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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 06 * CATCH ME IF YOU CAN
42/198

○ Catch Me If You Can

 フライリーフの階段を地下二階へと向かうベラを、後方から追いかけてきたキュカが呼び止めた。踊り場から二段上のステップで立ち止まり、ベラが彼女を見上げる。

 「なに?」

 キュカはステップを一段おりただけで立ち止まった。

 「言ってなかったことがある」

 「だから、なに」

 「ベラに彼氏がいないってアキーレに言ったのも、あたし」

 唐突ではあったものの、どうでもいい告白だった。知ったところで驚きはしないし、意味もない。「今さらなに? もう終わったことでしょ。どうでもいい」

 「あいつがあんたに惚れてたのは、たぶんホントだよ。散々忠告されてたから、なかなか言えなかっただけで──」

 そのまま言わずにいればよかったものを、もしかするとアキーレは、男がいないことを聞いたせいで自分を口説きにかかるという、あんなバカな真似をしてくれたのかもしれない。と、ベラは思った。だがそれも、本当にどうでもいいことだ。

 溜め息をつきながら、ベラは手すりにもたれた。

 「なにが言いたいのか、さっぱりわからないんですけど」

 少し言いよどみ、キュカは質問に変えた。「どこまでホントなの? 幹部の、デトレフたちとどうこうなってるとか──」

 「は?」

 「言ってたじゃん。パッシはありえないけど、エイブやデトレフやマトヴェイは、頼めばなんでも聞いてくれるとか」

 ベラは思い出した。控え室でアキーレに口説かれた時、そんなことを言った気がする。だがなぜ今頃になって、彼女はそんなことを訊くのか? まさか自分が彼らの中の誰かに惚れてるなどと、本気で思っているのか? ありえないが、たとえそう勘違いしたとしても、それと彼女となんの関係があるのだろう?

 関係などあるはずがない──キュカが、あの中の誰かに惚れているのでなければ。

 「──もしかして」ベラは切りだした。「ほんとにエイブに惚れてるの?」

 ほんの少し動揺した気がするものの、キュカは全力でそれを隠した。はっきりと答える代わりに、意識的に静かに深呼吸をする。

 「──さすがに、ベラとエイブじゃ、年が離れすぎてると思う。でも完全になしだなんてのは、言いきれない気がする」

 彼女はやはりはっきり言わなかった。それが答えだった。

 キュカがエイブのことをタイプだと言っていたのは、ベラも覚えている。だがそんなことに協力する気は最初からなかったし、シンガーとして彼女を店に迎え入れた。そしてすぐ、そのことで彼女が恋愛対象からはずれたことを、エイブも遠まわしにだが伝えた気がする。その時点でもう終わっていたと思っていた。

 これで納得がいった。忠告しても、“Don't Save Me”をうたってもなお続いた詮索は、自分のことを知りたかったからではない。エイブのことを気にしていたからだ。エルバからの質問は彼女を思ってのことで、エイブと自分の仲を疑っていたからだ。

 「で、アキーレに協力するみたいに情報提供して、自分は彼からエイブの情報でももらってたとか?」

 ベラが返した質問に対し、キュカは首を横に振った。

 「年のこともあってか、あいつはそれほどエイブと仲がいいわけじゃなかった。ただ、あいつはあたしがエイブのことを気にしてるのに気づいて、自分がベラを落とす、だからなんでもいいからあんたの情報をくれって」

 おかしな交換条件ではあるものの、そんなものが成立してしまったせいで、最終的にはあんなことになったらしい。だがそんなことを聞かされても、ベラはどう答えていいのかわからなかった。

 「だから、今さらそんなこと言われても──」

 「想像以上に幼稚だな」

 エイブの声がした。彼が階段をあがってくる。キュカの表情は、今までベラが見たことがないほどに青ざめた。エイブがベラの横に立つ。

 「僕らは何度も一緒に飲んで、なんなら泊まったりもしてるけど。そんな状況になったことは一度もないよ。ふざけてじゃれることはあるけど、それはお互いにその気がないってわかってるから。高校生に手を出す趣味は僕らにはないし、ベラだってバカなことはしない。軽く見えるかもしれないけどね、この娘はそういうんじゃないんだよ。だから酔いつぶれたり泊まったりできる。僕らにとって、ベラは年の離れた妹みたいなもの。君らを飲みに誘わないのは、酔った勢いでどうこうなるのを避けるため。どう思おうと勝手だけど、そういうまわりくどいの、僕は好きじゃない。それに君がシンガーとして店に来たことで、もうその気はなくなった。僕らはね、店のスタッフの誰にも手を出す気なんてないんだよ。この店を自分たちのせいでダメになんて、したくないからね」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 メインフロア、ベラはステージで拍手を浴びていた。

 「次のこれは、一部の女の子の気持ちを代弁したもの。ライブがよかったけど、今はバンドメンバー、それどころじゃないし。でも私は、早く友達に聴かせてあげたかったから」

 マイクを使ってそう言いながら、メルヴィナのほうを見た。彼女は口元をゆるめてうずうずしている。隣にはウォルターがいた。気づいてくれるといいのだが。機材係に合図を送り、ベラが曲紹介をする。

 「では聴いてください。“Catch Me If You Can”」



  あまりに気まぐれで止められない

  あまりに速くて追いつけない

  あまりに遠くて触れられない


  あまりに綺麗で見つめられない

  あまりに眩しくて目がくらむ

  あまりに素敵で手が出せない


  あなたは私を支配できない


  私は永遠に自由

  捕まえられるものなら捕まえてみて

  私は永遠に自由

  捕まえられるものなら捕まえてみて


  わかってるはず 願いは聞き入れられない

  わかってるはず 祈りは届けられない

  わかってるはず 夢は叶えられない


  そして私はあなたに助けを求めない

  そして私はあなたに許しを乞わない

  そして私はあなたが欲しいとも思わない


  あなたのものにはならない


  押しつけられると 拒みたくなる

  追われると 逃げたくなるの

  閉じ込められても ドアを壊すわ

  捕まえられるものなら 捕まえてみて


  私は永遠に自由

  捕まえられるものなら捕まえてみて

  私は永遠に自由

  捕まえられるものなら捕まえてみて

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