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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 12 * SK8ER BOI
74/198

○ The Beginning Of Summer Vacation

 アゼルと合流してからの数時間は、かなり慌ただしいものだった。買い物には郊外の大きなインテリアショップを選び、食器や調理器具を必要なぶんだけ揃え、バイパス沿いにあるマーケットで食材を買ってから、アゼルのコンドミニアムへと向かった。

 彼が片づけや料理を手伝うはずなどなく、それどころか邪魔をされながら、ベラはひとりでそれらを進めた。それまでの準備のほうに体力を使わなければならなかったので夕食は簡単なものになり、その片づけを終えた頃には、時刻は午後二十一時を過ぎていた。

 「もうなにしにきたかわかんなくなった」カウンターに伏せたベラが脱力気味な様子で言った。「買い物で体力消耗して、あれこれ棚に片すのでまた体力消耗して、そのうえ夕食だよ。片づけだよ。なにこれ」

 彼女の隣、アゼルは彼女の淹れたコーヒーを飲みつつ煙草を吸っている。「作るっつったのはお前」

 彼女が不満そうな表情を返す。「邪魔はしなくてよかったよね。危ないよ。IHコンロっていっても、かなり高温なわけだし」

 「ちゃんと消した」

 「うっかり手乗せて火傷したらどーすんの。鍋ひっくり返したらどーすんの」

 「お前はそういう危機感に興奮したんだな。避妊具つけてても、かなり濡れてんのがわかった」

 「話をそらさないでくれます?」

 「我慢しろっつーの無視して三回もイッた奴に文句言われても」

 「数えるのやめようよ、いいかげん。まずいって言ったのに止まってくれなかったじゃん。我慢なんかできるわけない。あのあとで料理再開するの、疲れるんだから」

 「しかもエアコンまともに届かなくて暑かったしな」灰皿で煙草の火を消す。「料理のせいもあるんだろうけど」

 「する前は暑くなかった。してる時が暑くて暑くて」

 「けどキッチンから出ようと思わなかったよな」

 ベラは笑った。「思わなかった。その暑さがよかった。あんたのも熱いしカラダも暑いし、もうどうしようかと思って。溶けるんじゃないかと思った」

 「俺から言わせりゃ、熱かったのはお前のほうだけどな」

 「え、なにそれ。どっちが正しいの」

 「冬にお前に突っ込んだらカイロになる」

 「カイロ代わり!?」

 「下だけあったかい」

 わからなくはない。「ずっと抱きしめててくれればいいじゃない。そしたら全身あったかい」

 「めんどくさい」

 「ヤな言いかたするな」

 「続けて二回目いこうかと思ったけど、飯放置されそうだったからやめた」

 「可能性はある。よかった、麺類にしなくて」

 「普通に四品も出てきたからびびった」

 「多すぎ?」

 「いや。せいぜい微妙な味のが二種類出てくりゃいいほうかと」

 「あんた、私をなんだと思ってんの」

 「しかもレシピ、見てなかったよな」

 「さくっと作れそうなのはね、読んで覚えた。おばあちゃんが死ぬ前、たまに作ってたし。店でもたまに厨房手伝ってるし。店の料理、食べてないんだっけ」

 「食ってねえ」

 「メニューに出てるのはほとんど、おばあちゃんのレシピよ」

 「なんで」

 「レシピのことは話したよね。去年の十二月かな、おばあちゃんがノートをくれた。料理のレシピノート。店が料理面で悩んでたから、おばあちゃんの許可とって、レシピのコピーをボスに渡した。そのまま使われることになった。おばあちゃんは追加でまたレシピをくれて、死ぬ前にも、また書いてくれてた。メニューは絞って扱ってるし、デザート類なんかの一部は外注だけど、ほとんどの料理はおばあちゃんのレシピに従って作ってる」

 「ふーん──それ食ってても倒れたわけか」

 「食べるのはたいてい、週末の夜だけだもん。平日の夜や休日の昼間は、たまに作ってもらえるかなって程度。普段は朝も昼もコンビニ。夜はデリバリーだったり外食だったり。自分の家で作る暇なんてほぼないんだよね。自分だけのために朝からなんか作るってのも、微妙だし」

 「──まあ」

 「あ、でもあれか。平日あんたと会う時は、うちで作って食べるってのもできる」

 「なんかお前、なにかと理由つけて部屋に入れようとするな」

 「なんで来ようとしないのかほんと不思議」

 「なんで入れようとすんのか本気で謎」

 「終わらないわね、この議論」

 「だな。あれはどーなった、変な男と変な女の話」

 「気になる?」

 「暇つぶしにはなる。まだ口説かれてねーのか」

 「ないない。こないだ話したのから進展ないんじゃないかな。女がもう店に行くなって言って喧嘩になった。男は友達と一緒に店に来た。でもたぶん別れてない。どっちとも会ってないから知らないけど」

 「つまんね」

 「私はそのうち詞を書くつもり。女のほうを完全に敵にまわすと思うけど」

 「お前は面倒事を嫌うわりに、いつも面倒なことやらかすな」

 「やっぱダメかな」

 「知るか」

 「ただの歌だもん。私の仕事は、客を飽きさせないこと。いろんな曲を作ること。その女だけじゃなくて、他の女に対しての忠告にもなるのよ。ぐだぐだやってたら他の女に盗られるっていう忠告」

 「どうせなら盗ってからにしろよ」

 「いりません」

 「いるとかいらねーとかじゃねえよ。歌で遠まわしに忠告するより、正面から喧嘩売れっつってんの」

 正論な気もするが、アゼルのそういう考えを肯定するわけにはいかない。「その発想はやめなさいって。あんたはダメ。それやって、どれくらいバカな目に合ったのよ」

 「お前の場合は殴り合いするわけじゃないんだからいいんじゃね」

 これも間違いではないけれど。

 肩をすくませ、ベラは彼の前に立って首に手をまわした。顔を近づける。

 「まだヒト殴りたくなる?」

 「ヤッてりゃ平気」

 「なんでもそこに結びつくな」

 「ヤッてたら、他のことなんかどうでもよくなる」

 「鎮静剤みたい。抑制剤かな」

 「どっちも変わんねー気がする」

 ふたりはキスをした。鎮静剤だろうと抑制剤だろうと、そばにいても、それをしても、それが効かなくなることはある。彼女はもう、それを繰り返したくはなかった。

 アゼルが彼女の腰に手をまわしたところで、リビングのテーブルにある彼の携帯電話が鳴った。キスが止まる。

 「出なよ」ベラは言った。「朝食の下準備してくる。それが終わったらシャワー浴びる。そして寝る」

 彼はまた彼女にキスをした。

 「一発ヤッてからな」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌日、終業式の日。

 ミュニシパル・ハイスクールは一学期終業式と、一学期最後のLHRを終えた。これから約一ヶ月半の夏休みがはじまる。

 「絶対絶対、メールか電話してね!」ニルスの席についているハンナがベラに念を押した。

 彼女の机に腰かけているササが笑う。「だからなんで今生の別れみたいになってんだ」

 「だってベラがメールとか電話に返事くれないと、一度も遊べないことになっちゃうもん」

 「ベラが遊べるとしても、ネアやササはちょっと面倒だよね、わざわざこっちまで出てくるっての」ニルスの机に座っているマーシャが言った。

 セルジの席でテクラがつぶやく。「ネアと比べれば、あたしたちも変わらないような──」

 「バスの本数が違う」とネア。彼女はハンナの椅子に座っている。

 ハンナは残念そうな顔をした。「六人で遊ぶの、むずかしーかな」

 マーシャが肩をすくませる。

 「ササは遠いうえにバイトあるし、ネアは部活だし、ベラはいつも忙しいって言うからね。なかなかかも」

 「遊ぶって、やることないじゃん」ベラが言った。「ネアの部活が午前中で終われば、ネアがいいならいいけど。ランチ食って話してなら、遠いとこから出てくるササのほうが面倒な気もするし。カラオケはヤだし。ゲームセンターに行くくらいならショッピング三昧のほうがいいし」

 「あ、じゃあショッピング!」ハンナが言った。「ベラが買い物に使う店、行ってみたい」

 マーシャも便乗する。「あ、それいいね。服だけじゃなくてアクセサリーショップとか、あと香水も欲しいし」

 「センター街渡り歩けるよね!」

 「行ける行ける。高校生が入るにはちょっと気まずそうな雰囲気の店にも入れるよ」

 言うまでもなく、ベラは呆れていた。彼女たちは放課後に時々、センター街の店に行くものの、ムーン・コートヴィレッジとグランド・フラックス・エリアをまわる程度で終わってしまうらしく、エリア関係なく立ちまわるベラの行動範囲に興味心身なのだ。

 そんな中、テクラはベラのバックパックに耳を近づけた。

 「ねえベラ、また電話鳴ってない?」

 彼女の言うとおり、バックパックの中で携帯電話のバイブレーションが震えていた。渋々それを取り出して画面を確認する。ペトラからだ。応じる。

 「なに」

 「やっと出た!」とペトラが言う。「今日も昨日もメール入れたのに!」

 「知らない」

 「あっそ」諦めてはいるのだろうが、不機嫌な返しだった。「衝撃的な事実が」

 「なに」

 「昨日の夜、カーリナから連絡があった。二学期から、エデがウェ・キャス高校に編入するって」

 ベラはぽかんとした。「は? なんで?」

 「わかんない。遠いとか面倒とか言ってたって。さすがにイジメられたとかじゃないだろうけど」

 エデはいじめられるよりもいじめるタイプだ。「ご愁傷様って、カーリナたちに言っといて。こっちには関係ないけど」

 「まあね。っつーか今日、アニタとカーリナとサビナ、四人でランチ食うけど。あんたはやっぱこないの?」

 「行かない」

 「あっそ。でも夏休み、一回も会わないってのは無理だよ」

 「わかってる。でも基本的には忙しいの。それは理解して。暇な時あったらメール入れるから」

 「わかった。じゃーね」

 電話を切ると着信履歴を確認した。昨日からのも合わせ、時間はばらばらなものの、アドニスから、ナイルから、ゼインから、そしてゲルトとセテ、イヴァン、カルロ、アニタやエルミ、ナンネからも不在着信が入っている。レジーとパーヴォからもだ。この履歴を見るだけで嫌気がさした。四十件以上届いている未読メールにはなにが書かれているのだろう。

 「ほんと、ベラは誰にでも忙しいって言うな」テクラが言った。

 「だってほんとだもん」と答えたところで、また携帯電話のバイブレーションが震えた。セテからだ。しかたなく応じる。「はい」

 「やっと出た。冷たさに磨きがかかってないか、お前」

 「ありがとう。うるさいのよ、どいつもこいつも」

 「ひどいな。恐ろしいくらいひどいな。久々だってのにこれだもんな」

 「なんの用ですか」

 「ゲルトと、あとダヴィとイヴァンとカルロ。それからトルベンとヤーゴ。で、飯行くんだけど。お前らも来ないかと思って」

 「行かない。行けない。でも今ペトラから連絡あって、アニタとカーリナとサビナ、四人でランチだって。連絡とって一緒に行けば」

 「マジ? ついでにお前の家にって思ってたんだけど、まあいいか。んじゃアニタに電話してみる。夏休み、暇な時は連絡しろよ」

 「わかってる、そのうちね。あ、ゲルトいる?」

 「いるけど。代わるか?」

 「ごめん、お願い。すぐ済むから」

 電話の向こうからの声が変わった。「はいよ」ゲルトだ。

 「誰にも内緒」とベラは言った。「戻った。一年半前のアレが」

 「は? マジで?」

 「うん。で、また戻った。これは最近なんだけどね。誰にも言ってないけど、とりあえずあんたには報告しとく」

 「ああ──よかったって言っていいんだよな、これ」

 「たぶん。でも誰にも言わないでね。ケイにすらまだ言ってないから。あとペトラたちに、ベッドルームに鍵つけたからって言っといて。お前らの寝場所はねえよって」

 「なんだこの報告」

 「気が向いたら連絡する。一回はイヴァンたちも家に呼ぶから。ごめんって言っといて」

 「ん。じゃな」

 電話を切ったベラにマーシャが言う。「誘い断りすぎな気が。大人気じゃん」

 「普段無視してるからね、反動が大きいだけよ。めんどくさい奴ばっかり」

 ハンナは衝撃を受けたような顔をした。「私も!?」

 「うん、超めんどくさい」あっさり答えた。

 後方戸口から、ティリーがベラに声をかけた。「あれ、まだいたんだ」ティリーの手首にはクロス・ハーツの中古ブレスレットがある。ダリルのものを羨ましがる彼女にベラがあげたものだ。

 「一週間も補習だよ」プリントをちらつかせ、ダリルが不機嫌そうに言う。「来なきゃさらに増やすとか言われた」

 ダリルとティリー、そしてエフィとケリーは、一学期期末テストで一枚から数枚の赤点があり、夏休みの補習を受けるはめになった。

 「わざわざ遊ぶ約束しなくても、イヤでも学校で会えるってことね」と、ベラ。

 「なんの話だよ」

 よっつに折りたたんだプリントを手に持ったまま、エフィはベラの背後から彼女の首に腕をまわした。

 「合コンする時は呼んでね。全速力で駆けつけるから」

 「しねーよ。する気もねーよ。でももし西の子と遊ぶことがあったら、気が向いたら呼んであげる」

 「西の子って、パーヴォ?」一度見かけただけで話したことはないのに、彼女はベラの話を聞くうちに彼の名前を覚えた。「カノジョいるって言ったじゃん」

 「だからなに。本気でその気になった時はね、奪えばいいの。猛アタックすればいい。それでダメならしょうがないけど」

 「略奪愛推奨ですか? でもドラマでさ、略奪愛で結婚したはいいけど、夫がまた浮気をっての、やってたよ」

 「それはドラマの話でしょ。まあ実際起こらないとは限らないけど、手に入れたとしたら、奪えるもんなら奪ってみろ、くらいに構えてなよ。されたらされた時」

 「おお、強気だ。かっこいい」感動したらしく、エフィはベラの髪に頬をすり寄せた。「さすがベラ」

 ダリルが呆れる。「っつーかお前、ちょっと見ただけで一回も喋ったことないじゃん。順番違くね」

 「呼んでくれるって言ってるもん。なんかベラから話聞いてたら、どんどん興味がわいちゃってね。だからさ、遊んで、やっぱいいなーって思ったら。がんばっていいならがんばるよ」

 エフィに対してもやはり、ベラは呆れている。

 彼女にだけはパーヴォのことを少し話したのだが、カツアゲや喧嘩を遊び感覚でしていたうえ、出会える掲示板プラージュの常習者だという話を聞いても引くことせず、むしろけらけらと笑っていた。ベラ自身も引きはせず、カツアゲされそうになった時は思わず笑ってしまったし、悪い部分を省けば確かにパーヴォはいい友達ではあるものの、どうすればそういう男と恋愛関係になりたいと思うのか、本当によくわからなかった。

 「気が向いたらだから、あんま期待しないでね」ベラは言った。「とりあえず帰る。おなかすいた」

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