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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 12 * SK8ER BOI
77/198

○ Present

 ベラはアゼルのコンドミニアムにいた。時刻は深夜一時をまわり、すでに日曜になっている。シャワーを浴びたあと、オレンジの照明をいくらかつけたリビングで“For You I'll Die”の詞を彼に見せた。

 煙草片手にアゼルが言う。「これは確実に勘違いするだろ」

 「Aメロとサビまでしか読んでないはず」

 「女がいるっつってんじゃねーか」

 「だって浮かんだんだもん。そういう感じの曲だったんだもん」

 「意味わかんね」

 返されたクリアファイルをベラがキャリーバッグに戻す。もうひとつ書きかけがあると言い、今度は作詞用ノートを開いて渡した。

 「──確実にくる」

 「別の子のために書いた詞なんだけど。しかもヒラリーと一緒に書いてる。インセンス・リバーの娘。来週の土曜あたりかな、一度だけ彼女一緒にうたう予定」

 「ネタ元が誰かなんて言い訳しても、普通は信じねえよ。ひとりだろうと二人だろうと、それが耳に入ってくりゃ、たいていの人間は自分に言ってんだって思うだろ」

 返されたので、彼女はノートもキャリーバッグに戻した。煙草を消したアゼルの左肩にもたれる。

 「こんなので勘違いしたら、ただのバカよ」

 「けど脈はあるよな。女とじゃなくてツレと店に来て、お前見つけたらお前に声かけるわけだから」

 「ねえ、その言いかたは変よ。ただ話してるだけじゃない」

 「女の愚痴言ってるわけだろ。別れんのも時間の問題。っつーか別れるとか別れねえとか関係ないかもな。いけそーなら口説きにくるかも」

 倒れるように、彼の左脚を枕にして寝転んだ。彼を見上げる。

 「二股ですか? こっちは相手の女知ってるのに?」

 「けど仲が微妙だってのも知ってる。お前を落とせると思ったら、古い女は完全に捨ててお前に乗り換えるかも」

 「古い女ってなに。私は古いの?」

 「誰がお前の話したよ。どけ。灰皿テーブルに置くから」

 「やだ」

 「ひっくり返したら掃除すんのお前だぞ」

 「明日早起きして掃除しようかな、リビングとキッチン。なにげに埃だらけだし」

 彼はベラの髪を指で弄びはじめた。「また家政婦か」

 「通い妻じゃなかったっけ」

 「ようするに家政婦」

 「立場が違うわこのやろう」

 「口説かれてると思ったら、乗れよ」

 「やだよ」

 「お前が相手をその気にさせれば、糞カップルが別れる。惨めな大学生は女とヤれる可能性が高くなる。一石二鳥」

 「その気にさせてガツンとフッてやればいいの?」

 「なんならつきあえばいいんじゃね」

 「やだっつってんのに」

 「キスくらいはされるかもな」

 「そしたらあのバカのこと、半殺しにしてくれる?」

 「死なねー程度に殺してやる」

 「それは殺すの? 殺さないの?」

 「鍵とカード投げがやりたい」

 アゼルは、去年ベラがチェーソン率いるブラック・ギャングと一緒になってやったことを、マルコから聞いて知っている。一度ではあるものの、チェーソンにも会ったらしい。

 手を伸ばし、彼女は彼の頬に触れた。

 「そしたら殴らなくてすむ?」

 「殴っても捕まらなきゃいんじゃね」

 「そういう問題なの?」

 「殴ってほしいのかほしくねーのかどっちだ」

 「怒ってもらえるのって嬉しいのね。知らなかった」

 「あほだろ。誰も怒ってねーし。いいからどけって、灰皿」

 渋々身体を起こすと、アゼルは右脇に置いていた灰皿をテーブルに乗せた。彼女の腰に腕をまわし、彼女身体を再び引き寄せる。

 「寝るか。お前、寝そう」背後から彼が耳元で言った。

 ベラはうなる。「でもまだ、ここ来て二時間も経ってない」

 「だからやめろっつったのに」

 「だって長電話禁止されてるし」

 「けどお前、二、三十分くらいは話そうとするよな」

 「せっかく電話するのに、すぐ切るってのもね」

 「おかげで寝るのが遅くなる」

 「だから、夏休み中はだいじょうぶだって。昼間のうちにできるだけ仕事終わらせる。毎日毎日うるさいバカ共の相手も」

 「どーだか」彼女の首筋にキスをした。「お前の眠気覚ます方法って、なんだろな。寸止めしてやりゃ目は覚めるだろうけど、イッたら一気に眠気くるし」

 「お菓子をくれるとか、ビールを飲むとか」

 「ベッドルームのチェストの上に紙袋がある。取ってこい」

 「なに?」

 「さっさと行け」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 紙袋には携帯電話会社のロゴが書いてある。中には、ベラが使っているのとまったく同じの、赤い携帯電話が入っていた。

 わけがわからないといった様子の彼女が訊く。「使えるの? これ」

 「使えねーもんわざわざ買うか」と、アゼル。

 「買ったの? くれるの? 使っていいの?」

 「メインをそれにしたら、番号変えただのアドレス変えただのって言わなきゃなんねーから、面倒にはなるけどな」

 「メインにしてもいいってこと? あんた専用じゃなくて?」

 「それはそれでめんどくさいだろ。お前はストラップつけねーし、どっちがどっちだかわかんなくなるわ」

 彼からちゃんとした“物”をもらったのは、彼の中学時代の学ラン以来だ。携帯電話を持ったまま、ベラはアゼルに抱きついた。

 「長電話し放題?」

 「それより寝ること優先しろよとは思うけどな。通話料ごときでまた話すはめになったり、振り込み額が減るよりはいいだろ」

 そのとおりだ。彼はちゃんと、自分がイヤなことを知っていてくれている。

 「目、覚めた」

 「喧嘩しようと別れようと、それは払っててやる。遺産が入ってるほうの口座からの引き落としにしてるから、また俺がぶち込まれることになったり、仕事辞めても止まったりはしねえ。明細も取り寄せてないから、お前がどんだけ使ったかなんて俺にはわかんねーし。いくらでも使える」

 彼女は笑った。「それで私はあんたに電話しすぎて怒られるのね、また寝不足だとか仕事に遅刻するとかって」

 「だな。んで俺はありえねー眠気に襲われながら、よけーなことしたって後悔する。転送機能って手もあるかと思ったけど、それだとアナウンスが流れるらしいし」

 「いい。しつこく訊かれたら適当に言い訳する。ストーカーがいたからどうにか番号だけ変えたって。電話確認はしたけど会わずにすんだって」

 「適当だな」

 「またあのヒトを捨てられる。嬉しい。ありがとう」

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