* Force Twisted Way
頭をフル回転させ、ベラは考えた。密かにではなく、こんなに堂々と来た。認めれば、そういう人間なのだというのが周知の事実になる。イジメのようなことには発展しないだろうが──おそらく今後、ササとネアがクラスでやりづらくなるだろう。どうしようかと考えたが、これを乗り切るには、方法はひとつしかなかった。少々強引ではあるものの、それでいくしかない。
テント内に残ったハンナたちに向かって身体を傾け、これ以上ないくらいの小声で言う。
「言ったとか言ってないとか、どうでもいい。でもこれから先、誰になに言われても、言ってないでとおして。いい? みんなもよ。二人はなにも言ってない」
不安げではあったが全員うなずいた。
「でも、どうするの?」声を潜めてハンナが訊いた。
彼女に微笑みを返す。「どうもこうも、事実を押しとおすまでよ。ササとネアだけ、私と一緒に外に出て。極力黙ってていい。私が話すから」
ベラに続き、ササとハンナもテントの外に出た。男子生徒は少し離れたところにテントを張っているので、周囲には女子しかいない。集合時間前なのでまだテントの中に残っている者のほうが多いし、モメているとは思われていないのだろう、注目を集めている様子もなかった。
「で?」いちばん不機嫌そうなケリーが訊いた。
「言ってないっつってる」
腕組みをしたベラが答えると、ショートボブが反論した。
「そんなの嘘よ! ほんとに昨日──」
「うっせーよ!」周囲にいる人間の注目を集めることを承知でベラは怒鳴った。彼女を睨む。「言ってないっつってるじゃん。くだらない言いがかりつけて、なにが楽しいの? どれだけダリルたちに媚売りたいのか知らないけど、そんなことにヒトのツレ利用すんの、やめてくれる?」
まさかの反応に戸惑っているのか、彼女ももう一人の女も言葉を失った。ベラは続けてティリーたちに言う。
「実際のところ、どっちが本当なのかはわかんない。その場にいたわけじゃないから。でもササもネアも、言ってないって言ってる。私はこっちを信じる。トモダチだから。そっちの二人のことなんて、私は知らないし。ササとネアは、昨日の夜メイク落としたティリーを見かけて、すっぴんのほうが可愛いって言っただけ」これは実際は、ハンナの言葉だった。「仮にうるさいとかメイク濃いとか言われたとしても、事実じゃん。私とティリーは特に、原形わかんないくらい濃いわけだし。男好きってのも、私は昔から言われてる。でも男友達が多いことに対するただの嫉みだと思ってる。気にすることじゃないでしょ。っていうか」
一度言葉を切って、再び密告者の二人に目を向ける。
「もしこっちの二人が悪口言ったとして、それをわざわざ密告するってのもどうなの? そこまでしてケリーたちに遊んでほしい? 悪口より、そっちのほうが神経疑うんだけど。朝っぱらから根も葉もない話でっちあげて、ヒトのツレ全員に不愉快な思いさせて、なにがしたいわけ? 事実無根なんだから、悪口はあんたたちの意見だよね。うるさくてごめんなさい。でも、メイクが濃いことであんたたちになんか迷惑かけた? 男好きなことでなんか迷惑かけた? モテるんだからしょうがないじゃん。こっちが男呼んでるんじゃないの。むこうから勝手に来るの。文句があるなら男に言えっつの」
徹底的なベラの攻撃に、二人の目には涙が浮かんでいた。ティリーの口元がゆるむ。
「ごめん。あたし、ベラを信じるわ。確かにその二人のこと、よく知らねえし。ササもネアも、一回一緒にカラオケ行っただけでそれほど知らないけど、ベラはダチだもん。どっち信じるかっつったら、ベラだわ」
ダリルも納得した。「確かに。媚売られても困るし」
「いいの? そっちの二人」ケリーがササとネアを顎で示す。「ぜんぜん喋ってないけど」
ベラが答える。「そりゃ、朝っぱらからこんな意味不明な言いがかりつけられてるのよ。なに言っていいかわかんないでしょ」
「うちらはいーよ。ベラとダチやめたくて来たわけじゃないし」ケリーに答えると、ダリルは涙目の密告者たちへと視線をうつした。「もういいわ、あんたら」
いつのまにか周りの視線も徐々に集まっている。完全に、密告者たちが言い返せる状況ではなくなっていた。そこに一年D組の女担任、ミースター教諭が来た。
「なに騒いでるの?」
ちょうどいいところに来てくれたと思い、ベラは締めに入った。「言いがかりつけられたんです。彼女たちが」ひたすら沈黙を貫いていたササとネアを示す。「“被害者”で、そっちの二人」続けて涙目の二人を示した。「が、“加害者”なんですけど。でももう解決しました。ただこの四人、同じテントなんですよね。気まずいと思うんで、グループ分け、ちょっといじってもいいですか? この二組は離したいんですけど」
ミースター教諭は当事者たちの顔を見やった。詳しい話を聞かずとも、ベラの態度と言葉から、なんとなくの状況を──正確かどうかはともかく──察した。溜め息をついて“加害者”たちに言う。
「いいわ。二人とも、あとで荷物を持って宿舎に来なさい。部屋を用意してもらうから。あなたたちのほうは」ササたちに言う。「ミズ・グラールのところからもう一人誰か入れて、三人ずつにしなさい。もう集合時間になるわよ。早く準備して」
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金曜、夕方。
日常生活へと戻ってきたものの、キャンプ二日目の朝の一件を聞きたかったらしいアニタと、一足先にコマース・ハイスクールでのキャンプイベントを終えていたペトラを、ベラは再び家に招かなければいけなかった。ベラの詮索嫌いをじゅうぶん承知しているはずの二人は、この件は訊いてもいいことだと判断したらしい。
デリバリーで夕食を注文すると、ベラはビールを飲みながら事の一部始終を話した。二人は大笑いした。
「んで、そのあとはなんもなかったわけ? 昨日の昼間とか今日の朝とか」ペトラがベラに訊いた。
「なんにも。どっちのグループにもいたけど、少なくとも私がいるあいだは、悪口がどうこうってのは話に出なかった。密告屋二人を完全悪者扱いしたから、ケリーを中心に、やっぱりそいつらを小馬鹿にするような発言はあったけどね。それはいつものことだし。ササにもネアにも、言ったなんて認めさせてない。ハンナたちもいちいち訊かないだろうし、真相は闇の中なので」
再び笑いが返ってきた。
「ちなみに聞いた話だと、その二人が宿舎に行く時、周りの視線は軽く冷ややかだったみたいよ。そのあと見かけたけど、D組の中じゃかなり気まずそうだったね」と、アニタ。
ペトラが笑う。「ありえないよね。ベラに喧嘩売ったわけじゃないのに、なぜかそれやっちゃったバカみたいになってんの。親切で悪口のこと教えてあげたのに、まさかそれが原因で自分らが悪者にされるなんて、微塵も思ってなかっただろうし」
「けど密告って意味なら、ペトラは昔からしてるよね。エデたちが言ってた悪口を、おもしろおかしくベラに伝えてたわけだから」
アニタの言葉に彼女はかたまった。「いや、それは──」
「こいつは私が気にしないこと、知ってたからでしょ」ベラが言った。「知ってるわよ、最初は反応見たさに教えてくれてたこと。目の前で奴らが私のことどうこう言っても、私を庇いもしてなかったこと」
彼女が空笑う。
「いや、だって、庇うってキャラじゃ──」
「どうでもいいわ」ベラは三人掛けソファに寝転んだ。目を閉じる。「密告ってのも、していいことと悪いことがあるのよ。していい相手とダメな相手もいる。私だって告げ口みたいなこと、したことはある。でもそれはだいじょうぶだって判断したから。その密告屋二人はただのバカよ。自分たちが陰でなに言われてるか知らないまま、ダリルたちに媚売ろうとしたんだから。自業自得」
苦笑い、アニタがペトラに言う。「弱いほうの味方ってわけでもないね、やっぱり」
「ダチ優先? 立場の強い奴の味方とかになったら、それこそ最悪だな」
「ああ、それならあれじゃん。去年末の、ベラとマルコ。エデがこてんぱんにされたってやつ。目撃したわけじゃないけど、あれが最強」
ペトラは笑って同意した。「確かに」
この話はベラにとって、あまりいいものではなかった。なのでさらりと話題を変えた。
「でもさ、高校って、思ったよりラクかもしれない。中学と違って真っ赤な他人のほうが多いから、あんま噂にならないんだよね。グループがはっきりしてるからか、みんな言いふらしたりもしなかったみたい。同じクラスの男たちに、モメたってマジかみたいに言われはしたけど、黙れって言ったら黙った。他は特になにもなかったし」
「それそれ」アニタもうなずく。「だから情報集められなかったんだって。あたしが聞いたの、D組女子がなんかモメてたみたいよってことだけだもん。赤い髪のーってのでベラだってのはわかったけど、あとは他に訊いても、よくわかんないで終わったし」
アニタとは、学校では本当に、挨拶をかわす程度に留めている。彼女は彼女で友達をつくっているし、夏休みになれば泊まりに来る気ではあるが、学校ではただの同級生レベル、実はとても仲がいいという状況を、彼女なりに楽しもうとしているらしい。
「んじゃ高校は、中学ほどはめんどくさくなんないかもね」ペトラも言った。「知らない人間が多いっての、面倒ではあるけど、そのあたりは便利なのかも」
ベラは苦笑った。「このまま三年間、静かに過ぎてくれればいいんだけど」




