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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 12 * SK8ER BOI
79/198

○ Skater Boi

 ベラには目を閉じる暇などなかった。くわえて普通なら怒るだろうところなのに、なぜか泣きそうになった。それを表に出したりなどするはずも、できるはずもないけれど。

 数秒のフレンチキスでイリヤが唇を離す。

 「──なにしてんの」ベラは冷静に言った。

 彼はまだ、自分たちの顔を顔を隠している。微笑んだ。「キス」

 「これは浮気よ」

 「言わなきゃわかんねーよ。言わなきゃいい。んでお前はアホ男と、俺はアホ女と別れる」

 心臓がイヤな感覚で締めつけられていくのがわかった。この感覚には覚えがある。「私、ロッタにすごく恨まれそう」

 「それほど仲がいいわけでもないんだろ。気にすんな。俺はもうあの女、完全に切る」

 どうするべきか、なにをするべきなのかは、ベラにはわかっている。もう引ける状態ではない。「来週末までに?」

 「今日は会わねーだろうから、早けりゃ明日」

 「じゃあ私は、今日店が終わったら電話する」

 イリヤはずっと微笑んでいる。「別れるって?」

 彼は賢い。言わせようとしている。どちらも交際相手と別れるとは言ったが、その後つきあおうなどとは言っていない。ベラに言わせようとしているのだ。そうでなくても好きだと言わせようとしている。

 これは、誰を満足させるためのゲームなのだろう。

 「好きなヒトができたって言う」ベラは答えた。「殴られるかもしれないけど、そんなの知らない」

 「殴られたら殴り返しに行ってやる」

 そして逆に瀕死の状態にされて川に捨てられてローア・ゲートの海まで流されてくれと、ベラは心の底から願った。同時に、彼女の中でなにかが切れた。

 「なら、もう一回。勇気ちょうだい。でも深いのはまだダメ」

 歌詞カードの束で顔を隠したままイリヤは笑ってまた、彼女にキスをした。ベラも今度は目を閉じた。

 店でなければ、その場で殴り飛ばしているだろう。右手に金属バットがあれば、確実に彼の頭を殴っている。ICUどころか墓に送りこんでやりたいところだ。

 唇が離れると、おそらくどこかのネジのはずれたのだろうベラが笑い、イリヤも笑った。やっと顔を隠すのをやめる。ドリンクバーからの視線は彼女をイラつかせ、それに気づいていない彼をさらに笑わせた。

 「とりあえずお前、携帯電話出してみ」

 イリヤが言い、ベラは素直に従った。電話番号とメールアドレスの交換だ──アゼルに殴ってもらいたいなどという考えは、もうなくなっていた。どうしてやるのが彼にとっていちばんの精神的苦痛になるのか、そればかり考えている。

 交換が終わると、ベラはドリンクバーとは反対側の壁際カウンターに、メルヴィナたち女三人とロッタ、そしてウェル・サヴァランのジョエル以外のメンバーがいることに気づいた。

 「ねえ、あそこ」彼らのほうを示す。「いつのまにかロッタが来てる」

 イリヤも姿を確認した。「マジだ」

 「見られてないよね」

 「隠してたから平気だろ」

 「でもなんか、ちらちらとこっちの様子を伺ってますけど。一緒にいる男たちが特に」

 「関係ない奴に見られんのはべつにいい」

 めちゃくちゃだ。「それもそうね」と彼女が言う。「そろそろ行かなきゃ。ロッタ、呼ぼうか?」

 「いや、連れがいるからいい。けど」

 言葉を切ると、イリヤはまた歌詞カードの束を取って自分たちの顔を隠し、再びベラにキスをした。

 そして微笑む。「もう一回」

 呆れを通り越し、彼女は苦笑った。「バレても知らないから」

 「気にすんな」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 メルヴィナたちに挨拶することもなく赤白会議室に駆け込んで鍵をかけたベラは、アゼルにもらった携帯電話で彼に電話した。

 「なに」

 「満足!?」怒り任せにアゼルに言う。「望みどおりその気にさせてやったわよ。キスは三回、そのうち一回はこっちから。しかも女が店に来たのわかってて一回した。見られてはないと思うけど。女のこと、完全に切るって言ってる。こっちにも別れろって」

 「──三回ってまた、多いな。はじめてじゃね、そんだけしたの」

 「問題はそこじゃない」壁に背をあずけ、彼女は頭を抱えてずるずると座りこんだ。「はじめてこんなにイヤな気分になった。なんでこんなことしなきゃいけないの?」

 「今さらなに言ってんだよ。今までどんだけの男とそれしたんだっつー話だろ」

 図星だ。「──でもなんか、気分があの時と同じなの。昔、マスティとブルと三人で、避妊具買いに行った──あの時と同じ思い、してる」

 「──状況がぜんぜん違うだろ」

 うつむく彼女の頭は混乱していた。「でも気分は一緒だもん」

 電話越し、アゼルがため息をつく。

 「で? 俺はなに? 今からそいつを殺しに行きゃいいわけ?」

 他の誰とキスしようと、彼が気にしないということは、最初からわかりきったことではあった。その態度に、ベラはむっとした。

 「いい。まだ途中だから。これからあの思わせぶりな二曲をうたうの。それが終わったらたぶんあいつ、店出るし。どうするかは私が考える。あんたになんか手出しさせない」

 「へー。番号くらいは訊いたか?」

 「番号とアドレス。友達が来てるから、これからロッタのところにも顔出してくる。モメるつもりはないけど、“Skater Boi”の歌詞カード配るから、喧嘩売ってくる。どうなろうともう知らない」

 「結果は報告しろよ」

 「無理よ。言ったじゃない、今日はヒラリーが泊まりにくる」

 「今日じゃなくてもいい」

 怒りから混乱へ、弱さを実感してまた怒りが込みあげ、けれどけっきょく、なんとも思っていなさそうなアゼルの声を聞いていると、ベラは本当に、どうでもよくなってきた。

 「──あんたは、私を怒らせる天才ね」

 「キレたら仕事、しやすくなるだろ」

 そのとおりだ。自分だけがぐちゃぐちゃになっている──なんだか泣けてきて、けれど彼女は笑った。

 「次会ったら私があんたのこと、ボコボコにしてやる」

 「やれるもんならやってみろ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 再びメインフロア。

 ベラはキュカやエルバと一緒に、“Sk8er Boi”の歌詞カードを配ってまわった。メルヴィナたちのところへも行ったが、ロッタとは話をしなかった。ただ歌詞をまとめているリングに組み込んでおいてと、メルヴィナたちに頼んだだけだ。詞を読んだロッタがどう思うかなど、ベラには興味がなかった。

 ステージに立つベラを客たちが拍手で迎える。キャップをかぶりなおしながら、彼女はマイクのスイッチを入れた。

 「ちょっと予定が変わります。いつものことだから気にしない。略奪愛はアリなのかっていう話をこのあいだ、女友達としました。女友達は、恋人がいる男に恋をした。私はその男とも友達で、だからその男友達と遊ぶ時、気が向いたら呼んであげるって言ったの。どうすればいいのって訊くから、奪えるもんなら奪えって言った。自分がされたらムカつくかもしれないけどね、それが私の本心でもある。だって相手の女のこと、私は知らないから。見ず知らずの人間がどんな思いしようと、私はどうでもいい」

 相変わらずな自己中心的発言を、客は苦笑いを含みながら聞いている。彼女は続けた。

 「じゃあ自分が、自分の男を奪われる側なら。奪えるものなら奪ってみろって、私は言う。一時的な気の迷いだとか、雰囲気に流されてとか、よく考えもしないでとか、そんな言い訳するような男なら、正直いらない。土下座してあやまるような男、もっといらない。そんなことするなら、最初からするなって話じゃない。そういうのはけっきょく、自分のことがいちばん好きなの。モテる自分に酔ってるだけ。もしかしたら、ヨリを戻すべきなんかじゃないかもしれない。どれだけ価値ある人間を裏切って捨てたのか、一生かけて後悔させてやるべき。

 なにが言いたいかって、奪う立場の人間が悪いとは、絶対に言いきれないのよ。奪われそうだってわかった時、もっとできることがあったかもしれないじゃない。泣いてすがって引き止めるべきだったかもしれない。普段からもっと努力してればよかったかもしれない。自分たちの危機的状況に酔って相手をないがしろにしてるから、どこの馬の骨ともわからない奴に奪われるのよ。──ってのは、言いすぎか」

 客たちはどっと笑った。ベラも苦笑う。

 「けっきょく、考えかたしだい。誰が悪いかなんて、当人たちですら意見は違ってくるんだろうから、第三者がごちゃごちゃ言うことでもないんだけど。自分と一緒にいたほうが相手は幸せになれるって思ったんなら、奪えばいいと思うのね。嫉みだの僻みだの一時的興味だの八つ当たりだのでヒトのモノに手出すような奴は、バスケで突き指したあげく帰り道で犬に吠えられたうえで、自転車と衝突して土手を転がり落ちればいいと思うけど」

 フロアはいちだんと大きな笑いに包まれた。

 「さっき歌詞カードを配ったこの曲は、そういう、自分といたほうが相手の幸せになるっていうのをうたった曲。性格悪いと思うだろうけど、それはいつどこで起きるかわからない。わりとよくある話なのよ、きっと。いきます」ベラは人差し指をたてた左手をあげた。「“Skater Boi”」



  彼は黒  彼女は白

  対照的だってことはみんなわかってる

  彼は活発  彼女はおとなしい

  どういうわけか恋に落ちた

  彼は疲れていく  彼女が嘘をつくから

  ふたりの望みが違うのは誰にだってわかること

  彼には自由が必要で  だけど彼女は束縛する

  戦いと休戦 別れたり戻ったりを繰り返してた


  彼はスケーターボーイ

  今度こそ終わりだって彼は言った

  彼女は拒否したけど彼は聞かない

  彼の意思は固く

  ついに彼女も諦めてまた

  もう一度友達に戻ろうと彼に告げた


  数ヵ月後  ふたりは相変わらず

  彼は私を見つけて彼女のことを話してくれた

  彼はパンク  私はロック

  相性が最高ってのはわかりきったこと

  彼女は私を警戒して  私たちに忠告する

  お互い近づくべきじゃないって

  だけど彼は止まらない  私も止まれない

  ねえ気をつけて、私たち惹かれ合ってる


  彼はスケーターボーイ

  彼女の元を去ると決めた

  だけど彼女はいつもと同じだって信じてる

  彼の決意は本物

  彼女は再び去っていった

  彼は一緒にいようって私に言ったの

  彼はスケーターボーイ

  私はライオットガール

  お似合いだってことは誰もが知ってる

  彼の気持ちは本物

  彼女は私たちのキスを目撃した

  そして彼を取り戻すことはできないって悟ったのよ


  ごめんね 彼はもうあなたのものじゃない

  彼が待ってるのはステージをおりる私

  アブナイってことは彼も承知 そのうえで私を愛してる

  害のなさそうな可愛いお顔じゃダメなのよ


  あなたは変わらなかったけど彼は変わった

  あなたにできなかったことを私がやってのけたの

  あなたが彼から奪ったものは代わりに返しておいたわ

  わかってるでしょ 後悔してももう手遅れ


  彼は黒  彼女は白

  ふたつの色はただグレーに変わるだけ

  彼はパンク  私はロック

  ふたりの色は彼女が知らなかった世界を作る


  彼はスケーターボーイ

  私はライオットガール

  お似合いだってことは誰もが知ってる

  私たちの愛は本物

  彼女は目の当たりにする

  私たちが止まれないスピードで恋に落ちてること

  彼はスケーターボーイ

  とても自由で情熱的

  彼女の鎖を切って私と一緒に生きてる

  私たちの愛は永遠になる

  彼女にもきっと聴こえてるはず

  私たちを祝う声が、ね

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