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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 03 * DON'T SAVE ME
19/198

* Entrance Ceremony

 翌日。

 オフィング・ステイトという町にあるミュニシパル・ハイスクールの近くまで、ベラは贅沢にもタクシーで向かった。目立つ気はないものの、バスに乗ればアニタと会う可能性があったからだ。

 けれどそれも意味はなかった。彼女は同じ地元中学出身の二人の女子と一緒に、“入学式”と大きく書かれた看板を構える正門で待っていた。ベラに気づいたアニタは友人二人を先に行かせてひとり、歩道を歩くベラのほうに近づいてきた。ベラにとっては正直舌打ちしたい気持ちしかないものの、避けられる状況でないことは明白だ。

 「ひさしぶり」とアニタは言った。感情を抑えているのだろう。喜ぶ様子も心配する様子も、怒っている様子もない。冷たいわけではないが、温もりがあるわけでもない、無心を装ったような一言だ。

 ベラも答える。「ひさしぶり」やや微笑んで見せた。なにを言われても考えを変える気のない決意の表れだ。そしてそれはアニタにも伝わる。「わざわざ待ってたの?」

 彼女は動じなかった。「バスに乗ってこなかったから。来るとしたらどうせタクシーで、しかもぎりぎりだろうと思って」

 見抜かれることは想定内だ。「それはそれは。お察しのとおりだけど、なにか用? 話は終わったわよ」

 冷静を保つというのは、感情の起伏の多いアニタには難しい。「終わってない!」感傷的に怒鳴ったものの横を通り過ぎていく生徒たちの視線を気にして、すぐ自身になにかを言い聞かせた。どんな態度をとってもベラには通用しないことを、彼女は誰よりもよくわかっている。

 ベラはやはり冷静に言葉を返す。「終わったの。言ったじゃない、友達やめるって言ってるんじゃない。“ただの友達”になるだけ。地元が同じってだけ。他の奴らにしてきたように、あんたになにかあっても怒ったりしない。休憩時間につるむようなこともしない。助けないし助けなくていい。新しい部屋を知りたいならそのうち教える。でもしばらくは放っておいて。おばあちゃんのこと関係なく、忙しいの。バイトするって言ったでしょ、もうしてるから。学校が終わったら毎日すぐ家に帰って、用意して直行。今日もそう。遊んでる時間はないの」

 泣きたいのか怒りたいのか、アニタはよくわからない表情をしている。ただ、それを表に出すまいとしているのはわかるが。

 「──そんな簡単に、切り替えられんの?」

 ベラは鼻で笑った。

 「切り替えたわよ。可哀想な女になるつもりはないし、不幸な人間演じるつもりもないの。心配されたくないし同情だっていらない。私はそういう人間だって、あんただってよくわかってるでしょ。昔に戻っただけ」表情から徐々に、微笑みが消えていく。「他人の気持ちなんか考えない。団体行動もキライ。したくないことはしない。ひとりが好き。もう細かいこと話そうとしないで。これ以上なにか言ってくるなら、ただの友達ですらなくなるわよ。キライになるわよ。うざい人間になんて成り下がらないでよ、頼むから。家はそのうち教えるけど、さっきも言ったとおり時間がない。しばらくは無理。じゃあね」

 言いたいことを言い終えると、ベラはうつむく彼女の横を通り過ぎ、正門へと向かった。アニタはそれを引き止めた。

 「ゲルトには家のこと、言ったんでしょ?」

 ベラは立ち止まった。振り返りはしない。

 その背中に向かって、後方からアニタが続ける。「昨日ゲルトからメールきた。とりあえず生きてるみたいだから心配するなって。なに話したかなんてことは訊いてない。それすら訊いちゃダメなんだろうから。でも絶対言ってるよね。なんでゲルトがよくてあたしがダメなの?」

 嫉妬のようにも思えるが、少し違うような気もした。アニタは自分とゲルトのなにが違うのか、純粋にそれが知りたいのだろう。

 振り返り、ベラは再び感情のない微笑みを彼女に向けた。

 「男好きだからとでも思っとけば? ひとり暮らしの女が家に男連れ込んだんだから、そう思ってくれてもかまわない。男にできて女にはできないこと、いろいろあるでしょ。しなかっただけで、そういうのはいつだってできるのよ。ついでにひとつ教えといてあげる。今日年上の男が迎えに来る。あんたの知らない相手。でも紹介するつもりなんかない。どうやって知り合ったかも教えない。詮索しないで。私がなにも話さなくても、知ろうとしないで。用があったらそのうちメールか電話する。でも今は話すこと、ないから。遅刻するつもりがないなら急ぎなよ。初日から遅れたくなんてないでしょ」

 返事を待たずに向きなおり、ベラはまた歩き出した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 貼り出されていたクラス表を見て、ベラは心底安心した。自分の名前が載っているD組リストに、アニタの名前がなかったからだ。“母親”に言ったことが効果をあらわしたのかはわからないものの、なんでも言ってみるものだと実感した。

 学校は大きかった。出身校であるウェスト・キャッスル中学が、ふたつはおさまるのではないかと思えるほどだ。校舎も中学に比べればキレイで広い。

 そして一年フロアでは当然のように、数えきれないほどの新入生たちが、廊下や教室内で話していた。だが昔センター街を歩いていた時ほど、じろじろと見られることはなかった。

 ディックによると、マダーレッドの髪が目立っていたのは小学生や中学生だったからで、高校生にもなると、カラーリングの可能性が優先して考えられるため、そこまで気にはされないだろうという話だった。彼女もここに来てやっと、その言葉のとおりなのかもしれないと思えた。加えて、ベラは今日、ブラック・スターでうたう時のようにメイクも濃くしている。それほど多くはないものの、新入生の女たちの中には彼女に負けないくらい濃いメイクで登校している者もいた。どうやら“そこらの女”と同じになれているらしい。ただできるだけ目立たないよう心がけたので、服装は自分なりに地味でいる。

 予鈴が鳴ると同時に、D組の教室の前で見覚えのある顔を見つけた。彼女は女友達二人が去っていくのを見送り、教室に入ろうとしているところだった。ベラに気づき、小首をかしげて観察するような眼で数秒ベラを見ると、確信したのか、笑顔に切り替えて駆け寄ってきた。

 「ひさしぶり! 私のこと、覚えてる?」

 ベラはそっけなく答える。「入試の時に会った」

 「そう! ハンナよ。あなた確か、イザベラよね?」

 また“これ”がはじまる、とベラは思った。誰かと話すたびにいちいち、“ベラでいい”と言わなければいけない。本当に面倒だ。それでもさすがに名前を変えたいなどとは、“母親”に言えるはずはなかった。

 「ベラでいい」と、とりあえず言った。「D組なの?」

 「ええ、そう。名前見つけてもしかしてって思ったんだけど、やっぱりそうなの? あなたもD組?」

 「そう」

 胸をなでおろし、ハンナはあからさまに安心して見せた。

 「よかった。同じクラスに知ってるヒトがいないのよ。私、友達と離れちゃって。っていうか同じ地元の女の子、私以外にあと二人しか受けてないんだけど。でも安心した。あたしの席ね、あなたのひとつ前──」

 「早く教室に入りなさい」ベラの後方から歩いてきた女教師の声がハンナの言葉を遮った。「もう予鈴鳴ったわよ」

 おそらく二十代だろうショートカットヘアのその女が、どうやらD組の担任らしい。

 ハンナはよく喋る女だった。彼女の言うとおり、ベラの席が彼女のひとつうしろだということもあり、とにかく話しかけてきた。ベラがどんな態度で応じようと関係ないらしく、それでいて無駄に詮索することもなく、たわいない話をした。彼女もやはり、ひとなつっこいタイプなのだろう。ベラはヒラリーを相手にしているような気分になっていた。

 ハンナはストーン・ウェル中学出身だという。ベラは自分の出身中学を話す際、はっきりウェスト・キャッスルだとは言わず西のほうだと言い、今はセンター街の近くに住んでるとだけ教えた。不思議なことにハンナはそれ以上訊かず、センター街へ向かうバスなら一緒に乗れると言葉を返しただけだった。彼女の地元であるストーン・ウェルへは、センター街でバスを乗り換える必要がある。

 左手の薬指にある指輪を見ての彼氏がいるのかという質問には、見ればわかるでしょと答えた。年上かという質問にイエスと答えると、やはりそれ以上は訊かれなかった。彼女は片想いをしたことはあるが、誰ともつきあったことがないという。性格のせいで友達以上に見られないのだとか。だから高校で絶対にカレシをつくると決めているらしい。その決意の表れはじゅうぶんに伝わったものの、意気込みの意味はベラにはわからなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 午前十一時を過ぎた頃、D組は早めにLHRを終えた。教室内がざわつきはじめると同時に、ハンナが再びベラに話しかける。

 「今日予定あるの?」

 「ある。迎えがくる」

 ベラは携帯電話を確認した。十分ほど前にパッシからのメールが届いている。予定どおり職場を出た、二十分で着くという内容だ。

 ハンナが続けて訊ねる。「デート?」

 「違います」

 「アドレス訊いていい?」

 「やだ」

 「なんで!?」

 ベラは少し悩んだ。男を相手にしているわけでもナンパでもないこれを、どうかわせばいいのだろう。

 そんなことを考えてるうちに、彼女は自分の携帯電話を取り出した。

 「赤外線の準備をお願いします」

 小さな溜め息をつき、ベラは彼女と携帯電話のアドレスと電話番号を交換した。ハンナは嬉しそうにくすくすと笑っている。

 「じゃあ明日、友達紹介していい?」

 自分のバックパックの上に曲げた両手を乗せ、彼女に微笑みを返した。

 「絶対イヤ」

 彼女はけらけらと笑う。「だからなんで?」

 「めんどくさいのよ、誰かの名前覚えたり顔覚えたりすんの」

 「ねえ、意味わかんない。高校だよ? 友達いっぱいつくるとこ!」

 「そんなのいらない」

 「いるって! それでね、彼氏もつくるの」

 「じゃあ男に話しかけなきゃ」

 その言葉に、ハンナは一度ぴんと背筋を伸ばしてから、ベラのほうに向かって身を乗り出した。真剣な表情で声を潜める。

 「ハンサムな子、いっぱいいるよね。このクラスにも」

 どんな顔をハンサムだというのか、ベラにはさっぱりわからない。「目立てば話しかけてもらえるかもよ」

 「目立つって、どんな?」

 「教卓の上にのぼって中指を立てる。で、“こっち見ろよハンサム共!”って言ってみる」

 ハンナはやはり大笑いした。

 「おかしいし! なんで喧嘩売るみたいになるの!?」

 「ブラックボードに書いてあげようか? “ハンナは彼氏募集中です”って」

 「やだよ! 絶対やだ!」

 脇に女二人を連れた、ロングヘアの女が声をかけてきた。

 「ねえ、ミズ・グラール?」

 同じクラスにいた気がするということくらいしかわからない、名前も知らない相手に、ベラがお決まりの言葉を返す。「ラストネームを呼ばれるのもファーストネームを呼ばれるのもキライなの。“ベラ”でいい」

 「マジ? じゃあベラ。あたしはダリル。こっちはティリーで」彼女は自分の左隣にいる、パンダ目メイクのボブカット女を紹介した。続けて逆隣に立つ、太っているというわけではないが顔に肉が多い気がする、ショートカットの目の細い女を示す。「こっちがケリーっていうんだけど。今日これから暇だったら、みんなでランチとって、そのあとカラオケにでも行かない? 男子たちも」今度はブラックボードの前に立つ男二人を示した。「このクラスから二人と別のクラスからあと二人、一緒に行くんだけど」

 なぜ誘われるのか、その理由がさっぱりわからなかった。彼女たち全員が同じ地元というわけではないだろうから、もしかしたら友達になるとかいう、面倒なことを考えての誘いなのかもしれない。それでもそんなものは迷惑でしかないので、ベラはさらりと断った。

 「せっかくだけど予定があるの。迎えが来るからもう行かなきゃ」

 「そっか。わかった。じゃあまた明日ね」

 彼女たちは似たりよったりなセリフを口々に、男子たちと一緒に教室を出た。

 「さすがだなー」と、ハンナがつぶやく。「初日から男子と一緒に遊びに行くって、なかなかないですよ」

 「あんた行けばよかったじゃん」ベラが言った。

 彼女は首を小さく横に振る。

 「たぶん苦手な人種です」

 「そんなのあるの?」

 「あたりまえ!」

 「あっそ。とりあえず私はもう行く」

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