○ Elva ( Falling Fast ver.01 / The Way I Am )
キーズ・ビルの二階、レコーディングスタジオ。受付カウンターにいるヤニはベラに気づいた。が、無視してPC作業に戻った。
「無視かこら」と、彼女が言う。
「お前最近、土日だけ派手だよな、服が」
ベラはカウンター前に立った。
「二重生活してるの。平日は地味で土日が派手」
「なんか意味あんの?」
「学校の流れ。つっても一回家に帰ってるけど。派手めなロック系統の服はほとんど店のロッカールームに持ってきちゃったから、家には地味な服がほとんど。そんで暇を見つけてはさらに服を買って家と店で分けるっていう」
「そんなめんどくさいことしなきゃいいのに。で、今日はなに」
彼女はカウンターに、紙をはさんだクリアファイルを置いた。
「どれがいいと思う?」
キーボードを叩いていた彼の手が止まる。「割引カード?」
「そう」
ヤニはクリアファイルから出して紙を見た。
「なんで六種類もあるんだ」
「一週間かけて考えました。素材集の本見てたらね、あれこれ作りたくなって」
「ひとつでいいだろ」
「ディックもそう言ってた。っていうか、これ見せた相手ほとんど全員に言われた。でもね、どれかひとつに絞れって言われたら、わりと難しいんだって。人気なのは上のまんなかと、右下のやつ。シンプルロックか派手ロックかみたいな。二枚目がある。裏側のデザインも微妙に違うの」
彼はそちらにも目を通した。「──微妙に違うな」
ベラが笑う。「表と裏とをはっきりさせたくて、だからかなり控えてて、でもデザインも変えたくて、みたいなね」
「めんどくさ」
「とりあえず、どれがいいと思うか教えてよ」
「上のまんなか」
「だよね。オーナー夫婦もかなり悩んで、一種類ならそれだって言ってた。ガエルとノエミ、いる?」
「奥にいる」
「んじゃ見せてくる。オーナーたちの許可はとったから、二人がいいって言ってくれたら二種類使うことにする」
ヤニは紙をクリアファイルに戻した。
「ややこしいからひとつにしろよ」
「やだよ」
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散々緊張していたエルバは、キュカとヒラリーとケイトになだめられやっと、単独でステージに立った。拍手に応える余裕はなかったようだが、音楽が流れると大きく深呼吸した。“Falling Fast”の失恋バージョンをうたう。
ひとつの愛を長続きさせるのが
なぜこんなに難しいのかわからない
より良くしたかっただけなの
私たちのためのふたりの関係を
あなたが私の運命の人だと思ってた
かけがえのない存在だった
だけどどこかで間違ってしまって
最後の日を迎えてしまった
みるみる落ちていくの
あなたを失った時から
一筋の希望の光さえ見つけられない
もう一度聞かせて
私はあなたの運命の相手だって
あなたがいなければ
この人生が無意味に思えてしまう
みるみる落ちていく
みるみる落ちていくの
残された愛をどうすればいいの
手放したくなんてない
あなたを抱きしめていた私の手は
まだ力を失っていないのに
ふたりの日々を指折り数えてた
あの頃が懐かしい
今あなたに会えたらこう言うわ
どうか私の指を折って
あなたの瞳 あなたの声
あなたの手 あなたの笑顔
すべてを取り戻したいの
私の瞳を見て 私の声を聞いて
私の手に触れて 私を手に入れて
昔に戻りたいのよ
みるみる落ちていくの
あなたを失った時から
一筋の希望の光さえ見つけられない
もう一度聞かせて
私はあなたの運命の相手だって
あなたがいなければ
この人生が無意味に思えてしまう
みるみる落ちていくの
みるみる落ちていくの
ベラは、明日キュカがうたうことになっている恋落ちバージョンはともかく、こちらは自分でうたいたい気もしていた。恋落ちバージョンを無理に搾り出して書いたせいで、エルバのイメージがあまり入っていない。
とはいえ、好きなジャンルが幅広く器用な彼女は最近、ベラのイメージを汲み取ろうともしてくれるので、ベラがイメージしたキャラクターになるよう意識してうたってくれるのだが。
うたい終えて拍手をもらったエルバは、安心からか少し笑顔を取り戻した。続けて“The Way I Am”の音楽が流れる。
雑然とした部屋を見まわして
いちばん欲しいものを見つけられる
忙しい日々の中でも目的ははっきりしてるの
危険だとわかっていても覗いてみたい
翻弄されるのが好きなのね
時には回り道をするのもいい
呆れるほどはしゃいで
すっかり疲れ果てて
気づかないうちに一日を終えてる
それが私のやりかた
それが私の、自分のための人生
縛られた時間の中で
少し自由に生きてる
それが私のやりかた
ありきたりでかまわない
一番にならなくてもいいの
特別じゃないのが私の特別
それが私のやりかた
それが私の生き方よ
夢みることで生きている
現実に押しつぶされたりしない
自分のために曲げられないものがある
気まぐれで楽観的
いたずらで時々弱虫
私は太陽の輝きの元に生まれた
追いかけたりしない
去っていく人のことなんて
わかるでしょ、それが私の信条
夢みることで生きている
現実に押しつぶされたりしない
自分のために曲げられないものがある
気まぐれで楽観的
いたずらで時々弱虫
私は太陽の輝きの元に生まれた
それが私のやりかた
それが私の、自分のための人生
縛られた時間の中で
少し自由に生きてる
それが私のやりかた
ありきたりでかまわない
一番にならなくてもいいの
特別じゃないのが私の特別
それが私のやりかた
それが私の生き方よ




