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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 03 * DON'T SAVE ME
21/198

* Beginning Of High School Life

 翌日。

 やはりタクシーでミュニシパル・ハイスクールへと向かったベラは、近くにあるコンビニエンスストアで降ろしてもらい、買い物をしてから学校へ行った。

 大げさに広い気がする正門の前は広場のようになっていて、壮大に広がる芝生の上にはクリーム色のタイルを敷き詰めた道が造られている。両側には自転車置き場が、左側の体育館前にひとつ、右にみっつ設置されている。これは、どの学年がどの場所を使うかというのは決まっていない。バスで登校する生徒も多くいるので、学年分けはおそらくあまり意味がないのだろう。

 自転車置き場と校舎のあいだもやはり、芝生の上に敷き詰めたタイルで道を造ってあり、それはまるで公園の遊歩道のようで、平均全長三メートル前後ほどの細い木や、木製の三人掛けベンチが、ところどころに設置されている。おそらく、昼間はそこでランチを食べる生徒もいるだろう。その小道の一本をまっすぐ進めば、別館になった図書館に辿り着く。

 LHRがはじまる五分と少し前なせいか、周りには急ぎ足で教室へと向かう生徒が数人いる。校舎に入るまえにお菓子が食べたい衝動に駆られたベラは、コンビニの白いビニール袋を漁りはじめた。カフェオレと三種類の小ぶりなお菓子が入っている。朝食は一応食べてきたけれど、昨夜なんとなく買ったものをつまみ、あとはビールを飲んだだけだったので物足りない。ビニール袋の中には、ほんの数分前に欲しいと思ったお菓子が入っている。なにを開けるかでいきなり迷った。なんならぜんぶ開けて食べてしまいたい。

 「危ねーよ」

 誰かの声がし、コンビニの袋の中を凝視して悩んでいたベラは顔を上げて立ち止まった。右方向に、ライトアッシュ・ブラウンと黒が混じった髪色の、なんとなく見覚えのある顔の男が立っている。

 彼女は頭につけていたヘッドフォンを首にかけた。タクシーを降りるまえから音楽は停止してあったものの、ヘッドフォンと、どのお菓子を食べるかで真剣に悩んでいたせいで、なにを言われたのかよく聞きとれなかった。

 「なんか言った?」

 「前見て歩かないと危ないっつってんの」

 そう言うと、カーキ色のバックパックを肩越しに持っている彼は校舎に向かって歩きだした。ベラも続く。

 「なんか見たことある。一年?」彼女は訊いた。

 「そう」

 「同じクラス?」

 「さあ」

 どういう意味だろう。まあどうでもいい。「じゃあ、一か二か三、選んで」

 歩きながら彼が振り返る。「は?」

 「ねえ、前見ないと危ないんじゃなかったっけ」

 「いや、なにその番号」

 「お菓子で悩んでるの。なにを開けるか」

 「まさか朝飯?」

 「モーニング・デザートです」

 「意味わかんないし」彼はまた前を向いた。「んじゃ三番」

 「よしわかった。ありがと」

 開けたお菓子を、ベラは彼にも分けた。一年だというのは本当らしく、彼も同じ校舎に入って階段をあがった。

 D組の戸口に立った彼に彼女が言う。

 「え、マジで同じクラス?」

 「いや、知らないけど」

 そう言って、彼は先に教室に入った。意味がわからない。まさかいきなり転校生なのか? 彼女も教室に入る。

 そして、ぽかんとした。

 ベラは出席番号二十九番(女子番号七番)で、席は廊下側から二列目、いちばんうしろだ。その右隣には出席番号七番の男がいるのだが、三番の男(正確には三番を選んだ男)が、その席に腰をおろした。

 「え、マジで?」

 ベラが言うと、彼女のひとつ前の席に座って携帯電話を操作していたハンナが振り返った。

 「あ、ベラ。おはよ」

 「ねえ、ハンナ。これ」三番の男を指差す。「この席、これ?」

 「ええ?」唐突な質問に、彼女は気まずそうに彼を見やり、またベラへと視線を戻した。「そー、だよ」

 納得した。見覚えがあるはずだ。まさか同じクラスの隣の席だとは。「あっそ」ベラも席についた。

 彼が呆れた顔で言う。「いきなり“これ”扱いかよ」

 ヘッドフォンをバックパックにしまいながら彼女は笑った。

 「ごめん。あなたは三番じゃなくてラッキーボーイなのね」

 「いや、意味わかんない」

 「七番て、ラッキーセブンなんじゃなかったっけ」

 「隣の人間の顔忘れるような奴に言われても」

 「だからごめんて言ってんじゃん」ベラはふと、彼のひとつ前、ハンナの隣の席の、やはり携帯電話を操作している男へと視線を向けた。「──出席番号六番、悪魔数字?」

 ハンナはぎょっとし、三番だが出席番号七番の男はぽかんとしたものの、その六番の男は手を止めて、疑わしげな目でゆっくりと彼女のほうに振り返った。

 「──俺?」

 ベラは笑った。「ごめん。なんでもない。気にしないで」

 「いやいやいや」

 「平気よ。悪魔数字は確か、みっつ揃わないと効果を発揮しないはずだから。誕生日が六月六日とかじゃないなら平気」

 三番だが七番の男がつっこむ。「基準がわかんねーよ」

 彼女は無視した。「あれ、そういえば六時六分とかでもなにかあるんだっけ」

 「六時でよくね」

 「六月六日の六時生まれで出席番号六番? それはさすがに不気味だな。マジかも。で」ベラが六番の彼に訊く。「六月六日生まれなの?」

 彼は全力で否定した。「んなわけあるか!」

 「アンデビルボーイとアンラッキーボーイ。笑える」

 そう言って、ベラはまたもけらけらと笑った。彼ら二人は完全に呆れ、ハンナは唖然としていた。

 アンラッキーボーイこと三番を選んだ七番の彼の名前はセルジ、アンデビルボーイこと六番の彼はニルスというらしい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 二時限目は身体測定で、体育館へと向かわなければならなかった。ここもやはり、ウェスト・キャッスル中学に比べれば規模が大きい。広いだけでなく、体育館のくせに大きく二階建て、プラスそれぞれに観戦用のベンチフロアがついている。

 そこで、ハンナは二人のクラスメイトに話しかけた。運よく同じクラスになれたという、エイト・ミリアド出身の彼氏もちマーシャと、背が高くひょろっとしたボブカットの女、テクラだ。彼女たちは出席番号が続いていて、教室の席では離れるものの、番号順に並んだ時、マーシャはベラのうしろに来る。ハンナが愛称で紹介してくれたので、ベラがお決まりのセリフを言う必要はなかった。

 「ベラ、細すぎ」彼女の健康診断の測定結果表を見ながらテクラが言った。「あたしがそのくらいの身長だった時より、体重が軽い」

 「胸も私のほうがあるよ」と、ベラ。

 「あ、ひどい」

 ハンナが遠い目をする。「健康診断なのわかってて、さっきまでお菓子食べてたのに──」

 マーシャは苦笑った。「私、朝食かなり控えめにした」

 「私なんか抜いたよ!? 朝からなにも食べてない。昨日の夜も控えめだった。もう本当に、おなかがきゅるきゅる鳴ってます」

 ベラはテクラから測定結果表を受け取った。

 「教室に戻ったらお菓子あげる」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ランチは買ってくるものでも弁当でもいいうえ、購買も学食もあった。ハンナとマーシャとテクラは購買か学食を使う予定だという。

 特になにも考えていなかったベラは、朝コンビニでランチを買ってこなかったことを後悔した。アドニスから高校の購買は戦場だと聞いていたが、辿り着いたそこは、本当に戦場だった。屋内にある購買に、五十は軽く超えるだろう人間が詰めかけている。誰もかれも順番に並ぶなどということはせず束になり、どこからでもかまわず欲しいものを、ショーケースのむこうにいる中年の販売員女性たちに向かって叫び、金を渡して商品を受け取ろうとしていた。そのうえ、ひとり二人がどうにか買い物を終え立ち去ったかと思えば、また他の生徒がその束に紛れ込んでいる。

 ハンナたちは呆然としていた。買えたとしても群れを抜け出せるまでが大変そうだ。売り場の上部にメニューを書いてはいるものの、ショーケースの中になにがあるかまでは見えない。群がっているのは主に二年生と三年生だろう──男子学生は特に、メニューや金額を見ずに商品と代金のやりとりをしている。この戦場での戦いかたを熟知しているのだろう。

 「学食にしよっか。この中を行くのはちょっと」

 ハンナが言うと、マーシャとテクラも苦笑って了承した。

 「コンビニ行ってくる」とベラが言う。「徒歩二分のところにあるし」

 「怒られるかもよ」マーシャが言った。

 「こんな小さい購買をつくるのが悪い。出遅れてるから、学食も席とるの大変かもだし。見つかったらなんとか言いくるめる」

 「でも──」

 心配そうなハンナの声を、いつのまにか傍にいたパンダ目メイクのティリーが遮る。

 「コンビニ行くん? あたしも一緒に行っていい?」

 ベラは小首をかしげた。「そんな髪の色だっけ? なんか昨日より赤い気が」

 「あ、わかった? 染めたんだ。入学式終わったし、あとはもうやりたい放題だと思って。中学じゃ青にしてたんだけどね、今度は赤。そっちと似た色になってる」

 自分のマダーレッドヘアは染めているのではなく地毛だけどと、ベラは心の中でつぶやいた。「そ。まあとりあえず」ハンナたちに言う。「行ってくる。学食も席取れなさそうだったら電話して、ついでになんか買ってくるから」

 「わかった。座れそうだったらメール入れるね」

 ティリーは一緒にいたダリル、ケリー、もう一人の女に、ベラと同じようなことを言い了承を得て、ベラは彼女と一緒にコンビニへと向かった。

 ティリーはエイト・ミリアド出身だという。マーシャのこともテクラのことも知っているが、小学校は別だし、ほとんど話したことがないらしい。

 そして訊いてもいないのに、中学の時、友達はいたが一部の同級生からイジメを受けていたと、ティリーは告白した。原因はおそらく性格が根暗で地味だったこと、髪をダークブルーに染めたりヴィジュアル系バンドが好きだったことにあり、持ち物を隠されるのは序の口で、いちばん酷いのはレストルームの個室で上から水をかけられたことだとか。

 根暗だとか地味だとかに見えないとベラが言うと、彼女は笑って、入試の時までは黒いロングヘアで地味なままだったけど、今はボブカットにしたしメイクもしているしと答えた。それに、根本的な部分の性格を変えたつもりはないという。周りに順応しようとしないところは昔からで、ただ少し外見を変え、変にいい子ぶるのをやめることにしただけなのだとか。

 昨日の入学式の時にダリルが声をかけてくれ、ケリーとも男子とも話すようになり、今日またひとり、エフィという女とも話すようになった。中学の時と同じことを繰り返すかと思っていたが、あっさり友達ができたから笑える、と。

 一日、二日で“友達”と言えるのかはわからないけどねと言いかけて、ベラは言葉を呑み込んだ。

 そしてこのことがきっかけになったのか、基本的にはハンナたちといるものの、ベラはティリーやダリルたちとも話すようになった。といってもベラが話すのはティリーとダリルが中心で、ケリーとエフィはそこにひっついているといった感じだが。

 なんとなくではあるものの、ベラはケリーという女が苦手だった。地元にいたひとつ年上の女を思い出すからだ。顔そのものは似ていないけれど、一重もしくは奥二重という点、黒髪のショートカットだという点、そして背格好がなんとなく似ている。ケリーはインミよりも突き出したような唇をしているし、メイクの濃さや常に漂わせている男好きそうなオーラは明らかにケリーのほうが上なのだが、インミが持っていた、欲しいもののためなら周りが見えなくなり、陰で誰かの悪口を好き勝手言うと性悪さを、ケリーも申し分なく兼ね備えている気がした。

 そしてやはり、ハンナたちもダリルたちのことが苦手だった。どちらからも話そうとはしない。性格的というかタイプ的に、相性が悪いのだろう。ベラは早々に面倒の中心にいるようだった。

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