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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 10 * BORN FOR THIS
63/198

○ That's What You Get

 赤白会議室。ウェル・サヴァランのギタリスト、ピートが声をあげた。

 「マジありえねえ、あの女!」

 ベラは呆れ顔を返す。「だから言ったじゃない」ジョエルに言う。「忠告はしたよね」

 「俺はちゃんと言った。ただ全員が」サヴァランのメンバーを見やる。「本気にしなかった」

 「まさかオトコ連れてくるとはな」マーヴィンがつぶやいた。

 「いや、けどつきあってるとは限らなくね?」ジョエルが言う。「メルたちだって、見たことないからわかんないとか言ってたし」

 「わかんないっつっただけで、オトコがいること否定したわけじゃねーだろ」と、ルース。

 「ま、諦めるしかないんじゃないの」ベラはあっさり言った。「どうでもいいじゃない。その反応からして、べつに惚れてたわけじゃないんでしょ」

 ベンジーが応じる。「そういう問題じゃねえって。いないっつってたのにオトコ連れてきたんだぞ。意味わかんねえ」

 「なんかムカつく」今度はルースがつぶやいた。

 ピートの怒りは頂点に達しているらしい。「二ヶ月だぞ、二ヶ月! 何度か遊んで、けどずっとオトコいねえっつってた!」

 だからなんだと言いかけて、彼女は言葉を呑み込んだ。

 「ってことで、お前」ベンジーがベラに言う。「ちょっと探り入れてこい。あ、ロッタじゃなくて男のほうな」

 「なんで私が」

 「ヒラリーにやらせるわけにいかねえだろ」

 ヒラリーは苦笑った。なにが起きているのかもよくわかっていない。

 ルースが続く。「ついでに、あの女がオトコいないっつってたって言ってこい。いや、つきあってなきゃ効果はねえんだろうけど」

 ベラが拒否しようとしたのを見抜いたのか、ベンジーがさらに押しにかかる。「メルたちにやらせるのも無理。お前しか無理!」

 断っても無駄だということは、彼女にもわかった。二股をかけられたわけでもないのに、ピートが散々その気にさせられたというだけで怒っている。怒るのは勝手だが、こちらまで巻き込むのはやめてほしい。そんなことにかまっているほど暇ではないのに。

 しかたなく、ベラはメルヴィナに電話した。

 「はいはーい。どしたー?」

 電話越しにでも彼女の周りが騒がしいことがわかったので訊くまでもないだろうものの、一応確認する。「まだ店にいる?」

 「いるよー。ベラのバンドつきの新曲、“自業自得”を聴くまでは、いるつもり」

 彼女はこの週末の三日間を使い、バンドとしての新曲を、ライブで一日に一曲ずつ披露する。今日は“自業自得”というテーマでデトレフを中心に曲作りをした“That's What You Get”だ。

 「ああ、そっか」と、ベラ。「頼みがあるの。今からそっちに行くから、少しのあいだロッタのこと、引き止めておいてくれない? 男のほうに話しかけたいの」

 「お、マジ? いーよ。どーにか呼んでみる」

 「お願い」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 親切にも、ベンジーはロッタが店に連れてきた男の写真を携帯電話で隠し撮りしていた。遠い場所からではあるけれど、肖像権の侵害だ。店のことを考えるとさすがに言えないものの、気に入らないのなら、相手の男を殴ればいいだけの話のような気もする。

 男はドリンクカウンターにいた。ロッタはすでに、離れたところにいるメルヴィナたちと一緒にテーブル席についている。ベラは彼に近づいた。

 「ひとり?」

 彼はジンジャーエールを飲んでいる。「いや、連れがいる」

 「なんだ、残念」

 「そっちは?」

 どうやら軽い男らしい。逆ナンパにあっさり応じてくれている。細身だが、腕には少し筋肉がある。瞳はライトブルーで、ライトゴールデンブロンドの短い髪はくしゃくしゃというわけではないものの、きっちりとセットしている様子はない。

 「私はここのシンガー。ひとりといえばひとりだし、違うといえば違う」

 「へえ」

 「空いてるならここ、座っていい? 連れが戻ってくるまででいいから」

 「いいけど」

 隣の席に着く。なにも言わずとも、なにか企んでいるのだと状況を理解してくれたらしいヤンカに、ベラはカフェオレを頼んだ。

 「名前は?」男が彼女に訊いた。

 「ベラ。そっちは?」

 「イリヤ」

 「何歳?」

 「今年十八」

 アゼルと同じ年らしい。「高校三年?」

 「とっくに辞めてる。去年」

 「あら。どこ?」

 「インディー・ブルー」

 噂の、基本五教科合計百五十点あれば入学できるらしいところだ。「そこ行こうか迷った」

 「どこ行った?」

 「ミュニシパル」

 「レベルがぜんぜん違くね」

 「私服高ならなんでもよかったの。一生分の学力使い果たして入学した感じ。だから今、赤点ギリギリです。期末はちゃんとしないと、夏休みに補習地獄らしいです」

 イリヤは笑った。「俺は赤点とか、あとめんどくせーのとかがあって、もう辞めた。遠いし」

 「地元どこ?」

 「エイト・ミリヤド」

 マーシャやテクラ、ティリーと同じだ。

 「行ったことないから、どのくらい遠いかわかんない。スクーター通学とかしなかったの?」

 「してたけど、どっちにしてもめんどくせーよ。今は単車がアシ」

 普通の男だ。アゼルの、まだ十八になっていないのに車を持っているというのがどれだけ特殊か、改めてわかった気がした。

 カウンター越しに、ヤンカがカフェオレの入ったグラスを彼女に届けた。ベラが財布からお金を出そうとすると、奢ってやると言ったイリヤがヤンカにお金を渡した。そんなつもりはなかったけれど、ベラはとりあえずありがとうと礼を言い、話を戻した。

 「じゃあ今日も単車?」

 「そー。っつーかほとんど歩きだよな。パーキング遠いっつの」

 「センター街は基本的に歩くところだもんね。でも連れがいるんでしょ? ならいいじゃない、ひとりで黙々と歩かなきゃいけないよりは」

 「まあそうだけど」

 「連れ、戻ってこないよね。どこ?」

 「んー」彼はフロアを見まわした。いくつかのテーブル席のむこうにロッタを見つける。「むこうだな。女ばっかで話してる」

 イリヤが示す方向を、ベラはなにも知らないことを装って見た。姿勢を戻す。

 「もしかして、ロッタの彼氏?」

 返ってきたのは否定ではなかった。「あれ、知ってんのか」

 「友達の友達? ちょっと話しただけで、彼女のことはよく知らないんだけど。彼女が今話してる子たちを知ってる」

 「へー。なんか地元のツレが呼んでるからっつって、行った」

 「ふーん? 彼女に彼氏がいるなんて知らなかった。でもいて当然か、カワイイもんね」

 これはかなり適当な言葉だった。可愛くない女がキライだというメルヴィナたちが、文句を言いながらも一緒にいるのだから、それなりに可愛いのだろうと推測しただけだ。

 「あんなん顔だけの、しょーもない女だぞ」

 意外な言葉だ。本当にこれが、“恋人”の言うセリフなのか。

 「なんで? つきあってるんでしょ?」

 「一応」

 よくわからない反応だった。だがおもしろそうなのでもう少し探ってみようかと、ベラはテーブルの上で曲げた腕を彼に近づけた。

 「彼女の地元、アシス・タスクだよね。どうやって知り合ったの?」

 「“プラージュ”って知ってるか?」

 「出会い系みたいな掲示板の?」

 「そう。それ」

 まさかの答えだ。ロッタの外見からはプラージュなど、まったく想像しなかった。

 彼が続ける。「去年会って、そのうちつきあった。けど別れた。ちょっとしてまたつきあって、すぐ別れて。最近またつきあいだした」

 これが事実ならおそらくだが、ロッタは嘘をついていないということになる。ただこの男とヨリを戻したことを、誰にも言わなかっただけだ。

 「なんでそんなに別れるの? 好きなら喧嘩しても仲なおりして、ずっと続けてればいいじゃない」

 「そういうんじゃねーよ」イリヤもほんの少しだけ、身体を彼女のほうに寄せて顔を近づけた。「あいつはな、尻軽なんだよ。ちょっと顔がよけりゃすぐついてく。プラージュで知り合った男に、ひとりで会うような女だぞ。本人は寝てねえっつーけど、実際はどうだかわかんねえ。嘘ばっかついて他の男とメールしたり遊んだりする。何回言ってもやめねえ。そのくせ俺が他の女と遊んだりしたらキレる。ただのツレだっつっても、浮気だろって疑う」

 ヒトのことを言える立場にはないが、彼らも相当面倒なつきあいをしているらしい。

 「じゃあ、あなたはなんでまたつきあうの?」

 「金と、あとヤりたくなった時」

 笑えるが、彼女は笑わなかった。「なにそれ」

 「いや、違うか。ヨリ戻したいって言ってくんのはいつもあいつ。オンナいなかったら、まあいいかってなって。あいつ、ひとりっ子で甘やかされて、親も金持ってるからな。つきあってりゃ金出してくれんだよ。それに高校入ってからはたまに、ホテルのイベントコンパニオンのバイトしてるし。今日の飯もあいつの奢り」

 つまり。「貢いでもらってる?」

 「まー、そんな感じ? 頼んでねえのにクリスマスとか誕生日に、ブランドモノの財布とかアクセくれたりな。ただのアホ」

 「じゃあ気持ちはないの?」

 「嫌いとは言わねーけど、なんかな。よくわかんね。っつーか、あいつだってヤりてえだけなんじゃねえのって思う。男好きなことは間違いねえよ。普通、別れたら高確率で番号消すだろ。けどあいつはそうしない。俺が別れるっつって譲らないのわかったら、なら友達に戻るとかって。んで、たまに飯に誘ってくる。俺は奢りならって行く。ヤろうと思えば、ヨリ戻さなくてもヤれるんだからな、ホテル代は割り勘くらいで」

 ふたりの関係の予想以上の状況に、さすがのベラも少々驚いた。だがそれ以上に、自分とアゼルに似た部分があることに気づいた。ロッタはもしかすると彼を利用していて、イリヤは確実に彼女を利用している。もちろんいくらか気持ちはあるだろうが──このふたりがお互いのことをどう思っているかを除けば、その状況は、自分たちにそっくりな気がした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「なんだかおかしな関係なのね」と、ベラは言った。

 イリヤがふっと笑う。「俺もそう思う。たぶんあいつは俺のこと、お飾り程度にしか思ってねーよ。俺もだけど」

 その言葉は遠まわしに、自分たちの外見が普通以上にいいと言っているようなものだ。

 「あ、ひとつ訂正」彼が言った。

 「なに?」

 「ちょっと顔がよけりゃついてくっつったけど、それは違うかも。まえにあいつの携帯電話のメール、見たことある。あいつがプラージュで引っかけた相手が写真送ってきてた。ブッサイクなの。っつーかキモデブ。それでもあいつはメール続けてたし、会ったっぽい。男好きだから、男なら誰でもいいんかもな、わりかし」

 ベラは思わずふきだし、笑った。彼があまりにけろりと言うものだから、なんだかおかしかった。つられたのか、イリヤも笑う。

 「っつーか、俺ばっか喋ってる。喋りすぎなくらい喋ってる」

 肩を震わせ、彼女はまだ笑っていた。あまり笑える立場でもないのだが、自分たちの関係と彼らの関係には、圧倒的に違うものがあることもわかった。

 彼らは自分とアゼルほど、お互いに“執着”していない。もしかするとロッタは彼に“執着”しているが、少なくともイリヤは、そうでもないように感じた。

 どうにか落ち着いて、ベラはカフェオレを飲んだ。

 「だいじょうぶ、言わないから」

 「いや、べつに言ってもいいけど。んで、そっちは? 地元」

 「西のほうだけど、今はセンター街の近くに住んでる」

 「近くって、選択肢広すぎだろ。アシス・タスクじゃないよな。ショア・オフィングとか、ケイネル・エイジとかか」

 彼女は微笑んだ。「ま、そんなとこかな」

 「西のほうってのも、どんだけっつー話だけど」

 「シフティース・リバーよりは手前。市内の人間ですよ」

 「ギリギリ?」

 「ぎりぎり」

 「絞れるな。ウェ・キャスにアロウ・アイレット──あとフィクシードも入るか。そこら?」

 「そう。詳しいわね。さすが単車持ち」

 「持ってなくてもそんくらい、知ってると思うけどな」

 「そう? アッパー・エイト・ミリアドなんて地名知ったの、最近なんだけど。去年先輩にドライブに連れてってもらって、そこで市内の名前とローア・ゲートあたりとか、北のほうと西のほう、ちょっと知った感じ。あんま覚えてないけど」

 「なに、単車?」

 「車です」

 「へー。ドライブ好きか」

 「わりと好き。今は忙しくてそんな暇ないけど」

 「俺が車の免許とった時、ロッタと別れてたら、行くか? ドライブ」

 変な男だ。「別れる前提でつきあわないでよ。誕生日は何月?」

 「九月。雨季が終わったら教習通う。早けりゃ十月か十一月には免許とれる」

 「じゃあ、その時になって私が彼氏と別れてたら、行くかも」いてもいなくても、そんな気は毛頭ないが。と、ロッタがこちらに来ることに気づいた。「彼女が戻ってきた。私も仕事があるから、もう行くわね」

 「あ、なんか訊かれたら、俺が声かけたって言えな。そのほうが俺もいろいろ言えるから」

 彼も“計算好き”のニオイがした。席を立つ。「わかった。そうする」

 「ん、またな」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 スタッフフロアに戻ったベラは、ウェル・サヴァランのメンバーに、イリヤから聞いたことをほとんどそのまま伝えた。彼らもプラージュの存在を知っていた。というか、ときどき使っているらしい。もちろんジョエルはヒラリーとつきあってからは、そんなものに関わっていないが。

 ロッタのことは、嘘ではなく言わなかっただけだとわかったものの、ピートを筆頭に、彼らはなにか気に入らないらしかった。反応に困ってどういう態度をとればいいかわからないヒラリーがいたので、サヴァランがどうする気なのかを、ベラが聞くことはなかった。

 それからしばらくして、ベラはバンドメンバーと一緒にステージに立っていた。ギタリストはエイブとパッシだ。エイブのわがままと、新曲のコードを覚える気力がまったくなくなっているディックの意見が一致して、曲しだいではあるものの、これからはエイブがギターを弾くことが多くなる。

 拍手の中、ベラがマイクを使って言う。「さて、お祝いムードの今日の営業も、そろそろ終盤です。次は私たちバンドの新作ロックナンバー。私を筆頭に、少々差はあるものの、みんなひねくれてるからね。できちゃうんだな、こういう歌が」

 客たちが笑う。彼女は続けた。

 「何度も言ってるように、私はCDなんか出さないけど。これはうたいやすいと思うから、これから何度か聴いてメロディ覚えたら、またみんなも一緒にうたってくださいな。女だけじゃないと思う。男もこういう時、あると思うし。最後のサビのとこはちょこっとだけど、メンバーもうたうからね。んじゃ、いきます」指をまっすぐに伸ばした左手をあげる。「“That's What You Get”」



  知ってるのよ  あなたはいつも私の粗を探して

  隙あらばとチャンスをうかがってる

  私の幸運だって  嫉んで潰そうとしてるでしょ

  私を嘲笑うためよね

  わからないわ なぜ私にばかりつっかかってくるのか


  でもね  お返しすることにしたの

  あなたが望む以上のものをね

  覚悟して  私は今、チャンスを待ってるわ

  ぜひ受け取ってほしいの


  それは私を粗末にしたあなたが手にするもの

  それは私に喧嘩を売ったからこそあなたが手にするもの

  その偉大な勇気は賞賛するわ

  だけどあなた、最初から間違ってる

  それは私を粗末にしたあなたが手にするもの


  ある日、あなたは大恥をかくことになるわ

  社会的地位を失うの

  どのくらい耐えられるか  それがいちばんの見物よね


  安心できないわよ あなたは私から

  最高級の洗礼を受けることになるんだから

  そしてあなたは周りに無視されるようになるの

  脅しじゃないわよ


  相手にしなくてもよかったの

  だけど構ってほしいって懇願してきたのはあなた

  どうなるか理解しておくべきだったわね

  あなたは私の頭の中の暴動スイッチを押してしまった

  あなたのせいよ


  なぜそんなに傷つきたがるの


  それは私を粗末にしたあなたが手にするもの

  それは私に喧嘩を売ったからこそあなたが手にするもの

  その偉大な勇気は賞賛するわ

  だけどあなた、最初から間違ってる

  それは私を粗末にしたあなたが手にするもの

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