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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 05 * VAYA CON DIOS
36/198

* Judge ( Love Makes The World Go Round )

 裏でなにかが起こっているかもというのは、ベラも感じていた。ヒルデブラントはフロアをエイブに任せたきり、一向に戻ってくる気配がないし、入り口にはパッシが立っている──のはいつものことだが、暇があればフロアをうろついているはずのデトレフとマトヴェイの姿もなく、マトヴェイはなぜか控え室でボスの席にいる。そしてベラ自身も、パッシと代わるまで入り口に立たされていた。

 なんとなくの状況をエルバから聞いたあと、ベラはパッシと一緒にスタッフ用フロアへと続く階段へのドアに入り、彼からわかる範囲での状況を聞いた。

 「お前が無線のスイッチ入れてれば、もうちょっと早く状況を理解できてたんだろうけど」と、腕組みをしてドアにもたれたパッシが言う。

 「うーん」目を閉じたまま、ベラは壁に頭をあずけて上を向いた。「知りたくもなかったけどね、めんどくさい」

 「今現在、話がどう進んでるかはわかんないよ。裏をとったってとこまでは報告が入ってるけど、会議室でのことはなにも報告されてないから。あっち、無線切ってるし。けどディックやヒルデはクビにすることで話を進めてるはず。デトレフだって、そういうのは気に入らないタチだから。だとしたら、ほんとにキュカがアキーレに割引のことを喋ったんだとしたら、一緒にクビになる確率は高い」

 「うーん──」

 彼に背を向け、冷たい壁に頬を寄せる。ベラにとっては正直、エム・オーがクビになろうとどうでもいい。音楽が自分の好みではないからだ。

 だがキュカはどうなのだろう。彼女がクビになれば、エルバは店に居づらくなる気がする。なぜキュカが辞めたのかという質問も、彼女に集中することになるだろう。面倒なことはいつだって、あとに残された者にまわる。

 なら、店的には? キュカはまだ単独デビューが決まっていない。というか妙に小難しく考えているらしく、彼女は曲を決め兼ねている。ベラと同じでうたいたいものをうたえばいいという考えのエルバは来週あたり、ソロデビューする予定だ。先週ヒラリーの話を元に“I Am”を書いたのをきっかけに、どうせならエルバとキュカのぶんも作ってみようと思い、今日は先に書いたエルバの詞に音をつけるはずだった。

 正直詮索が面倒だとは思っていて、そのうえさらに面倒なことを引き起こしてくれたようだが、いなくなったらいなくなったで面倒な気がする。曲が宙に浮く。もちろん二人用の曲は、自分がエルバと一緒にうたえばいいだけの話なのだけれど、それではエルバが楽しくないだろう。うたい手が楽しくないのなら、客だって楽しくない。と、勝手に思っている。

 「ひとつ訊いていい?」悩むベラにパッシが言った。

 彼女は視線を合わさない。「なーに」

 「こういうことが起きるって、予測してたわけ? 聞くところによると、お前は毎回毎回、サインの位置を変えてたらしいけど」

 「あー。まあ、一応。ガエルやノエミが気づく確率は低いと思ってたんだけどね」おそらく気づいたのはヤニだろう。サイン入り名刺を持ったバンドが上のスタジオを使う時、カウンターにいるのは高確率で彼だ。「べつに気づかれなくてもよかったの。できれば起きてほしくないことだったし、さすがに用心しすぎかなとも思ってたし。なんとなくの保険だった。まさか盗むとは」

 「ほんとにな」と、彼。「で、どーすんの」

 唇を噛み、ベラは結論を出した。

 「しょーがない。被害は最小限だけにしてくるわ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ノックに応えてドアを開けたデトレフに、なんとなくの状況は聞きましたと伝えると、ベラは赤白会議室の中へと迎え入れられた。

 ディックが説明する。「俺とヒルデがフライリーフで話してるのが聞こえてたらしい。それから、マトヴェイがこいつら」エム・オーを顎で示す。「を、ここに入れるのも見て。こいつらの代わりにお前がステージに立ったことで、なんとなくイヤな予感がしたんだそうだ。で、ヤンカにちょっと問題が起きてるってのを聞いて、ここのドアの外で立ち聞き。まあ内容なんぞほとんど聞こえるはずもないけど、さすがに俺の怒鳴り声は聞こえたらしくて、もしかしたらと思ってノックした。デトレフに確かめて、今ここだ」

 彼はキュカのことを言っている。ヒルデブラントから席をひとつあけたところに座り、キュカはずっとうつむいていた。

 ドアにもたれて腕を組み、ベラが質問を返す。

 「で、全員揃ってクビですか?」

 「そりゃそうだろ。キュカは理由も言わんしな」

 そういえばエルバも、なぜキュカがそんなことをしたのかは話していなかった。「っていうか、ねえ。関係ないけど、あなたが吸ってるその煙草、私のじゃないの?」

 「あったから吸ってる。自分のは控え室なんでな」

 「ふざけんな」テーブル脇に立つ。「滑らせて」

 苦笑うヒルデの前を通り、シガレットケースと灰皿が彼女のほうへと届く。五本あったはずの煙草が残り二本になっていることが気になるが、ベラは煙草に火をつけ、思いきり吸ってから煙を吐き出した。

 「とりあえず確認しとく。こっち側」エム・オーのメンバーを示す。「で、やらかしたのはアキーレひとり? 独断?」

 ディックがうなずく。「だと言ってる」

 「で、こっちは」キュカを見る。「エルバは関係ないと?」

 彼女は無表情ともとれる顔を上げて答えた。「関係ない」

 「あっそ。ならよかった。で、アキーレ以外の三人は? クビに納得してんの?」

 「するわけがないだろ」とディック。「はっきりとは言わんが、ゴネてるも同じだ」

 「へー。ならよかったじゃない。クビはアキーレひとりでいいでしょ」

 エム・オーの四人が顔を上げると同時にデトレフは肩眉を上げ、ディックはヒルデと一緒にぽかんとした。

 「あ?」

 「なんだっけ、連帯責任? 私、それキライ。知ってて放置してたんならともかく、なにも知らされてなかったわけでしょ? だったら三人はなにも悪くないじゃない。巻き込まれ系とかまじで勘弁。まあ、アキーレが辞めるなら自分たちもーっていうノリでいくなら、辞めればいいけど。今日はもう帰ってもらって、それを決めさせる。それがバンド全体としての罰ね」煙草の灰を灰皿に落とす。「三人が戻ってきたからって、私は薄情だとは思わない。でもアキーレのクビはさすがに、立場的に止められません。ガエルやノエミたちに示しがつかないから。それが私の筋。で」

 もう一度煙草を吸って火消しに入れてから、ベラは少々驚いている様子のキュカの視線を受け止めた。

 「私はね、理由なんかどうでもいい。興味ない。ついでに言えば、庇う理由もない。だってキュカとアキーレのやりとりに関しては私、関係ないし。キュカに割引のこと喋ったの、私じゃないし」

 その言葉にヒルデがはっとした。責めているつもりのないベラは続ける。

 「ただね、今辞めてもらっちゃ、歌はどうすんだって話になる。エルバはどうすんだって話になる。なんでキュカが辞めたのか、その質問がぜんぶエルバにまわる。彼女にまで被害がいくことになる。しかも私はエイブとパッシのために、彼女と一緒に“4ever”をうたわなきゃいけなくなる。そんなのごめんだし。まあほんとにキュカが辞めるんなら、私は“4ever”をお別れバージョンに書き換えてうたうけどね。なぜかあれを奇跡扱いしてるエイブが、そんなの許すはずないし」

 ディック、ヒルデ、デトレフは笑いをふきだしそうになったが、どうにかこらえた。涙をこらえるキュカに向かってベラはさらに言う。

 「自分が喋ったことで、アキーレがバカなことやらかした。それでエム・オーがこんな目に合ってる。こんな決断に迫られてる。迫ったの私だけど。ガエルやノエミに迷惑かけたうえ、ディックやヒルデの頭をこれでもかってくらい悩ませた。フロア大好きなデトレフやマトヴェイの時間を奪った。軽い気持ちで秘密をひとつ漏らしただけで、どれだけの人間に影響が出たか。今日はもう帰ってくれていいから、それをよく考えることね。私は、辞めることが必ずしも責任を負うことに繋がるとは思ってないから、あなたには辞めろなんて言わない。っていうか、少なくともディックたちの意思だけでは辞めさせない。気まずいから辞めるっていうのは、ただの無責任。さすがにがっかり。あ、今はがっかりなんてしてないわよ。信用して秘密を話したのは私じゃないから。そういう意味じゃ誰をがっかりさせたかって、あなたならわかるでしょ」

 続けてエム・オーの四人に言う。

 「三人が戻ってくるんだとすれば、アキーレの脱退は“音楽性の違い”ってことにしてもらう。クビだなんてことは言わない。それは幹部にもアックスのメンバーにも口止めしとくから、それでとおして。四人とも辞めるなら、やっぱりライブハウスが恋しくなったってことにする。詮索されたり変な噂がたつのは避けたいから」

 そしてベラは再び、唖然としているディックとヒルデに向かって言った。

 「ってことで、私の話は終わり。キュカがエルバと二人でうたうはずだったぶんも穴埋めしなきゃいけないから、もう戻ります。予定がめちゃくちゃになるけど、マトヴェイに順番をいじくってもらってきた。私はカバーはしない派だから、“4ever”は抜いて、“Bare Hands”と“Behind Hazel Eyes”をエルバと一緒にうたってくる。そのあとやりたくもないトリもやらなきゃいけないわけだけど。声が枯れないことを祈っといてくださいな」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  ほら 彼女はまた傷ついてる

  本気で彼のことを愛していたのに

  彼に捨てられちゃったから

  そして今 彼女は自分を傷つけようとしてる

  だけど別の彼が彼女を止めた

  彼は愛を告白した


  傷が癒えてないからって言って

  彼女は一度断ったんだけど


  けっきょく彼女は恋に落ちた

  彼のすべてに夢中になってる

  今じゃ彼と夜を過ごそうとしてる

  彼女はなによりも彼の言葉を気に入った

  それこそが決定的だった

  彼を運命の相手だとまで思ったのよ

  彼が、愛が世界を動かすんだって言ったから


  なんてことなの なにが彼女の心を変えたのかしら

  彼女は本当に傷ついていたのに

  簡単すぎて私には信じられない


  彼女はまた傷つこうとしてる

  昔どれほど傷ついたかなんて忘れて


  けっきょく彼女は恋に落ちた

  彼のすべてに夢中になってる

  今じゃ彼と夜を過ごそうとしてる

  彼女はなによりも彼の言葉を気に入った

  それこそが決定的だった

  彼を運命の相手だとまで思ったのよ

  彼が、愛が世界を動かすんだって言ったから


  そして彼女はやっぱりまた傷ついてる

  気持ちが重すぎるからって理由で

  彼が始めたことを 彼は終わらせた

  彼女はまたも独りになった


  だけど今回の彼女は違ってた

  涙が枯れるほど泣いたけど

  それを乗り越えるのも早かった

  彼女はなによりも彼の言葉を気に入ってる

  それだけが彼女を支えている

  彼は運命の人じゃなかったけど

  彼女は、愛が世界を動かすんだと信じてる


  彼女はまた恋をするつもりでいる

  彼女はまた愛に傷つこうとしてる

  今までしてきたことを繰り返すのね

  愛が世界を動かすんだって言いながら

  愛が世界を動かすんだって言いながら

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