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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 04 * CAN YOU HEAR ME BOYS
32/198

○ Caution ( 4ever )

 今日予定しているライブの順番どおりに歌詞カードを並べるという手伝いに集中していたヒラリーは、ドアがノックされてはっとした。自分よりも先に気づいたはずなのに、ベラはまったく応じる気配がない。どうすればいいのかわからずおろおろしていると、棚の上で携帯電話が鳴った。ベラは電話に応じるとそっけない様子で二言、三言会話をし、すぐにそれを終えた。

 「サヴァランだって。開けていーよ。でも邪魔くさいから入れはしないでほしいんだけど」

 どこまで本気でどこまで素直なのだろうと思いつつも、ヒラリーはわかったと答えて戸口へ向かった。また自分にがっかりしていた。ベラが“I Am”というタイトルの詞を書きはじめてから今の今まで、サヴァランとあの意地悪な男のことなど、すっかり忘れていたのだ。

 ドアを開けるとジョエルが立っていた。「あ、やっと出てきた。無事?」彼はいつもおかしな心配をする。

 「当然よ。歌詞カードを並べる手伝いをしてたの。それよりあなたは? さっきの人たち、だいじょうぶだった?」

 「平気。マトヴェイやパッシが味方してくれたから。だったらディック──ボスはどうなるんだーっつって」

 今の今まで忘れていたなどということは、言えるはずない。「ああ、よかった」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 開店前のメインフロア。

 シンガーやバンドたちを含むスタッフ全員が集まった。ヒルデブラントとヤンカが、今日から正式にスタッフとして働くケイトを紹介をすると、彼女は拍手と冷やかしの声で迎えられた。

 「ちなみに」とパッシがマイクを使って言う。「メインフロアだけじゃなくてスタッフ用フロアでもだけど、営業日にディックとケイトがイチャついてるとこ見かけたら、幹部の誰かにすぐ言うよーに。オレらからベラに話が伝わって、そしたらベラが制裁を加えることになってる。あ、もちろんディックにだけな」

 スタッフたちはどっと笑った。ケイトは苦笑っている。やはりマイクを使い、ヤンカがあとを引きとった。

 「イチャついてるっていうのは、それぞれの見方しだいでもあるわ。あたしとヒルデのやりとりをイチャついてると思うか、ただの喧嘩ばっかりのうるさい友達みたいに思うかってのも、見方によってそれぞれ違うわけだから。とりあえずの基準としては、肩を組むくらいのことはセーフ。腰に手をまわすのは、状況しだい。キスはもうアウト。ボスとスタッフのひとりっていう立場を、誰よりもこのふたりが明確に分けたがってるの。さっきも言ったとおり、ケイトは主に厨房とホールで仕事をすることになるけど、ボスの女だからって特別扱いはしなくていいわよ。他のみんなと同じように打ち解けて、同じように接してちょうだい」

 パッシのマイクを借りてマトヴェイが続ける。

 「報告は複数人の目撃者がいるほうが信憑性がある。ベラがディックに嫌がらせすんのを見たいだけで大げさな報告をしたら、逆に自分がやられることになるってのを覚えとけよ。ほんとになにするかわかんねえぞ、あの女。もしかしたらとんでもないもん引き連れてくるかも」

 またざわつき混じりの笑いが起こったが、カウンター席に腰をおろしたベラは頭を抱えた。さすがに言いすぎだ。昨日の夜、酒の勢いであれこれ話しすぎたらしい。いくら事実とはいえ、脅しは言いすぎると信憑性がなくなるか、そうでなくても好奇心に繋がってしまうというのに。

 「まあとりあえず」と、エイブがフォローにまわる。「そのとんでもないものがなんなのかすら、ベラには訊かないことだよ。ちなみにベラは、詮索だけじゃなくて、男に口説かれることすら攻撃されてると思うらしいから。これは、僕たちからの親切で真剣な忠告。ケイトには普通に接してくれていいんだけど、ベラにはほんと、近づかないほうがいい。僕らは手遅れだけど。女の子にはやさしいもんだと思ってたんだけど、そうでもないらしくてね。場合によっては性別関係なく攻撃するみたいだから。最悪、この店を辞めるどころじゃ済まなくなるよ」

 後半部分を聞いて、これがフォローなのかどうかすら、ベラにはよくわからなくなった。

 幹部たちは笑っていた。スタッフやバントたちの中には笑う者もいれば、さすがに少し引いたのを苦笑いでごまかす者もいる。ほとんどの話を聞いて内容を理解しているパッシが締めに入った。

 「そういうこと。非情で冷酷な女王様には近づかないことだ。あ、オレらにも訊くなよ、言いふらしたらなにされるかわかんないから。それから」とつけたす。「ウェル・サヴァランのジョエルのカノジョ、ヒラリーがスタッフフロアを出入りしてることに不満がある奴もいるみたいだけど、元はベラが無理やり引き込んだだけだから、彼女に非はない。気にするな。そのことでヒラリーに嫌味言うとかもしないほうがいいぞ、ベラが攻撃してくるから。ヒラリーは特別なお客様。はい終了。仕事にかかるぞ、オープンの準備しろよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 開店後、客の入りが落ち着いた頃。

 ガラス戸近くでベラがエイブ、デトレフ、マトヴェイ、パッシと五人で話をしているところに、ガラス戸を開けてキュカとエルバが現れた。

 「なにみんな、お揃いで」と、エルバ。

 マトヴェイが応じる。「ベラにとっちめられてたんだよ。言いすぎだの脅しが下手だのって」

 「確かに下手だったけどな」デトレフが言った。「ああいうのはもっとこう、におわせるくらいがいいんだよ。言いすぎると信憑性がなくなる。年のことも考えねえと」

 「もっと言ってやって!」

 そんなベラにエイブがあやまる。「わかったから、ごめんて。けどこれでたぶん、詮索はなくなるよ。僕らにも訊いたりしないはず」

 寝不足も手伝ってか、ベラは今、笑えるくらい不機嫌だ。「ストレス発散しなきゃやってられないから、“That's What You Get”、ぶっこんでいいですか? ひとりでいいから」

 「だめだって」エイブが彼女の頭を胸に引き寄せてなだめる。「あれひとりでやったら僕ら、もう覚えるのやめるよ。一生ライブできなくなる」

 彼女は彼の腕の中でもがいた。「そんなの卑怯!」だが彼は温厚な性格に反比例して、意外と力が強いらしい。

 パッシもベラに言う。「どうにかして“Hallelujah”とほぼ同時に覚えるから、待てって。けどそのぶん、曲作りの回数は減ると思えよ。あと、ああいう系統作るのもなし」

 彼女はエイブの腕の中でくるりと回転した。首に彼の腕を残したまま答える。

 「私はああいう系統にしろなんて言ってないわよ。そりゃロックを希望はしたけど。そっちこそ、しばらくああいう系統からは離れてほしい。私はもっといろんな音楽が作りたいの」

 「わかってるって」マトヴェイが言った。「オレらも仕事と曲作りとコード暗記に追われてんだから、さすがに続けはしねえよ」

 彼女が唇を尖らせる。「どうだか」

 「ストレス発散したくなったら、ああいう系統に逃げ込むかもな」と、デトレフ。キュカとエルバに言う。「お前ら、そろそろか。さすがに緊張してねえだろ」

 「めちゃめちゃしてるっつの!」エルバが答えた。

 「昨日の“Can You Hear Me Boys”のノリでいけばいいんだって、特に“4ever”は」

 そう言ったパッシに続いてデトレフも、まったく役に立たなさそうなアドバイスした。

 「そのノリで残り二曲も突っ切りゃいい」

 「もう落ち着いたし、ここはデトマトに任せて」ベラは背後にいる、自分を離す気配のないエイブを見上げた。「聴きにいこーか、“4ever”」

 彼が微笑む。「プレッシャーかけちゃだめだよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ベラはエイブとパッシ、そしてメインフロアにいたヒラリーとジョエルの五人で、ステージ近くにある壁際カウンターに立った。

 客たちからの大きな拍手を浴びながらステージに上がったエルバとキュカは、ヤンカのキーボード演奏で“Black Star”をうたった。ヤンカがステージをおりてすぐ、“4ever”の音楽が流れる。エルバからうたいはじめた。



  混み合うこんな場所で出会ったのよ、私たち

  特別ななにかを感じない?

  むこうの席で彼が私を狙ってる

  それなのにまだ放っておくつもり?


  今夜誰と一緒に過ごすか

  誘惑がすべてってわけじゃないの

  彼が考えてるほど私は安くない

  でも今夜はあなたのことが知りたいわ


  時間を永遠に止めるなんてできっこない

  終わらない夢を求めてるんじゃないの

  だけど私の心がただ叫んでる

  今夜はあなたと一緒に過ごすべきだって

  Yeah, yeah  あなたと  Yeah, yeah

  そして信じさせてほしいの

  私たち、永遠に続く夜を手にしたんだって


  もう相手を見つけちゃったのね

  でも彼女はあなたにふさわしくない

  事を荒立てるか穏便に済ませるか

  私の手をとって 連れ出してくれればいい


  距離を保ったまま 近づくふたつの心

  私のこと 気にせずにはいられなくなってる

  気持ちは彼女のそばにはないでしょ

  あなたも今夜は私のことが知りたいのよね


  明日のことなんて考えなくていい

  明日になったら私 そこにいないかも

  もしかしたら勘違い

  でもほんとに気にしない 気にしないのよ

  傷ついたりしないでしょ

  最高に甘い夜にするか スリリングな夜にするか

  はじめなきゃ なにもはじまらないわ


  時間を永遠に止めるなんてできっこない

  終わらない夢を求めてるんじゃないの

  だけど私の心がただ叫んでる

  今夜はあなたと一緒に過ごすべきだって

  Yeah yeah  あなたと  Yeah yeah

  そして信じさせてほしいの

  私たち、永遠に続く夜を手にしたんだって



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「呼んでないのにね、来たんだよ」メインフロアに入る手前の廊下で、メルヴィナが不機嫌そうに言った。「なんか、ピートと約束したんだって」

 彼女はロッタのことを言っている。メルヴィナはまた女三人で、開店時から店に来ていたのだが、誘った覚えのないロッタが少しあとから店に来て、彼女たちと同じテーブルについたのだ。

 「ピートとできあがってるってこと?」ベラは訊いた。

 「さー。アレのことだから、みんなにメール送りまくってんじゃないの。もしかしたらそのうち、誰かと二人で遊んだーとかって報告が入るかも。中学の時からあいつ、ちょこちょこそういうの、やるんだよね。ヒトが狙ってる男にちょっかい出したり、オンナいる男にちょっかい出したりさ」

 どうやらロッタは相当な男好きらしい。「おもしろいわね。ジョエル以外のサヴァランのメンバー、全員口説き落としたりして」

 メルヴィナが高い声で笑う。

 「ちょ、マジやめて。あたしはベンジー狙ってるし、フィーはマーヴィン狙ってんだから。今日ね、今度みんなで遊ぼーって、誘いかけるつもりだったんだよ。けどロッタが来たし。どうしよーかと思って」

 「誘えばいいじゃない。直じゃなくて、メールとか電話とかでもいいんだろうけど」

 「けど、うちらとロッタ、ふつーにトモダチだと思われてるかんね。あれ誘わないってなったら、ハブってんのかってなって、ちょっと不利になる気が」

 思っていることを正直に言えばいいだけの話なのだが、そうもいかないらしい。

 「ならロッタにちゃんと忠告したうえで、我慢して彼女も誘うしかないかもね。忠告を聞き入れる人間ならの話だけど」

 「たぶん違うけどね。どーせすっとぼけて、誰にでも媚売るんだ、あいつ。だから友達がいない。ま、様子見でやってみる。無理やりピートとくっつけるって手もるし」

 どんな手かというのは、ベラには容易に想像がついた。二人にお似合いだのなんだのとけしかけ、外堀りから固めていくのだ。本人たちがその気になってくれれば、あとはお互いがお互いのことしか見なくなる。と、思われる。

 「ムカつく結果になったら教えてね。詞書いてまた、本人の前でうたうから」

 彼女は笑った。「超楽しみにしとく」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 しばらく出番はないだろうからと地下二階におりていたベラを、メインフロアから追いかけてきたジョエルが呼び止めた。

 「ひとつ質問があるんだけど」と彼が言う。

 ベラは折り返し階段の踊り場から彼を見上げている。「なに」

 「ベンジーたちがメルヴィナたちに手出したりすんのって、どうなん?」

 質問の意味が、わかるようでわからない。「どうって、知らないけど。手を出すってのが一度や二度で、そのあとポイ捨てするとかなら、やめてほしいとは思う。特にメルヴィナはわりと話すから。でも普通に恋愛するって意味なら、私が口出すところじゃないし。客を減らすようなことはしてほしくないけどね」

 「ああ、わかった」

 どうでもいい気はするが、彼女も忠告しておくことにした。「私もひとつ言っておく。ロッタはもしかしたら、タチが悪いかもしれない。男好きって意味で。それほど話すわけじゃないからよくわからないけど、天然装い系かも。引っかからないように、あのがっつき男たちに言っといたほうがいいかもね」

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