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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 11 * NO ME WITHOUT YOU
72/198

* No Me Without You

 曲が終わると拍手が二人を包んだが、エルバがステージをおりようとした時、テーブル席の一部がざわつきはじめた。どうやら客の女が泣きだしたらしい。周りの人間と一緒に、仕事中のケイトも彼女を慰めた。エルバも苦笑いながら泣きじゃくる女のところへ向かう。

 失恋の曲に感情移入する客はよくいるが、フロアの空気を変えてしまうほど泣く客に出会ったのはこれがはじめてだった。ベラも苦笑うしかない。

 「選曲間違ったかもしれないな、私」

 ステージに残った彼女がマイクを使って言う。客たちも苦笑った。

 「まあ、泣きたいだけ泣いてくださいな。私は続けます。次の曲は初披露。歌詞カードは作ってません。バンドもね、みんな知らないの。知ってるのはボスだけ。徹底的に隠したから。自分がこんなのうたうとは、思いもしなかった。泣いててもいいけど、歌詞カードはないわけだから、できれば泣きやんで、耳を澄ませて聴いてほしい。これがあなたの現実になるよう、ちょっとでも勇気になれば嬉しいんだけど。無理っぽかったら、その時は私なりに、別の曲で励まします。ってことで、いきます」機材係に合図する。「“Me Without You”」



  それぞれの時間を持った

  私とあなた

  ふたりは一度別れた

  だけど今また一緒にいる

  私たちがとった距離は

  多くのことを変えた

  今は探してる

  後悔を拭う方法だったり

  伝える方法を


  だって今ならわかることがある

  他の誰かとどんな時間を過ごしたとしても

  誰もあなたじゃない

  誰もあなたには勝てない

  私の中では誰も あなたのようにはなれない

  もっと早くに気づくべきだった

  あなただけが私の生きる理由

  あなたを感じられないなら

  私は枯れたも同然

  あなたがいなきゃ私はだめ

  あなたがいなきゃ私はだめ


  ひとりで過ごした時間は

  私にはとても長かった

  あなたを待つことは

  月が落ちるのを待つようなものだった

  だけどあなたは今ここにいてくれる


  そして今ならわかることがある

  他の誰かとどんな時間を過ごしたとしても

  誰もあなたじゃない

  誰もあなたには勝てない

  私の中では誰も あなたのようにはなれない

  もっと早くに気づくべきだった

  あなただけが私の生きる理由

  あなたを感じられないなら

  私は枯れたも同然

  あなたがいなきゃ私はだめ

  あなたがいなきゃ私はだめ


  今度こそ誓う 二度とあなたを手放さない

  なにが起きたとしても

  だめになりそうな時だって 絶対に諦めたりしない

  あなたと一緒に乗り越える

  完璧である必要なんてない

  ふたりにとっての最善を知っていれば

  私たちは歩いていける

  もう一度信じられる


  だって今ならわかることがある

  他の誰かとどんな時間を過ごしたとしても

  誰もあなたじゃない

  誰もあなたには勝てない

  私の中では誰も あなたのようにはなれない

  もっと早くに気づくべきだった

  あなただけが私の生きる理由

  あなたを感じられないなら

  私は枯れたも同然

  あなたがいなきゃ私はだめ

  あなたがいなきゃ私はだめ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 いつのまにか店に来ていたイリヤが、ステージをおりたベラに声をかけた。彼は今日男友達と一緒で、その友達はさっそく、三人組の女をナンパしている。彼らは今年十八歳、ナンパ相手は十九歳だが。

 「“ブラック・スターにはもう行くな”、だってよ」壁際のカウンターテーブルにもたれているイリヤが言う。「自分が連れてきたくせに」

 「それで喧嘩したの?」

 「そー。自分と一緒じゃなきゃ行くなって。ありえなくね」

 もしかすると、ロッタは自分のことを警戒しているのかもしれない、とベラは思った。見当違いもいいとこだ。

 「一応、出会い目的の店だからね。恋愛とか男女とか関係なくだけど」

 「それがイヤならなんで連れてきたんだっつー話になるだろ。飯が安くてうまいってなったら、誰でも来るわ。酒飲めねーのが残念だけど」

 「ナイト・タウンの酒場と違って、こっちはちゃんと年齢確認するからね。夕飯目的だって言えばいいじゃん」

 「そんなん通用しねー。通用してたら苦労ない。自分が連絡した時に俺がツレと遊んでるっつったら、基本浮気疑うからな。けど自分が誰かと遊ぶ予定がある時は、ほとんど勘ぐらねんだよ。自分が詮索されたくないから」

 どうやら相当面倒らしい。イリヤの話のなにが真実で、彼がどの程度浮気しているのかはわからないものの、ロッタの立ち振る舞いにつきあうのは、かなり苦労しそうだ。

 「でもロッタ、あなたは女友達が多いって。嫉妬してたらキリがないって」

 「それがあいつの変なとこ」壁のほうに向きなおり、曲げた両腕をカウンターに乗せた。「女と連絡とるなとは言わねーんだよ。男のツレが一緒なら遊んでいいって言う。疑うのは、女と二人っきりで会っての浮気。その場に女がいたらとりあえず浮気だと思う。電話で、男のツレの声聞かせろってゴネる。男がいるってわかったらあっさり納得する」

 ベラには意味がわからなかった。「つまり?」

 「つまり? んー」彼は悩んだ。「なんだろな。浮気は無理だけど、“女のツレが多い男”が好きとか。“モテる男が好き”とか。そんなんじゃね」

 なんて単純思考なのだろう。「モテるの?」

 「自分で自分はモテるって言いふらすようなバカじゃねーよ、俺は」

 大変だ。イリヤは遠まわしに、アゼルのことをバカだと言っている。マスティやブル、マルコのこともバカだと言っている。

 そんなことを考えてしまい笑いだしそうになったが、彼女はどうにかこらえた。「異性の友達が多いからって、モテるとは限らないよね。いい友達で終わるパターンもある」

 「まーな。けどお前は男のツレが多いだけじゃなくて、モテるだろ」

 「うん、モテる」

 あまりにもあっさりと答えが返ってきたので、イリヤは笑った。

 「やべー。ここにバカがいた」

 ベラも笑う。「実際、どのくらいを“モテる”って表現するんだろうね。周りの人間全員を惚れさせるなんてのは、無理じゃない。いくらモテる奴でもそれは無理。恋愛対象に入らない人間は絶対いる。私は基本的に入らない側。お前なんか無理って、よく友達に言われてる。それでいいんだけど」

 「なんで無理だ」

 「そのまんまよ、性格が悪いから」

 「性格悪いにも色々あんだろ。俺の中ではロッタも性格悪い側に入る」

 「そんなのカワイイもんだと思うけど。私は言わなくていいことをわりと言うし、しなくていいことをする。復讐が好き。ムカつく奴を追い詰めるのが好き。でも他人にはわりと無関心だったりする。自己中」

 「まさかヒト殴んのか」

 「殴ったことはないな。平手打ちかましたり、蹴りかまして踏みつけにしたことはあるけど」

 イリヤはまた笑った。「マジか」

 「誰にも言わないでね、これ。ほら、ロッタか可愛く思えてきたでしょ」

 「どうだろーな。言ったろ、性格悪いにも色々あるって。いちばん性格悪いのは、外面がよくて陰でぐだぐだ言ってる奴。だと思ってる」

 「つまり自分のことね」

 「そう。俺も性格悪い。だからあんなんとつきあえんのかも」

 性格が悪いイコールかっこいいと思っている男は、ありふれて存在する。“かっこいい”のイコールが“モテる”になると思っているのだ。自分の性格が悪いと認めることは、自分はかっこよくてモテると言っているようなもので、イリヤはまさしくそのタイプなのだとベラは解釈した。陰でなにか言うことなど、自覚の有無はともかく、ほとんどの人間があたりまえにしていることなのに。

 「でも別れなくてよかったじゃない」ベラは彼に言った。

 「別れるって言う前に電話切りやがったんだよ。うざいっつったらキレて電話切られた。めんどくさいからそのまま放置」

 「かけなおしてくるの、待ってると思うけど」

 「三日もすりゃ、何事もなかったように連絡してくる。最初は喧嘩の話も持ち出さずにな。俺の機嫌とるだけとったら、そのうちカマトトぶってもう一回言うんだよ、この店にはもう行くなって」

 「なにそれ」

 「そういう奴。ドラマやマンガみたいな流れが好きなんじゃね。あらためて束縛してくんのはたいていベッドの中だしな。外ではなんも問題ないカップルみたいに振る舞う」

 彼女にはよくわからなかった。「でもある意味、それだけ行動を把握してたら、ほんとになにも問題ないみたいな気がする。別れたり別れなかったりはあるんだろうけど、けっきょく喧嘩しても戻ってる。喧嘩するほど仲がいいって言葉もあるし」その言葉が自分とアゼルに当てはまるのかは、また別の問題だけれど。「なんだかんだで好きなのね、お互いに」

 「ぐだぐだなだけな気がするけどな。俺は心底惚れてるとかじゃねーし」

 相手に心底惚れているなどと言う人間はめったにいない。自分の周りでも、それを言いきる男はゼインだけだ。「そういうこと言わない。っていうかこのあいだ、言い忘れてたけど。もしどこかで私に会っても、その時もし話すことがあっても、この店のことは言わないでね」

 「なんで」

 「ここでうたってること、周りに言ってないの。なんで知り合ったかって話になったら、ナンパだとでも言って。私が逆ナンしたとかでもいいから。時々ステージで言ったり、ここで知り合う人間、みんなに頼んでるの」

 「へー。そりゃいいけど、女の場合はどうすんだ。女はナンパとか言えないだろ」

 「そこはもう、友達の友達、で済ませることにしてる。あとショップの店員さんとか。実際そういう知り合いもいるし」

 「ふーん。なんでそんなに隠すわけ?」

 「この店は大人向け。年齢層を低くしたくないから。それに二十代が多い。あなたは男だからよくわからないかもしれないけど、十代の世間知らずで無知なバカ女が増えたら、年上の男相手に最悪どんな目に合うか、わからないでしょ」

 イリヤは笑った。「確かに」

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