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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 07 * DON'T GIMME THAT
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* Don't Gimme That

 メインフロアの壁際カウンターで話をしていたベラ、エイブ、エルバの元に、キュカが来た。

 「ハンターは帰ったの?」

 ベラの質問に彼女は笑った。「ハンター言うな」

 「だってあからさまに狙われてるって、エルバが」

 「だってマジだもん。今日もツレと来て、わざわざうちらに声かけてきたわりに、キュカとばっか話そうとするし。あたし邪魔者だし」

 「もうひとりの連れのほうには興味ないの?」ベラはエルバに訊いた。

 「タイプじゃねー。あっちも、別の女の客に目つけてるから」

 エイブも彼女に訊ねる。「二人で男取り合ったりってしないんだ」

 「しないしない。タイプがぜんぜん違うもん。見た目でいえば、あたしは草食系より肉食系のほうが好き」

 「どういう意味だそれ」

 ベラがまたキュカに訊く。「で、番号くらいは交換したの?」

 「それどころか、デートに誘われた」

 「あら、おめでとう」

 「早くね」

 「時間なんて関係なくね」

 エイブが口をはさむ。「関係ないはずだから、ヤじゃないなら行ってきなよ。追いかけてもらえるうちがチャンスなんだから」

 不快に思ったのか、キュカが反抗的な態度で応じる。「そうですね。行ってきます。なんなら今日店終わったら、今から飲みに行きますかって誘ってみます」

 彼は微笑んだ。「それもいい。自分が飲む酒の量をちゃんと調節して、相手の精神状態をコントロールしてみれば、なにが目的かもはっきりするはずだからね」

 彼女が声をあげる。「よけいなお世話!」

 二週間ほど前、フライリーフでベラとキュカのやりとりを立ち聞きしていたエイブが、真正面からキュカをフッてからというもの、二人は顔を合わせるたびにこんな感じだ。エイブが彼女をからかうような態度をとっていて、キュカはおそらく彼のことを諦めたものの、エイブのクロい部分を知ってしまっただけでなく、実は意地の悪い彼にすべてを見透かされているような気がして、なにかと落ち着かないらしい。弱みを握られたように感じているのだ。まるで大人と子供のやりとりだった。

 エルバが苦笑う。「もういいよ、そーゆーやりとり。さすがに飽きた」

 「はあ!?」

 エイブは笑い、ベラの腰に片腕をまわして彼女を引き寄せた。キュカの顔が引きつるが関係なく、彼女の髪にキスをする。

 「ベラも飽きた?」

 彼女がつぶやく。「飽きたっていうか、どうでもいいんだけど、なんでこのやりとりがはじまるたびに私やエルバが巻き込まれなきゃいけないのか、本当に謎です」

 「さすがにエルバにこんなことはしないよ。エルバに惚れられても困るし、二人の仲が最悪になるかもしれないだろ」

 「ってゆーか」顔を引きつらせたままキュカが口をはさむ。「どんだけ自意識過剰なの? エルバはあんたなんかタイプじゃないって言ってんじゃん」

 「つまり僕は君のタイプそのものだと」

 微笑んでエイブが言うと、彼女は真っ赤になった。「んなこと言ってねえし!」

 彼らがどんな関係になろうと本当にどうでもいいが、ベラはとにかく呆れている。「そろそろいこーか」エルバに言った。

 「そだね。なんならこのうるさいバカは放っておいて」

 キュカはまた怒った。「はあ!?」

 「もう落ち着けよバカ」

 「超冷静だし!」と言葉を返した彼女がエイブを睨む。「耳の穴かっぽじってよく聴けバカ!」

 エイブはけらけらと笑った。

 無駄にヒステリックなキュカ、そしてエルバと一緒に、ベラはステージに立った。うたうのは先週できあがった“Don't Gimme That”というロックナンバーだ。レコーディングで満足できたので誰がうたうのでもよかったこれは、特にキュカが気に入り、三人でうたえないかと提案した。ベラはコーラスを合わせてパート分けを考え、できると判断したので了承した。いつものことだが約一週間、彼女たちは他の曲も含め、猛練習していた。



  なぜ今夜そんな目にあってるのか

  そのお粗末な頭でかんがえてみればいい

  なぜ私がドアを閉めたのか

  あなたは知りたがるけど私は答えない


  哀しみや怒りなんてものはないの

  すべてを諦めてしまうことができたから

  許す理由なんてないわ

  私はあなたの顔を見ることなくサヨナラを言う


  宙を舞うような言葉はいらない

  森を彷徨うような愛もいらない

  もうあなたの声なんて聞きたくない


  いい加減にして


  あなた以上のものなんていくらでもある

  一秒の癒しにもなれない人

  そばにいると私の心が死んでいく

  あなたに人生を捧げるなんてことはしたくない


  宙を舞うような言葉はいらない

  森を彷徨うような愛もいらない

  もうあなたの声なんて聞きたくない


  いい加減にして


  今も昔も、欲しいのは誠意だけ

  あなたには決してないもの

  じゅうぶんな理由でしょう

  私が立ち去り、あなたの記憶を消すには


  いい加減にして



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 閉店後、ベラは赤白会議室に、ディックと二人でいた。

 「ほんとによかったのか?」彼が訊ねる。「金曜はたまに遊んでるだろ」

 「遊んでるのはみんな一緒じゃない。まあ文句は言われるかもしれないけど、私が仕事優先だってのは、バカたちもわかってる。泊めるのに乗り気じゃないってのも。どうしてもっていうなら、夜中の零時くらいに来ればいいだけの話だし」

 「こっちの立場ではガキにそんなこと、言えんけどな。男バンドばっかり増えるもんだから、エルバやキュカが来なきゃお前、ひとりでうたいっぱなし状態になるぞ」

 ベラは笑った。「いくらでもやるわよ。詞もできるだけ書く。あとはあなたたちがどれだけ曲をつけられるかって話なだけ」

 「けど作ったら作ったでまた、レコも増えるわけだからな」

 「かかる時間がネックよね──こだわりすぎなのかもしれないけど。まあ私の場合、声が枯れても、それはそれで楽しんでうたうタイプだから、たぶん平気。早くても半年かと思ってたのに、約二ヶ月半で営業日を増やせることになったのよ。喜ばなきゃ」

 「まあな。コピーバンドが半分以上ってのが気になるところではあるが」

 「なのにライブハウスは不満をぶつけてくる謎」

 ディックが笑う。「今日も電話あったぞ。そっちのルールのせいでこっちに出演してくれるバンドが減ってる、営業妨害だって」

 ちなみに地元雑誌社からの取材の申し込みもあるが、ブラック・スターはそれもすべて断っている。口コミでというスタイルを変えるつもりはない。

 「ロックだのポップスだのパンクだのばかりを集めたイベントばかりじゃないんでしょ? ならいいじゃない」

 「俺もそう思うけどな。なんならお前、宣伝ついでに行ってくるか? 俺の代わりにエイブ入れたバンド引き連れて、“B4”うたって、この店を思う存分アピールしてくる。むこうに残ってる客まで奪う」

 “B4”というのは“Brick By Boring Brick”のことだ。タイトルが長いからと最近、彼らは省略してこの名前で呼んでいる。はじめたのはディックだ。自分でつけたくせに。

 彼女は当然拒否した。「それこそ営業妨害だし。絶対ヤだし!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 火曜の学校──昼休憩時間。ベラはハンナたちと話をしていた。

 「雨季ってヤだ。髪跳ねが最悪になる」ハンナが言った。

 「髪切ればいいじゃん」と、マーシャ。

 「ショートは似合わないからダメ。いいよね、マーシャもテクラも、すっきりストレートで」

 「私のはストレートパーマだよ」とマーシャが訂正する。

 「そんなお金ない。頼んだことあるけど、大げさだって言われて終わった」

 ササは口をはさんだ。「自分の小遣いでやればいいんじゃね」

 「一文無しになっちゃうじゃない!」

 ネアがつぶやく。「ストレートパーマって、勇気いるよね。私なんか絶対似合わないのわかってるから、やる勇気ない」

 「そんな怖いこと言わないでよ!」

 「でも、ストレートが絶対いいってわけじゃないよ。私なんてボリュームがないから、いつもぺしゃんてなってる」

 そんなマーシャの言葉にササがまた言う。「ワックスでボリューム出せばよくね」

 「やだ。髪になんかつけるのって好きじゃない。ただでさえ油分多いのに」

 「いつも髪セットしてるから気づかなかったけど、ササもすごいすっきりストレートだったよね」ハンナが言った。

 「あたしのもストパー。なのにカールコテも持ってるっていう」

 「まじで」

 ネアが質問する。「コテってどうなの? 効果ある? 時間かかるんでしょ?」

 「あたしは全体的にやるわけじゃないからな。毛先にあてるだけだし──」ベラに訊く。「どうなの?」

 「私もしょっちゅうやるわけじゃないけど、確かに時間はかかる。細かく分けてやらないと、全体を同じ流れにしたら変だったりもするし。ストレートのコテならラクだけどね。効果は髪質しだいでしょ。マーシャはあれよ、カールのコテを根元あたりからやればいい。そうすればちょっとはボリュームあるみたいになるかも」

 「ほんと? 買おうかな」

 なにに対しても、ハンナはひとまず警戒心を見せる。「でもコテって、熱いんだよね。火傷しそうで怖い」

 「そんな危ないもんならそこらじゅうに売られたりしてないし」

 ササのもっともな言葉に彼女たちは笑った。

 ティリーに呼ばれ、ベラは彼女たちのところへ行った。

 「あさっての放課後、暇?」ティリーが訊いた。

 「どうだろ。なに」

 ダリルが答える。「ケリーが誕生日なんだって。だからセンター街行って、なんかプレゼント選ぼうかっつー話になりまして」

 ケリーは六月十日生まれということらしい。ベラはなにを買うのかと質問を返した。

 ティリーが答える。「わかんね。ベラが行けるんなら、四人で金出し合ってっていう」

 つまり金を出してくれるなら誰でもいいということなのだろう。自分に対するケリーの態度を考えればそんな義理はないと言いたかったが、ティリーたちを援助するという意味ならいいかとベラは考えた。

 「べつにいいけど」

 「よし、決まり。んでベラは? 誕生日いつ?」

 「残念。五月です。もう終わりました」

 「は?」ティリーと一緒に、ダリルも声を出した。「なんで言わねんだ」

 「わざわざ報告することじゃないし。特に嬉しいところでもないからね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 木曜の放課後。

 ベラはティリーたちと一緒に、センター街のグランド・フラックスへと向かった。ケリーが欲しいものを明言しないため、目的というか目当てがない状態でボードウォークを歩いていく。空は曇っていて湿度も高く、雨が降りそうな天気だ。

 「実用的か消費的か半永続的か飾り的かっていう、そういうジャンルだけでもはっきりさせたほうがよくね」

 立ち止まったベラの提案にエフィが質問を返す。「半永続的ってなに?」

 「CDとかアクセとか、いつも使うわけじゃないけど、壊れるまで使えるみたいな」

 「それ、実用的じゃないの」

 「実用ってのはあれよ、もっとこう、いつも使うみたいな。鏡とか財布とか? アクセはわりと、服に合わせるじゃない。知らないけど」

 ダリルが笑う。「基準が曖昧」

 「でもベラ、なに着てても、いつもそれつけてるよね」と、ベラの首にある南京錠を示してティリーが言った。

 「これはね、お気に入りだから。はずすのが面倒だからはずさないの」

 すかさずダリルがつっこむ。「気に入ってんのか面倒なのかどっちだ」

 「両方です」

 ケリー以外は笑った。

 「ケリーの財布って、ブランドのだっけ」

 ダリルの質問に彼女はうなずいた。

 「んじゃバッグとかも、あんま安いのだと変か。っつーかケリー、バイトしてるもんな。欲しいもんはそれなりに、自分で買えるんだろうし」

 ベラも彼女に質問する。「ストールとかってつけないの?」

 「え、つけないけど。つけんの?」

 「学校じゃ邪魔なだけだからつけないけど、休みの日はたまにつける。服もいいけど、装飾品が好きなんだよね、私。ハット類も最近集めはじめたし、ストールもマフラーもたくさんある。この頃はあんま買ってないけどバッグも多い。あとなによりフィッシュネット・ストッキング。あれが大好き」

 「あんなもん似合うの、ベラくらいだよ」とティリー。

 「ストール、たまに心揺れるけど、着こなしかたがいまいちわかんないんだよね」エフィが言った。

 ベラが応じる。「ついでに見に行こうか。似合うのあったら買ってあげる」

 「まじ?」

 「もしもーし。なんか目的変わってますよ」ティリーが言った。

 「だいじょうぶ。私の得意技は誕生日プレゼントの前払いだから」

 「なんだそれ」

 後方からベラの名前が呼ばれ、彼女たちは一斉に振り返った。その姿を確認したベラが思わず笑顔になる。

 声の主であるアドニスに駆け寄ると、ベラはハグを通り越して彼に抱きついた。彼も笑いながらそれに応える。続いて、格好が地味な気がするとつぶやくナイルにもハグをした。

 「オレは!?」ゼインが言った。

 ベラが質問を返す。「サビナと別れたの?」

 「別れてないし!」

 「じゃあしない」

 「なんで!?」

 挨拶の礼儀として誰彼かまわずハグをする大人たちと違い、思春期の少年少女にとっては、ハグをするのは会えて嬉しいという感情の表れだった。会えて嬉しくないわけではないし、理由を考えるのも面倒なので、ベラは彼にもハグをした。彼は子犬でも見つけたかのように頬をすり寄せて彼女の頭を撫でた。

 「時間がないとか言いながら普通に遊んでんじゃん」アドニスがベラに言った。

 「今日はね、プレゼント買いにつきあってるだけ。事前予約してくれてれば、月曜から木曜までの放課後だけならなんとかなるかも」

 「えらく狭い範囲だな」

 「あれ、友達?」ナイルが訊いた。

 「まあ、そう。同じクラス」

 「ふーん。ひとりを除いて、三人ともかなり性格悪そう」

 彼女は苦笑った。おそらく性格が悪くなさそうなのはエフィだ。「どっちかっつーとエデたち側ね。気にしないで」

 「てっきりあんなんとはつきあわないのかと」と、ゼイン。

 「ほんとに苦手なのはひとりだけ。でも私は器用だから、なんとかなるの」

 彼はなるほどと納得した。

 「っつーかオレ、お前に言い損ねたことが」アドニスが言った。

 「なに」

 「ルキの合コンにつきあいすぎたせいで、女と別れた」

 「まじで」

 ナイルが続く。「ちなみに俺も別れた」

 「別れすぎ」

 「だって最近太ってきたんだもん。なんか知らないけど」

 「なにその最低な理由」

 「だめだめだよな、こいつら」

 結婚不可能な年齢であることを承知で婚姻届にサインしたゼインの悟ったような反応に、二人はうるさいと声を揃えた。

 とにかくもう行かなきゃと言って、ベラは店に入っていく彼らを見送った。

 ティリーたちのところに戻ると、彼氏なのかという的外れにも程がある質問と少々の詮索はあったが、ティリーがすぐ話題を切り替えてくれたので、それほど不快な気分にはならなかった。最近はティリー、ダリル、エフィも、ベラが詮索嫌いだということは理解してくれている。

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