。「行かねえ! こんなアホらしい理由で病院なんか行けるか!」

 「アホらしいって」呆れた様子のディックが言う。「理由は知らんが、そんだけやられといてアホらしいもクソもないだろ」

 「そうよ。病院じゃなくても、警察には──」

 「絶対無理!」

 「けどお前、ピートとジョエルは頭もやられてんだぞ」パッシが言った。「頭ってのはさすがに──」

 「へーき」とジョエルが答える。「頭蓋骨割られたわけじゃないし」

 ヒラリーは泣きながら声をあげた。「どこが平気なの! ぜんぜん平気じゃないじゃない!」

 「平気だよ。はじめて殴られたわけじゃないし。久々だけど」

 ルースがつぶやく。「だからやめろっつったのに」

 「もうやだ」手当てをしてくれていたエイブのことも気にせず、ピートはテーブルにうなだれた。「ぜんぶオレのせいだ。どれもこれも、オレのせいだ」

 「おいおい」とマトヴェイ。彼はルースの手当てをしている。「だから、なにがあったんだよ」

 「とりあえず、消毒液が足りない」エイブが言った。「病院行かないなら、買ってこないと」

 「あとタオルも」ケイトも言った。「どこか開いてるかしら」

 ヒルデブラントが応じる。「この時間で開いてる薬局って言ったら、ナイトタウンが確実だろうな。あっちなら、小さいけどマーケットもある。タオルも置いてるかも」

 「ああ、なら──」

 「ベンジー」様々なやりとりを黙って見ていたベラが、やっと口を開いた。「相手が誰なのか、だいたいの予想はつくけど。言って。なにがあったの」

 彼は顔をそむけた。「言わねえ」

 「言わないなら今すぐ警察と救急車呼んで、ついでにあんたたち全員の保護者に連絡して、とんでもないくらいおおごとにするわよ。明日の朝刊に載るわよ。明日営業できなくなるか、できたとしても野次馬だらけよ」

 「ああ!?」彼は声をあげたがその瞬間、身体のどこかに響いたらしい。「──っ」

 デトレフが笑う。「アホだ」

 かまわず、ベラはカウントをはじめた。「三」羽織ったカーディガンのポケットから携帯電話を出して開く。「二」緊急医療ダイヤルの番号をプッシュし、その画面を彼に見せた。「一」

 「わかった! わかったって!」と言いつつも、彼はまた痛がった。どうにか落ち着き、改めて説明をはじめる。「店閉めたあと、ロッタの携帯電話からジョエルんとこに電話があった。けどかけてきたのはあいつがつきあってた男で、ロッタが勝手にしたことだって言うまえに、十一時半までにブロウ・マウンテン・パークに来いとかって言われた。ルースは放っとけっつったけど、オレら三人は行くって聞かなかった。で、行ったらこれだよ。二十人かそこらいて、なにを話すわけでもなくいきなり囲まれてリンチ状態。わけわかんねーまま、そいつらはボコるだけボコってどっか行った。終了」

 「警察!」パッシがディックに言う。「け・い・さ・つ!」

 ベラの予想したとおりだ。この件に、ロッタがどう関わっているのかは知らないが。「ロッタは? その場にいたの?」

 ルースが答える。「見てねえ。つーかあいつのオトコが、あのクソ女とはもう別れたから、マワして捨てるなり好きにしろとか言ってた」

 「私のことは言わなかったの?」

 「んな暇あるか。ベンジーと二人で応戦すんのに必至だっつーの。人数的にさすがに無理だったけど」

 「あっそ」彼女は携帯電話をしまい、勢いで持ってきたキャリーバッグに手をかけた。ディックに言う。「とりあえず薬買って、どうにか手当てしてやって。あとできれば、医療関係の知識があるヒト、誰か呼んで診てもらったほうがいいかも。せめて骨が折れてないかどうかくらい。みんなの中に知り合いがいなくても、サイラスやカレルヴォに頼めばなんとかなるかもしれないし。何日か様子見て、それでも痛みがおさまらなきゃ、病院に行かせる。その頃にはある程度の傷はどうにかなってるだろうから、言い訳の幅も増えるし。ヒラリーは今日、ジョエルと一緒に居なよ。着替えは明日持ってくるから。ってことでごめん、もう行く」

 「おいおい。どこ行く気だ」

 ディックの問いにベラは苦笑った。「大嫌いなの、こういうの。やることはひとつよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 素顔のうえにサングラスをかけたベラは、タクシーを拾うために通りをナショナル・ハイウェイへと向かって歩きだした。アゼルに電話をかける。

 「なに」

 「予想以上におおごとになりました」

 「あ?」

 「今どこ?」

 「家。ツレと酒飲んでる」

 アゼルはときどき、施設で一緒だった男だったり、同じ職場の歳の近い男だったりとつるんでいたりするらしい。そこに女がいるかどうかなど、ベラが訊くはずもない。

 「そ。今からチェーソンに電話する。暴力的被害者が出たの。やったのはイリヤと、なんとかっていう族の一部だと思う。チェーソンに電話して、彼が行けそうなら、話してみる」

 「──誰がやられたんだよ。何人が何人をやったんだ」

 「二十人くらいが四人を相手にした。細かく説明してる時間はない。下手したら捜しまわらなきゃいけないんだから」

 「だったらチェーソンと落ち合う場所、決まったら教えろ。行く」

 「飲んでんでしょ。絶対イヤ」

 「お前が言わなくても、チェーソンに訊きゃすぐわかる」

 「ねえ、気遣いを無駄にしないでよ。捕まってほしくないのよ」

 「よけいなお世話」

 ベラは舌打ちした。

 「わかった。私は今センター街。店出たとこ。電話終わったらちゃんと言う」

 アゼルとの通話を終えると、そのままチェーソンに電話した。前方にナショナル・ハイウェイが現れる。いきなりタクシーに乗り込むのもどうかと思うので、とりあえず電話を済ませることにした。

 呼び出し音がチェーソンの声に変わる。「はいよ」

 「今なにしてる?」

 「お、デートの誘い?」

 彼女は心なく笑った。「ふざけてんじゃないの。用がなきゃあなたには連絡しないんだから」

 彼も笑う。「ひどいなお前。今な、市内に走りに来てる。チームの奴らと」

 「どこにいるの?」

 「センター街の脇。サウス・アーケードの裏にある公園で休憩中」

 タイミングがよすぎる気がする。「質問がみっつある」

 「なに」

 「ブラック・ギャングは今、なんとかっていうエイト・ミリアド方面の暴走族とモメてますか。まだチームを動かす力はありますか。相手を捜し出してでも喧嘩する気はありますか」

 「えーと? あとのふたつの質問に対する答え。俺を誰だと思ってんだ」彼は言いきった。「で、ひとつめ。よく知ってんな。クイーン・オブ・ザ・ナイトってゆー族とモメてる。今日も狩りに来たんだけどな、見つからねーんだわ。走んの控えてるうえ、なんか分散して行動してるらしくて」

 ビンゴだ。「私がマトにしてやりたいのは、その族の連れなの。でもその族の一部もマトに入る。名前がわかるのは連れのほうひとりだけ。電話番号は知ってるから、私がうまく言えばもしかしたら、居場所がわかるかもしれない。賭けてみてくれる? 今からがダメでも番号を渡すか、呼び出すのに協力するから」

 「お? いーね。どーせ暇だし、やってみるか。今どこよ?」

 「ナショナル・ハイウェイに出てる。ファイブ・クラウドの近くなんだけど」

 「逆方向だし。そっち行くな。迎え行ってやる」

 「タクシーが目の前で客待ちしてるから、それに乗りますよ」

 「相変わらず贅沢な奴。んじゃヴィレの前まで来い」

 「わかった」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ナイト・タウンのはずれにある、小さくさびれた公園内。単車やスクーターが合わせて二十数台停められ、黒い服に身を包んだギャングたちがたむろしていた。半分ほどはなんとなくだが、ベラにも覚えのある顔だ。彼女のことを覚えているらしい男たちは彼女に手を振り、残りの男たちは物珍しそうに彼女を見ていた。

 ベラが簡単に事情を説明すると、チェーソンは短髪サイド刈り上げの男を呼んだ。

 「覚えてる? こいつ」呼び寄せた男を指してチェーソンが言う。「新しいアタマなんだけど」

 ベラは小首をかしげた。「あのデブの顔面を地面に叩きつけたヒト?」

 刈り上げの男が笑う。「そうそう、やったやった」

 彼は名前をアルフレッドというらしい。

 「なんて羨ましい名前」ベラが言った。

 「え、なんで」

 「名前に“red”が入ってる」

 「いや、羨ましがる意味がわかんねーよ」

 チェーソンが彼女に訊く。「で、呼び出せる自信、あるんか」

 「たぶん平気。ちょっと別件でね、連れのほうをその気にさせてるのよ。その気って、恋愛で落とすって意味で」

 「なんだ。浮気すんのか」

 「違います」彼女は即否定した。「で、今日オトコと別れ話するって話してあったの。殴られる可能性があるとかもほざいてみてる。で、さっきタクシーの中でアゼルに電話したあと、そいつに電話して、今から別れ話してくるって言った」イリヤもロッタと別れたと言っていた。「殴られる可能性ってのを気にしてくれてるみたいでね、今エイト・ミリアドのコンビニだけどなんかあったら呼べ、すぐ行ってやるって言ってもらいました」

 さすがのチェーソンもわけがわからないらしい。「なんのゲームだそれ。アゼルは? なに?」

 ベラは遠い目をした。「もう言わないで。私にもよくわかんないのよ」

 近づいてきた車が公園の外に停まったのに気づき、アルフレッドがそちらを見やった。

 「あれ?」

 彼女もそれを確認する。アゼルの車だ。だが、運転席から降りてきたのはアゼルではなかった。よく知っている相手だ。あまりの衝撃に、彼女はかたまった。

 「あれ、マルコ」チェーソンが言った。「なにやってんだお前」

 助手席から降りたアゼルよりも先に、彼が木製の低い柵を越えてこちらに来る。

 「なにって、つきそい? 暇つぶし? よお、リトル・ボス」

 「リトルじゃねえし! ニューだし!」と、アルフレッド。

 ベラはまだかたまっている。そんな彼女を見て笑い、マルコがアゼルに言った。

 「ほらな、かたまってる」

 「そりゃそうだろ。言ってねえんだから」

 どう反応すればいいのかがベラにはわからなかった。そんな彼女の肩を組み、彼らから少し離れるよう、マルコは引きずるようにして彼女をいくらか歩かせた。

 「どういうことか説明してみるか? ん? お前、俺になんつった? “絶対戻らない”? “自分は頑固”? どのくちが言ったんだっけ」

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」あやまるしかなかった。どうにか彼の腕から逃れてアゼルに怒る。「なんでコレがいるのよ!」

 「なんでって、一緒に飲んでたから」

 「ツレって言ったじゃん!」

 「ツレはツレだろ」

 マルコが再び彼女の肩に腕をまわす。「ツレはツレだ」おそらくからかっている。「なんか他に言うことは?」

 「ゴメンナサイモウシマセン」

 笑って腕をほどいた彼は、髪をくしゃくしゃにするよう、彼女の頭を撫でた。

 「で、どーすんだ」

 チェーソンとベラは状況を簡潔に説明した。

 「舞台はウェスタン・パークだな」チェーソンが言った。「その四人がやられたのがブロウ・マウンテン・パークだっつーの考えたら、ちょっと不自然な気はするけど。グラナリーにいたって言や、なんとかなんだろ」

 「しかし相手の男もなー」煙草片手にアルフレッドが言う。「リンチするつもりがあるなら普通、どこに行ってんのかくらい訊くだろ」

 「それはあれよ、私の会話力。声が聞きたくてとか言ったから」

 「これから潰すつもりの相手にそれ言うか。恐ろしいな」

 「キス三回ぶんの恨みは晴らしてやる」

 「二回だろ」アゼルが口をはさんだ。「一回はお前、自分からしたっつったじゃねーか」

 「違う。正確には“もう一回して、勇気が欲しい”よ。そしたらむこうがしたのよ」

 「けしかけたのがお前なことには変わりねーよ」

 ベラが反論する。「けしかけさせたのはあんたよ!」

 マルコは呆れ顔だ。「マジで理解不能。なんだこいつら」

 「俺もよくわかんないけど」と、チェーソン。「とりあえずむこう行って、そっからベラが電話する。そいつらもこっちに向かってる可能性はあるから、ちょっとバラけて行く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ