○ Born For This
翌日──疲労がピークに達しているかもと、ベラは感じていた。昨日の夜閉店後、ディックとヒルデブラントとヤンカの四人で、遅くまで曲作りをしていたのだ。
金曜と土曜、予定と予想を遥かに上回るかいすう頻度でステージに立ったこともあり、三人には働きすぎだと言われたが、もうすぐある期末テストに時間がとられることを理由に、引き下がらなかった。けっきょくそれが、ディックだけなくヒルデブラントとヤンカまでもをつきあわせることになってしまった。
ライブを終えてメインフロアをあとにするベラを、エルボー男ことトーマが呼び止めた。
「あら、来てたの」と、ベラ。
「ずっと来てたよ? 金曜も土曜も! かなり存在薄かったけど!」
「そうなの。ぜんぜん気づかなかった。時間あるなら、今日は最後までいたほうがいいわよ。最後の最後で、めちゃくちゃかっこいいの演るから」
「マジ?」
「メンバーもコーラスでうたうの。今日が初披露。超貴重です」
「わかった。聴く。んで、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なに」
「なんでもいいから、詞、書いてくれない?」
彼女はぽかんとした。「は?」
「俺とタフィとステファン、三人だけど、今楽器練習してる。それなりに弾けるようにはなってきた。技術的にはまだまだなんだけど、なんか曲作って練習してっての、明確なのが欲しくて」
「パンクでしょ? サヴァランに頼めばいいじゃない」
「いや、違う。やりたいのはハードロック。サヴァランには手伝ってほしいって頼んだ。けど自分たちのが忙しいから無理だって。それで、ベラに頼んでみればって」
ベラは空笑った。「無理です」
「いやほんと、なんでもいい。サウンドはハードロックでも、詞は普通にしたいんだよ。変な世界観は意識しなくていいから──」
「だから、無理」彼の言葉を遮った。突然切り替えた冷たい態度で応じる。「忙しいの。疲れてるの。店に所属してないバンドに構ってる時間はない。将来的にここでうたうつもりだっていうなら、順番を踏まえて。私はこの店のシンガーとして詞を書いてる。この店に所属してるバンドだから作詞を手伝ってる。客だろうと常連だろうと、所属してるわけじゃないなら手伝ったりはできない」
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この日のベラは、新曲である“Born For This”をうたうことだけを楽しみに仕事をこなしていた。土曜にうたった“That's What You Get”以上に、メンバーと一緒にうたうのだ。酒が入った状態で作った曲ではあるものの、それはそれで自分たちらしい曲になったと思っている。
ラストステージを迎え、ベラはバンドメンバーと一緒にステージに立っていた。マイクを使って言う。
「疲れを通り越して、ハイになってます、今。でももう、それも終わり。これで一気に爆発させて、今日の営業は終了。超かっこいいよ、これ。デトレフに惚れなおすかもしれない」
客が笑うと同時にマトヴェイが口をはさむ。「デトだけ!?」
「あとは目立たないんじゃないかな、知らないけど。でもメンバーも本気でうたうからね。楽器弾けてうたえるってなったら、すごくかっこよく見えるかも。これ、渾身の力作だしね」
パッシがつぶやく。「オレ、途中参加だけどな。行けばよかったって、かなり後悔したけどな」
「気にしない。でも詞間違わないようにがんばってね。んじゃデトレフのドラムから」ベラは人差し指を立てた左手をあげた。「いきます、“Born For This”」
大変 脱落者がまたひとり
容赦ないレース
四方八方 逃げ道はどこにもない
ひたすら一本道
手には片道切符があるだけ
(彼らは誘惑をちらつかせてる)
天国か挑戦かを選べってことね…
空から槍が降ってくる
甘い涙を味わいたがっているんだわ
きっと私たち、勘違いしてた
立ち止まることは敗北じゃない
振り返ることは敗北じゃない
ブレーキをかけて!
だってこれじゃ まるで強制されてるみたい
窮地に立たされてるけど まだ戦えるわ
みんなうたって この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に後退なんかしない )
みんな叫んで この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に撤退なんかしない )
いくつもの理由を集めてきた
ここで生き残るために
誰かの答えが燃やされるのを見たわ
三日前のこと
彼は天国を選んで消えた
(さんざんもてはやされたあとにね)
天も飽きれば見捨てるってこと
やってみなさいよ 好きなだけ私を突き刺せばいいわ
たとえ幻だったとしても投げ出したりしない
この涙は誰かのためのものじゃない
億万長者になりたいかって?
塵に埋もれたいかって?
お断り!
だってこれじゃまるで 強制されてるみたい
窮地に立たされてるけど まだ戦えるわ
みんなうたって この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に後退なんかしない )
みんな叫んで この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に撤退なんかしない )
拳を突き上げて 強い意志を証明するために旗揚げするみたいに
( 私たちは絶対に絶対に撤退なんかしない )
自分自身を見捨てた時 それが本当の終わり
さあ 拳を突き上げて私たちと一緒にうたってよ
私たちはこのために生まれてきた
(私たちはこのために生まれてきた)
みんなうたって この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に後退なんかしない )
みんな叫んで この拳の中に強い意志があるんだって証明するために
( 私たちは絶対に絶対に撤退なんかしない )
拳を突き上げて 強い意志を証明するために旗揚げするみたいに
( 私たちは絶対に絶対に撤退なんかしない )
私たちはこのために生まれてきた
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月曜日。
ブラック・スターに行ったベラは、ディックとヤンカに呼ばれて控え室に入った。話を聞き、呆気にとられるしかなかった。
ウェル・サヴァランに頼まれて今日、バンドにすらなってないトーマたちを面接したらしい。技術的な部分はこれからの練習しだいなのだが、試しにトーマに歌をうたわせてみたところ、技術面が完成すればすぐにでも雇えるという結論が出たらしい。
「ってことでお前、なんか書いてみてくれ」デスクチェアに座っていうディックが言った。「なんでもいい、とりあえずひとつ。今白黒会議室で、双子とマーヴィンがPCで曲作る方法、教えてる。詞ができたらあとはあいつらしだいだ」
彼女には呆れしかなかった。「っていうか二人とも、自分たちがハードロック聴きたいだけなんじゃ──」
「お願い、ベラ」ヤンカが頼む。「彼の声、絶対、ベラも気に入ると思うのよ。ベンジーたちはPC操作を教えてるだけ。もうすぐエイブが来ると思うから、曲作りは彼に手伝わせるわ。ハズレにはならないはず」
二人は矛盾している。最近は特に働きすぎだと言ってくるのに、今は自分たちの好みを優先させる気でいるらしい。
ベラはわざとらしく、だが心底本音の溜め息をついた。
「なんとかやってみる」




