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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 08 * BREAK DOWN
49/198

○ Break Down

 六月十二日──夜。

 ブラック・スターが営業中であるにも関わらず、ベラは外にいた。キーズ・ビル専用の駐車場、ディックの軽トラックの荷台に寝転んでいる。今日、彼が車を車検に出すのにつきあったベラは、ふとした思いつきで、車を預けているあいだの代車にと、(ただ乗ってみたいという理由だけで)軽トラックを頼んだのだ。彼女はわざわざ安いブランケットとクッションを買い、それを敷いて荷台に、炭酸アップルジュースに見せかけたビール片手に寝転んでいた。

 ブラック・スターをオープンしてから二ヶ月と一週間──店は土曜と日曜だけの営業だったが、バンドが増えたことや客たちの要望もあり、来週から金曜日にも店をオープンすることになった。それをこのあと、彼女は客たちに知らせなければならない。嬉しいことではあるものの、それほど特別なことでもないような気はしている──それでも、ベラはこれをきっかけに、やっとひとつ決心したことがあった。

 今までディックたちと一緒に色々な曲を作ってきたが、それでもまだうたっていないものが三曲あった。中には去年のクリスマスに詞を書き、一月には曲もついていたのに、ずっと封じ込めていたものもある。どれも失恋をテーマに書いていたのに、アゼルのことを書いているせいか、この二ヶ月、どうしてもうたいたいと思わなかった。だがやっと、それをうたう覚悟ができた。というより、ひとつのきっかけにしてもいいだろうと思ったのかもしれない。

 アゼルがいなくなってから、一年と半年が経った。

 彼のことを考えると今でもときどき、後悔に押しつぶされそうになる。けれど、時間はじゅうぶんに経っている。うたったとしても、泣きそうになったりはしないだろう。終わってしまったことを、完全に受け入れられたのだ。それは同時に、アゼルに会いたいという想いが強くなっていくことを意味しているのかもしれないけれど。

 全身に湿気を感じながら、目を閉じたまま大きく深呼吸する──雨の匂いがした。今夜は雨の予報らしい。今はまだ降ってはいないものの、降るのも時間の問題だろう。

 通りから、マトヴェイが大声で彼女を呼んだ。「ベラー?」

 時間かと、彼女はもう一度深呼吸した。返事をしなかったので、彼はまた彼女の名前を呼んだ。さらに声を大きくしたパッシの声も聞こえ、さすがに呼びすぎだと思ったベラは、身体を起こして彼らに叫んだ。

 「聞こえてるから黙って!」

 この時間帯、このエリアは特に、少なからずヒトが歩いている。ブラック・スターを出入りする客も、他の店へと向かう客も含めてだ。ブラック・スターの常連なら、ベラたちのことを知っている者もいるはずだ。ちゃんとした意味で見知った人間でないのなら、声をかけられたりはしたくない。

 ビールを飲んでブランケットとクッションを回収、荷台から降りる。エイブの車とヒルデの車の後方にあるフェンス越しに、彼らも彼女の姿を確認した。

 「携帯電話くらい持ってけよ! いきなり消えたらびびるだろ!」と、マトヴェイ。

 「すぐ戻るつもりだったのよ」

 約一メートルの高さのフェンス越し、パッシにブランケットとクッションを、マトヴェイにペットボトルを預けた。中身がビールだとわかったうえでそれを飲みながら、マトヴェイがフェンスを乗り越える彼女の右手を片手で支える。ベラは器用にも、フェンスの上にしゃがんだ。

 「飯まだだよな。終わったら食うか」

 「奢ってくれる?」

 パッシが便乗する。「え、オレのぶんも奢り?」

 「お前はさっき女と一緒に食ってただろ」

 「んじゃデザート」

 「エイブに奢らせりゃいいんじゃね。もしくはデト。あの二人のほうが金持ってる」

 「エイブは昨日奢ってくれたし、デトレフもこのあいだ奢ってくれたからダメ。今日はあなたよ。っていうかパッシ、手貸して」

 左手を支えてもらうと、ベラは自分に背を向けるようマトヴェイを促した。そして彼の背中に飛び乗った。バランスを崩しながら、危ないと文句を言いながらも、彼はベラを背負ってフライリーフへと歩きだした。

 「そのままフロアまで行ってね、ダーリン」

 「お前、オレが今日仕事だったって知ってるよな」

 「あとでマッサージしてあげる。十分千フラムで」

 「高!」

 パッシが笑う。「それならオレもやる。スペシャルコースで十五分三千円!」

 「だから高いわ。どんだけ悪質な商売だよ」

 「全身やってあげるよ。やらなくていいところまで、パッシと二人で色々と」

 「怖いわ」

 「笑ったら罰金だからね」

 「マッサージじゃねえし!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 拍手の中、ベラはステージに立った。まずは役目を果たさなければならない。スタンドにセットしたマイクを使って客たちに言う。

 「なんでこのタイミングですかって感じですけど、お知らせです──ついに昨日、新しい許可証が届きました。来週から、ブラック・スターは金曜、土曜、日曜の営業になります」

 大きな歓声と拍手がフロアに溢れる。少し暗くした照明の下、ベラも控えめな笑顔で応えた。

 「ボスたちもこんなに早く、営業日を増やせるとは思ってなかったようです。金曜にも来たいって言ってくれたヒトたち、ありがとう」

 フロアはまた黄色い声に包まれた。

 「でもそういうお祝いムードは、来週の金曜に持ち越します。今日は普通にいきます。詞はどこかにあるはず。見たいヒトは探してくださいな」客たちがそれに応える。彼女は待たなかった。「感情を切り替えて──まずは、“Break Down”」

 そして音楽が流れる。三月、ルキアノスに告白され──アゼルを責めるしかなくて書いた詞だ。

 アゼルがいなくなってから、多くのものを失った。そのたびに彼を──彼と自分を、ずっと責め続けてきた。



  わかるかしら、こんなふうに

  私はまた失ってる

  築き上げたものたちが

  あまりにもあっけなく崩壊していく

  あなたは私を戦場に残し

  そして立ち去ってしまった

  だから私はひとりで戦ってる

  耐え難い喪失感に耐えながら


  ふたりのあいだに

  平穏があったなんて思えない

  だけどあなたがいなくなってから、私は息つく暇もない

  あなたに傷つけられてきたのに

  これじゃまるで

  今まであなたに守られてたみたいじゃない


  あなたを責めたい

  あらゆる原因を押しつけてしまいたい

  だけどあなたはいない 私はひとり押し潰されていく

  終わらない痛み 止まない雨

  今はもう 私は壊れていくだけ

  あなたの影を責め続けるほど

  私は惨めになっていく

  だけどあなたは戻ってこない

  無数の傷痕 明けない夜

  今はもう 私は壊れていくだけ


  あなたを忘れようとすると

  そのたびに

  あなたは夢に現れる

  放っておいてって私は言うけど、そうしてくれないのよね

  今どんな気分なのかしら

  私を見てるんでしょう

  こうやって戦っていても

  なにを相手にしてるのか、私はわかっていない


  憎んでしまうべきなのに

  私が幸せだったのは

  わかってるんでしょう

  あなたの傍にいた時がいちばんだった

  ひとりで生きているのよ

  知りたくもない真実を目の当たりにしながら

  なによりも知りたいことは、知ることができないのにね


  明日の私は

  今日よりも少し病んでいて

  そして今日以上にあなたを恋しがっている

  絶望的な人生 報われない愛

  今はもう 私は壊れていくだけ

  壁に取り囲まれているけれど

  それはたいした問題じゃなくて

  乗り越えるべきはあなただけ

  勝ち目のない挑戦 届かない想い

  今はもう 私は壊れていくだけ


  あなたを責めたい

  あらゆる原因を押しつけてしまいたい

  だけどあなたはいない 私はひとり押し潰されていく

  終わらない痛み 止まない雨

  今はもう 私は壊れていくだけ

  あなたの影を責め続けるほど

  私は惨めになっていく

  だけどあなたは 私の元へは戻ってこない

  無数の傷痕 明けない夜

  今はもう 私は壊れていくだけ

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