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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 04 * CAN YOU HEAR ME BOYS
30/198

○ Can You Hear Me Boys

 数時間後、歌詞カードを客席に配り終えたあと、ベラはヒラリーと一緒にステージに立ち、“Rock This World”を二人でうたった。

 それが終わると湧き起こる拍手の中、ステージ脇に控えていたキュカとエルバを呼んだ。客たちの拍手に、マイクと歌詞カードを持った彼女たちは笑顔で手を振って応える。エルバはベラに、キュカはヒラリーに歌詞カードを渡した。

 「あ、ちなみにね」と、ベラがマイクを使って切りだす。「この二人、明日とうとうオープン・トップ飾りますから。この店のオリジナル曲連発で再デビューしますから。お時間ある方はぜひ聴きに来てくださいな」

 フロアから歓声が上がると同時に二人はぎょっとした。キュカが怒る。

 「ちょっと、変にハードル上げないでよ! きんちょーするじゃん!」

 「っつーかもうしてるっつーのに、さらに緊張させないでよ。またプレッシャーかかるじゃん」と、エルバ。

 ベラは無視した。「だいじょうぶだいじょうぶ、今から四人でうたう曲はね、かなりふざけるから。これうたったら緊張もほぐれるから」

 「明日の話じゃないの!?」

 キュカがつっこむと、フロアではまた大きな笑いが起きた。ベラはやはり無視する。

 「まあ気にしないで。元気があるヒトは私に合わせて手拍子を。女性陣はメロディを覚えたら、最後のサビあたりには一緒にどうぞ。男性陣は耳の穴かっぽじってよーく聴いてくださいな」機材係に合図した。「まあ女全員がこうだとは言わないけどね。少なくとも私は違うし。私の周りの一部の人間がこんな感じだったてだけだし」曲が流れ、ベラは左手で自分の脚をたたきはじめた。「ヒラリー、曲紹介」

 彼女はずっと苦笑ったり笑ったりしている。「では聴いてください。“Can You Hear Me Boys”」

 ベラの頭上での手拍子に合わせ、キュカとエルバ、ヒラリーも一緒になり、笑う客たちのほとんどが手拍子でリズムをとった。再び脚を叩きながらベラがうたいはじめる。



  女のコが通る時は  ドアを開けて

  言われるまえに  女のコの欲しいものを用意してね

  そしてレストランでは  上座を譲って

  女のコと話す時は  慎重に言葉を選ぶこと


  甘やかす必要はないけど  わがままは許して

  財布を出すかどうかの  選択肢はあげる

  でもすべてを女のコに求めるのはダメ

  それは女のコがすべきことじゃないもの


  男のコがどうあるべきかってことを言ってるの


  男のコたち、聞こえてる?  ためらったりしないで

  男のコたち、聞こえてる?  女のコは男らしいのが好き

  なよなよしたのは好きじゃない

  男のコたち、聞こえてる?  はぐらかしたりしないで

  我慢の限界なのよ  女のコは愛されたい

  不安にさせないで


  たとえ彼女が間違ってても  女のコの言い分には耳を傾けて

  あなたが間違ってるのなら  誠意を見せなきゃ

  トラブルになって話し合わなきゃいけない時  妥協だって必要になる

  隠れたり逃げたりするのが  男のコの悪いクセ


  寛大でいて 嫉妬なんかしないで

  それは女のコだけの特権でしょ

  彼女がもっとあなたを信じられるように

  努力しなきゃね


  男のコがどうあるべきかってことを言ってるの


  男のコたち、聞こえてる?  ためらったりしないで

  男のコたち、聞こえてる?  女のコは男らしいのが好き

  なよなよしたのは好きじゃない

  男のコたち、聞こえてる?  はぐらかしたりしないで

  我慢の限界なのよ  女のコは愛されたい

  不安にさせないで


  女のコって あなたが考えるほど簡単じゃない

  女のコって あなたが考えるほど安くない

  女のコって あなたが思うよりも複雑

  女のコって あなたが思うよりも大胆


  男のコたち、聞こえてる?  ためらったりしないで

  男のコたち、聞こえてる?  女のコは男らしいのが好き

  なよなよしたのは好きじゃない

  男のコたち、聞こえてる?  はぐらかしたりしないで

  我慢の限界なのよ  女のコは愛されたい

  不安にさせないで


  もう一回、ねえ聞こえてる?


  つまり、男のコはこうじゃなきゃってことよ



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  四人でのステージを終えたあと、キュカとエルバがカバー曲をうたう中、ステージ脇。ディックが呆れ顔でベラに訊く。

 「最後のサビの“はぐらかしたりしないで”のところ、お前の声だけ“Can you hear me boys”が“Can you hear me Dick”になってた気がするのは気のせいか?」

 彼の隣でケイトが苦笑う。「私もそう聴こえた」

 「オレも」

 パッシが同意すると、ベンジーとジョエルが自分たちもだと言った。

 ベラはすっとぼける。「自意識過剰でしょ」

 「絶対言ってるだろ」と、ディック。

 彼はライブを、控え室のモニター越しではなく、フロアでケイトと一緒に聴いていた。嘘をつく必要はないが、ベラにはごまかしようがない。

 「ちょっとね、ふと思いついたから。おもしろかったよね、ヒラリーもキュカもエルバも、うん? みたいな感じになってたもんね」

 ヒラリーは苦笑った。「ほんとに驚いたわ。あれ? って。ところどころのアレンジにも驚いた。CDにないアレンジだったから」

 ディックが肩をすくませる。

 「バカみたいに思いつきであれこれやるからな。ああいう曲ではノリでなんでもやる。今日もいきなりうたえとか言われて困っただろ」

 ヒラリーが彼とまともに話をするのはこれがはじめてだった。彼がこの店のボスだということを改めて思い出し、彼女は背筋をぴんと伸ばした。

 「いいえ。楽しかったです。あれだけ笑いながらステージでうたったのははじめてでしたし──こちらこそ、このあいだも今日も、無理を聞いてもらってごめんなさい」

 「いや、こっちはかまわん。ベラのわがままはこれにはじまったことじゃないし、なに言っても基本的には聞かないからな。それに今日のあれはあいつら」ステージでうたっているキュカとエルバを顎で示す。「の明日の緊張を解く目的もあったんだ。間違ってもなんとかなるってな。とりあえず」

 彼に促され、ケイトはヒラリーにクラフトの小さめな紙袋を渡した。受け取ったヒラリーが中身を見る。“Can You Hear Me Boys”と書かれたCD-Rと、その歌詞を印刷して折りたたんだものだ。

 「これ──」

 「帰る前にってことだったんだけど、いつ帰っちゃうかわからないから、先に」

 ケイトに続いてディックが説明する。「今日もう何個めかわからんベラのわがままだ。次に君が来た時、ノリしだいではあいつらとまた四人で、らしい」

 ベラも彼女に言う。「キュカとエルバが出番終わったら、あとでちゃんとパート分けする。“Rock This World”みたいに焦らせるつもりはないけど、そのうち覚えてきて。最低でも一週間の間はあけるつもりだから、それ以降でいい。私的には歌詞カードを見ながらなんてこと、したくないからね」

 「お前がそうせざるを得ない状況にしたいんだろ」と、すかさずパッシがつっこんだ。

 「あ、そーでした」

 ヒラリーは笑った。「ええ、わかった。ありがとう」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 閉店後。

 赤白会議室で手伝う気のないデトレフの監督の元、マトヴェイと一緒に軽い雑用を済ませたあと、ベラは彼らと三人でビールを飲みはじめた。

 「お前ヒラリーのこと、キライなんじゃなかったっけ」マトヴェイが言った。

 「もうどうでもいい」と、彼の向かいでベラが答える。

 「なんだかんだで一緒にいるよな、来たら」

 デトレフはエグゼクティブチェアを陣取っている。「半分はジョエルが押しつけてるんじゃなかったか」

 「それもある」とベラは答えた。「でもね、高校の同じクラスに、あれに似たのがいるのよ。あそこまで真っ白でもないんだけど、ひとなつっこさがヒラリーと同等なのが。それから他人の悪口なんて言わなさそーな、ぼけーっとしてるのもいるし、思ってても言わないようなのもいるし。もう慣れました」

 「性悪はいねえの?」

 「いるよ。私はなぜかふたつのグループを行き来する状況に陥ってる。地味めな普通グループと、性悪で男好きなグループと」

 マトヴェイが笑う。「めんどくさ」

 「女っていつもグループだよな。それに固執する。俺らの時もそうだったけど、やっぱ今のガキもそうなんか」

 「変わらないわよ、そういうのは。高校入れば少しは変わるかと思ったけど、やっぱりぜんぜん。大きく分ければ派手もしくは性悪、普通、地味のみっつで、各カテゴリへの分類は絶対よね。誰といるかで、今後誰とつるんでどんなのになるかが決まってくみたいな」

 マトヴェイは小首をかしげた。「お前の立ち位置ってなんなんだろな。性悪ではあるけど、それほど誰かの悪口を影で言うわけじゃないし、むしろ本人の前でさらっと言うタイプだけど。これは性悪か?」

 デトレフが応じる。「けど地味なのともつきあってるわけだろ。性悪に悪口言われる側」

 「言われてんの!?」

 「さあ」ベラは答えた。「中学の時は言われてたけど。でも私は、陰口を気にするタイプじゃないし。誰かの悪口を言ったりしないとことかも、なんかムカつくみたいでね。だんだん目の前で嫌味な言葉を言ってくれるのがいる。性格の悪さを引き出そうとしてんのかな、あれ。風船を針でちくちく刺して割れるか割れないか試すみたいに、細々と嫌味ぶつけてくんの」

 彼らは笑った。

 「そんで爆発したことは?」マトヴェイが訊いた。「あ、あからさまになんかされたってのじゃなくて、それは聞いたから、そうじゃなくて、そのちくちくした嫌味でな」

 彼女は考えた。考えたが、それほど思い当たることがない。

 「爆発って意味なら、そんなにした覚えない。“Alone”のネタ元の話はしたし──基本的にはさらっと嫌味返すか無視して終わりだもん」

 デトレフが彼女に言う。「それがあれだろ、よけいにでかい喧嘩売られる原因。普通に見りゃお前は性悪にしか見えねえ。なのになかなか本性現さねえ。キレねえ。それがただのヘタレなのか、ほんとに我慢強いのかが気になってくる。だからアホ共は喧嘩売る」

 似たようなことを昔、ゲルトに言われたことがある。面倒に巻き込まれるのは、その性格も原因のひとつだと。

 「んなこと言ったって、細かいのにいちいち反応してたらキリないじゃん」彼女はしかめっつらで答えた。

 またマトヴェイが質問する。「お前実際、誰かの悪口って言わねえの? いや、言うのはわかってるけど、周りに対して不満ありまくりだろ。男には直接言うけど、女にはあんまり言わないよな。どこでもそんなか?」

 「基本的には誰がなにしようとどうでもいいから、それほど不満は感じないわよ。それに言うとしても、悪口は言う場所を選ぶの。絶対漏れない場所と相手を選んで話す。自分からはあんまり言わない。女のことなんて特によ。話が漏れたら面倒じゃん」

 デトレフはまた笑った。「どこまでも計算高いな」

 ドアが大きな音を立ててノックされた。まるで取り立て屋のようなそのノックの仕方から、おそらくパッシだろうと三人は目星をつけた。

 誰が鍵を開けるかという話になり、ベラはマトヴェイをエグゼクティブチェアに座らせ、デトレフと一緒に、チェアの背を思いきり押して彼をドアのほうまで滑らせた。

 なんとか壁への事故的激突を免れて辿り着いたマトヴェイが大笑いしながら鍵を開けると、戸口にはパッシとエイブ、キュカとエルバがいた。笑いすぎな三人に呆れ顔を見せる。

 「お前まで酒飲んだらまずいだろ」エイブがデトレフに言った。「今日お前の車だろ?」

 彼はテーブルに腰かけてまたビールを飲んでいる。「今日な、ベラがもう疲れてんだよ」

 ベラはなにも言っていないのだが、彼の考えはわかっている。それに、すでに午後二十三時を過ぎていて、今日は昼間に慣れない恋落ちの詞を書いたことや、ディックとケイトのこともあったり、予定していた以外にもまたフォローでステージに立ったこともあって、疲れているのも本当だ。

 「は?」ベラへと視線をうつし、彼は状況をなんとなく察知した。今までにも何度かあった、“いつものこと”とも言える状況だ。「ああ、そういうことか」

 彼女が苦笑う。「どっちでもいいんだけどね。っていうか、もう手遅れだし」

 「確かに。じゃあ今日はもうやめとこうか」

 「なに?」キュカがエイブに訊いた。

 「またベラの家行くつもりだったんだけど、それが流れた。僕はこのバカ二人を送ってかなきゃなんない」

 パッシが言う。「オレ、家帰ったらすぐ彼女んとこ行こーと思ってたのに」

 「僕の車で直行する?」

 「マジ?」

 「ぶつけたらぶっ飛ばすけど」

 マトヴェイはひらめきに指を鳴らした。

 「目的は変わるけど、ベラ。一回お前ん家寄る。お前が用意できたら三人でデトの家。飲みながら曲作る」

 今日はエイブと一緒に曲を作る予定だったのだが、それを変更、パッシ抜きでみんなのロックを作るという意味らしい。

 「それでもいいけど」とベラは答えた。

 「知らないよ」エイブが言う。「こないだ言っただろ。ベラ、朝起きるの早い。八時には起こされる。ベラの家じゃないなら、もっと早い可能性が」

 「携帯電話奪っときゃ平気じゃね」

 「身体が覚えてるらしくて私、七時くらいには勝手に目が覚めるんですけど」

 「マジか」

 「ま、そういうことなら」エイブはポケットから出した鍵をパッシに渡す。「さっさと行こ。時間もったいない」

 ビールを飲み干し、デトレフも席を立った。

 「酒切らしてるから、途中で買ってかなきゃなんねーぞ」

 ベラが手をあげる。「ここのぶんと家のぶんもいる」

 「お前毎週買ってるじゃねえか」

 「私を迎えに来て準備ができるのを待つ合間に一本、二本て勝手に飲んでるのはどこの誰ですか」

 マトヴェイが笑う。「オレらだ」

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