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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 03 * DON'T SAVE ME
22/198

* Making Melody

 金曜の夜、ケイが家に来た。彼はゲルトやセテと同じようにひととおり部屋を観察したあと、やっとソファに座った。二人掛けソファの脇にあるキャリーバッグを顎で示す。

 「使ってんだ、それ」

 テーブルにお菓子を広げ、ベラはラグの上に座ってビールを飲んでいる。

 「使ってるよ。学校にはさすがにだけど、それ以外で出かける時はほとんどいつも持ち歩いてる。中にノートPCとあんたがくれた手帳も入れて。便利なのよ」

 「まさか常備するとは思わんかった」

 「そう? 常備するつもりで欲しがってたんだけど。自分が店で見てた時は、これって思うのがなくて」

 「ふーん。まあPCならこれのがいいか。兄貴には? やっぱ連絡してねえの?」

 「してない。新しい番号とか、教えてもいいんだけど、なんかそのために連絡するのも変だし」

 「レジーとパーヴォには?」

 「それは教えた。あとチェーソンにも。あっちはおばーちゃんのことなんか知らないし。チェーソンにはメール入れただけだけどね。でもエルミやナンネにはまだ連絡してない。ほんとに忙しいから、一日にひとりか二人に連絡できればいいほうなのよ」

 彼は小首をかしげた。

 「チェーソンに教えたのに、ナンネたちにはまだなんか」

 「そうね。チェーソンは、あってほしくないけど、なにかあった時、また手伝ってもらうかもしれないし。レジーやパーヴォに教えるならついでにと思って」

 「ああ。んじゃオレから兄貴に教えとくのはアリ? べつに話せとか会えとか言わんけど、なんかあった時のために」

 過去に自分がフッた相手に連絡をとるのは、どんな時なのだろう。ベラには本当にそれがわからなかった。マルコとの──つきあってはいない、時々一緒にどこかへでかけるだけの──関係は一度、完全に終わったが、険悪な最後ではなかった。ただ無意識のうちに散々期待させ、最後の最後で、アゼルへの気持ちを認めてしまった。彼はさすがにもう、自分のことを引きずったりはしていないだろうものの、なにかを頼むわけでもないのに彼に連絡するのは、なんだか気が引ける。

 「そうね。お願い」

 「よし。んで、ちょっと訊きたいんだけど」ケイはラグに腰をおろした。「プラージュでメールはじめた女のひとりがさ、お前と同じ高校だっつーんだよ、ミュニシパル。春休みからたまにメールしてて、お前の同期なんだ。偽名の可能性はあんだけど、ボブカットのテクラって女、知らね? 地元は南のほうだっつってた。ミリアド方面だとかなんとか」

 ベラには思い当たる女がいた。ボブカットでテクラでミリアドといえば、エイト・ミリアドのテクラだ。

 「いるけど──」

 ケイが笑顔を見せる。「マジ? どんな? 可愛い? そんなんわかんねえだろうけど、可愛い?」

 どんな説明をすればいいのかわからず、返せる言葉はひとつしか浮かばなかった。「身長百七十センチ──」

 途端、彼の顔から笑顔が消えた。「マジで?」

 「同じクラスに、テクラっていうボブカットの女はいる。身長が私より二センチ高い。昨日身体測定したばかりだから確実な情報。公式記録。でもなんか今日、彼氏がいるみたいなこと、言ってたような」

 「ああ、それたぶん、メル彼」

 「は?」

 「プラージュで知り合ったら、顔写真交換してるしてない関係なく、そういうのがいるらしいわ。メールと電話だけのやりとりで彼氏彼女やるんだと。テクラも中学二年の時にプラージュ知って、メル彼でなら何人かつきあったっつってた。会わねえのって訊いたら、ダチにそんなんやってるってあんま知られたくないし、怖いし、会ったら絶対引かれるから無理だとかって」

 彼女が首をかしげる。

 「なんで引かれんの?」

 「知らねえけど、そんだけ身長あんなら、そのせいじゃね? 顔写真送ったことはあるらしいから、そこまでナシな顔ではないはずなんだけど。けどさすがに百七十センチはないな。引くっつーか、引きはしないけど、ちょっと」

 「じゃあメールやめるの?」

 「そだな。べつに入れ込んでるわけじゃないし。お前より背がでかいとなると、さすがに」

 「わがまま」

 彼は質問を返した。「んじゃお前、自分より背の低い男、好きになるか? っつーかアゼルがお前より背低かったら、絶対好きになんかならなかったろ?」

 ベラは想像しようとした。自分より身長の低いアゼル。どんなのだかまったく検討がつかないので、ケイの身長にアゼルの顔をあてはめてみた。ありえなさすぎて笑い転げた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌日、ケイが帰ったあとの朝──ブラック・スターの地下二階スタッフ用フロア、赤白会議室。ノックされたドアの鍵をパッシが開けると、キュカとエルバが顔を出した。室内の光景に呆気にとられたキュカがなにをしているんだと訊ねると、ベラはマッサージだと答えた。

 ベラはテーブルの上にうつぶせになったデトレフの背中に立ち、彼を足踏みマッサージしている。左手はテーブルに腰かけたエイブに支えられていた。

 マトヴェイが説明する。「十分三百フラム。たまにやってもらうんだよ、オレら」

 「まえは控え室のソファでできたんだけどな。今はバンド連中が居すぎだから、ここでしかできねえ」と、デトレフ。

 ベラは時計を確認し、彼の背中をおりた。

 「はい終わり」

 「もう一回指圧しろ。あと三分。五百フラムやるから」

 従うことにして、彼女は再び彼の背中にまたがり、背中の指圧マッサージをはじめた。

 エイブが言う。「早く終われよ。順番待ちしてんだから」

 指圧を続けながらベラははっとした。「ねえ、エイブがデトの上に乗ったら? で、エイブの背中に私が立ったら、二人を一度にマッサージできるんじゃないの?」

 「そんなわけあるか」と、彼らは声を揃えた。

 曲を覚えたかというパッシの質問にエルバが答える。

 「覚えたよ。完璧だと思う。スタジオ使えるかと思ってきたんだけど、もう埋まってるよね。早すぎ」

 「今は白黒会議室も使用中だからな。一昨日ベラが持ってきた詞にヤンカが曲つけたんだけど、ヒルデがそれを仕上げてる」

 「マジ? どんな?」

 「ストーカーをにおわせる曲かな。ロックバラードだってさ。昨日ディックとベラがメロディつけて二人に渡したし、シンプルなイメージらしいから、早けりゃ店開ける前にできるよ」

 「そういえば、二人にも曲選んでもらわないと」エイブが言う。「もしくは新しく作るか」

 「あ」と、ベラが切りだした。「“Can You Hear Me Boys”! あれなら、三人でうたえば私もフォローできる」

 「ああ、それもいい。レコしてたよな、流そっか。歌詞もラミネートしてる?」

 「してる。準備できたらデトと交代ね」

 エイブはパッシと二人で準備をはじめた。

 「あれはライブでなくていいんか」マトヴェイがベラに訊いた。

 「べつにいいんじゃないの。バンド四人と三人てなったら、さすがに狭いもん」

 うつぶせで曲げた両腕に顎を乗せたまま、デトレフがキュカとエルバに提案する。「つーかお前ら、今日のオープニング、うたうか?」

 エルバは質問を返した。「“Black Star”?」

 「ああ。単純な歌だし、詞見ながらでもいい。今日のトップはアックス。練習気分でいいし。他のオリジナルをもう一曲か二曲覚えりゃ、そのうちお前らがトップで入れる。“4ever”は二周めじゃなくて一周めのトップ向きだからな」

 「やっていーの?」

 ベラが答える。「いいよ。アックスはコーラスが多めだから、それ繋がりでハモリアレンジにしたいってのもある。や、普通にうたってくれていいけど。あの達成感は早めに実感してほしい気も」

 「ベラの自己中節全開なんだけど」と、パッシがラミネートされた歌詞カードを彼女たちに渡した。

 並んで席についている二人は、詞をまじまじと読み、口元をゆるめて笑った。曲を流すと、彼女たちはすぐに曲を気に入った。

 デトレフがやっとテーブルからおり、ベラがテーブルに座ったエイブの肩のマッサージをはじめる。このマッサージ、最初はディックを相手にしていただけだったのだが、そのうちヒルデブラントにもするようになり、デトレフ、ヤンカ、マトヴェイ、エイブにもするようになった。パッシは肩が凝るタイプではないらしく、ベラと一緒にマッサージ係になろうとしたものの、ヘタだとかで即クビになっている。

 「そういや、ベラのオトコってどんなん?」エルバが訊いた。

 「いないよそんなの」

 「は?」

 キュカが言う。「え、だって指輪してんじゃん。先週も店で──」

 「ただの男除けだよ」マトヴェイが答えた。「まあ幹部以外には、いるってことでとおしてるけど」

 エイブの肩がいつも以上に凝っていることに気づいたベラは、いい加減疲れた手にさらに力を入れた。凝りの原因を探す。

 「あ、そこ。もっと」エイブが言った。

 ツボを見つけた。「パッシ、こっちやって。ここ、すごい」

 ベラが呼ぶと、彼はすぐに彼女の隣に座り、右手親指でエイブの肩の一部を押した。彼女は左肩の一部を両手親指でぐいぐいと押す。

 マトヴェイが彼女たちに言う。「他の男共には広めんなよ。二十歳くらいまでなら恋愛対象に入るかもだし。したら面倒なことになるから」

 エグゼクティブチェアに座っているデトレフがつぶやく。「いや、ある意味見てみたい気が──」

 「だめだって」エイブが止めた。「ややこしいことにしたくない。なんかあってからじゃ──」

 パッシはどんどん曲がっていく彼の背中を戻した。

 「まるまんなって。わかんなくなる」

 「もうお前、ずれてきてるよ」

 「え、マジ?」

 「いや、けどかなりマシ。首いって」

 ベラは従った。パッシと二人で両側からエイブの首をマッサージしていく。だがこの二人が一緒になってマッサージをはじめると、最後には必ずふざけることになる。パッシがどんどんにやついてきて、ベラもそれを察知し、けっきょくくすぐり地獄がはじまった。

 だがそうふざける時間を長くもらえるわけでもなく、笑うデトレフに怒られた。「続きいくぞ」

 エイブの首を背中を軽く指圧しながら、ベラは顔をしかめた。「どこまでいったっけ」

 マトヴェイが答える。「Aメロ終わってBメロの途中」

 エルバが口をはさんだ。「あれ、もしかして邪魔した?」

 「一応仕事中。いてもいいけど、録音するからあんま喋れねえぞ。メロディつくってる。テーマは“自業自得”。“怒り”な。まえにノリでちょこっとだけできてたやつの存在、思い出して。こんな楽しいテーマなのに、デトが独り占めしようとしてる」

 「テーマ決めたのは俺だ。当然だろ」

 ベラは無視して、エイブの肩を叩いてリズムをとりながら、サビからメロディを口ずさんだ。頭の中ではほとんど、サビの詞も完成している。全員が黙ると、デトレフがICレコーダーのスイッチを入れ、マトヴェイはノートの上でペンを構えた。ベラが詞を口ずさんだ時のためだ。彼女が行き詰まると、彼らが思いついたメロディを口ずさむ。ベラはそれをそのまま使うか、少しアレンジして続ける。

 ある程度の流れが決まると、ベラはエイブのマッサージを終え、ときどきICレコーダーでメロディを確認しながら、時々彼らの意見も入れながら、テーブルの上で一気に詞を書いた。

 キュカとエルバは関心を通り越して圧倒されている。十五歳の少女が二十代後半の男たちの中心になって音楽をつくっているのだ。その光景をはじめて目の当たりにした。

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