表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 09 * FIRST LOVE
60/198

* Treatment

 その日の夜、カレルヴォがブラック・スターに来た。昨日ベラが頼んだものを届けにきてくれたのだ。

 「話には聞いてたけど、本格的にオフィス化してるな」

 赤白会議室に入ったカレルヴォが言った。彼はこの店が完成した直後、このフロアに入ったことはあったのだが、この部屋がベラ専用のようになってからのことは、話に聞いただけで足を踏み入れてはいなかった。

 ディックが笑う。「俺らですら専用のオフィスなんてないのにな」

 「他の奴らから不満が出たりしないのか」

 「まあやっかみを耳にすることはあるけど、ベラの仕事量を考えたらな、文句は言えんはずだ。私欲のために占領してるわけじゃない。ベラ中心で仕事をするのにここを使うんだよ。他のバンドの作詞や作曲を手伝う時も、相手によってはここでやる。なぜかここに入れる人間を制限してるわけだけど」

 「ごちゃごちゃ言われたくないんだもん」と、ベラ。中身を確かめたい気持ちをおさえ、カレルヴォから受け取った小ぶりな紙袋をキャリーバッグにしまった。ベラが友達にプレゼントするものだと説明したので、それ以上のことは誰も訊いてこなかった。

 マトヴェイが補足する。「毎日とまで言わないけど、ベラの仕事量、ほんと半端ねえんだよ。最近は特に。自分のだけじゃなくて女三人ぶんの作詞もして、プラス二人用とか三人用とか四人用とかも考える。作曲はオレらの誰かが担当するけど、それも高確率で一緒にやるだろ。んでたまに、他のバンドの作詞やメロディ作りも手伝ったりしてるし」

 「お前らが手伝えばいい話じゃないのか」

 「いや、そりゃやるけどさ。そうしょっちゅう浮かんでくるわけじゃないんだって。ダメな時はほんとダメ。仕事で疲れてたら特に。そういう時はベラを呼びだして、流れ聴かせて、ほら続きうたえ! みたいな」

 「人使いが荒いのよ、みんな」彼女が言う。「ヒトが真剣に仕事してる時に、壊す勢いでドア叩いて。最近じゃ説明しないもん。いきなり詩見せたりメロディ口ずさんだりして、ほらうたえ! って」

 カレルヴォは笑った。「それに応えるお前もすごいな」

 「深く考えないから、なんとかね」

 「やっぱり先走りすぎた気がする」ディックは弱音を吐いた。「こんなバタバタしてる状態で金曜にもオープンて、やってけんのか」

 「めずらしく弱気だなおい」

 「俺とヒルデブラントとヤンカは、ベラから作曲の指名が入るんじゃなきゃ、事務仕事がほとんどなんだけどな。バンドたち見てたら、クオリティを上げようとしての結果なんだろうけど、こいつらを頼ることが増えた気がする。それに騒ぐほどじゃないが、毎日毎日小さい揉め事もある。スタジオの使用時間がどうだの、順番がどうだのって。あと、学生は金ないんだから優先してこっちのスタジオを使わせて、仕事して金あるほうが上に行くべきだとか。くだらんことばっかり」

 「その後始末っつーか、仲介がオレらにまわってくる」マトヴェイがあとをひきとった。「ディックやベラは、社会人だろうが大学生だろうが、バンドはバンド。収入は関係ないって言う。オレらはわからないでもないんだけどな、学生をひいきしてやったらって気持ち。もうめんどくさくてめんどくさくて」

 「なんだお前。自分が苦労したことは忘れたのか」カレルヴォがディックに言った。

 彼は無愛想に答える。「違う。こっちは寝る時間削ってバイトして、飯代切り詰めてやってきた。あいつらはそこまでやってない。悩みが贅沢すぎる。楽器だって親の金だぞ」

 「ああ、なるほど。そういや俺んとこの客も、なんだかんだ財布と相談してるみたいだけど、学生ならたいてい親の金っぽいもんな」

 「だろ。甘やかされすぎててなんかムカつく」

 マトヴェイが苦笑う。「そういうとこ、ホント変わらねーよな」

 「あ、そういや」カレルヴォがベラに言う。「ぜんぜん話変わるけど、言ってたアクセの加工代金、お前のぶんだけ一万五千フラム引いてやる」

 「え、なんで」

 「サイラスが、先月のお前の誕生日になにもやってないから、お前がうちで買い物する時値引きしてやってくれって。一万フラムもすでにもらってる。俺は手間を考えて五千だけど」

 「うそ。やった。いいのに」

 「どんだけあるか知らんけど、高くなりそうならもーちょい値引きしてやる。パッシのほうは放置だけどな」

 買い出しに行っていたデトレフとエイブが、パッシを連れて戻ってきた。デトレフとマトヴェイからアクセサリー類を受け取ったベラは、ディックとヒルデブラントからもらったぶんも含め、パッシと喧嘩しつつ、なにをどう加工するかをカレルヴォと相談した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 水曜。

 ベラは学校から直接家に帰った。今日は店には行かないとディックに伝えてある。メールアドレスは聞いていないので、アゼルにメールを送ることはできなかった。

 午後六時頃に電話したものの、応答はなかった。約束するわけではないと彼は言っていたが──けっきょく会えないのかと、諦めの気持ちが頭をよぎる。指輪を渡したかったのに。

 指輪は、自分のぶんは左手の薬指用を買ったものの、アゼルには左手の中指用を用意した。薬指だと、彼がつけない可能性が高くなるからだ。

 しかたなく、ベラは詞を書きはじめた。“なぜ電話に出ないのか”、という発想からテーマをひとつ。ヒラリーをイメージし、恋愛のはじまりを意識して──マイナスな感情を抑えて、ポップ路線で。

 自分とは正反対の人間を基準にしているので、苦戦しながらも彼女はどうにかペンを進めたが、これをレコーディングする自分を想像すると、少々ぞっとした。浮かんでくるメロディは明るいものだ。ヒラリーがうたえば、完璧に可愛いものになりそうな予感がする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「夕方っつったはずだけど」と、電話越しにアゼルが言った。

 時刻は午後十九時をまわっている。最初に電話をしてから一時間が経ち、ベラは二度目の電話を彼にした。彼は応じたものの、第一声が不機嫌そうな声のそれだった。

 彼女が反論する。「だって電話、出なかったじゃん」

 「あと一回呼び出し音鳴ってたらとってた」

 「そんなめちゃくちゃな」

 「お前んとこの駐車場で三十分待ったけど電話鳴らなかったから、もう帰ってる」

 ベラはぽかんとした。「は?」

 「電話かかってきてちょっとしてから家出た。六時半にはお前んとこのアパートに着いた。三十分待った。電話ねえから帰ってる」

 「絶対嘘」

 「なんで」

 「着いたら普通電話するでしょ」

 「なにが“普通”だよ。異常者が“普通”語んな」

 また喧嘩を売られているように彼女は感じた。待ったというのは嘘だろうが、詞を書くことに神経を注ぎすぎていたのも事実だ。

 彼が続けて言う。「っつーか夕方ってのは四時から六時半までのあいだだって、昔お前、そんなこと言ってなかったか」

 ベラには心当たりがあった。確かに以前、そんな話をしたことがある。今もその考えは変わっていない。ということはつまり、自分があやまるところらしい。

 「ごめんなさい」

 「もうめんどくさいからやめる」

 アゼルの扱い方が難しいというのは、昔、イヤというほど思い知った。だが今の彼は、それ以上に扱いが難しい。どう接していいのかが本当にわからなくなる。失う怖さを知っているからというのも、もちろんあるのだろうが。

 「なら、行く」ベラは言った。「タクシー呼んで、そっちまで行く」

 「もういいだろ」

 以前あったことを繰り返しているようだ。つきあいはじめて数ヶ月が経った頃、文化祭の準備で彼に会いに行く暇がほとんどなくなり、その結果、アゼルがどんどん不機嫌になっていった。誰の気持ちも──彼の気持ちすら考えようとしなかった自分はその頃、彼が不機嫌な理由がわからず、喧嘩したようになって、浮気され、別れることになった。

 このまま引き下がればまた、同じことになるのだということだけはわかる。

 「無理。行く」

 「──五分したらおりてこい」アゼルは言った。「アパートの前まで行く」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 キャリーバッグを後部座席に放り込んでから助手席に乗りこみ、ドアを閉めてすぐ、ベラはアゼルにキスをした。彼とのそれが好きだった。長くて深いキスをしていると、自分が今どこにいるのかも忘れてしまう。

 そしてアゼルも同じなのか、単なる気まぐれなのか、それともまた嫌がらせをする気なのか、彼は自分の右手を彼女の服の中へと滑らせ、胸に触れた。彼女が快感に声を漏らすとその手を止め、彼女の耳元で囁いた。

 「ほんとにお前、どこででもヤれそうだな」

 「どこでもはないと思う」

 「ちょっと山入りゃヤれる」

 「もう外ではしないんじゃなかったの?」

 「誰が俺相手だっつったよ。他の男がお前を山に連れてきゃ平気でヤれるって意味」

 「ありえない」

 「場所さえ選んだらべつにいい気がしてきた」

 「どこがダメでどこがいいのか、その基準がわからない。どこもダメな気がする」

 「ある程度は今さらだけどな」

 そう言って身体を離そうとするアゼルに、ベラはまたキスをした。彼の右手が、今度は彼女の頬に触れる。

 「──いつまでたっても動けねえ」

 彼女が苦笑う。「自動で運転してくれる車があればいいのにね」

 「お前のくちをテープで塞げばいいだけじゃね」

 「ずっとタクシー使えばいいんじゃないの」

 「黙れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ