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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 09 * FIRST LOVE
57/198

* Standing Position

 キーズ・ビル地下二階、赤白会議室。

 「もしかして」と、詞を読んだディックが言う。「戻ってきたのか?」

 ベラはひとまずはぐらかした。「さあね」

 「で、けっきょくヨリ戻したと?」

 「まさか」

 それは、本当だった。

 彼女はてっきり、またやりなおすのだと思っていた。だがアゼルは、別れ際になって言った。

 “お前、なんか勘違いしてる。誰もお前とヨリ戻すなんて言ってねえよ”

 そう言って、彼は玄関のドアを閉めた。

 怒りを感じるよりも先に唖然とした。ただ寝たかっただけのような発言を、彼はあっさりとしてくれたのだ。

 「あの最低男とヨリを戻すなんて、ありえない」と、ベラは不機嫌に言い添えた。

 「フラれたのか」

 「うるさいバカ」

 「それがなんでこうなる? いや、ぜんぜんいいんだけどな」

 すぐには答えず、彼女は煙草に火をつけて吸い、煙を吐き出した。

 「ヨリを戻す人間たちの心理を考えてた。私も昔、一回やりなおしたことはあるんだけど。あんまりっていうか、なにも考えてなかった。ただ好きってだけ。なら他の人間はどうなんだろうって。好きだからってだけじゃ詞にできない。けど設定入れすぎても、共感しにくいかもしれない。だからあんまり明確にしない方向で、どうにか。ヒトそれぞれだろうけど、中にはちょっとした決意、する女だっているでしょ。そういうのをラブレター的にね、書いたことないけど。どうせならロックバラードにしたいと思って」

 「テーマがお前らしくないけど、お前がうたうってことか」

 彼女はテーブルにうなだれた。

 「どっちでもいい。もうどうでもいい。私がそんな性格じゃないってのは、常連なら知ってる。経験ある客が、自分の歌みたいに思ってくれればそれでいい。誰をイメージしたわけでもないし」

 肩をすくませると、ディックはベラの手から煙草を取ってそれを吸った。

 「メロディは?」

 「なんとなくできてる──ただ兄たちに見せると、きっとうるさいのよ。奇跡だのなんだの」

 彼は笑った。「パッシあたりが言いそうだな、明日雪が降るとか。エイブはまたCDをコピーするとか言いだす」

 「絶対言うと思う。だから戻ってきたことも言わない。これ、ある程度作ったあと、あなたがひとりで仕上げて完成まで隠しとおすとか、なんならステージまで隠しとおすとか、できると思う?」

 「できんことはないだろ。いつのまにってな」

 ベラがふとした思いつきを提案する。「もしくはこれの失恋バージョンも書くとか? そしたら──」

 ディックは遮った。「やめとけ。共感を求めるなら、ややこしいことはするな」

 「はい」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 オープンしたブラック・スターのガラス戸の傍ら。

 「質問なんですけど」と、ベラはデトレフに対して切りだした。

 「なんだ」

 「なんかこう、工場みたいなところ? 作業場? あるじゃん。木を加工したり、車を整備したりする」

 「あるな」

 「そういうところで仕事するヒトたちって、指輪しないの? 邪魔になるの?」

 「まあ邪魔じゃないとは言わねえけど、つけて仕事してる奴なんてフツーにいるだろ。わざわざはずしたりしねえよ、特に年とったら」

 ベラは納得した。やはりそうだ。サイズが合ってないわけでなければ、派手なデザインのものでなければ、それほど邪魔にはならない。

 黙りこんだ彼女に彼が訊く。「なんだこの質問」

 適当にごまかすことにした。「や、ふと。指輪コレクターになろうかと思ってね。ゴツい指輪って、どの程度邪魔になるんだろうと思って」

 「ギタリストだってベーシストだってつけてるしな。つけすぎなきゃそんな邪魔にならねえよ。昔使ってたやつ、やろうか? シルバーアクセなら無駄にあるぞ。しかもほとんどクロス・ハーツ」

 クロス・ハーツというのは、シルバーアクセサリーを専門に扱う、世界的にも有名な男性向けアクセサリーブランドだ。値段もピンからキリまである。

 「サイズがぜんぜん違うじゃないっすか」と、ベラ。

 「カレルヴォに頼めばなんとかなんのもあるかもよ」

 「ペンダントとかにもできるかな」

 「できるんじゃね」

 「していいの?」

 「もう使わないしな。仕事にはつけていけねえし、日替わりでつけるとかめんどくさい。指輪以外もあるぞ、ブレスとかペンダントとかも。いるならやる」

 アクセサリーは好きだ。指輪コレクターはただの言い訳だったが、もらえるものならもらいたい。シルバーアクセサリーは特に、いいものほど高い。クロス・ハーツは自分も知っているし、片手で数えられるほどしか持っていないけれど、デザインも全体的に好みだ。少し手を加えるだけで使えるようになるのなら、相当いい話ということになる。

 「ならありがたくいただきます」

 そんなやりとりをパッシに話すと、彼はデトレフに怒った。

 「オレがあんだけくれっつってもくれなかったくせに!」

 デトレフはすっとぼける。「覚えがねえ」

 「そーいや昔、デトの部屋でアクセ類見て、あれ欲しいこれ欲しいってずーっと言ってたよな」マトヴェイが言った。

 「よだれ垂らして見てた」と、エイブ。

 パッシが声をあげる。「それをなんでお前が!」

 なぜ自分が悪者扱いされているのかわからず、ベラも不機嫌になってきた。「なんで私が責められるの」

 「オレもいらねえやつ、やろうか?」マトヴェイが彼女に言う。「クロス・ハーツがある。安いやつでいいならだけど」

 「加工する可能性があるけどそれでもいいなら欲しい。そうじゃなくても飾っておく」

 「んじゃそのうち持ってきてやる」

 パッシはしつこい。「だからオレには!?」

 「くれくれって言われたら、どうもやりたくなくなる謎」

 デトレフの言葉にマトヴェイも笑って同意する。

 「確かに。なんかムカつく」

 彼は愕然とした。「ええー、んじゃこの数年間はなに? さすがに諦めて言わなかったよな、オレ」

 「どっちにしたって、もらえないものはもらえないんだよ」エイブがパッシに言う。「今また欲しいなんて言っても、お前は正社員として仕事して給料もらってんだから、自分で買えって話になる」

 デトレフとマトヴェイがそういうことだとうなずいたものだから、彼はとうとう遠い目をした。

 「なんでオレ、こんなにいじめられるんだろ。正直さ、ベラが来て、最年少のコマ的な位置から抜け出せると思ってたんだよな。でもぜんぜんだよな」

 「ひとつ言っていい?」ベラが深刻そうな表情で彼に言う。「私、こっちの三人のことは兄貴だと思ってるけど、あなたのことはあんまり、そう思ってない。同期かちょっと上か、なんならたまに自分より年下みたいな気がしてる」

 彼は怒った。「お前マジでぶっキレる!」

 この話はその後、ヒルデブラントとディックにも伝わり、彼らも少しではあるがクロス・ハーツのアクセサリーが残っているからと、ベラはそれらももらえることになった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 午後二十三時をまわった頃、アパートメントの自室。

 ビール片手にソファに座ったベラは、テーブルに置いてある避妊薬のPTP包装シートを眺め、考えていた。

 けっきょくアゼルは、どうしたいのだろう。

 薬は一日一錠を決まった時間に飲み続けるものらしく、六日ぶんある。飲み続けろとはっきり言われたわけではない。飲みたければ飲め、そんな感じだった。

 また会う気は、あるのだと思う。アゼルは自分と違って、時間をかけて相手に苦痛を与え続けるタイプだ。大きな苦痛を一度で、爆弾を投下するように攻撃する自分とは違う──ということはつまり、復讐はまだ終わらず、次がある。つまりまた会ったとしても、また傷つけられるということだ。

 飲まなければどうなる? 彼は避妊具がキライというわけではない。面倒だとは昔、言っていたけれど──避妊具をつけた時とつけなかった時の違いが好きだという話はしたことがあった。過去に何度かつけなかったことがあるがそれは、怒りや憎しみ、愛が、これ以上ないくらいに膨張した時だけだった。

 二年前、無駄に買い溜めした避妊具がまだ残っていて、それを彼が今も持っているのなら、使わなければもったいない気もする。インターネットにあった一部の情報によれば、いちばんいいのは、避妊薬を飲みつつ避妊具をつけて、らしいけれど。

 ベラは携帯電話を開き、アゼルの電話番号を表示した。彼に電話するのは苦手だ。特にこううまくいっていない時は、誰が電話に出るかわからない。

 昔、喧嘩しているような状態になっていた時、彼に電話したら、知らない女が電話に応じたのだ──アゼルに電話したのに。そして浮気が発覚し、別れた。

 引きずっていてもしかたがない。しかし恐怖は消えない。そもそもつきあっているわけでないのなら、そんなふうに不安になることすら、おかしいのだろうけれど。

 ビールを喉に流し込み、覚悟を決めて、彼に電話をかけた。呼び出し音が鳴る──二回、三回──四回目の途中で、それが声に変わった。

 「なに」

 不機嫌そうなアゼルの声だった。電話に出たのが彼だったことと、彼が自分だとわかっていることに、ベラは大きく安堵した。それでも今なにをしているか、どこに、誰といるかなどは、訊く勇気がない。

 「訊きたいことがあるんだけど」と、彼女が言う。

 「だからなに」

 「CDコンポ、持ってる?」

 「あ?」

 「だから、CDコンポ。それかPC」

 「お前に関係ないだろ」

 またこれだ、と思った。たいしたことのない質問にさえ、こんな答えだ。会話にならない。

 「なら、住所教えて」

 「知ってんだろ、来たんだから」

 「調べればわかるだろうけど──細かいのが知りたいの。宅配便、送るから」

 「なにを」

 「CDコンポ」

 「なんのために」

 「なんとなく」

 「なんとなくで無駄遣いすんなアホ」

 怒られているのだろうが、その言葉の響きがベラには懐かしかった。ビールを床に置き、クッションをしいてソファに横になる。彼の声だけに集中したくて目を閉じた。

 「昔ほど無駄遣いしてない。学校終わったらほとんど仕事に直行してて、遊ぶのは週に一回か二回程度だし」

 「こっちも昔より稼いでる。お前より金持ってる」

 つまり、買うなと言っている。「なら一緒に買いに行く」

 「いらねえよ」

 「なら私が買う」

 「なんでお前の欲しいもんを俺が買わなきゃいけねえんだ」

 「あんたのとこに置くのよ。私はおばあちゃんが買ってくれたのがある」

 「コンポ買ってもCDなんか買わねえ。めんどくさい」

 「それは私が持っていくからだいじょうぶ。買いに行かないなら私が買ううえに、薬飲まない」

 「最初はともかく、あとのは誰も飲めとは言ってねえ。やっただけだ」

 こういう受け答えに対するアゼルの頭の回転の速さには、ときどき頭が下がる。なにを言ってもうまくかわされてしまう。

 「──なら、もうひとつ、質問」ベラは言った。

 「なに」

 「昔買った避妊具、まだある?」

 「三箱くらいか、ごっそりなくなってたな」

 「ケイにあげた」

 「あっそ」

 「ねえ、答えになってない。あるの?」

 「何箱かはある」

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