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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 11 * NO ME WITHOUT YOU
67/198

* Again

 翌日。

 放課後、学校の傍まで迎えに来てくれたアゼルの車に乗り込んだベラは、着替えを取りにアパートメントに寄り、彼のコンドミニアムへと向かった。

 シャワーを終えると、立ち寄った店で買ったケーキをリビングのテーブルに用意した。

 「なんでケーキだ」

 バスローブ姿のまま、煙草片手にアゼルが訊いた。同じくバスローブ姿のベラは、チョコレート味のホールケーキにキャンドルを立てている。

 「あんたのと私の誕生日のぶん」

 「なんで六本」

 「十七に十六を足したら?」

 「三十三」

 「三と三だから六です」

 「適当だな」

 「四号サイズに三十三本立てたらさすがにやばいでしょ。食うとこなくなるわ」

 ふたりは、どうにか六等分したケーキを食べはじめた。

 「今年も一昨年もね、あんたの誕生日にケーキ、食べたのよ」ベラは言った。「キャンドルは立ててないけど、今年はビール飲みながら。受験失敗したら、ものすごい勢いでバカにされるんだろうなーとか。もし施設入ってなかったら、どのくらい勉強教えてもらえてたんだろうなーとか。そんなどうでもいいことばっかり考えてた」

 「勉強できると思ってんのか」

 「やらなかっただけで、やろうと思えばたぶん、できるよね。おじいちゃんの遺伝子受け継いでるはずだし」

 「あのジジイにどんな幻想抱いてんのかしんねーけど、実はすげー性格悪いぞ、あれ」

 「なんで? 厳しい?」

 「違う。嫌味とか得意。ヒトからかったり小馬鹿にすんのが得意。こっちが不自由生活なのわかってて、自分はどこ行っただのなに食っただの、なにがどうなっただの、どうでもいい話ばっかりを自慢げにしてくる。ボダルトと校長と教頭、四人で飲んだとか。文化祭見に行ったとか」

 「今確信した。絶対血繋がってる」

 「俺もそう思う。余命宣告受けたってことも、ありえねえくらいあっさり話してた」

 自分と違って、彼は聞いていた。

 「言われた心境って、どうなの?」

 「どうとか言われても。まあいきなり死なれるよりはマシかもな、本人がいいならだけど」

 「でもそのヒトがいなくなるってのを頭において普通に話すってのも、なんか変な気がする。余命もなんか、絶対じゃないみたいだし」

 「だな。本人は身の周り整理する時間ができるってことなんだろうけど、死ぬの待つっつーのもな。余命宣告のあとも、あまりに普通に話してるもんだから、これがほんとに死ぬのかとか思ってた。まあ、十二月に入ってからはさすがに入院したけど」

 「お見舞いは?」

 「見舞いじゃねえけど、看取りはした。なぜかアマウント・ウィズダムの病院にいたからな。葬儀行かねえ代わりに」

 ベラは控えめに口元をゆるめた。「おじいちゃんは幸せね」

 「どーだか。定年でこれからゆっくりできると思ったら俺がまた暴れて、さらにマスティたちまでアレだからな。ゆっくり休む暇がねえとかって」

 「そのうえ余命宣告?」

 「だな。さすがに笑ってた」

 「笑うところじゃないような」

 「そういう性格。笑って死んでくような奴。──に、なってた。いつのまにか」

 「なにそれ」

 アゼルは話を変えた。「イチゴがない」

 「欲しい?」

 「欲しいっつったら出てくんのか」

 「キスしてくれたらあげる」

 「出る保障なんかねえよな」

 「信じればいい」

 「無理」

 「じゃあ予言してあげる。このイチゴを見たら、あんたは絶対、私にキスしたくなる。するかどうかはともかく」

 「なんでもいいからさっさと出せ」

 唇を尖らせ、ベラは引き寄せたキャリーバッグを開けた。中から円錐型のストロベリーチョコレートを出して開封、ケーキの上に数粒並べて彼に言う。

 「“初恋の味”」

 「──意味わかんね」

 「最近ね、学校でちょっと流行ってる。あ、私の周りだけね。これを初恋の味だって言ったらそれが気に入られたみたいで、友達もよく食べるようになった。男にそれ言ったらカワイイと思ってもらえると思ってる」

 「アホだろ」彼はケーキの上から一粒、チョコレートを取って食べた。嬉しそうにそれを眺める彼女に呆れた顔を返す。「残念だな。予言ははずれ」

 ベラはずっと口元をゆるめている。「へー」

 「うざいよお前」

 「今わかった」

 「なにが」

 「私、あんたを口説こうとしてる」

 アゼルはきょとんとした。

 「カラダだけじゃ落とせないみたいだから、本気で口説きにかかる」彼女もケーキの上のチョコレートを一粒食べた。「一年半放置されたからね。こっちも振りまわす。最近気づいたことなんだけど、私、その気になれば男のひとりやふたり、簡単に落とせると思うのよ。そのせいで面倒なこと、やらされたりもするんだけど。」

 「──面倒なことって、なに」

 「エイト・ミリアドのイリヤって男、知ってる? あんたと同期なんだけど」

 「知らね」

 彼女はウェル・サヴァランやロッタ、イリヤのことを簡単に説明した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 昨日電話口で言っていたことだと理解したらしいものの、「しょーもな」と、これがアゼルの感想だった。

 ベラが続ける。「だからね、ロッタとイリヤが別れたら私、そいつとドライブに行くの。つい口がすべって“彼氏と別れられない”なんて言ったら。で、イリヤがあんたの存在を邪魔に思ったら。喧嘩売るかもって、ロッタは言ってる」

 「どんだけ独占欲強いんだっつー」

 「あんたとは大違い」

 「お前と大違いだろ」

 またベラの口元がゆるむ。「独占してほしいの?」

 アゼルは呆れていた。「お前それ、間違ってる。それは口説いてるって言わねえ。単におちょくってるだけ。喧嘩売ってるだけ」

 「間違ってない」と答えて彼の隣に移動する。ケーキからチョコレート生クリームを左手指にとると、アゼルの左肩にかかる黒いバスローブをめくり、彼の鎖骨に生クリームを乗せた。左手指は彼の口に運んで、自分は鎖骨の生クリームを舐める。

 アゼルは指の生クリームをすぐに舐め終わったが、ベラは生クリームがなくなると、彼の首筋にキスをした。上にあがっていき、耳まで近づいてから、ふいに身体を離した。

 「さて。ケーキ食べよ」

 「カラダで落とそうとしてんじゃねえか」

 「これも武器だもん。しかもあんたは、こうやって振りまわされるのが好き。気に入らないことじゃなきゃ、私に振りまわされるのが好き。知ってる」

 「調子に乗ってるとあとで痛い目みる」

 「それはあんたのほう」彼女は真剣な表情で答えた。「まだ限界じゃないから、我慢が続くあいだはこのままでもいい。でも我慢の限界がきたら、また他の男とキスするし、寝る。この一年半寝なかったのは、実際関係がどうなのかわからなかったから。ずっと宙吊りにされたままだったから。でも私は、復讐のためならなんでもする。あんたには私しかいないって思い知らせるためなら、他の男と寝る。浮気だのなんだの言われようと、あんたがそうしてきたように、私もそうする」

 視線を合わせたまま、少しの沈黙が流れる。

 それを言葉で破るよりも先に、アゼルは彼女のバスローブの中に手をすべりこませようとした。その手を、ベラはあっさり払いのけた。

 「口約束じゃだめ。この場限りの言葉じゃだめ。つきあうって言わないなら、しない。あんたのキライなあのヒトへの復讐もしない。帰る」

 「──まだ、限界じゃねえっつった」

 「限界じゃないわよ。限界じゃないからまだ、他の男と寝たりはしない。でもそれは、あんたと寝ることとイコールになるわけじゃない」

 「武器なら使えよ」

 「使う場を決めるのは私。あんたじゃない」彼の頬に手を添える。「私はあんたを赦さないし、あんたも私を赦さなくていい。でもそれとこれとは別。理由なんかどうだっていい。言い訳したいなら、いくらでも作ればいい。そうやってはじまった。なんとなくからはじまった。あんたがはじめて、あんたが置き去りにしたのよ。今度は私がはじめる。あんたはどうか知らないけど、昔と違って、私にはちゃんと気持ちがある。つきあって」

 やはりすぐには答えず、アゼルも彼女の頬に触れた。

 「──お前、わかってねえ。つきあうってのがどういうことか、ぜんぜんわかってない。まためちゃくちゃになる。二年前のようにはいかねえ」

 二年前──彼が問題を起こして施設へ入るまでの約一年間は、少々の喧嘩はあったものの、ふたりにとって、いちばん幸せな時だった。

 「そんなの知らない。ムカついたらまたムカついた時、また考える。あんたの言葉でしょ? 別れたくなったら、別れればいい。でもお願い。会いたい時に会えないところに行くのだけは、やめて」

 アゼルは頬を撫でた手で彼女の顔を引き寄せ、額を合わせて目を閉じた。

 「意味わかんねえよ」

 ベラも目を閉じる。「別れても、また口説きたくなったら口説く。ここにいてね。おじいちゃんのお墓に寄ってから来るから」

 「ますます意味がわかんねえ」

 「素直になれって叱ってくださいって頼みに行くの」

 「お前、あほだろ」

 「知ってのとおりね」

 髪を撫でると、彼は額を離して彼女と視線を合わせた。

 「──どうなっても、知らねえぞ」

 「また傷つくことはわかってる。怖くないわけじゃない。怒りも憎しみも消えない。でも、アゼル。私は、あんたとつきあいたい」

 「──セフレにしとけ」

 「ふざけんなアホ」

 アゼルは微笑んだ。「お前がつきあいたいなら、つきあうってことしてやる」

 彼が戻ってきてから、やっとまともな微笑みを見た気がした。心なしか、ベラの口元もゆるむ。

 「自分で言っといてなんだけど、なんかものすごく間違ってる気がする」

 「今さらだろ。俺らは会った瞬間からもう、ぜんぶ間違ってる」

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