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R E D - D I S K 0 4  作者: awa
CHAPTER 02 * I'M SO SICK
18/198

〇 Human Relations

 翌日──午前中にゲルトとセテを見送ったベラは、すぐにブラック・スターへと向かった。ディックと一緒にメインフロアへの廊下に写真フレームを飾りつけたあと、詞を書き、メロディをつけた。“Don't Save Me”という、彼女の自己紹介文のような内容だ。ベラが誰にも譲る気のない詞は、彼が音をつけてくれる。もちろんそこまでの意志がない詞関しては、彼が作曲したとしても、すべてが彼女の歌になるわけではない。

 今はベラ以外にたった二人ではあるものの、今後を含め女シンガーが増えるということは、今まで書いてきた詞を、自分用と誰か用に分ける必要があった。それでも、すべてが彼女の思いどおりになるわけではない。彼女がいらないと言っても、ディックが譲らないものもある。彼は本当に、彼女の詞やうたいかた、イメージを明確にするという姿勢が好きなのだ。

 共同作業をやっと終え、ディックが赤白会議室から出ようとしていた時、彼がノブに手をかける前にドアが開いた。

 「おお、びびった」戸口に立っているのはパッシだ。「なに、仕事しゅーりょー?」

 ディックが答える。「二人でやるぶんはな。今日またひとつベラの新曲が出来た。やっぱこいつと一緒にやったほうが、曲ができるのは早いな」

 「マジ? まあイメージ固めてくれてるからな。操作しないくせに口うるさすぎる気もするけど。んじゃベラ、明日の昼から暇だったりする?」

 「それは本人に訊けよ。今日誰も新曲を持ってきたりしなきゃ、それなりに暇だとは思うが」

 「詞のラミネートなんて本人たちにやらせりゃいいと思うんだけど。まあいいや」パッシはベラへと視線をうつした。「明日入学式だよな? 終わったらここに直行できる?」

 「そのつもりだけど」と、彼女は答えた。

 「よし。明日半日有給とれた。曲作る」

 「わざわざそんなことしたの?」

 「有給、有り余ってんだよ。基本的に真面目健康人間だし、なかなか使うとこないしな。なんなら学校まで迎えに行ってやろーか? 半日っつっても十一時くらいには出られる。ミュニシパルに着くのはたぶん十一時半くらい」

 パッシのその言葉が実行されるとどうなるのか、ベラは頭の中で素早く考えた。アニタに捕まったとして、彼を言い訳にできるかどうか。十秒でアニタの元を立ち去れるかどうか。

 答えは“イエス”だった。

 「じゃあ終わったら電話する」

 「オレもメール入れる。ってことで、今日は帰る。デートだから」

 そう言うと、パッシはさっさとドアを閉めた。

 「まるで嵐だな。電話すりゃいいだけの話な気がするんだが」と、ディック。

 彼女も笑って同意した。「私も電話に出ない可能性はあるけどね。今も携帯電話はマナーモードにしてバッグに放り込んでるし。つっても鳴ることはまずないんだけど。なにを書かされるのか、ちょっと怖い」

 「いや、お前ら二人、ある意味ふざけた者同士だからな。パッシがガキのまま突っ走ったら、やっぱりふざけた曲ができる可能性が」

 「“Sugar Guitar”のデュエット版みたいな?」

 「なったら笑うぞ。お前らがなんと言おうと、できたもんはうたわせるからな」

 「変なプレッシャーかけないでよ」

 彼は笑った。「どんなのが出来るか楽しみだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 その日ベラが家に帰った時、時刻は午後二十二時を過ぎていた。家事と呼ぶにはおおげさな気もするそれを済ませてシャワーを浴びたあと、二人掛けソファに座ってスツールに脚を伸ばし、冷蔵庫から出したビールを飲んだ。

 やっと一息つき、新しい携帯電話でケイにメールを送る。ひとつ年下の地元の後輩、マルコの弟だ。二十三時を過ぎてしまったので寝ているかと思ったが、彼は電話をかけてきた。

 「行っていいん?」電話越しにケイが訊いた。

 「来たいならね」と、ベラは答える。「ただほんとに忙しいから、メールに書いたとおり、金曜の夜くらいしか約束できない。でも私、土曜は朝──遅くても昼には、出かけなきゃいけないのよ」

 「泊まっていいなら泊まる。そりゃ金曜の夕方にちょっと寝といて、夜中に帰るのでもいいけどさ」

 「私はどっちでもいい。ベッドはシングルだから、一緒に寝るには狭いけど。ソファならふたつあるから、私がそっちで寝てもいいし、二人でソファで寝てもいいし」

 「んじゃ両方ソファで寝る。夜って何時? 八時とか九時?」

 「うん。タクシーで来てくれれば下で出迎える。料金は払う」

 「わかった。──あ、おふくろが、できたらデボラの墓の場所、教えてほしいって」

 祖母の墓の場所は先週火曜日、連絡をよこした“母親”に知らされた。ローア・ゲートの山にあるメモリアル・パークだった。

 ベラはその日の夜、ディックに連れられて祖母の墓に花を添えに行った。偶然にもそのメモリアル・パークの別の区画には、彼の父親も眠っていた。彼の両親が出会った場所がローア・ゲートなのだという。ベラは当然、彼の父親の墓にも花を置いた。いつかは誰でも死ぬものだと知っているし、どちらも年齢を考えればその死は不自然ではないのだけれど、もっと生きていいはずの人間が死に、いつ死んでもいいような人間が生きているという現実を、彼女は心の底から疑問に思った。

 そしてアゼルにで出会うまで、いつ死んでもいいと思っていた過去の自分の存在を、彼女は再び思い出した。だが今現在、自分がまたそう思っているのかどうかは、よくわからなかった。

 「なら住所と一緒に、それもメールで送る」ベラはケイに言った。「お墓は遠いよ、ローア・ゲートだから」

 「ベネフィット・アイランドには変わりないんだから平気だろ」

 「まあね。来る前にメールして。あと三分くらいまえにも」

 「わかるかよ──いや、わかるか。適当にする」

 「うん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ケイとの電話を終えると、彼に新しい住所と祖母の墓の場所をメールで送った。送信するとその返事を待つことなく、ベラはもう一件電話をかけた。ケイネル・エイジに住むアドニスだ。もう二十三時三十分になる。起きている可能性は低い。

 あまり長く呼び出すつもりはなかったものの、それはすぐ声に変わった。

 「誰?」

 「私。ベラ」

 「ベラ? ウェ・キャスの?」

 「他に誰かいるの?」

 「いねえよ。お前、なに? 携帯電話新調? こないだメール入れても届かんかった。電話しても通じんかった」

 彼とは、ルキアノスからの告白を断ってから一週間、連絡をとっていなかった。そして祖母が亡くなり、ベラは携帯電話を新しくして電話番号とメールアドレスを変えた。

 ビールを一口飲んでから、彼女は口を開いた。

 「だから今、連絡してるじゃない。忙しくて報告が遅れただけ。悪いニュースと羨ましいニュース、どっち先に訊きたい?」

 「基準が微妙だな。んじゃ悪いニュースから」

 「一週間半まえかな、おばあちゃんが死んだ」

 「は?」

 「あなたの好きなサンドウィッチを作ってくれてた私の祖母が亡くなりました。続けて羨ましいニュースにうつります。私は“母親”に頼んでひとり暮らしをさせてもらうことになりました。センター街のオフィス・タウンにあるアパートメントに部屋を借り、現在ひとり暮らし進行中です」

 数秒沈黙があった。が、それを持ってしても、彼は状況がよくわかっていないらしい。

 「え、マジで?」かなりまぬけな反応だ。

 「うん。言ったでしょ、“母親”は他人同然。“父親”は顔すら見せなかった。そもそも連絡がいってるのかどうかも怪しいところだけど。でも私はぜんぜん元気よ。ショックはショックなんだけど、ショックより“母親”への恨みのほうが勝ったし、最近もずっと忙しくて感傷に浸ってる暇はないから。っていう報告の電話でした」

 ベラは単調に話した。実際には酷く脆い精神状態なのだが、彼女の言うとおり恨みのほうが強く、忙しいのも本当なので、本人には自覚がない。彼女が自分でわかっているのは、今後またなにかを失いそうになったら、あるいは失くしたら、その時こそ自分の中でなにかがまた爆発するのだろうということだけだ。

 アドニスは考えているのか、半信半疑なのか、また少し沈黙をつくった。おそらく返す言葉を探しているのだろう。

 「──んじゃ、そのせいで電話番号も変えたと?」

 彼女が答える。「強制だったわけじゃないけど、変えたいって言ったの。どっちにしろ名義変更は必要だったし──ナンパで知り合った男の番号とかね、もういらないし。どうせならぜんぶリセットしようと思って」

 「オレやナイルに連絡する気はあったわけ?」

 「あったからしてるんじゃない。ナイルにはまだだけど。ほんとはナイルに連絡しようかと思ったんだけど、そしたらあんたがうるさそうだし」

 「失礼な奴だな」

 ベラは笑った。

 「ないアタマで考えてるのよ、これでも。誰に連絡して、新しい番号を教えるか。順番もね、間違うと面倒なことになるし。優先度がどうとか、そんな文句言われたくないから」

 「いや、さすがにこれで文句言う奴──いないと思うけど」

 「そう? ならナイルに電話してもよかったの? ゼインでもおもしろいよね」

 「ゼインはないだろうけど──いや、でもナイルから聞かされたら、嫉妬とかじゃねえけど、なんでそっちだよってのは思うかも」

 「でしょ。文句じゃなくたって、そういう疑問すら感じてほしくないの。ごたごたしてほしくないし。その代わり、ナイルにはそっちから言っといてもらっていい?」

 「そりゃいいけど。ゼインは──」

 「言ってもいいけど、サビナには口止めしといてほしい。もしかしたらリーズの家族から、すでに伝わってるかもだけど。わざわざ広めてほしくないのよ。あいつには関係ないし、エデたちにも関係ないし」

 再びの少々の沈黙のあと、呆れもあるのか、アドニスは溜め息をついた。

 「お前、なんかほんと、めんどくさいよな、人間関係が。って、オレのせいでもあるか」

 「おかげさまで」と皮肉交じりに言葉を返した。「とりあえず今日はもう寝る。明日入学式だし。家のことは関係ないんだけど、まだばたばたしてるから、細かいことはそのうち時間がとれたらゆっくり話す」

 「ん、了解。んじゃな」

 アドニスはルキアノスの名前を口にしなかった。おそらく自分と彼、両方に気を遣っての結果なのだろうと彼女は思った。話すか話さないかなど、相談されても困るけれど。おそらく彼はナイルに話し、ルキアノスに伝えるかどうかを一緒に考えるだろう。そしてゼインに話すのはナイルに任せるだろうというのも、彼女は容易に予測できた。

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